大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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2人で乾杯を。

「何をしている」

アマンド様が戻ってきたらしい。

と言っても、私の背後にいるので顔は見れないけど。

ディフィート様が、重ねていた手をパッと離してヒラヒラと振った。

「アマンド君、ダメじゃないか。こんな出来上がった状態のレディを1人にして・・そんな恐い顔をするなよ。誤解だよ、誤解。レイリア嬢がお1人で飲んでいらしたので心配したんだ。」

「そうですか、礼を言います。俺が戻ってきたからもう大丈夫ですが」

低く、威圧的な声だ。

ひとり酒で酔うような婚約者をディフィート様に見られて、体裁が悪いのだろう。

「こんな所に1人にして、危ないだろう?」

「あなたのお連れも、今お一人じゃないんですか?」

ディフィート様が肩をすくめた。

「今日の俺のパートナーは恥ずかしながら母上だからね。あの人は勝手に楽しんでいるから、気にしなくて大丈夫なんだ。アマンド君は色々と忙しいだろう?私が側にいようか?もう少し、酔っているレイリア嬢を堪能したいし。ふふ、とても可愛いんだよ」

「結構です。お引き取りください」

即座に断るアマンド様。

「それは残念。ではレイリア様、後で私とーー」

急にディフィート様が口パクを始めた。

何か喋っているようなのに何も聞こえない。

どうしたんだろう。

貴族の流行りの遊びか何かだろうか。

後ろのアマンド様に確認しようとすると、頭が動かない。

あ、そっか。

アマンド様が私の耳を塞いでいたのか。

「まったく、ダンスもさせてくれないとは。それではレイリア様、いつかまた。」

気づくと、ディフィート様が席から離れる所だった。





「レイリア、果実水だ。ほら」

背後からコトン、と目の前に置かれたグラスには、スライスしたオレンジやレモンが入っている。

「用意されていたものには君の嫌いなシナモンが入っていたから、シナモン抜きの果実水を作ってもらっていたら遅くなった。」 

そう言って、私の右手に果実水のグラスを握らせる。

シナモンが嫌いって、覚えててくれたんだ…

ふわっと嬉しさが込み上げたのは一瞬。

お酒じゃないものを飲ませようとするアマンド様にムッとする。

この人は、いつまで私を子ども扱いするつもりなのだろう。

「結構です。私、今日はお酒を飲みたい気分だと言ったはずです」

そう返し、果実水のグラスを戻そうとするが、私の手ごと彼の手に包まれてしまい、グラスを離せない。

「そう言わずに、少しでも飲んでくれ。果実水を飲んだら、これを飲んでいいから」

左側から今度はフルートグラスが出てきた。

色はオレンジジュースにしか見えない。

グラスの縁に、飾り切りされたオレンジが添えられている。

「何ですか、これは」

「シャンパンをオレンジジュースで割ったものだ。飲みやすいぞ」

「お酒なんですか?本当に?」

「本当だ。ほら、果実水を飲んだら味見してみるといい。」

そう言うと、私の手ごと果実水のグラスを持って口に近づけてくるので、仕方なく果実水を飲む。

お酒の味に辟易としていたせいか、こく、こく、と、のどを通る果実水がやたら美味しい。

半分ほど飲んで、口を離すとグラスが遠ざかっていく。

「もっと飲んでもいいんだぞ?」

「味見…」

「ん?」

「味見、したいです」

右手が塞がっているので、左手でグラスを持ち、口をつける。

オレンジジュースなのに、シュワっと後口が爽やかで、美味しいと思った。

「これ、お酒じゃないみたい…」

「気に入ったか?」

耳元で、ふ、とアマンド様が笑った気配がした。

答える代わりに、私は黙ってまたグラスを傾ける。

「レイリアはそれを飲んで。こっちの酒は俺がもらおう」

アマンド様は、さっきディフィート様のグラスに並べて置いた私の飲み掛けのグラスをあっという間に煽ると、通りかかったウェイターからシャンパンを受け取った。

さっきとは打って変わって、機嫌の良さそうな彼だが、果実水のグラスをもつ私の右手を、いつまで握っているつもりだろう。

さっきまでは気持ちよさを感じていた冷たさだったが、流石に指先が冷えてきた。

「手が冷たい…」

思わずこぼすと、アマンド様が手を離して、正面に座った。

「手を見せて」

右手についた水滴をナプキンで丹念に拭い、そしてまた手を繋ぐ。

「随分冷えてしまったな。こうして温めておかないと」

私はそれをさほど疑問に思わずに、ふわふわした頭でまたフルートグラスを持ち上げた。

「レイリア、飲む前に、ほら」

ふと彼を見ると、シャンパングラスをこちらに向けている。

私はゆっくりと、グラスを近づけた。

チンッ

澄んだ音がして、彼が「乾杯」と言う。

私も少し遅れて、彼に倣う。

「かんぱい…」

こうして、私は初めて彼とお酒を飲んだ。


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