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春
弟の友達
先週と同じく、月曜からブルーな気持ちで始まるのは何故だろう。
昨日のアマンド様が、頭の中に居座って離れない。
白い騎士服。
立ち姿。
翻る青いマント。
微笑。
頬に触れられた時の、指の温度。
何度も思い返してしまう。
今も、そう。
気づけば、手を止めて、彼のことを考えている。
背もたれに体を預けて、天井を見上げた。
違う。考えるべきは…そう、我儘だ。
昨日、彼は私が怒っているのか聞いてきた。
ということはつまり、不機嫌には見えたんだろう。
ジュディ様だったら、どうしただろう。
ああ、きっと彼女なら、謝罪などものともせず、「もう2度と会わない」くらいは言ってそうだ。
本当に、私は不器用だ。
想定外のことが起こると、途端に混乱してしまって、うまく立ち回れない。
あんな中途半端な対応をしてしまって、またひとりで反省会だ。
だって、彼が急に来るから。
私がしようとしてたみたいに、使用人を寄越して知らせてくれれば、それで十分だったのに。
彼は、港に行く前に、うちに寄ってくれたのだ。
わざわざ遠回りして。
どうやって嫌われるか、それを考えなきゃいけないのに、全く集中できない。
私は重いため息をついて体を起こし、刺繍を再開した。
結局、午前いっぱいをかけてようやく予定分の針を刺し終わり、キーラと出荷の準備に入る。
「これで全部ね。」
「封をしておきましょうか」
「お願いしていい?あ、ラベンダーのポプリも一緒に入れたいわ」
キーラがニコッと笑う。
「ああ、いいですね。香りが付いて、きっと喜ばれますよ。お任せください」
キーラに籠を預けて、針道具を片付けていると、ノックの音とともにドアが開いた。
「姉さん、ちょっといい?」
振り返ると、弟のカインが顔を出す。
毎回言っているのに、ノックと同時にドアを開ける癖が直らない。
「カーイーンー?」
「ごめんごめん、忘れてた」
このやりとりも、毎回同じ。
今年で14歳になったカインは、お父様譲りの真っ赤な髪と、エメラルドブルーの瞳を持っている。
最近ぐんぐん身長が伸びていて、春先に買ったトラウザーズの丈が既にギリギリだ。
「でさ、今、俺の友達が来てるんだけど、ちょっと会ってやってくれない?」
「私が?」
「うん。今、厩舎にいるから、一緒に来てよ。」
「いいけれど…針だけ片付けるから、待っていてくれる?」
「うん」
2人で厩舎に向かう道すがら、私は口を開く。
「カインが家にお友達を連れてくるなんて、珍しいわね。」
「まあね。俺の行ってる私塾に4月から入ってきた奴なんだけど、いい奴でさ。」
カインの言う私塾とは、領地経営学や帝王学で高名なケネス先生が、貴族の子息向けに開く2週に1回の講座のことだ。
ケネス先生に師事できるだけでなく、そこに集う令息たちとの人脈作りも期待できるとあって、貴族はこぞって長男を入れたがる。
カインは運よく入れたが、人数が決まっているから、希望しても入れない人もいるそうだ。
お月謝もかなりの額だと聞いている。
そこに通っていると言うことは、その友人はそれなりの家の出なのだろう。
ふと、私は疑問に思った。
「ねえカイン。ケネス先生って個人でも教えてくださるの?」
「個別に教えてる人はいるみたいだよ?俺はごめんだけどね。あの先生とマンツーマンでビッチリ勉強とか、考えただけでゲンナリする。それに、個別だと月謝は桁違いだと思うよ?そんな高い月謝を払える人って、だいぶ限られると思う」
「そ、そうよね」
確か、ジュディ様の師事されていた先生のはず。
さすが侯爵家。
さすがジュディ様。
「その友達がさ、ロイって言うんだけど、なんか、姉さんに会いたいんだって。」
「え?私のことを知っているの?」
「まあ、本人に聞いてみてよ」
そして私たちは厩舎に到着した。
昨日のアマンド様が、頭の中に居座って離れない。
白い騎士服。
立ち姿。
翻る青いマント。
微笑。
頬に触れられた時の、指の温度。
何度も思い返してしまう。
今も、そう。
気づけば、手を止めて、彼のことを考えている。
背もたれに体を預けて、天井を見上げた。
違う。考えるべきは…そう、我儘だ。
昨日、彼は私が怒っているのか聞いてきた。
ということはつまり、不機嫌には見えたんだろう。
ジュディ様だったら、どうしただろう。
ああ、きっと彼女なら、謝罪などものともせず、「もう2度と会わない」くらいは言ってそうだ。
本当に、私は不器用だ。
想定外のことが起こると、途端に混乱してしまって、うまく立ち回れない。
あんな中途半端な対応をしてしまって、またひとりで反省会だ。
だって、彼が急に来るから。
私がしようとしてたみたいに、使用人を寄越して知らせてくれれば、それで十分だったのに。
彼は、港に行く前に、うちに寄ってくれたのだ。
わざわざ遠回りして。
どうやって嫌われるか、それを考えなきゃいけないのに、全く集中できない。
私は重いため息をついて体を起こし、刺繍を再開した。
結局、午前いっぱいをかけてようやく予定分の針を刺し終わり、キーラと出荷の準備に入る。
「これで全部ね。」
「封をしておきましょうか」
「お願いしていい?あ、ラベンダーのポプリも一緒に入れたいわ」
キーラがニコッと笑う。
「ああ、いいですね。香りが付いて、きっと喜ばれますよ。お任せください」
キーラに籠を預けて、針道具を片付けていると、ノックの音とともにドアが開いた。
「姉さん、ちょっといい?」
振り返ると、弟のカインが顔を出す。
毎回言っているのに、ノックと同時にドアを開ける癖が直らない。
「カーイーンー?」
「ごめんごめん、忘れてた」
このやりとりも、毎回同じ。
今年で14歳になったカインは、お父様譲りの真っ赤な髪と、エメラルドブルーの瞳を持っている。
最近ぐんぐん身長が伸びていて、春先に買ったトラウザーズの丈が既にギリギリだ。
「でさ、今、俺の友達が来てるんだけど、ちょっと会ってやってくれない?」
「私が?」
「うん。今、厩舎にいるから、一緒に来てよ。」
「いいけれど…針だけ片付けるから、待っていてくれる?」
「うん」
2人で厩舎に向かう道すがら、私は口を開く。
「カインが家にお友達を連れてくるなんて、珍しいわね。」
「まあね。俺の行ってる私塾に4月から入ってきた奴なんだけど、いい奴でさ。」
カインの言う私塾とは、領地経営学や帝王学で高名なケネス先生が、貴族の子息向けに開く2週に1回の講座のことだ。
ケネス先生に師事できるだけでなく、そこに集う令息たちとの人脈作りも期待できるとあって、貴族はこぞって長男を入れたがる。
カインは運よく入れたが、人数が決まっているから、希望しても入れない人もいるそうだ。
お月謝もかなりの額だと聞いている。
そこに通っていると言うことは、その友人はそれなりの家の出なのだろう。
ふと、私は疑問に思った。
「ねえカイン。ケネス先生って個人でも教えてくださるの?」
「個別に教えてる人はいるみたいだよ?俺はごめんだけどね。あの先生とマンツーマンでビッチリ勉強とか、考えただけでゲンナリする。それに、個別だと月謝は桁違いだと思うよ?そんな高い月謝を払える人って、だいぶ限られると思う」
「そ、そうよね」
確か、ジュディ様の師事されていた先生のはず。
さすが侯爵家。
さすがジュディ様。
「その友達がさ、ロイって言うんだけど、なんか、姉さんに会いたいんだって。」
「え?私のことを知っているの?」
「まあ、本人に聞いてみてよ」
そして私たちは厩舎に到着した。
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