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春
定例の茶会②
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何か、睨まれてる…!
彼はフイっと私から目を逸らした。
やはり、仕事の話を膨らませようとしたのがまずかったのかもしれない。
忙しさも、実は聞いてはいけない案件だったとか?
焦る私に、彼が苛立ったように言い放つ。
「君は、何度言ったらわかるんだ?俺は忙しくないと何度も言っているだろう!」
「お気に触ったなら、すみません」
また気まずい沈黙に逆戻り-
かと思いきや、「それに」と彼が続けた。
「あんなに四六時中駆り出されるのは、新人の時だけだ。新人は取り敢えず頭数を揃えるためと、何でも経験させろっていう上の方針もあるから、それであんなに呼び出されてたんだ。それだけだ。」
仏頂面の彼に、そうなのか、と思いつつ、私は去年のことを思い出していた。
確かに去年は、何かあれば騎士団からすぐに呼び出しがかかっていて、さすがのアマンド様にも疲労が色濃く見えた。
私がいつものようにお屋敷に遊びに行っても仕事で不在にしていることが多くなり、たまに在宅していても、目の下に隈を作りながら私の相手をしようとする。
一度、彼がようやくのお休みで昼寝をしていた時に、間が悪く私がお屋敷に行ってしまったことがあったのだが、律儀に起きてきてくれるものだから申し訳なくて・・お屋敷に行くのも控えるようになった。
「そういう君はどうなんだ?」
ん?
「私、ですか?」
「髪型が、いつもと違うようだが。」
「ああ、これはまあ、心境の変化と言いますか…」
ジロリ、と私を見て、アマンド様はまたティーカップを手に取った。
「どんな心境の変化だ?」
彼が重ねて話題を振ってくるなんて、珍しい。
我儘になりたいんです、とも言えず、先ほどのキーラに言われたことを思い返す。
「少し、お洒落に気をつけようと思って。もう17ですし、」
ジロリ、と私を見たままカップに口をつけ、黙ってしまった。
アマンド様は、この1年でめっきり口数が少なくなった。
元々口数が多い方ではなかったけれど、それでも、表情でよく会話してくれていたのに。
まぁでも、と私は思い返して視線を落とす。
メイベルに向かって、優しい笑顔を浮かべる彼を見かけたのはつい先日だ。
そういうことなんだろう。
「来月は、いつがいい?」
お茶会もそろそろお開きと言う頃に、彼が手帳を取り出してそう言うので、私は言葉に詰まった。
アマンド様がメイベルと想い会っているのだとしたら、このお茶会は・・ただの義務感からだろう。
彼はとても義理堅い性格だ。
与えられた役割を、忠実にこなそうとする。
ある意味、義務感の塊と言える。
好きでもない婚約者との、面白みもない定例のお茶会に、毎月時間を割いてくれるほどに。
「あの、本当にお忙しくはないのですね?」
アマンド様が、ひたり、と私を見る。
「婚約者との茶会が出来ないほど余裕のない男だと俺は思われているのか?それとも、そうであってほしいという君の願望かな?」
「いえ、お忙しいのであれば、毎月開く必要もないのでは、と思いまして。」
「君は、月1回でも多いというのか?これ以上減らせと?本来であれば毎週会うべきだろう。君と私は、婚約者なんだぞ?」
剣のある声でアマンド様がねめつける。
そう、元々このお茶会は毎週週末に行われていた。
お屋敷に行くことを控え出した私に、アマンド様は週末に2人でお茶会をしよう、と提案してくれたのだ。
嬉しかったけれど、それも長くは続かなかった。
お茶会を開くようになって、確か3回目の時だ。
だいぶ遅刻してお茶会に現れたアマンド様はフラフラで、目の下に大きな隈ができていた。
様子がおかしいのでしつこく尋ねたら、大捕物があったとかで、夜通し仕事してそのまま寝ずに来たのだと言う。
これでは、過労で倒れてしまう。
私は彼の負担になりたくなかった。
純粋に、彼のことが心配で、それでお茶会を月1回に減らそうと言ったのに、なかなか納得してくれなくて。
最終的には、お茶会の席でとうとうアマンド様がうたた寝したので、それでお茶会よりも休息が必要だと説得して月1になったんだった。
そこでハタ、と私は気づいた。
待てよ。
私は我儘な女になるんだった。
我儘な女だったら、お茶会の頻度を月1から更に減らすことはしないだろう。
相手のことを考えずに、きっともっと会いたいって言うだろうし。
「それならアマンド様。また元に戻しましょうか?」
「ん?」とアマンド様が顔を上げる。
「前みたいに、毎週週末にお茶会をしたいですわ。」
澄ました顔で、婚約者ですから、と言い添える。
最近のアマンド様は確かに、以前のようにフラフラするほど疲れ切っていることもなさそうだ。
週1ペースにして、それで余裕そうだったら、更に我儘を発動してみよう。
「いいのか…?」
え?
ティーカップを手に持ったまま、彼が目を見張ってこちらを見ている。
なんか、思ってた反応と違う…
「来週からでもいいか?」
「ええと…ハイ。」
途端に安堵したような表情をする。
「では来週からは、毎週会おう。」
私と毎週会えるのが嬉しいみたいにそう言うので、私は慌てて目を逸らした。
この反応はきっと、彼の婚約者としての義務感を満たせたから。
勘違いしては、ダメだ。
彼はフイっと私から目を逸らした。
やはり、仕事の話を膨らませようとしたのがまずかったのかもしれない。
忙しさも、実は聞いてはいけない案件だったとか?
焦る私に、彼が苛立ったように言い放つ。
「君は、何度言ったらわかるんだ?俺は忙しくないと何度も言っているだろう!」
「お気に触ったなら、すみません」
また気まずい沈黙に逆戻り-
かと思いきや、「それに」と彼が続けた。
「あんなに四六時中駆り出されるのは、新人の時だけだ。新人は取り敢えず頭数を揃えるためと、何でも経験させろっていう上の方針もあるから、それであんなに呼び出されてたんだ。それだけだ。」
仏頂面の彼に、そうなのか、と思いつつ、私は去年のことを思い出していた。
確かに去年は、何かあれば騎士団からすぐに呼び出しがかかっていて、さすがのアマンド様にも疲労が色濃く見えた。
私がいつものようにお屋敷に遊びに行っても仕事で不在にしていることが多くなり、たまに在宅していても、目の下に隈を作りながら私の相手をしようとする。
一度、彼がようやくのお休みで昼寝をしていた時に、間が悪く私がお屋敷に行ってしまったことがあったのだが、律儀に起きてきてくれるものだから申し訳なくて・・お屋敷に行くのも控えるようになった。
「そういう君はどうなんだ?」
ん?
「私、ですか?」
「髪型が、いつもと違うようだが。」
「ああ、これはまあ、心境の変化と言いますか…」
ジロリ、と私を見て、アマンド様はまたティーカップを手に取った。
「どんな心境の変化だ?」
彼が重ねて話題を振ってくるなんて、珍しい。
我儘になりたいんです、とも言えず、先ほどのキーラに言われたことを思い返す。
「少し、お洒落に気をつけようと思って。もう17ですし、」
ジロリ、と私を見たままカップに口をつけ、黙ってしまった。
アマンド様は、この1年でめっきり口数が少なくなった。
元々口数が多い方ではなかったけれど、それでも、表情でよく会話してくれていたのに。
まぁでも、と私は思い返して視線を落とす。
メイベルに向かって、優しい笑顔を浮かべる彼を見かけたのはつい先日だ。
そういうことなんだろう。
「来月は、いつがいい?」
お茶会もそろそろお開きと言う頃に、彼が手帳を取り出してそう言うので、私は言葉に詰まった。
アマンド様がメイベルと想い会っているのだとしたら、このお茶会は・・ただの義務感からだろう。
彼はとても義理堅い性格だ。
与えられた役割を、忠実にこなそうとする。
ある意味、義務感の塊と言える。
好きでもない婚約者との、面白みもない定例のお茶会に、毎月時間を割いてくれるほどに。
「あの、本当にお忙しくはないのですね?」
アマンド様が、ひたり、と私を見る。
「婚約者との茶会が出来ないほど余裕のない男だと俺は思われているのか?それとも、そうであってほしいという君の願望かな?」
「いえ、お忙しいのであれば、毎月開く必要もないのでは、と思いまして。」
「君は、月1回でも多いというのか?これ以上減らせと?本来であれば毎週会うべきだろう。君と私は、婚約者なんだぞ?」
剣のある声でアマンド様がねめつける。
そう、元々このお茶会は毎週週末に行われていた。
お屋敷に行くことを控え出した私に、アマンド様は週末に2人でお茶会をしよう、と提案してくれたのだ。
嬉しかったけれど、それも長くは続かなかった。
お茶会を開くようになって、確か3回目の時だ。
だいぶ遅刻してお茶会に現れたアマンド様はフラフラで、目の下に大きな隈ができていた。
様子がおかしいのでしつこく尋ねたら、大捕物があったとかで、夜通し仕事してそのまま寝ずに来たのだと言う。
これでは、過労で倒れてしまう。
私は彼の負担になりたくなかった。
純粋に、彼のことが心配で、それでお茶会を月1回に減らそうと言ったのに、なかなか納得してくれなくて。
最終的には、お茶会の席でとうとうアマンド様がうたた寝したので、それでお茶会よりも休息が必要だと説得して月1になったんだった。
そこでハタ、と私は気づいた。
待てよ。
私は我儘な女になるんだった。
我儘な女だったら、お茶会の頻度を月1から更に減らすことはしないだろう。
相手のことを考えずに、きっともっと会いたいって言うだろうし。
「それならアマンド様。また元に戻しましょうか?」
「ん?」とアマンド様が顔を上げる。
「前みたいに、毎週週末にお茶会をしたいですわ。」
澄ました顔で、婚約者ですから、と言い添える。
最近のアマンド様は確かに、以前のようにフラフラするほど疲れ切っていることもなさそうだ。
週1ペースにして、それで余裕そうだったら、更に我儘を発動してみよう。
「いいのか…?」
え?
ティーカップを手に持ったまま、彼が目を見張ってこちらを見ている。
なんか、思ってた反応と違う…
「来週からでもいいか?」
「ええと…ハイ。」
途端に安堵したような表情をする。
「では来週からは、毎週会おう。」
私と毎週会えるのが嬉しいみたいにそう言うので、私は慌てて目を逸らした。
この反応はきっと、彼の婚約者としての義務感を満たせたから。
勘違いしては、ダメだ。
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