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夏
形勢逆転
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アマンド様に詰め寄られ、私はピンチを迎えている。
アマンド様とメイベルの秘密を守りながら婚約解消するつもりだったのに、思わず口が滑ってしまった。
「レイリア?どういう意味かと聞いている」
スッと目を眇めたアマンド様のこの感じ。
覚えがありすぎる。
アマンド様が、尋問モードに入ってしまわれた。
私が騎士団を訪れた際、追求してきた時のアマンド様がちょうどこんな感じだった。
まずい。
非常にまずい。
これは、彼を納得させられる理由を言わないと解放してもらえないパターンだ。
かと言って、メイベルとのことを知っているなんて、ばらすわけにもいかない。
「なぜ、俺が君と一緒にいない方がいいんだ?」
どうしよう…どうすれば…!
こないだは正直に理由を言って切り抜けたけれど、ここで正直に話したところで、今までの苦労が水の泡だ。
そう、騎士団の時のようにはいかな・・
ん?
私の中で、閃くものがあった。
「レイリア、答えて?」
私は距離をさらに詰めてきたアマンド様を見上げた。
「なぜって、グルト様が仰っていたではありませんか。私が・・・アマンド様の弱点になっていると」
パチパチ、と瞬きをして、アマンド様が「え?」と呟く。
「弱点?」
「この間・・私が騎士団に行った時です」
いつかグルト様に詳細を伺おうと思っていたのだ。
アマンド様に聞くつもりはなかったが、こうなったらここで聞いてしまえ。
気持ちを立て直した私がまっすぐ見つめると、今度はアマンド様が狼狽える番だった。
「いや、それは・・・それはグルトの思い込みだ。君が俺の弱点なんて」
よし・・。
明らかに流れが変わった。
形勢逆転だ。
「私がアマンド様に何かご迷惑をおかけしているのであればハッキリ仰ってください。それか、もしや我が家の誰かが何かご迷惑を・・」
「違う、そういうことじゃない。本当にグルトの思い違いなんだ。」
「ですがグルト様は、私がアマンド様の弱点になっている、と。だからアマンド様は私の存在を皆様から隠していると仰っていました」
珍しく、アマンド様の目が泳いでいる。
もうひと押しだ。
「確かに騎士団に伺った時、騎士様たちは私が実在していることに驚かれているようでしたわ」
そうよ、幻獣扱いされたもの。
「私のことを、隠しておいでだったのでしょう?」
「そう」とも「違う」とも言わず、アマンド様が呻いた。
やはりグルト様の思い違いなどではない。
本当に、私の存在を意図的に隠していたのだ。
ツキン、と胸が痛む。
「私、アマンド様の足手まといにはなりたくありませんの。ですから、2人揃っては公の場に出ない方が良いのではないですか、と申しました。」
先ほどのアマンド様の問いに対する理由としては完璧だ。
言っていて虚しくなるが、この場を切り抜けるためなら、そんなことはどうだっていい。
理由のすり替えに成功し、胸の中に安堵が広がる。
アマンド様は黙ったままだ。
よし。
この話はこれでおしまいだ。
ここで理由を追求して、万が一、アマンド様がメイベルとの事を告白してしまったら、それはそれで厄介な事になる。
私は努めて明るい声を出した。
「つまらないことを申しました。アマンド様にもきっとお考えがお有りでしょうし、私は気にしておりません。せっかくのお出かけですし、他のお話を」
ギュッ
強めに手を握りこまれる。
私は言葉を止めて、彼を見た。
「本当に、違うんだ…」
アマンド様は私の手に視線を落としたままだ。
「・・君が俺の弱点だというのは、ただの言葉のあやだ。短所が長所でもあるように、ひとつのものでも、見る方向によって、色々な見方ができるだろう?」
手の力を緩めて、彼の親指が、私の薬指の根元をそっと撫でる。
「グルトは弱点と見たようだが、そうじゃない。君は・・いつだって俺の強みだ。」
縋るような目を向けられて、心臓が跳ねた。
「騎士団で、レイリアのことを隠すまでしたつもりはないが・・確かに、はぐらかしたり、そういう話題は避けていたから、そう思われても仕方なかったのかもしれない。」
いつもの彼に比べて、随分歯切れが悪い。
「理由は君にあるんじゃないんだ。俺の中だけに留めておきたくて。・・その、レイリアが狙われないようにしたくて・・それで」
「私が?」
狙われる?誰に?
アマンド様は気まずげに視線を伏せた。
・・・ハッ!もしかして!
「す、すみません!もしやお仕事のお話でしたか!?」
「え?」
アマンド様は騎士だ。
捕まえた犯罪者から、逆恨みされることもあるだろう。
逆に悪事に加担させようと、弱みを握ろうとする悪人もいるかもしれない。
そういう時に狙われるのは、大体がその人の身内の女子供だ。
そうなる可能性を考えて、婚約者である私の情報を伏せてくれていたのでは?
ストンと腑に落ちる。
だから、私が騎士団に行った時に怒られたのか。
せっかく私の情報を伏せていたのに、ノコノコと私が現れてしまったから。
グルト様が私のことを弱点と言った意味もこれで繋がる。
人質にとられたら、戦いにくくなる。
確かに、弱点になり得る。
「アマンド様を陥れようとするような悪い人に、知られないようにするため、ですね?」
「ん?」
「すみませんでした。確かに、いつどこで狙われるかなんてわからないですものね。敵を欺くにはまず味方からと申しますし。私、騎士様の婚約者としての自覚が足りませんでしたわ。」
キョトンとするアマンド様が目に入る。
あれ?もしかして違った?
「あの、アマンド様?私が人質になったりしないように、情報を伏せてくださっていた、ということですよね?」
一拍置いて、アマンド様が大仰に頷いた。
「レイリア、全くもってその通りだ」
アマンド様とメイベルの秘密を守りながら婚約解消するつもりだったのに、思わず口が滑ってしまった。
「レイリア?どういう意味かと聞いている」
スッと目を眇めたアマンド様のこの感じ。
覚えがありすぎる。
アマンド様が、尋問モードに入ってしまわれた。
私が騎士団を訪れた際、追求してきた時のアマンド様がちょうどこんな感じだった。
まずい。
非常にまずい。
これは、彼を納得させられる理由を言わないと解放してもらえないパターンだ。
かと言って、メイベルとのことを知っているなんて、ばらすわけにもいかない。
「なぜ、俺が君と一緒にいない方がいいんだ?」
どうしよう…どうすれば…!
こないだは正直に理由を言って切り抜けたけれど、ここで正直に話したところで、今までの苦労が水の泡だ。
そう、騎士団の時のようにはいかな・・
ん?
私の中で、閃くものがあった。
「レイリア、答えて?」
私は距離をさらに詰めてきたアマンド様を見上げた。
「なぜって、グルト様が仰っていたではありませんか。私が・・・アマンド様の弱点になっていると」
パチパチ、と瞬きをして、アマンド様が「え?」と呟く。
「弱点?」
「この間・・私が騎士団に行った時です」
いつかグルト様に詳細を伺おうと思っていたのだ。
アマンド様に聞くつもりはなかったが、こうなったらここで聞いてしまえ。
気持ちを立て直した私がまっすぐ見つめると、今度はアマンド様が狼狽える番だった。
「いや、それは・・・それはグルトの思い込みだ。君が俺の弱点なんて」
よし・・。
明らかに流れが変わった。
形勢逆転だ。
「私がアマンド様に何かご迷惑をおかけしているのであればハッキリ仰ってください。それか、もしや我が家の誰かが何かご迷惑を・・」
「違う、そういうことじゃない。本当にグルトの思い違いなんだ。」
「ですがグルト様は、私がアマンド様の弱点になっている、と。だからアマンド様は私の存在を皆様から隠していると仰っていました」
珍しく、アマンド様の目が泳いでいる。
もうひと押しだ。
「確かに騎士団に伺った時、騎士様たちは私が実在していることに驚かれているようでしたわ」
そうよ、幻獣扱いされたもの。
「私のことを、隠しておいでだったのでしょう?」
「そう」とも「違う」とも言わず、アマンド様が呻いた。
やはりグルト様の思い違いなどではない。
本当に、私の存在を意図的に隠していたのだ。
ツキン、と胸が痛む。
「私、アマンド様の足手まといにはなりたくありませんの。ですから、2人揃っては公の場に出ない方が良いのではないですか、と申しました。」
先ほどのアマンド様の問いに対する理由としては完璧だ。
言っていて虚しくなるが、この場を切り抜けるためなら、そんなことはどうだっていい。
理由のすり替えに成功し、胸の中に安堵が広がる。
アマンド様は黙ったままだ。
よし。
この話はこれでおしまいだ。
ここで理由を追求して、万が一、アマンド様がメイベルとの事を告白してしまったら、それはそれで厄介な事になる。
私は努めて明るい声を出した。
「つまらないことを申しました。アマンド様にもきっとお考えがお有りでしょうし、私は気にしておりません。せっかくのお出かけですし、他のお話を」
ギュッ
強めに手を握りこまれる。
私は言葉を止めて、彼を見た。
「本当に、違うんだ…」
アマンド様は私の手に視線を落としたままだ。
「・・君が俺の弱点だというのは、ただの言葉のあやだ。短所が長所でもあるように、ひとつのものでも、見る方向によって、色々な見方ができるだろう?」
手の力を緩めて、彼の親指が、私の薬指の根元をそっと撫でる。
「グルトは弱点と見たようだが、そうじゃない。君は・・いつだって俺の強みだ。」
縋るような目を向けられて、心臓が跳ねた。
「騎士団で、レイリアのことを隠すまでしたつもりはないが・・確かに、はぐらかしたり、そういう話題は避けていたから、そう思われても仕方なかったのかもしれない。」
いつもの彼に比べて、随分歯切れが悪い。
「理由は君にあるんじゃないんだ。俺の中だけに留めておきたくて。・・その、レイリアが狙われないようにしたくて・・それで」
「私が?」
狙われる?誰に?
アマンド様は気まずげに視線を伏せた。
・・・ハッ!もしかして!
「す、すみません!もしやお仕事のお話でしたか!?」
「え?」
アマンド様は騎士だ。
捕まえた犯罪者から、逆恨みされることもあるだろう。
逆に悪事に加担させようと、弱みを握ろうとする悪人もいるかもしれない。
そういう時に狙われるのは、大体がその人の身内の女子供だ。
そうなる可能性を考えて、婚約者である私の情報を伏せてくれていたのでは?
ストンと腑に落ちる。
だから、私が騎士団に行った時に怒られたのか。
せっかく私の情報を伏せていたのに、ノコノコと私が現れてしまったから。
グルト様が私のことを弱点と言った意味もこれで繋がる。
人質にとられたら、戦いにくくなる。
確かに、弱点になり得る。
「アマンド様を陥れようとするような悪い人に、知られないようにするため、ですね?」
「ん?」
「すみませんでした。確かに、いつどこで狙われるかなんてわからないですものね。敵を欺くにはまず味方からと申しますし。私、騎士様の婚約者としての自覚が足りませんでしたわ。」
キョトンとするアマンド様が目に入る。
あれ?もしかして違った?
「あの、アマンド様?私が人質になったりしないように、情報を伏せてくださっていた、ということですよね?」
一拍置いて、アマンド様が大仰に頷いた。
「レイリア、全くもってその通りだ」
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