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春
婚約者がやってきた
日曜日。
とうとうこの日が来た。
今日、私は大きな一歩を踏み出す。
決意し大きく頷いた所で、ノックの音が響いた。
「失礼致します」
ドアを開けて姿を現したのは、我がディセンシア伯爵家の誇る有能な執事、白髭のセバスチャンだ。
「おはよう、セバスチャン。」
「おはようございます。」
「何か用かしら?」
「お嬢様、アマンド様がいらっしゃいました」
「・・・」
「お嬢様?」
「ちょっと待ってね」
「はい」
一応、手帳を確認する。
〈14時お茶 Amd〉
ちゃんと書いてある。
約束の時間は午後の2時。
今、朝の10時なんだけど?それに…
「今日は彼の家の番のはずよね?」
「今日もこちらでお茶会をされるのでしたら、すぐに準備致しますが」
こちらは構いません、とセバスチャンが有能ぶりを発揮するが、そう言うことじゃない。
時間も場所も間違っている。
「いずれにしても、お待たせしておりますので、まずはお会いになられたらいかがでしょう」
「…そうね」
応接間に向かいながら思案する。
今日は、時間になってもアマンド様のお家には行かないつもりだった。
ただ、流石に無断で休むとガーナー家の皆さんに心配されてしまう。
お茶会のために準備してくれるお菓子も、無駄になってしまう。
アマンド様もせっかくのお休みなのに、お茶会の予定を入れていたら、したいこともできないだろう。
ジュディ師匠レベルなら無断キャンセルなんて余裕なんだろうけど、それは上級者のなせる技。
小心者の私に、とてもそんな度胸はない。
なので、昼前にでも「他に用事があるので行きません」と手紙を届けてもらうつもりだったのに。
アマンド様がなんのつもりでこんな朝早く来たのかは知らないけれど、ちょっと…というか、だいぶ困ってしまった。
応接室が見えてきた。
私はひとつ息を吐いて、中に入る。
「アマンド様」
窓に立ち庭を眺めていたがアマンド様が、こちらへ歩いてきた。
「レイリア、すまない」
「もしかして、お仕事ですか?」
そう言って、アマンド様を見上げる。
白の騎士服に、青いマント。
アマンド様は騎士団の制服を着ていた
「・・ああ、そうなんだ」
騎士服の彼を久しぶりに見た。
最後に見たのは、去年の夏くらいだったか。
騎士服の彼は、惚れ惚れするほど格好良い。
去年見たときも格好良かったが、去年はもっと細身に見えた。
今の彼がこれほど騎士服を着こなしているのは、きっとあの頃より体を鍛えて筋肉がついたせいだろう。
「テートの船が、今日の午後に港に入る。明日到着する予定の大型輸送船があるから、今日中にテートの積荷を下ろさないといけないんだ。積荷の警備をするのに、人手が足りなくて・・本来なら俺の隊は非番なんだが」
アマンド様が、お茶会の義務を果たせずに弱っている。
もしかしてこれは、アマンド様を困らせるチャンスなのでは?
できるだけジュディ師匠をイメージしながら、ツンと顔を反らせる。
「別に、構いませんわ」
「本来なら、テートの船は昨日の内に到着する予定だったんだ。それが天候のせいもあって遅れに遅れて・・金曜の時点で、入港が日曜になりそうだって予想はついていたんだが」
そう言って、目を伏せる。
そんな、残念そうに言わないでほしい。
「日曜仕事になるかもしれないと、何度か、君に知らせようと思ったんだ。でも、もしかしたらそうならないかもしれないし、最後まで諦めたくなくて・・。」
まるで、お茶会を楽しみにしていたかのように、振るまわないでほしい。
「すまなかった。もっと早く知らせていれば、君も他の予定を入れられたのに。君の週末を無駄にしてしまった」
本当は私に会いたかったんじゃないかって、期待させないでほしい。
「急な召集はないと、先週言ったばかりなのに、な。」
違う、と自分に言い聞かせる。
彼がこんなに申し訳なさそうなのは、お茶会を週1に戻したばかりでこれだから、責任を感じているんだ。
ただ、それだけだ。
「ですから、別に私は気にしておりません。今日は元より気分が乗りませんでしたし、むしろ丁度良かったですわ」
あなたとの約束なんて何とも思っていませんでした、と言っているようなものだ。
顔を反らせていて、良かった。
彼の顔をまっすぐに見ていたら、こんな失礼なことを言えなかったかもしれない。
「レイリア、怒ってる?」
「怒ってなど、おりません」
本当は、アマンド様はやはり今でも忙しいのかもしれない。
そうであるなら、お茶会の頻度は元に戻そう。
我儘は、それ以外で発揮すればいい。
「アマンド様はお忙しいみたいですし、それならやはりお茶会は」
「だめだよ」
制されて、思わず彼を見上げる。
「この埋め合わせは必ずするから。そんなこと、言わないで」
そう言って、彼が微かに微笑んだ。
一瞬、時が止まったように感じた。
そっと頬を撫でられて、混乱する。
一気に顔が熱くなる。
「アマンド様、馭者が呼んでおります」
応接間の外から呼びかけるセバスチャンの声に、アマンド様が「今行く」と返した。
「すまないレイリア、行ってくる」
私はマントを翻して去っていく彼に何も言えず、ただ、その場に立ち尽くした。
とうとうこの日が来た。
今日、私は大きな一歩を踏み出す。
決意し大きく頷いた所で、ノックの音が響いた。
「失礼致します」
ドアを開けて姿を現したのは、我がディセンシア伯爵家の誇る有能な執事、白髭のセバスチャンだ。
「おはよう、セバスチャン。」
「おはようございます。」
「何か用かしら?」
「お嬢様、アマンド様がいらっしゃいました」
「・・・」
「お嬢様?」
「ちょっと待ってね」
「はい」
一応、手帳を確認する。
〈14時お茶 Amd〉
ちゃんと書いてある。
約束の時間は午後の2時。
今、朝の10時なんだけど?それに…
「今日は彼の家の番のはずよね?」
「今日もこちらでお茶会をされるのでしたら、すぐに準備致しますが」
こちらは構いません、とセバスチャンが有能ぶりを発揮するが、そう言うことじゃない。
時間も場所も間違っている。
「いずれにしても、お待たせしておりますので、まずはお会いになられたらいかがでしょう」
「…そうね」
応接間に向かいながら思案する。
今日は、時間になってもアマンド様のお家には行かないつもりだった。
ただ、流石に無断で休むとガーナー家の皆さんに心配されてしまう。
お茶会のために準備してくれるお菓子も、無駄になってしまう。
アマンド様もせっかくのお休みなのに、お茶会の予定を入れていたら、したいこともできないだろう。
ジュディ師匠レベルなら無断キャンセルなんて余裕なんだろうけど、それは上級者のなせる技。
小心者の私に、とてもそんな度胸はない。
なので、昼前にでも「他に用事があるので行きません」と手紙を届けてもらうつもりだったのに。
アマンド様がなんのつもりでこんな朝早く来たのかは知らないけれど、ちょっと…というか、だいぶ困ってしまった。
応接室が見えてきた。
私はひとつ息を吐いて、中に入る。
「アマンド様」
窓に立ち庭を眺めていたがアマンド様が、こちらへ歩いてきた。
「レイリア、すまない」
「もしかして、お仕事ですか?」
そう言って、アマンド様を見上げる。
白の騎士服に、青いマント。
アマンド様は騎士団の制服を着ていた
「・・ああ、そうなんだ」
騎士服の彼を久しぶりに見た。
最後に見たのは、去年の夏くらいだったか。
騎士服の彼は、惚れ惚れするほど格好良い。
去年見たときも格好良かったが、去年はもっと細身に見えた。
今の彼がこれほど騎士服を着こなしているのは、きっとあの頃より体を鍛えて筋肉がついたせいだろう。
「テートの船が、今日の午後に港に入る。明日到着する予定の大型輸送船があるから、今日中にテートの積荷を下ろさないといけないんだ。積荷の警備をするのに、人手が足りなくて・・本来なら俺の隊は非番なんだが」
アマンド様が、お茶会の義務を果たせずに弱っている。
もしかしてこれは、アマンド様を困らせるチャンスなのでは?
できるだけジュディ師匠をイメージしながら、ツンと顔を反らせる。
「別に、構いませんわ」
「本来なら、テートの船は昨日の内に到着する予定だったんだ。それが天候のせいもあって遅れに遅れて・・金曜の時点で、入港が日曜になりそうだって予想はついていたんだが」
そう言って、目を伏せる。
そんな、残念そうに言わないでほしい。
「日曜仕事になるかもしれないと、何度か、君に知らせようと思ったんだ。でも、もしかしたらそうならないかもしれないし、最後まで諦めたくなくて・・。」
まるで、お茶会を楽しみにしていたかのように、振るまわないでほしい。
「すまなかった。もっと早く知らせていれば、君も他の予定を入れられたのに。君の週末を無駄にしてしまった」
本当は私に会いたかったんじゃないかって、期待させないでほしい。
「急な召集はないと、先週言ったばかりなのに、な。」
違う、と自分に言い聞かせる。
彼がこんなに申し訳なさそうなのは、お茶会を週1に戻したばかりでこれだから、責任を感じているんだ。
ただ、それだけだ。
「ですから、別に私は気にしておりません。今日は元より気分が乗りませんでしたし、むしろ丁度良かったですわ」
あなたとの約束なんて何とも思っていませんでした、と言っているようなものだ。
顔を反らせていて、良かった。
彼の顔をまっすぐに見ていたら、こんな失礼なことを言えなかったかもしれない。
「レイリア、怒ってる?」
「怒ってなど、おりません」
本当は、アマンド様はやはり今でも忙しいのかもしれない。
そうであるなら、お茶会の頻度は元に戻そう。
我儘は、それ以外で発揮すればいい。
「アマンド様はお忙しいみたいですし、それならやはりお茶会は」
「だめだよ」
制されて、思わず彼を見上げる。
「この埋め合わせは必ずするから。そんなこと、言わないで」
そう言って、彼が微かに微笑んだ。
一瞬、時が止まったように感じた。
そっと頬を撫でられて、混乱する。
一気に顔が熱くなる。
「アマンド様、馭者が呼んでおります」
応接間の外から呼びかけるセバスチャンの声に、アマンド様が「今行く」と返した。
「すまないレイリア、行ってくる」
私はマントを翻して去っていく彼に何も言えず、ただ、その場に立ち尽くした。
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