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春
婚約者とランチします
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「何が食べたい?」
アマンド様に尋ねられ、私は大通りを見回した。
街のあちこちから、美味しそうな匂いがする。
「アマンド様は?」
「俺は別に何でもいい。」
アマンド様と2人で街の雑踏の中に立っている。
何だか不思議な感じだ・・いつもお互いの家でしか会わないから。
「アマンド様のお仕事もあるし、早く入れるところにしましょう」
「そうだな。いつも食堂で食べているから、俺もあまり詳しくないが・・」
アマンド様も周囲を見回した。
騎士服姿の彼はやはり人目を引いていて、さっきからチラチラと女性陣がこちらに視線を寄越してくる。
詰所を出てからも、手を引かれたままだった。
私は手の力をそろり、と緩めたが、彼に再度握りなおされた。
「街中ではぐれたら危ない。手は離すな」
いえ、なんか色々と心臓に悪くてですね・・人の視線とか、視線とか、視線とか・・・
10代前半とおぼしき女の子たちが、彼とすれ違った後にキャアキャアと騒いでいる。
「そうだ・・レイリア、あそこにしよう」
アマンド様に連れられてきたお店は2階建ての、こじんまりしたレストランだった。
外壁は白いが、中に入ると、床も壁も青系のタイルが敷き詰められていて、外との対比が面白い。
「ここ、職場で話題になっていたんだ。シェアして食べるレストランなんだけど、いいか?」
「ええ。こういうお店は初めて」
トマトソース系のいい匂いがして、一気にお腹が減った気がする。
ちょうど入れ違いの客がおり、少し待てばテーブルに案内された。
メニューを渡され開いてみると、品数は割と多い。
「何がいい?」
「パスタが食べたいわ」
「じゃあパスタはレイリアが選んでくれ。」
私の選んだベーコンとマッシュルームのトマトソースパスタと、アマンド様の選んだチーズオムレツ、ポテトのガーリックオイル揚げ、そしてアイスカフェラテとレモネードを頼んで、料理が来るのを待つ。
先に来たレモネードを飲んで店内を見ていると、厨房から出てきたウェイターが料理を運んでいた。
その姿に、違和感を感じる。
ウェイターがトレイを両手で持っているせいだろうか?
「最近何か変わったことは?」
ウェイターに意識を集中していたら、アマンド様に話しかけられた。
前回のお茶会からまだ1週間ちょっとしか経っていなかったので、この質問が来るとは思わなかった。
馴染みの定例報告に、いつものように答えようとして、やめる。
そうそう、今回はこの報告があった。
「実は、新しくお友達ができましたわ」
「友達?」
「はい、ロイと言って・・」
「ロイ?どこの家の者だ?」
「あ、弟が私塾でお友達になったんですけど、ロイは」
「レイリア、友達になったとしても、その呼び方は気安すぎるんじゃないか?」
「あ、でもロイの方からそう呼んで欲しい、とお願いされたんです」
アマンド様が眉間に皺を寄せる。
デビュタントを終えた令嬢が、男の子をファーストネームで呼ぶのははしたないと思っているのかもしれない。
ああそうだ、ロイが13歳だと言うことを伝えなければ・・
「ロイは」「どこで知り合ったんだ?」
「え?あ、それが、私に会うために、わざわざ家まで来てくれて・・」
正しくは、あなたの婚約者である私に会うために、だけれど。
アマンド様はアイスカフェラテを一口飲んだ。
よし。ここからが本題だ。
ロイのアマンド様への熱い想いを、ロイに代わって伝えなければいけない。
「それでですね、なんとロイはアマンド様のことが・・」
「チーズオムレツ、お待たせいたしましたー!」
ドォンッ!と目の前に置かれた皿に目を丸くする。
な・・・・!
肘から指の先までありそうな、巨大なオムレツが目の前で湯気を上げている。
幅もすごい。大人の手のひらよりもある。
アマンド様が「なるほど・・」と呟いたきり、黙ってしまった。
おそらく、絶句しているのだろう。
「これ・・これは、他のテーブルの方のものでは?さすがに2人前の量ではないですもの」
「いや、おそらく合っている。レイリア、すまない」
アマンド様の目は、オムレツに固定されたままだ。
「この店は、同僚たちの間で大量盛りの店として、話題になっていたんだ」
「た、大量盛り?」
アマンド様は目線を上げて頷いた。
「ひと皿ひと皿の量がありえないほど多い、と聞いていた。ひと皿頼んだだけで、腹がはちきれるほどの量が提供されると同僚が話していて、誇張して話しているのかと思っていたんだが・・どうやら真実だったようだ」
「そんな・・!この後来る、パスタとポテトも大量盛りということですか!?」
「すまない。ドリンクがデカンタで提供された時点で、嫌な予感はしていたんだ」
「そんな・・!」
確かに、レモネードもアイスカフェラテもデカンタで来て、「シェアするお店ってドリンクもシェアするんですね!」って私が驚いていた頃から、アマンド様の表情が冴えないな、とは思っていた。
狼狽える私に、若干顔色の悪いアマンド様が頷いた。
「いや、大丈夫だ。俺がなんとかする。」
「アマンド様、これは個人が頑張ってどうにかできるレベルじゃないです。無理です。今からでもキャンセルを」
ドォンッ!
「ポテトのガーリック揚げ、お待ちー!パスタもできてるから、今持ってくるね!」
「重くて1回じゃ運べなくてさ!」とウインクして去っていくウェイター。
テーブルの上には、大皿に、文字通り山盛りのポテトがそびえ立っている。
「あいよっ!最後の、ベーコンとマッシュルームのトマトソースパスタだぁ!」
ドォオンッ!
その瞬間、オムレツが皿から宙に浮き上がったのを、私は確かに見た。
「よし!じゃあこれでオーダー全部だね?取り皿、足りなくなったら声かけてよ!それじゃ、ごゆっくりー!」
後にも先にも、あんなに必死でご飯を食べたことはない。
トマトソースを吸ったパスタが、後半あんなに重くなるとは。
アマンド様の手前、口には出さなかったが、「グルト様がここに居たらな」と何度も思ってしまった。
しかしそれは私だけではなかったようで。
後半、「くそっ、グルトも連れてくればよかった・・」とアマンド様が呟いていたのは、ここだけの話だ。
アマンド様に尋ねられ、私は大通りを見回した。
街のあちこちから、美味しそうな匂いがする。
「アマンド様は?」
「俺は別に何でもいい。」
アマンド様と2人で街の雑踏の中に立っている。
何だか不思議な感じだ・・いつもお互いの家でしか会わないから。
「アマンド様のお仕事もあるし、早く入れるところにしましょう」
「そうだな。いつも食堂で食べているから、俺もあまり詳しくないが・・」
アマンド様も周囲を見回した。
騎士服姿の彼はやはり人目を引いていて、さっきからチラチラと女性陣がこちらに視線を寄越してくる。
詰所を出てからも、手を引かれたままだった。
私は手の力をそろり、と緩めたが、彼に再度握りなおされた。
「街中ではぐれたら危ない。手は離すな」
いえ、なんか色々と心臓に悪くてですね・・人の視線とか、視線とか、視線とか・・・
10代前半とおぼしき女の子たちが、彼とすれ違った後にキャアキャアと騒いでいる。
「そうだ・・レイリア、あそこにしよう」
アマンド様に連れられてきたお店は2階建ての、こじんまりしたレストランだった。
外壁は白いが、中に入ると、床も壁も青系のタイルが敷き詰められていて、外との対比が面白い。
「ここ、職場で話題になっていたんだ。シェアして食べるレストランなんだけど、いいか?」
「ええ。こういうお店は初めて」
トマトソース系のいい匂いがして、一気にお腹が減った気がする。
ちょうど入れ違いの客がおり、少し待てばテーブルに案内された。
メニューを渡され開いてみると、品数は割と多い。
「何がいい?」
「パスタが食べたいわ」
「じゃあパスタはレイリアが選んでくれ。」
私の選んだベーコンとマッシュルームのトマトソースパスタと、アマンド様の選んだチーズオムレツ、ポテトのガーリックオイル揚げ、そしてアイスカフェラテとレモネードを頼んで、料理が来るのを待つ。
先に来たレモネードを飲んで店内を見ていると、厨房から出てきたウェイターが料理を運んでいた。
その姿に、違和感を感じる。
ウェイターがトレイを両手で持っているせいだろうか?
「最近何か変わったことは?」
ウェイターに意識を集中していたら、アマンド様に話しかけられた。
前回のお茶会からまだ1週間ちょっとしか経っていなかったので、この質問が来るとは思わなかった。
馴染みの定例報告に、いつものように答えようとして、やめる。
そうそう、今回はこの報告があった。
「実は、新しくお友達ができましたわ」
「友達?」
「はい、ロイと言って・・」
「ロイ?どこの家の者だ?」
「あ、弟が私塾でお友達になったんですけど、ロイは」
「レイリア、友達になったとしても、その呼び方は気安すぎるんじゃないか?」
「あ、でもロイの方からそう呼んで欲しい、とお願いされたんです」
アマンド様が眉間に皺を寄せる。
デビュタントを終えた令嬢が、男の子をファーストネームで呼ぶのははしたないと思っているのかもしれない。
ああそうだ、ロイが13歳だと言うことを伝えなければ・・
「ロイは」「どこで知り合ったんだ?」
「え?あ、それが、私に会うために、わざわざ家まで来てくれて・・」
正しくは、あなたの婚約者である私に会うために、だけれど。
アマンド様はアイスカフェラテを一口飲んだ。
よし。ここからが本題だ。
ロイのアマンド様への熱い想いを、ロイに代わって伝えなければいけない。
「それでですね、なんとロイはアマンド様のことが・・」
「チーズオムレツ、お待たせいたしましたー!」
ドォンッ!と目の前に置かれた皿に目を丸くする。
な・・・・!
肘から指の先までありそうな、巨大なオムレツが目の前で湯気を上げている。
幅もすごい。大人の手のひらよりもある。
アマンド様が「なるほど・・」と呟いたきり、黙ってしまった。
おそらく、絶句しているのだろう。
「これ・・これは、他のテーブルの方のものでは?さすがに2人前の量ではないですもの」
「いや、おそらく合っている。レイリア、すまない」
アマンド様の目は、オムレツに固定されたままだ。
「この店は、同僚たちの間で大量盛りの店として、話題になっていたんだ」
「た、大量盛り?」
アマンド様は目線を上げて頷いた。
「ひと皿ひと皿の量がありえないほど多い、と聞いていた。ひと皿頼んだだけで、腹がはちきれるほどの量が提供されると同僚が話していて、誇張して話しているのかと思っていたんだが・・どうやら真実だったようだ」
「そんな・・!この後来る、パスタとポテトも大量盛りということですか!?」
「すまない。ドリンクがデカンタで提供された時点で、嫌な予感はしていたんだ」
「そんな・・!」
確かに、レモネードもアイスカフェラテもデカンタで来て、「シェアするお店ってドリンクもシェアするんですね!」って私が驚いていた頃から、アマンド様の表情が冴えないな、とは思っていた。
狼狽える私に、若干顔色の悪いアマンド様が頷いた。
「いや、大丈夫だ。俺がなんとかする。」
「アマンド様、これは個人が頑張ってどうにかできるレベルじゃないです。無理です。今からでもキャンセルを」
ドォンッ!
「ポテトのガーリック揚げ、お待ちー!パスタもできてるから、今持ってくるね!」
「重くて1回じゃ運べなくてさ!」とウインクして去っていくウェイター。
テーブルの上には、大皿に、文字通り山盛りのポテトがそびえ立っている。
「あいよっ!最後の、ベーコンとマッシュルームのトマトソースパスタだぁ!」
ドォオンッ!
その瞬間、オムレツが皿から宙に浮き上がったのを、私は確かに見た。
「よし!じゃあこれでオーダー全部だね?取り皿、足りなくなったら声かけてよ!それじゃ、ごゆっくりー!」
後にも先にも、あんなに必死でご飯を食べたことはない。
トマトソースを吸ったパスタが、後半あんなに重くなるとは。
アマンド様の手前、口には出さなかったが、「グルト様がここに居たらな」と何度も思ってしまった。
しかしそれは私だけではなかったようで。
後半、「くそっ、グルトも連れてくればよかった・・」とアマンド様が呟いていたのは、ここだけの話だ。
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