上 下
23 / 144

アドバイザーが決まりました。

しおりを挟む
私がミルクティーを飲み終える頃には、ジュディ様はいつもの調子に戻っていた。

「それで?今日は聞きたいことはないの?」

ジュディ様から振ってくれるとは有難い。

「はい!ありがとうございます!」

「その前に、あなたの嫌われたい相手って誰なの?」

思わず、取ろうとしていたダックワーズを落としそうになった。

「えっと・・・」

言ってもいいものだろうか、迷う。

「相手を知らなければ、私だっていいアドバイスはできないけど?」

ジュディ様がアドバイスするつもりでいてくれるなんて、このチャンスをみすみす逃したくはない。

でも、婚約に関することは家同士の問題でもあるので、それを他言するのも憚られる。

もしジュディ様がうっかりお友達に漏らして、先に噂にでもなってしまったら、この計画自体が失敗に・・最悪、両家にも迷惑がかかるし・・

迷う私に、ゲルトさんが耳打ちする。

「レイリア様、どうぞご安心ください。お嬢様がおしゃべりするようなご友人は、あなた様以外におりません。」

「聞こえてるわよ、ゲルト」

そうか、確かに。

ゲルトさんに目だけで会釈して話し出す。

「それでは…」

「それで話し出すあなたも大概よ?」

「嫌われたい相手というのは、その…私の、婚約者なんです。」

「…ガーナー伯爵令息ね?」

間髪入れず当ててくる。

「はい。彼に本命がいるようなのです。ですから、自分のためにも、穏便に婚約関係を解消できればと思って」

「なるほど?それで、嫌われて婚約解消?」

「はい。婚約破棄だとお互い後々角が立つので、解消の方向で頑張りたいです」

「ふうん…」

ジュディ様が閉じた扇子を口元に当てて、何か考えてから、顔を上げた。

「確認だけど、あなたはそれでいいのね?」

「はい」

「本命がいようが、お構いなしで割り切って結婚する人もいると思うけど。」

「そういう人もいるかもしれませんが、私は無理です」

「・・そう。ならいいわ。あなたに協力してあげる」

協力?

「直接どうこうはしないけど、アドバイザーくらいは務めてあげてもよくってよ」

ジュディ様がなぜか乗り気になっている。

どうしよう。何か不安だ。

「ありがたいですが、そこまでしていただく理由が…」

「いいのよ。婚約解消に向けて、私も色々試せて好都ご…ンンッ!友人として、協力するわ」

ジュディ様の中で、私は何かのモデル事業に認定されたらしい。

「そうと決まればレイリア、こないだから今までで婚約者に仕掛けたこととその結果を、全て話しなさい。」

う・・!



私がなんとか話し終えると、ジュディ様は半目になった。

「意味わかんない。何で最後、大食い大会になるのよ」

デスヨネ・・

「で?次は出かけることになったのね?」

「はい」

「じゃ、次は恋人らしい振る舞いを頑張って。」

「でも、それをやろうとして、こないだ失敗したばかりで…」

「私が言ってるのは"恋人"よ?恋人でしかしないようなことをしろ、と言っているの。あなたがこないだやった、仕事の合間に一緒に昼食に行くなんて、婚約者でなくても誰でもできるわよ。」

ジュディ様に軽く一蹴され、ぐうの音も出ない。

「う…そうすると、具体的にはどのようなことをすれば…?」

聞いてはみたものの、物凄くイヤな予感がする。

「そうね・・・自分が愛されているから許されて当然、みたいな態度で物もねだって、スキンシップもいいわね。それと愛称呼びとか、甲斐甲斐しく世話を焼く、とかもいいんじゃないかしら?」

「そっ、そんなのムリっ!」

思わず敬語が抜けてしまった。

ジュディ様は扇子を開いて口元を覆うと、私を見ながら目を眇めた。

「いい?相手には本当に好いた相手がいるのでしょう?結婚相手はあなたで手を打てばいいと思ってるみたいだけど、甘いのよ。」

「甘い、というのは・・?」

「"嫌いじゃない相手"と"好きな相手"は明確に違うわ。好き同士なら許せる行為も、好きでない相手から受けるとね、感じる小さな違和感が、そのうち、無視できないほどの嫌悪感に変わっていくの。つまり、生理的にムリ、な状態に持ち込めればこちらの勝ち。好きじゃない相手から受ける親密な行動がどれほど辛いか、現実を見せつけてやるのよ。」

ジュディ様は、本当に私より年下なんだろうか?

「ズバリ、今度の日曜のテーマは、『婚約者に恋する乙女』よ。精一杯おしゃれして、腕を組む、何かものをねだる、自分への気持ちを言葉にして言ってもらう、くらいはしてきなさい。」

「そんな・・!」

ジュディ様の無茶振りに、私は顔を青くした。

そんな私を楽しげに見ていたジュディ様だったが、ふと私の後方に目を向けると、剣のある声で呼びかけた。

「淑女のお茶会に現れるなんて、無粋ではなくて?お兄様。」

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,047pt お気に入り:19

旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,650pt お気に入り:183

国王陛下に婚活を命じられたら、宰相閣下の様子がおかしくなった

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,079pt お気に入り:726

その愛、最後まで貫いて下さい。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,445pt お気に入り:4,809

堅物監察官は、転生聖女に振り回される。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,379pt お気に入り:150

婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,252pt お気に入り:524

[ R-18 ]息子に女の悦びを教え込まれた母の日常

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:2,477pt お気に入り:76

【R18】はにかみ赤ずきんは意地悪狼にトロトロにとかされる

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,331pt お気に入り:162

魔力がなくなって冷遇された聖女は、助けた子供に連れられて

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:326pt お気に入り:363

処理中です...