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懐妊編
夫婦の時間
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「リリアナ!」
思ったより王への報告で時間をとってしまった。
もう寝てしまったか、と急いで寝室に入る。
「セイ様」
にこやかに出迎えるリリアナをぎゅっと抱きしめた。
すでに部屋着のリリアナは、セイラムと揃いで仕立てたミントグリーンに一部ラベンダーのラインが入ったモコモコパーカーとモコモコショートパンツを合わせている。
今まではニーハイソックスを合わせていたリリアナだったが、妊娠を機に、レギンスに切り替えた。
薄いパステルピンクのレギンスを合わせたリリアナが、今日もすこぶる可愛い。
体調はどうか、寒くはないか、と、1日の様子を聞いていく。
「先ほど、陛下より、贈り物が届きました」
「陛下から?」
テーブルの上に、様々な種類の柑橘が籠に盛られて置いてあった。
「この中で気に入った柑橘があれば、また贈ってくださるそうです」
先ほどの王の様子が頭に浮かぶ。
何なのだ、本当に。
らしくないことばかりだ。
「今日、陛下に報告してきたから、気を回していただいたのだろう」
「セイ様、一緒に召し上がりませんか?」
「勿論だ」
セイラムはニッコリと笑み、手ずから食べさせるために皮剥きに取り掛かった。
リリアナが眠ったのを見届けた夜半、セイラムは身を起こした。
今日はもう1人、報告に行くつもりだった。
新宮を過ぎ、外に出る。
薔薇園を過ぎた一角、白い霊廟の入り口には、王直属の近衛が数名立っていた。
敬礼する近衛に声を掛ける
「まだ、いらしたばかりか?」
「いえ」
いつもなら、王の近衛を見かけた時点で取りやめるが…
霊廟の中には、原則王族しか入れないことになっている。
自らの近衛を留めて、セイラムはひとりで中に足を踏み入れた。
カツン、カツン、と足音を響かせながら、床も壁も真っ白な霊廟内を進む。
王宮の敷地内に、この小さな霊廟があるのは、これが王妃のために建てられたものだからだ。
王族の本当の霊廟は、王都外の国教神殿の敷地内に祀られている。
階段を降り、奥に進むにつれて、ボソボソと、話し声が聞こえる。
セイラムは自然と足音を消して近づいた。
祭壇に向かって、父の後ろ姿が見える。
「…セイラムが…」
唐突に自分の名前が聞き取れて、思わず柱に隠れてしまった。
柱の影からそっと覗くと、手にワイングラスを持った父が見える。
そして祭壇にも、同じくワインが注がれたグラスが見えた。
グラスに口をつけ、父は俯いた。
「…セイラムのためにも国のためにも、次の王妃を迎えるように君には約束させられたが、結局果たせなかった…どうしても、そんな気になれなかったんだ」
「すまない」と呟いて、またグラスに口をつける。
「だが、それでもセイラムは立派に育ってくれた。さすが君のこどもだ。今のセイラムはとても幸せそうだよ。君が居た頃の私みたいに…」
セリーヌ、と父は愛おしげに母の名を呼んだ。
「君と私の初孫だ。どうか見守ってやってくれ。…君の元に行くのはもう少し後になりそうだが…」
そこまで聞いて、セイラムは、まだ語り続ける父を背に、静かに、元きた道を戻り出した。
「戻られますか」
外で待機していた近衛に小さく頷き、セイラムは霊廟を後にした。
報告は父がしてくれた。
夫婦の時間を、邪魔すまい。
寝室に戻ったセイラムは、手早く寝支度を整えると、愛しい妃を抱きしめて眠りについた。
思ったより王への報告で時間をとってしまった。
もう寝てしまったか、と急いで寝室に入る。
「セイ様」
にこやかに出迎えるリリアナをぎゅっと抱きしめた。
すでに部屋着のリリアナは、セイラムと揃いで仕立てたミントグリーンに一部ラベンダーのラインが入ったモコモコパーカーとモコモコショートパンツを合わせている。
今まではニーハイソックスを合わせていたリリアナだったが、妊娠を機に、レギンスに切り替えた。
薄いパステルピンクのレギンスを合わせたリリアナが、今日もすこぶる可愛い。
体調はどうか、寒くはないか、と、1日の様子を聞いていく。
「先ほど、陛下より、贈り物が届きました」
「陛下から?」
テーブルの上に、様々な種類の柑橘が籠に盛られて置いてあった。
「この中で気に入った柑橘があれば、また贈ってくださるそうです」
先ほどの王の様子が頭に浮かぶ。
何なのだ、本当に。
らしくないことばかりだ。
「今日、陛下に報告してきたから、気を回していただいたのだろう」
「セイ様、一緒に召し上がりませんか?」
「勿論だ」
セイラムはニッコリと笑み、手ずから食べさせるために皮剥きに取り掛かった。
リリアナが眠ったのを見届けた夜半、セイラムは身を起こした。
今日はもう1人、報告に行くつもりだった。
新宮を過ぎ、外に出る。
薔薇園を過ぎた一角、白い霊廟の入り口には、王直属の近衛が数名立っていた。
敬礼する近衛に声を掛ける
「まだ、いらしたばかりか?」
「いえ」
いつもなら、王の近衛を見かけた時点で取りやめるが…
霊廟の中には、原則王族しか入れないことになっている。
自らの近衛を留めて、セイラムはひとりで中に足を踏み入れた。
カツン、カツン、と足音を響かせながら、床も壁も真っ白な霊廟内を進む。
王宮の敷地内に、この小さな霊廟があるのは、これが王妃のために建てられたものだからだ。
王族の本当の霊廟は、王都外の国教神殿の敷地内に祀られている。
階段を降り、奥に進むにつれて、ボソボソと、話し声が聞こえる。
セイラムは自然と足音を消して近づいた。
祭壇に向かって、父の後ろ姿が見える。
「…セイラムが…」
唐突に自分の名前が聞き取れて、思わず柱に隠れてしまった。
柱の影からそっと覗くと、手にワイングラスを持った父が見える。
そして祭壇にも、同じくワインが注がれたグラスが見えた。
グラスに口をつけ、父は俯いた。
「…セイラムのためにも国のためにも、次の王妃を迎えるように君には約束させられたが、結局果たせなかった…どうしても、そんな気になれなかったんだ」
「すまない」と呟いて、またグラスに口をつける。
「だが、それでもセイラムは立派に育ってくれた。さすが君のこどもだ。今のセイラムはとても幸せそうだよ。君が居た頃の私みたいに…」
セリーヌ、と父は愛おしげに母の名を呼んだ。
「君と私の初孫だ。どうか見守ってやってくれ。…君の元に行くのはもう少し後になりそうだが…」
そこまで聞いて、セイラムは、まだ語り続ける父を背に、静かに、元きた道を戻り出した。
「戻られますか」
外で待機していた近衛に小さく頷き、セイラムは霊廟を後にした。
報告は父がしてくれた。
夫婦の時間を、邪魔すまい。
寝室に戻ったセイラムは、手早く寝支度を整えると、愛しい妃を抱きしめて眠りについた。
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