55 / 106
サイドストーリー:フリージア
宝石伯爵の手回し
しおりを挟む
晩餐会の翌朝、フリージアはまだ太陽が昇る前から目が覚めた。
うちのゲストハウスに、テオがいる…
そう思うと完全に目が冴えてしまい、フリージアは二度寝を諦めて、汚れてもいいワンピースに着替えて、支度を整えた。
約束の時間まで宝石辞典を読み進めて時間を潰す。
朝露に濡れた芝を踏みしめて裏庭を進むと、既にテオがカエル池で待っていた。
「おはよう、よく眠れた?」
「ああ」
「昨日の晩餐会で結構食べてたけど、お腹は大丈夫なの?」
「問題ない。」
それにしても、とテオはカエル池を見回す。
「すごい数だな」
「ね、すごいでしょ?これを全部捕るのはちょっと無理よ?」
「今日から毎日、同じ位の数のカエルを捕ろう。100匹と言いたいところだが…2人だし、50匹が限度だな…見ただけで雌雄がわかる君が捕ると、無差別データにならないから、どのカエルを捕るかは俺が決める」
「じゃあ私はあなたが網で捕ったカエルを入れていくわね。」
役割が決まり、カエルの捕獲が始まった。
網でひと掬いするだけで、一度に5、6匹のカエルが捕れる。
「フリージア!早くっ、早く捕ってくれ!柄のところ!登ってきてる!」
顔を青くしながら必死に助けを求めるテオに、いつもながらフリージアは笑いを堪えきれない。
わーきゃー言いながら捕獲していると、背後から芝を踏む音が聞こえた。
「随分楽しそうだな」
「兄様!」
息を弾ませて兄を見るフリージアの表情が輝いている。
「もうすぐ朝食だが、まだ捕るのか?」
「これで48匹目よ。最低でも50は欲しいの」
「じゃあ、朝食まで俺も手を貸そう」
腕をまくって兄が参戦すると、あっという間に78匹捕獲できた。
召使いが朝食ができたと呼びに来て、兄は屋敷に戻っていったが、まだ雌雄の判別ができていない。
テオの朝食はゲストハウスに準備してあると言う。
「私の分と、彼の分は、包めるものだけでいいから、ここに持ってきてくれる?ここで食べるわ」
カエルの雌雄の判別をして逃がしてから、裏庭のテラスで朝食を食べるのが2人の日課になった。
その日の午後、早速調査官を採掘現場へ案内しようと、ルーインは地学専門の天文官とともに馬車に乗り込んだ。
その際、担当の天文官が遠慮がちにルーインに尋ねた。
「今日はフリージア嬢は同席されないのでしょうか?」
「フリージアですか?ええっと・・同席した方がいいでしょうか?」
心中で「なぜ妹・・?」と訝しむルーインに担当の天文官がこう告げた。
「あの宝石伯爵からソーティングを認められていると伺って、是非ご一緒したいと思っていたのですが・・」
「宝石伯爵?」
「ご存知ないですか?『良質な宝石を求めるならば宝石伯爵の門をくぐれ』は?これも聞いたことがない?宝石伯爵のサインがつくかつかないかで宝石の信用性が全く違うのです。石だけでなく、伯爵の考案するジュエリーも実に人気でしてね。王族、高位貴族の御用達となっていて、この国のみならず、周辺諸国の王族からも高い人気を誇っているのです。」
熱く語る天文官に気圧されながら、ルーインは頷いた。
「宝石伯爵は社交的な方ではないのですが、先日お手紙をいただきまして・・」
これです、と天文官が懐から大事そうに封筒を出してきた。
「もう1人来ているあの天文官が、宝石伯爵と偶然つながりがありまして、彼が届けてくれました。ターナー伯爵領がご息女、フリージア嬢のソーティングは他と一線を画す稀有な才能である、と。領地に行く際には是非面会されるべし、と書いてあります。昨日の晩餐会ではお話する機会もなかったので、できれば・・」
「そ、そうなんですね。少しお待たせして宜しければ、今から呼んできましょうか」
「是非とも、よろしくお願いします」
その後、フリージアが加わると、車内では熱い鉱物トークが繰り広げられた。
大学出のエリートのはずの天文官と肩を並べて、話に夢中のフリージアに、ルーインは呆気に取られた。
インクルージョンについて話していたかと思えば、産地や歴史、スピネルやガーネットにまで話が及んでいる。
さすがに天文官ほど知識は及ばないが、質問の内容は的を得ているらしく、天文官も喜んで応じている。
採掘場に着くと、地質を調べる天文官に付いていき、フリージアが幾度となく質問している。
仕事の邪魔をしないように、と慌ててフリージアを制しようと近づくルーインだったが、天文官の楽しそうな表情を見れば、その気もなくなった。
原石の前では、寧ろフリージアの方が天文官から質問を受けている。
「いやー、ルーイン殿、ありがとうございました。ルビーが取れる上に、フリージア嬢のような才能溢れるお方が領におられるなど、ターナー伯爵領は本当に幸運ですな」
調査の1日目が終了し、ルーインは家に帰ると、フリージアを抱きしめた。
「フリージア、お前を信じなかった兄様を許してくれ。俺はお前が誇らしい。お前の力を貸してくれ。領地を一緒に盛り立ててほしい。」
「でもお父様が・・」
「父上には俺がちゃんと言ってやる。お前は心配するな」
「兄様・・ありがとう。」
フリージアはふわりと笑った。
まだまだ子どもだと思っていたのに、いつの間に、こんな頼りになるレディになっていたんだろう、とルーインは感慨深い。
「それで兄様、お給料の話なんだけど、ジョエルナ伯爵のところでは1刻500ルセで雇っていただいていたの。地方の相場は1刻320ルセと聞いているから、1刻450ルセでどうかしら?」
「お、おぅ…」
いつの間に、こんな金に詳しい令嬢になったのか…
ルーインは一気に現実に引き戻され、目を白黒させるのだった。
うちのゲストハウスに、テオがいる…
そう思うと完全に目が冴えてしまい、フリージアは二度寝を諦めて、汚れてもいいワンピースに着替えて、支度を整えた。
約束の時間まで宝石辞典を読み進めて時間を潰す。
朝露に濡れた芝を踏みしめて裏庭を進むと、既にテオがカエル池で待っていた。
「おはよう、よく眠れた?」
「ああ」
「昨日の晩餐会で結構食べてたけど、お腹は大丈夫なの?」
「問題ない。」
それにしても、とテオはカエル池を見回す。
「すごい数だな」
「ね、すごいでしょ?これを全部捕るのはちょっと無理よ?」
「今日から毎日、同じ位の数のカエルを捕ろう。100匹と言いたいところだが…2人だし、50匹が限度だな…見ただけで雌雄がわかる君が捕ると、無差別データにならないから、どのカエルを捕るかは俺が決める」
「じゃあ私はあなたが網で捕ったカエルを入れていくわね。」
役割が決まり、カエルの捕獲が始まった。
網でひと掬いするだけで、一度に5、6匹のカエルが捕れる。
「フリージア!早くっ、早く捕ってくれ!柄のところ!登ってきてる!」
顔を青くしながら必死に助けを求めるテオに、いつもながらフリージアは笑いを堪えきれない。
わーきゃー言いながら捕獲していると、背後から芝を踏む音が聞こえた。
「随分楽しそうだな」
「兄様!」
息を弾ませて兄を見るフリージアの表情が輝いている。
「もうすぐ朝食だが、まだ捕るのか?」
「これで48匹目よ。最低でも50は欲しいの」
「じゃあ、朝食まで俺も手を貸そう」
腕をまくって兄が参戦すると、あっという間に78匹捕獲できた。
召使いが朝食ができたと呼びに来て、兄は屋敷に戻っていったが、まだ雌雄の判別ができていない。
テオの朝食はゲストハウスに準備してあると言う。
「私の分と、彼の分は、包めるものだけでいいから、ここに持ってきてくれる?ここで食べるわ」
カエルの雌雄の判別をして逃がしてから、裏庭のテラスで朝食を食べるのが2人の日課になった。
その日の午後、早速調査官を採掘現場へ案内しようと、ルーインは地学専門の天文官とともに馬車に乗り込んだ。
その際、担当の天文官が遠慮がちにルーインに尋ねた。
「今日はフリージア嬢は同席されないのでしょうか?」
「フリージアですか?ええっと・・同席した方がいいでしょうか?」
心中で「なぜ妹・・?」と訝しむルーインに担当の天文官がこう告げた。
「あの宝石伯爵からソーティングを認められていると伺って、是非ご一緒したいと思っていたのですが・・」
「宝石伯爵?」
「ご存知ないですか?『良質な宝石を求めるならば宝石伯爵の門をくぐれ』は?これも聞いたことがない?宝石伯爵のサインがつくかつかないかで宝石の信用性が全く違うのです。石だけでなく、伯爵の考案するジュエリーも実に人気でしてね。王族、高位貴族の御用達となっていて、この国のみならず、周辺諸国の王族からも高い人気を誇っているのです。」
熱く語る天文官に気圧されながら、ルーインは頷いた。
「宝石伯爵は社交的な方ではないのですが、先日お手紙をいただきまして・・」
これです、と天文官が懐から大事そうに封筒を出してきた。
「もう1人来ているあの天文官が、宝石伯爵と偶然つながりがありまして、彼が届けてくれました。ターナー伯爵領がご息女、フリージア嬢のソーティングは他と一線を画す稀有な才能である、と。領地に行く際には是非面会されるべし、と書いてあります。昨日の晩餐会ではお話する機会もなかったので、できれば・・」
「そ、そうなんですね。少しお待たせして宜しければ、今から呼んできましょうか」
「是非とも、よろしくお願いします」
その後、フリージアが加わると、車内では熱い鉱物トークが繰り広げられた。
大学出のエリートのはずの天文官と肩を並べて、話に夢中のフリージアに、ルーインは呆気に取られた。
インクルージョンについて話していたかと思えば、産地や歴史、スピネルやガーネットにまで話が及んでいる。
さすがに天文官ほど知識は及ばないが、質問の内容は的を得ているらしく、天文官も喜んで応じている。
採掘場に着くと、地質を調べる天文官に付いていき、フリージアが幾度となく質問している。
仕事の邪魔をしないように、と慌ててフリージアを制しようと近づくルーインだったが、天文官の楽しそうな表情を見れば、その気もなくなった。
原石の前では、寧ろフリージアの方が天文官から質問を受けている。
「いやー、ルーイン殿、ありがとうございました。ルビーが取れる上に、フリージア嬢のような才能溢れるお方が領におられるなど、ターナー伯爵領は本当に幸運ですな」
調査の1日目が終了し、ルーインは家に帰ると、フリージアを抱きしめた。
「フリージア、お前を信じなかった兄様を許してくれ。俺はお前が誇らしい。お前の力を貸してくれ。領地を一緒に盛り立ててほしい。」
「でもお父様が・・」
「父上には俺がちゃんと言ってやる。お前は心配するな」
「兄様・・ありがとう。」
フリージアはふわりと笑った。
まだまだ子どもだと思っていたのに、いつの間に、こんな頼りになるレディになっていたんだろう、とルーインは感慨深い。
「それで兄様、お給料の話なんだけど、ジョエルナ伯爵のところでは1刻500ルセで雇っていただいていたの。地方の相場は1刻320ルセと聞いているから、1刻450ルセでどうかしら?」
「お、おぅ…」
いつの間に、こんな金に詳しい令嬢になったのか…
ルーインは一気に現実に引き戻され、目を白黒させるのだった。
51
あなたにおすすめの小説
悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい
廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!
王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。
ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。
『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。
ならばと、シャルロットは別居を始める。
『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。
夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。
それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。
白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』
鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。
いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!
夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。
しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。
ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。
愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。
いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。
一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ!
世界観はゆるいです!
カクヨム様にも投稿しております。
※10万文字を超えたので長編に変更しました。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
はっきり言ってカケラも興味はございません
みおな
恋愛
私の婚約者様は、王女殿下の騎士をしている。
病弱でお美しい王女殿下に常に付き従い、婚約者としての交流も、マトモにしたことがない。
まぁ、好きになさればよろしいわ。
私には関係ないことですから。
「一晩一緒に過ごしただけで彼女面とかやめてくれないか」とあなたが言うから
キムラましゅろう
恋愛
長い間片想いをしていた相手、同期のディランが同じ部署の女性に「一晩共にすごしただけで彼女面とかやめてくれないか」と言っているのを聞いてしまったステラ。
「はいぃ勘違いしてごめんなさいぃ!」と思わず心の中で謝るステラ。
何故なら彼女も一週間前にディランと熱い夜をすごした後だったから……。
一話完結の読み切りです。
ご都合主義というか中身はありません。
軽い気持ちでサクッとお読み下さいませ。
誤字脱字、ごめんなさい!←最初に謝っておく。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる