"番様"認定された私の複雑な宮ライフについて。

airria

文字の大きさ
4 / 4

引き受けるなんて御免です。

しおりを挟む
オジさんがコホン、と勿体ぶったように咳をして、言葉を続ける。

「半年前、我が阿の国に、神獣様が出現されたのです!」

「・・・神獣?」

「そうです。神獣は古より我が国に伝わる神の遣い。阿の国には古来より、危機に陥りし時に神獣が現れるのです!」

そう言うオジさんは誇らしげだ。

「200年ぶりに神獣様が確認されて、我々は胸を撫で下ろしたのです。伝承では、神獣様は天候さえも操ることのできる力をお持ちとか。日照り続きのこの国に天のお恵みをもたらしてくださるだろう、と。しかし・・」

オジさんの顔が明らかに曇る。

「神獣様のつがいがいまだに見つからないのです。」

神獣は天から遣わされるのではなく、その地の主である獣(例えば大猪や大蛇など)に神が力を与えることによってなるらしい。

力を与えられた神獣は神力を得て、空を駆けて己のつがいを探し始める。

番がどのように選ばれるのかは諸説あるものの、わかっていることはであるということと、その神獣にとって唯一無二であるということだけだ。

番を探し当てるまで、神獣は人の姿にはなれない。そして神獣が人の姿になるまでは意思疎通を図ることはできず、近づけば最悪食い殺される恐れもある。

「女人にとって、神獣様の番となるのは最高の栄誉。自らがそうと信じて、直接神獣様の住む洞穴に行く女人も居りましたな・・結局喰わ・・コホン、いや、失礼。」

エフンエフンとわざとらしく咳をして、オジさんは話を続けた。

空を駆ける神獣が確認されて以降、国の重鎮たちは番発見の報を今か今かと待っていたのだそうだ。

通常であればひと月もすれば番を得られるはずなのに、半年経っても神獣は番を得られなかった。

「番のいない神獣は狂ってしまうんですよ。そうすると最悪の害獣となりますし、番様の捜索が我々の急務となりました。」

そして、高名な学者や神殿の偉い人も含めて色々と協議した結果。

「いつまでも見つからないのはもしや、この国に番様がいないからではないか、と学者たちが申しだしまして。その可能性に掛けた我々は、古より伝わる王家の召喚式を執り行いました。何度も失敗を繰り返しましたが・・」

オジさんは胸を張った。

「ようやく昨日!あなた様の召喚に成功したのです、番様!」





「というわけでして、番様について、お分かりいただけたでしょうか」

お茶を飲みながらうんうんと頷く私に、オジさん(宰相だった)はホッと息をついた。

「ご理解頂けて何よりです。さすが番様だ、聡明でいらっしゃる。それでは改めまして・・」

オジさんは一歩下がって、胸の前で手を組んだ。

「番様、どうぞ我らをお助けください」

請い願う姿はヒロインのよう・・には見えなかった。うん、オジさんだからね。

持っていた湯呑みを卓に置く。

私もできるだけキリリとした顔で、一息に言ってやった。

「イヤです!」

「なっ!」

オジさんが固まっている。

「な、何故です番様!先ほど申した通り、神獣様の番は、女人にとって最高の栄誉ですぞ!」

私はゆっくりお茶を啜ってから、オジさんに微笑んだ。

「私がその番とやらという確証はないですよね。もし番じゃなかったら餌になるなんて、そんな命をかけた博打みたいなことしたくないです。」

「そんな!ご心配には及びません!間違いなくあなた様が番様です!」

「そもそも、人外と結婚するなんてごめんです。」

あまりにも不敬な物言いらしく、女官たちから悲鳴が上がったが、構うものか。

「勝手に連れてこられて・・これって拉致ですよね?私は元の場所に帰してもらえるんですか?」

「な、何を仰るんですか番様!せっかく召喚できたのに・・・!」

しどろもどろしてるオジさん。

「とにかく、私は番とやらにはなりたくないし、はやく元の世界に返してください!」

「おい、お前!黙っていれば何を好き勝手言ってるんだ!」

阿王が横から入ってきた。

「魯伯、どうせこいつは番様じゃない。男だしな。」

「陛下、男だなんてまさかそんな!」

「髪も短いし胸もない。男だ、男。」

「い、いえ、でも顔立ちはどちらかと言うと・・・」

「それに、歴代の番様は絶世の美女だったというではないか。こいつがそうとは到底思えん。」

そう言って、阿王は私を見て鼻で笑った。

・・・いちいちカチンとくる奴!!心の中での呼び名は、阿王ではなく阿呆にしよう。そうしよう。

「しかし陛下、せめて確認だけでも・・・!わざわざ召喚までしたのですぞ!?それに、違う世界から来たというのに、こうして言葉が通じるというのは、やはり神の思し召しがあるからでしょう」

阿王は肩をすくめた。

「まぁ、時間の無駄だとは思うが、番でなくても供物としての役には立つか。」

「供物・・・!こ、この際それでもいい!それでは今晩は予定通りということでよろしいですな?」

「ああ。」

「よし!ではお前たち!今晩に向けて番様の準備を頼む!」

(準備?)

宰相の号令と共に、女官たちに囲まれた。

さっきまで物腰柔らかで丁寧だった女官たちは一様に青筋を立てていて、表情は取り繕っているものの、私に向ける目は冷たい。

(こ、これは‥まずったかも?)

「それでは失礼いたします」
「お覚悟なさいませ」



しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

くーみん
2025.12.29 くーみん

「悋気」というのは「嫉妬心」のことです。

文脈的に、ここでは「怒気」もしくは普通に「お怒り」等で良いのではないでしょうか?

2025.12.29 airria

ありがとうございます。修正します!

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

亡き姉を演じ初恋の人の妻となった私は、その日、“私”を捨てた

榛乃
恋愛
伯爵家の令嬢・リシェルは、侯爵家のアルベルトに密かに想いを寄せていた。 けれど彼が選んだのはリシェルではなく、双子の姉・オリヴィアだった。 二人は夫婦となり、誰もが羨むような幸福な日々を過ごしていたが――それは五年ももたず、儚く終わりを迎えてしまう。 オリヴィアが心臓の病でこの世を去ったのだ。 その日を堺にアルベルトの心は壊れ、最愛の妻の幻を追い続けるようになる。 そんな彼を守るために。 そして侯爵家の未来と、両親の願いのために。 リシェルは自分を捨て、“姉のふり”をして生きる道を選ぶ。 けれど、どれほど傍にいても、どれほど尽くしても、彼の瞳に映るのはいつだって“オリヴィア”だった。 その現実が、彼女の心を静かに蝕んでゆく。 遂に限界を越えたリシェルは、自ら命を絶つことに決める。 短剣を手に、過去を振り返るリシェル。 そしていよいよ切っ先を突き刺そうとした、その瞬間――。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

【書籍化】番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました

降魔 鬼灯
恋愛
 コミカライズ化決定しました。 ユリアンナは王太子ルードヴィッヒの婚約者。  幼い頃は仲良しの2人だったのに、最近では全く会話がない。  月一度の砂時計で時間を計られた義務の様なお茶会もルードヴィッヒはこちらを睨みつけるだけで、なんの会話もない。    お茶会が終わったあとに義務的に届く手紙や花束。義務的に届くドレスやアクセサリー。    しまいには「ずっと番と一緒にいたい」なんて言葉も聞いてしまって。 よし分かった、もう無理、婚約破棄しよう! 誤解から婚約破棄を申し出て自制していた番を怒らせ、執着溺愛のブーメランを食らうユリアンナの運命は? 全十話。一日2回更新 完結済  コミカライズ化に伴いタイトルを『憂鬱なお茶会〜殿下、お茶会を止めて番探しをされては?え?義務?彼女は自分が殿下の番であることを知らない。溺愛まであと半年〜』から『番の身代わり婚約者を辞めることにしたら、冷酷な龍神王太子の様子がおかしくなりました』に変更しています。

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。