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夢の終わり

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きっと今の私は、ひどい顔をしている。

馬車を降りて、足早に自室へ向かう途中、カインに声をかけられた。

「あ!姉さん、今日どうだった?」

振り返ると、カインとロイがワクワクした顔でこちらを見ている。

「お茶会、すごかった?なんかやらかした?」

「・・・大丈夫だったわ」

「えー!本当に?絶対ボロが出ると思って、俺たち楽しみにしてたのに!」

「カイン!僕はそんなこと言ってないよ」

相変わらず仲の良さそうな2人に微笑む。

「今日は疲れてるから、失礼するわね・・」

そう言って、2人に背を向けると、また呼び止められた。

「あ!あの!レイリア様!今度の御前試合なんですけど、もし良かったら、ご一緒にいかがですか?カインも、試合見に行くのにこっちに残れる事になったんです。」

「ロイが一緒に見ようってうるさくてさ。去年でばあちゃんの法要も一区切りついたから、今年からは俺も姉さんも自由にしていいって。姉さんも残るだろ?」

「・・・」

「姉さん?」

「ごめんなさい。今年も、私は見に行けないみたいだから、他の人を誘ってもらえるかしら?」

そう言って、返事も聞かずに私はその場を後にした。




「あ、お嬢様、この紐が絡まっています。ちょっとお待ち下さいね・・」

「ありがとうキーラ・・・1人じゃうまく、できなくて。」

「はいはい。ちょっと時間かかりますよ」

ドレスを脱がせようと格闘する背後のキーラ。

あんなに緊張して、舞い上がっていた朝が嘘のようだ。

ドレスすら1人で脱げない様は、随分滑稽に思えた。

どんなに飾り立てて外見を取り繕ったところで、中身は何も変わらない。

まるで、私自身みたいだ。

平気なふりをしていても、一度崩れてしまえば、もう1人じゃ立て直せなくて・・。





彼から想われている気がしたけれど、蓋を開けてみればこの通り。

さっき彼は「今年も」と言った。

先ほどの場面を思い出し、視界が滲む。

「今年も」の先は、聞かなくてもわかる。

御前試合だけは、誰かのために取っておきたいんだろう。

その勝利を、大切な人のために捧げるのかもしれない。

去年、表彰式の後に誰を追いかけたのか、結局聞くことはできていない。

きっとメイベルなのだろうと思うから。

話すことすら避けてきた話題だ。

心を占める悲しみ、そして感じる怒り。

怒り?

彼に裏切られたから?

彼に嘘をつかれたから?

違う。

これは・・・これは自分への怒りだ。

去年私がもっと何かをしていたら、彼の助けになれていたなら、彼がメイベルと想い合うこともなかったかもしれない。

違和感に気付いていながら、ただ気のせいだ、大丈夫だと信じようとした。

自業自得だ。

去年の彼をメイベルが支えていたのなら、彼の婚約者にはメイベルの方がふさわしい。

だから私が悲しむなんて、筋違いだ。

「キーラ、もうひとつ、お願いしてもいい?」

私の声の微かな震えを、キーラは感じ取ったのだろう。

「・・お嬢様?」

「今日はもう、疲れちゃったの。お風呂のあとは、ずっと部屋で過ごすと家族に伝えて欲しい。キーラも、これが終わったら下がっていいわ」

キーラは返事をせずに、手を動かした。

紐を解き、髪をとき、化粧を落とし、ようやく本来の私が戻ってくる。

「かしこまりました。・・・お嬢様、本当によろしいのですか?」

キーラの優しい声に、私は涙を零しながら頷いた。







**************************************




姉のドレスの裾が廊下の角に消えたのを見送って、カインは気遣わしげにロイに声をかけた。

「あー、その、ロイ。ごめんな。去年の御前試合、実は姉さん見に行ってなくて…すごい落ち込んでてさ。あれからアマンドとちゃんと話し合ったのかと思ってたんだけど・・・」

「見に行ってない?そんなはず・・」

「いやなんか、出場しないから来なくていいって言われたらしくてさ。だからいつも通り、去年は姉さんも一緒にばあちゃん家に行ったんだよ。それで帰ってきたら5位だろ?だから、さ。」

「え?でも・・」

「対外的には見に行ったことにしといた方が都合がいいから、あんま外には言わないようにしてるんだ。そんなわけだから、ちょっとそっとしておいてやろうぜ。あ、そうだ、ちょっと腹減ったろ?なんか厨房からもらってくるよ。俺の部屋で待ってて」

ニカッと笑ったカインが小走りで去り、ロイは歩き出した。

(レイリア様は去年、試合会場に来ていなかった?)

思い浮かぶのは、去年の御前試合の会場。

表彰式の直後、アマンド様が何かを見つけて走り出した。

アマンド様の目指す方向のちょうど反対側にいた自分には見えたのだ。

ごった返す観衆の中、今にも出入り口に消えていこうとする、目も覚めるようなオレンジの髪色が。

歩みを止めて、ロイは呟く。

「じゃあ、あれは誰だったんだ・・?」










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