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夏
ウェイターの懸念が現実になった模様です。
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カランカラン、とアマンド様のフォークが床に転がる。
そのフォークに刺さっていたはずの、白身魚のフライは無くなっていた。
「あれは・・・カモメか!」
テーブルの脇を素早く横切っていったのはカモメだった。
まさか、人が手にしたフォークから直接食べ物を強奪しようとするカモメがいるなんて。
周囲を見回し驚いた。
テラス席から少し離れた欄干に、いつの間にかカモメが6羽も止まっている。
バサッと音がして上を見上げると、パラソルの上にもカモメが1羽とまったらしく、カモメの大きさそのままにパラソルに影が落ちていた。
いつも遠目で見ているので意識したことはなかったが、こうして実際間近で見ると、体躯はカラスよりもひと回り大きい。
目は黄色く、その鋭い目で私たちのテーブルを見つめる様に恐怖を覚える。
「ア、アマンド様!もしや私たち、狙われているのでは!?」
「・・・レイリア、落ち着こう。俺に任せて」
アマンド様が店内に向かって合図を出すと、間もなくウェイターが来た。
さっきテラス席への移動を請け負ってくれた、あのウェイターだ。
「すまないが、店内に戻りたい。カモメに狙われていて、落ち着いて食事ができそうにない。」
「申し訳ありません!カモメの鳥害でテラスを閉鎖したのが3年前。カモメもそろそろ代替わりしてテラスを狙うこともなくなるのではと思ったのですが・・・奴らを買い被っておりました!」
「・・・」
正直さは好感が持てるが、その懸念を事前に伝えてくれる親切さが欲しかった。
「さっきの席でなくてもいい。店内にまた戻らせてほしい」
「そ、それが、既に席は埋まっていまして・・」
「席はないのか?」
「申し訳ありません!予約外のお客様が先ほどいらして、どうしても今日プロポーズしないと恋人が国へ帰ってしまうと仰って!先ほど無事にプロポーズを成功されたところなのです。」
さっき、店内の客が、窓際の席に顔を向けていたことを思い出す。
あの時プロポーズが成功したのだろう。
狼狽えた様子のウェイターだったが、周囲を見回してから、キリッとした表情でアマンド様に顔を向けた。
「恐れながら、まだカモメは10羽おりません。席が空くまで待つよりも、20羽、30羽集まってくる前に、ここで食事を済ませてしまう方が早いかと。微力ながら、私も誠心誠意、カモメからお二人と料理を守れるように防御に徹しますので」
・・・ウェイターの業務範囲に防御って入ってたっけ?
そういう間にまた1匹、増えたカモメがパラソルに止まった。
「わかった・・・フォークが落ちたので新しいのを頼む。それと」
「はい、トレイを準備いたします」
アマンド様とウェイターは小さく頷きあった。
え?何?何が始まるの?
強い不安が胸を占める。
「レイリア、俺が奴らの攻撃を防ぐから、レイリアは食べることに集中してくれ」
バササッ!
ガンっ!
「今だ!レイリア!」
執拗にテーブルを狙うカモメを、手にした丸トレイで防ぎながら、アマンド様が私にスプーンを差し出す。
私は大きな四角のトレイを両手で頭に掲げながら、必死にスプーンを頬張った。
「よし、これでリゾットは食べ切ったな」
アマンド様が丸トレイを構える手の反対側は、こちらも丸トレイを盾に構えるウェイターが立っている。
「今まだ15羽ほどですね。やはり以前に比べて集まってくる反応が遅い…まだ行けます、お客様」
冷静に分析するウェイター。
「レイリアは食べ終えたからひとまず店内で待っててもらってもいいぞ。テーブル席じゃなくても、座るだけなら1席分どこかしらあるだろう」
私はもぐもぐしながら、テーブルの上を見つめた。
カモメが横取りできないように、アマンド様の注文したお皿は、ひとまず金属製のクローシュで覆ってもらっている。
私は食べ終えたが、アマンド様はまだこれからだ。
カモメの襲撃が、怖くないと言ったら嘘になる。
だが、自分が食べ終えたからと言って、1人安全地帯に逃げるのは人としてどうなのか。
「いいえ、アマンド様が無事に食べ終えるまで、私もこの戦いに加わります」
「いいのか?」
「はい…!」
バサッバサッ!
カカッ!カンッ!
ヒイィ!こわっ!怖い!
欄干にはズラッとカモメが並んでいる。
もう20羽どころでは無い。
店の屋根にも10羽は止まっている。
カモメが多くなるにつれて、連携プレーを仕掛けてくるようになり、それまでの体制では防ぎきれなくなってきた。
最終的に、私はアマンド様に隣り合って座ることになった。
2人の頭上には先ほどの四角いトレイが掲げられ、相合傘ならぬ相合トレイ状態だ。
片手に四角トレイ、もう一方の手に丸トレイを持ち、両手が塞がったアマンド様に代わり、私がフォークで口へ食べ物を運ぶ。
「ん、レイリア、飲み物を飲みたい。」
「ハイっ!」
「お客様!3時の方向から1羽来ます!」
バササッ!
カンッ!
両手に丸トレイを持ち、屋根の上から勢いをつけて滑空してくるカモメを防いでいるウェイターとの阿吽の呼吸で、的確にカモメを防ぐ。
そうして、ようやくランチを終えた。
「アマンド ガーナー様でしたか!あの身のこなしに反応速度、流石でございます!」
「いや、君もいい動きをしていた。何かやっていたのか?」
「実は騎士の道を志していた時期がありまして。怪我をして諦めましたが…」
「なるほど。どこの流派だったんだ?」
アマンド様とウェイターがお互いの健闘を讃え合い、意気投合している。
遅れてきた満腹感でお腹が苦しい。
今日は適量だったはずなのに。
凄い勢いでリゾットを掻っ込んだせいだ。
例によって、途中からミッションどころではなかった。
でも、レストランを後にする間際に、プロポーズを成功させたカップルからものすごい感謝されたので、今回はそれで良かったことにする。
************************************
作者より
年度末、年度始めとバタバタしており、今後も更新が滞りがちになるかもしれませんが、書く気はあります!ので、恐れ入りますがご容赦くださいm(_ _)m
そのフォークに刺さっていたはずの、白身魚のフライは無くなっていた。
「あれは・・・カモメか!」
テーブルの脇を素早く横切っていったのはカモメだった。
まさか、人が手にしたフォークから直接食べ物を強奪しようとするカモメがいるなんて。
周囲を見回し驚いた。
テラス席から少し離れた欄干に、いつの間にかカモメが6羽も止まっている。
バサッと音がして上を見上げると、パラソルの上にもカモメが1羽とまったらしく、カモメの大きさそのままにパラソルに影が落ちていた。
いつも遠目で見ているので意識したことはなかったが、こうして実際間近で見ると、体躯はカラスよりもひと回り大きい。
目は黄色く、その鋭い目で私たちのテーブルを見つめる様に恐怖を覚える。
「ア、アマンド様!もしや私たち、狙われているのでは!?」
「・・・レイリア、落ち着こう。俺に任せて」
アマンド様が店内に向かって合図を出すと、間もなくウェイターが来た。
さっきテラス席への移動を請け負ってくれた、あのウェイターだ。
「すまないが、店内に戻りたい。カモメに狙われていて、落ち着いて食事ができそうにない。」
「申し訳ありません!カモメの鳥害でテラスを閉鎖したのが3年前。カモメもそろそろ代替わりしてテラスを狙うこともなくなるのではと思ったのですが・・・奴らを買い被っておりました!」
「・・・」
正直さは好感が持てるが、その懸念を事前に伝えてくれる親切さが欲しかった。
「さっきの席でなくてもいい。店内にまた戻らせてほしい」
「そ、それが、既に席は埋まっていまして・・」
「席はないのか?」
「申し訳ありません!予約外のお客様が先ほどいらして、どうしても今日プロポーズしないと恋人が国へ帰ってしまうと仰って!先ほど無事にプロポーズを成功されたところなのです。」
さっき、店内の客が、窓際の席に顔を向けていたことを思い出す。
あの時プロポーズが成功したのだろう。
狼狽えた様子のウェイターだったが、周囲を見回してから、キリッとした表情でアマンド様に顔を向けた。
「恐れながら、まだカモメは10羽おりません。席が空くまで待つよりも、20羽、30羽集まってくる前に、ここで食事を済ませてしまう方が早いかと。微力ながら、私も誠心誠意、カモメからお二人と料理を守れるように防御に徹しますので」
・・・ウェイターの業務範囲に防御って入ってたっけ?
そういう間にまた1匹、増えたカモメがパラソルに止まった。
「わかった・・・フォークが落ちたので新しいのを頼む。それと」
「はい、トレイを準備いたします」
アマンド様とウェイターは小さく頷きあった。
え?何?何が始まるの?
強い不安が胸を占める。
「レイリア、俺が奴らの攻撃を防ぐから、レイリアは食べることに集中してくれ」
バササッ!
ガンっ!
「今だ!レイリア!」
執拗にテーブルを狙うカモメを、手にした丸トレイで防ぎながら、アマンド様が私にスプーンを差し出す。
私は大きな四角のトレイを両手で頭に掲げながら、必死にスプーンを頬張った。
「よし、これでリゾットは食べ切ったな」
アマンド様が丸トレイを構える手の反対側は、こちらも丸トレイを盾に構えるウェイターが立っている。
「今まだ15羽ほどですね。やはり以前に比べて集まってくる反応が遅い…まだ行けます、お客様」
冷静に分析するウェイター。
「レイリアは食べ終えたからひとまず店内で待っててもらってもいいぞ。テーブル席じゃなくても、座るだけなら1席分どこかしらあるだろう」
私はもぐもぐしながら、テーブルの上を見つめた。
カモメが横取りできないように、アマンド様の注文したお皿は、ひとまず金属製のクローシュで覆ってもらっている。
私は食べ終えたが、アマンド様はまだこれからだ。
カモメの襲撃が、怖くないと言ったら嘘になる。
だが、自分が食べ終えたからと言って、1人安全地帯に逃げるのは人としてどうなのか。
「いいえ、アマンド様が無事に食べ終えるまで、私もこの戦いに加わります」
「いいのか?」
「はい…!」
バサッバサッ!
カカッ!カンッ!
ヒイィ!こわっ!怖い!
欄干にはズラッとカモメが並んでいる。
もう20羽どころでは無い。
店の屋根にも10羽は止まっている。
カモメが多くなるにつれて、連携プレーを仕掛けてくるようになり、それまでの体制では防ぎきれなくなってきた。
最終的に、私はアマンド様に隣り合って座ることになった。
2人の頭上には先ほどの四角いトレイが掲げられ、相合傘ならぬ相合トレイ状態だ。
片手に四角トレイ、もう一方の手に丸トレイを持ち、両手が塞がったアマンド様に代わり、私がフォークで口へ食べ物を運ぶ。
「ん、レイリア、飲み物を飲みたい。」
「ハイっ!」
「お客様!3時の方向から1羽来ます!」
バササッ!
カンッ!
両手に丸トレイを持ち、屋根の上から勢いをつけて滑空してくるカモメを防いでいるウェイターとの阿吽の呼吸で、的確にカモメを防ぐ。
そうして、ようやくランチを終えた。
「アマンド ガーナー様でしたか!あの身のこなしに反応速度、流石でございます!」
「いや、君もいい動きをしていた。何かやっていたのか?」
「実は騎士の道を志していた時期がありまして。怪我をして諦めましたが…」
「なるほど。どこの流派だったんだ?」
アマンド様とウェイターがお互いの健闘を讃え合い、意気投合している。
遅れてきた満腹感でお腹が苦しい。
今日は適量だったはずなのに。
凄い勢いでリゾットを掻っ込んだせいだ。
例によって、途中からミッションどころではなかった。
でも、レストランを後にする間際に、プロポーズを成功させたカップルからものすごい感謝されたので、今回はそれで良かったことにする。
************************************
作者より
年度末、年度始めとバタバタしており、今後も更新が滞りがちになるかもしれませんが、書く気はあります!ので、恐れ入りますがご容赦くださいm(_ _)m
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