【完結】モブは乙女ゲームにツッコミたい

airria

文字の大きさ
20 / 25
影025

レジーナの鐘

卒業式会場では、最後の来賓祝辞が始まった。

殿下が物憂げに息を吐く。

「どうしても緊張してしまうな。」 

「俺も…いや、きっと大丈夫だとは思うんですけど」

「もう1人は誰になりそうなんだ?宰相の息子か?」

「多分ですけど、モリー様と同じクラスのクロイツ伯爵令息じゃないかと…」

「クロイツ伯爵?本当か!」

殿下が望遠鏡ごと、こちらを向いた。

ヒュンッと耳の上で空を切る音がする。

危なかった…もう少し近かったら、俺の額を直撃していた。

「今年卒業と言うことは、長男だろう?そんな優秀だったのか?その割には聞いたことがないが…」

「それに関しては殿下、打ち上げの時に話させてください。俺のとっておきなんで…」

1年の頃に受けたいじめが原因でグレてたクロイツ伯爵令息が、モリー嬢のクラスで立ち直っていく物語を、今ここで小出しにするつもりはない。

「そうか…もし本当にそうなったら、朗報だな」

意味深に言いながら、殿下はまた卒業式に集中し始めた。





来賓祝辞の間、モリー嬢は手元の式次第を見たり、心ここに在らずの様子だ。

「祝辞が終わったぞ」

「いよいよですね」

殿下と2人、望遠鏡を握る手に力が入る。



「それでは、今年の卒業生の代表者に、レジーナの鐘を鳴らす栄誉を授ける。名前を呼ばれた者は、前に出なさい」

進行役の副学長がそう言うと、壇上の学長が封書を開き、厳かに告げる。

「フィンデル クロイツ!」

どよめく会場の一角で、モリー嬢のクラスがワッと湧いた。

名を呼ばれたクロイツ伯爵令息は輝かんばかりの笑顔で立ち上がり、周囲の生徒と抱き合っている。

対照的に、他のクラスにいる宰相の息子は、膝についた手をワナワナさせながら項垂れていた。

ふふん、まさか思ってもみなかっただろうな。自分がいじめてた相手フィンデルに負けるなんて。

保護者席のクローツ伯爵が、泣くまいと眉間に皺を寄せ、奥方は泣きながら拍手している。

よし、まずは予想通りだ。

だが、俺たちにとってはここからが本番だ。

会場のどよめきが静まってきた所で、副学長が口を開く。

「続いて、女子学生代表を発表する」

壇上の学長が、もう1枚の封書を開いた。

「モリー トワンク!」

予想していたはずなのに、その瞬間、ぶわっと体が熱くなった。

よしっ!と殿下が拳を握る。

会場は更にどよめき、モリー嬢のクラスの興奮は最高潮だ。

大方の予想とは違ったからな。

あー、レイトン先生、号泣しすぎだろう。

トワンク子爵夫妻は驚きすぎて泡食ってるな。

モリー嬢は、自分に関係ないと思った途端に話を聞かなくなるタイプだ。

だからだろうな。

あの顔は多分、この代表に選ばれる意味がわかっていない。

レジーナの鐘を鳴らすセレモニーには、この鐘の音をもって卒業、という大事な意味がある。

その栄えある役割を担う代表者には、卒業挨拶をする首席代表者ではなく、3年生の学年末テストで、男女それぞれ1位になった者が選ばれる。

つまり、学年末テストで、モリー嬢は女子生徒の中で1位を取ったのだ。

モリー嬢は歓声をあげるクラスメイトに戸惑いつつ、愛想笑いを返しながら、言われるままにクロイツ伯爵令息と共に壇上へ上がった。

舞台袖の階段から2階に上がり、皆に見えるように手綱を握ると、勢いよく下に引っ張った。

リンゴーン リンゴーン リンゴーン

大きな鐘の音が学園中に響き渡り、卒業生達は歓声と共に、胸のリボンを空高く投げ上げた。

こうして、殿下や俺たちに見守られながら、モリー嬢は無事に卒業した。






あなたにおすすめの小説

モブの声がうるさい

ぴぴみ
恋愛
公爵令嬢ソフィアには、幼い頃より決まった婚約者がいる。 第一王子のリアムだ。 いつの頃からか、ソフィアは自身の感情を隠しがちになり、リアム王子は常に愛想笑い。 そんなとき、馬から落ちて、変な声が聞こえるようになってしまって…。

醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます

ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。 そして前世の私は… ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。 とある侯爵家で出会った令嬢は、まるで前世のとあるホラー映画に出てくる貞◯のような風貌だった。 髪で顔を全て隠し、ゆらりと立つ姿は… 悲鳴を上げないと、逆に失礼では?というほどのホラーっぷり。 そしてこの髪の奥のお顔は…。。。 さぁ、お嬢様。 私のゴットハンドで世界を変えますよ? ********************** 『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』の続編です。 続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。 前作も読んでいただけるともっと嬉しいです! 転生侍女シリーズ第二弾です。 短編全4話で、投稿予約済みです。 よろしくお願いします。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

わたしさえいなければ、完璧な王太子だそうです。

ふらり
恋愛
人並外れた美貌・頭脳・スタイル・武勇を持つウィンダリア王国の25歳の王太子は、完璧な王太子だと言われていた。ただし、「婚約者さえいなければ完璧な王太子なのに」と皆が言う。12歳の婚約者、ヴァイオレット・オルトニーは周囲から憐みの目を向けられていた。 「私との婚約は、契約で仕方なくなのかい? もう私に飽きてしまっている? 私は今でも君にこんなに夢中なのに」 13歳年下の婚約者少女に執着溺愛する美貌も能力も人間離れした王太子様と、振り回される周囲のお話です。小説家になろうにて完結しております。少しずつこちらにもあげていくつもりです。ファンタジー要素はちょっぴりです。

【完結】せっかくモブに転生したのに、まわりが濃すぎて逆に目立つんですけど

monaca
恋愛
前世で目立って嫌だったわたしは、女神に「モブに転生させて」とお願いした。 でも、なんだか周りの人間がおかしい。 どいつもこいつも、妙にキャラの濃いのが揃っている。 これ、普通にしているわたしのほうが、逆に目立ってるんじゃない?

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

後妻の条件を出したら……

しゃーりん
恋愛
妻と離婚した伯爵令息アークライトは、友人に聞かれて自分が後妻に望む条件をいくつか挙げた。 格上の貴族から厄介な女性を押しつけられることを危惧し、友人の勧めで伯爵令嬢マデリーンと結婚することになった。 だがこのマデリーン、アークライトの出した条件にそれほどズレてはいないが、貴族令嬢としての教育を受けていないという驚きの事実が発覚したのだ。 しかし、明るく真面目なマデリーンをアークライトはすぐに好きになるというお話です。