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春
アドバイザーが決まりました。
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私がミルクティーを飲み終える頃には、ジュディ様はいつもの調子に戻っていた。
「それで?今日は聞きたいことはないの?」
ジュディ様から振ってくれるとは有難い。
「はい!ありがとうございます!」
「その前に、あなたの嫌われたい相手って誰なの?」
思わず、取ろうとしていたダックワーズを落としそうになった。
「えっと・・・」
言ってもいいものだろうか、迷う。
「相手を知らなければ、私だっていいアドバイスはできないけど?」
ジュディ様がアドバイスするつもりでいてくれるなんて、このチャンスをみすみす逃したくはない。
でも、婚約に関することは家同士の問題でもあるので、それを他言するのも憚られる。
もしジュディ様がうっかりお友達に漏らして、先に噂にでもなってしまったら、この計画自体が失敗に・・最悪、両家にも迷惑がかかるし・・
迷う私に、ゲルトさんが耳打ちする。
「レイリア様、どうぞご安心ください。お嬢様がおしゃべりするようなご友人は、あなた様以外におりません。」
「聞こえてるわよ、ゲルト」
そうか、確かに。
ゲルトさんに目だけで会釈して話し出す。
「それでは…」
「それで話し出すあなたも大概よ?」
「嫌われたい相手というのは、その…私の、婚約者なんです。」
「…ガーナー伯爵令息ね?」
間髪入れず当ててくる。
「はい。彼に本命がいるようなのです。ですから、自分のためにも、穏便に婚約関係を解消できればと思って」
「なるほど?それで、嫌われて婚約解消?」
「はい。婚約破棄だとお互い後々角が立つので、解消の方向で頑張りたいです」
「ふうん…」
ジュディ様が閉じた扇子を口元に当てて、何か考えてから、顔を上げた。
「確認だけど、あなたはそれでいいのね?」
「はい」
「本命がいようが、お構いなしで割り切って結婚する人もいると思うけど。」
「そういう人もいるかもしれませんが、私は無理です」
「・・そう。ならいいわ。あなたに協力してあげる」
協力?
「直接どうこうはしないけど、アドバイザーくらいは務めてあげてもよくってよ」
ジュディ様がなぜか乗り気になっている。
どうしよう。何か不安だ。
「ありがたいですが、そこまでしていただく理由が…」
「いいのよ。婚約解消に向けて、私も色々試せて好都ご…ンンッ!友人として、協力するわ」
ジュディ様の中で、私は何かのモデル事業に認定されたらしい。
「そうと決まればレイリア、こないだから今までで婚約者に仕掛けたこととその結果を、全て話しなさい。」
う・・!
私がなんとか話し終えると、ジュディ様は半目になった。
「意味わかんない。何で最後、大食い大会になるのよ」
デスヨネ・・
「で?次は出かけることになったのね?」
「はい」
「じゃ、次は恋人らしい振る舞いを頑張って。」
「でも、それをやろうとして、こないだ失敗したばかりで…」
「私が言ってるのは"恋人"よ?恋人でしかしないようなことをしろ、と言っているの。あなたがこないだやった、仕事の合間に一緒に昼食に行くなんて、婚約者でなくても誰でもできるわよ。」
ジュディ様に軽く一蹴され、ぐうの音も出ない。
「う…そうすると、具体的にはどのようなことをすれば…?」
聞いてはみたものの、物凄くイヤな予感がする。
「そうね・・・自分が愛されているから許されて当然、みたいな態度で物もねだって、スキンシップもいいわね。それと愛称呼びとか、甲斐甲斐しく世話を焼く、とかもいいんじゃないかしら?」
「そっ、そんなのムリっ!」
思わず敬語が抜けてしまった。
ジュディ様は扇子を開いて口元を覆うと、私を見ながら目を眇めた。
「いい?相手には本当に好いた相手がいるのでしょう?結婚相手はあなたで手を打てばいいと思ってるみたいだけど、甘いのよ。」
「甘い、というのは・・?」
「"嫌いじゃない相手"と"好きな相手"は明確に違うわ。好き同士なら許せる行為も、好きでない相手から受けるとね、感じる小さな違和感が、そのうち、無視できないほどの嫌悪感に変わっていくの。つまり、生理的にムリ、な状態に持ち込めればこちらの勝ち。好きじゃない相手から受ける親密な行動がどれほど辛いか、現実を見せつけてやるのよ。」
ジュディ様は、本当に私より年下なんだろうか?
「ズバリ、今度の日曜のテーマは、『婚約者に恋する乙女』よ。精一杯おしゃれして、腕を組む、何かものをねだる、自分への気持ちを言葉にして言ってもらう、くらいはしてきなさい。」
「そんな・・!」
ジュディ様の無茶振りに、私は顔を青くした。
そんな私を楽しげに見ていたジュディ様だったが、ふと私の後方に目を向けると、剣のある声で呼びかけた。
「淑女のお茶会に現れるなんて、無粋ではなくて?お兄様。」
「それで?今日は聞きたいことはないの?」
ジュディ様から振ってくれるとは有難い。
「はい!ありがとうございます!」
「その前に、あなたの嫌われたい相手って誰なの?」
思わず、取ろうとしていたダックワーズを落としそうになった。
「えっと・・・」
言ってもいいものだろうか、迷う。
「相手を知らなければ、私だっていいアドバイスはできないけど?」
ジュディ様がアドバイスするつもりでいてくれるなんて、このチャンスをみすみす逃したくはない。
でも、婚約に関することは家同士の問題でもあるので、それを他言するのも憚られる。
もしジュディ様がうっかりお友達に漏らして、先に噂にでもなってしまったら、この計画自体が失敗に・・最悪、両家にも迷惑がかかるし・・
迷う私に、ゲルトさんが耳打ちする。
「レイリア様、どうぞご安心ください。お嬢様がおしゃべりするようなご友人は、あなた様以外におりません。」
「聞こえてるわよ、ゲルト」
そうか、確かに。
ゲルトさんに目だけで会釈して話し出す。
「それでは…」
「それで話し出すあなたも大概よ?」
「嫌われたい相手というのは、その…私の、婚約者なんです。」
「…ガーナー伯爵令息ね?」
間髪入れず当ててくる。
「はい。彼に本命がいるようなのです。ですから、自分のためにも、穏便に婚約関係を解消できればと思って」
「なるほど?それで、嫌われて婚約解消?」
「はい。婚約破棄だとお互い後々角が立つので、解消の方向で頑張りたいです」
「ふうん…」
ジュディ様が閉じた扇子を口元に当てて、何か考えてから、顔を上げた。
「確認だけど、あなたはそれでいいのね?」
「はい」
「本命がいようが、お構いなしで割り切って結婚する人もいると思うけど。」
「そういう人もいるかもしれませんが、私は無理です」
「・・そう。ならいいわ。あなたに協力してあげる」
協力?
「直接どうこうはしないけど、アドバイザーくらいは務めてあげてもよくってよ」
ジュディ様がなぜか乗り気になっている。
どうしよう。何か不安だ。
「ありがたいですが、そこまでしていただく理由が…」
「いいのよ。婚約解消に向けて、私も色々試せて好都ご…ンンッ!友人として、協力するわ」
ジュディ様の中で、私は何かのモデル事業に認定されたらしい。
「そうと決まればレイリア、こないだから今までで婚約者に仕掛けたこととその結果を、全て話しなさい。」
う・・!
私がなんとか話し終えると、ジュディ様は半目になった。
「意味わかんない。何で最後、大食い大会になるのよ」
デスヨネ・・
「で?次は出かけることになったのね?」
「はい」
「じゃ、次は恋人らしい振る舞いを頑張って。」
「でも、それをやろうとして、こないだ失敗したばかりで…」
「私が言ってるのは"恋人"よ?恋人でしかしないようなことをしろ、と言っているの。あなたがこないだやった、仕事の合間に一緒に昼食に行くなんて、婚約者でなくても誰でもできるわよ。」
ジュディ様に軽く一蹴され、ぐうの音も出ない。
「う…そうすると、具体的にはどのようなことをすれば…?」
聞いてはみたものの、物凄くイヤな予感がする。
「そうね・・・自分が愛されているから許されて当然、みたいな態度で物もねだって、スキンシップもいいわね。それと愛称呼びとか、甲斐甲斐しく世話を焼く、とかもいいんじゃないかしら?」
「そっ、そんなのムリっ!」
思わず敬語が抜けてしまった。
ジュディ様は扇子を開いて口元を覆うと、私を見ながら目を眇めた。
「いい?相手には本当に好いた相手がいるのでしょう?結婚相手はあなたで手を打てばいいと思ってるみたいだけど、甘いのよ。」
「甘い、というのは・・?」
「"嫌いじゃない相手"と"好きな相手"は明確に違うわ。好き同士なら許せる行為も、好きでない相手から受けるとね、感じる小さな違和感が、そのうち、無視できないほどの嫌悪感に変わっていくの。つまり、生理的にムリ、な状態に持ち込めればこちらの勝ち。好きじゃない相手から受ける親密な行動がどれほど辛いか、現実を見せつけてやるのよ。」
ジュディ様は、本当に私より年下なんだろうか?
「ズバリ、今度の日曜のテーマは、『婚約者に恋する乙女』よ。精一杯おしゃれして、腕を組む、何かものをねだる、自分への気持ちを言葉にして言ってもらう、くらいはしてきなさい。」
「そんな・・!」
ジュディ様の無茶振りに、私は顔を青くした。
そんな私を楽しげに見ていたジュディ様だったが、ふと私の後方に目を向けると、剣のある声で呼びかけた。
「淑女のお茶会に現れるなんて、無粋ではなくて?お兄様。」
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