大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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初めて2人で出席します。

こんな日に限って、晴天の日曜日。

先日メイベルに釘を刺されて、あの時はそれなりにショックだったが、私はようやく冷静になれた。

浮ついた気持ちに翻弄される私を見て、メイベルも思うところがあったのだろう。

これまでのメイベルが私に対して誠実だったとは思わないが、だからと言って、私まで不誠実になってはいけないのだ。




日曜日は安息日のはずなのに、なぜか最近は1番疲れる曜日になっている

今日は朝起きてからずっとお茶会に向けて支度をしている。

頼んでいたドレスも無事間に合った。

ビスチェ部分は白、袖も含めて白のレースを巡らせており、ドレススカートは薄いライトブルー。

チュールを幾重にも重ねて、控えめなパニエでもふんわりと見え、大勢の招待客の中で挨拶するのに動きやすいように作ってもらった。

裾から上に向かって花の刺繍がされていて、シンプルではあるが華がある。

夜会ではないので、上品さを重視して、あまり肌を見せすぎないように注意した。

「今日はハーフアップにしましょう。太めの三つ編みを後頭部の下の方でカチューシャみたいに巻き付けて、少しトップにボリュームをもたせると素敵ですよ」

テキパキと髪を巻いて仕上げてくれる鏡の中のキーラの仕事ぶりを目で追いながら、私は落ち着きなく手もとの小箱を開けたり閉じたりする。

小箱の中身は、婚約式でもらったイエローダイヤだ。

婚約指輪を作るから一旦返してくれと言われたけれど、婚約解消まで絶対に返すつもりはない。

そのつもりだけれど、破れかぶれに結婚を目指すアマンド様のことだから、渡すまで粘り強く迫ってくるだろう。

これまで何度か挑んだものの、計画が全て失敗に終わっている私のことだ。

アマンド様の猛攻にあえば、きっと耐えきれずに渡してしまう自信がある。

やはり、こうするしかない。

決意したところで、キーラの仕事も終わったようだ。

「お嬢様、最高の出来栄えです!やっぱりお嬢様はオレンジ系のリップやチークが似合うと思ったんです!」

キーラが胸を張る。

鏡の中の自分を点検する。

アクアマリンで揃えたアクセサリーがキラキラと輝く。

履きなれないハイヒールパンプスも、足首のところにストラップがあるので安定し、歩き方に不自然さはなさそうだ。

「変じゃない?上品に見える?大丈夫かしら・・?」

なんせ今日は、会ったこともないような高位の貴族ばかりが集まるのだ。

ほとんど社交の場に出てこなかった私には難易度が高すぎる。

それに、やはり急ぎで作ってもらっただけあって、ドレスがシンプル過ぎる気がする。

オフショルダーのところにも花の飾りをつけてもらった方が良かったんじゃないかしら。

アマンド様も一緒に行くのに…

不安を隠せない私に、キーラが微笑んだ。

「自信をお持ちになってください、お嬢様。本当にお綺麗です。私だけじゃなくて、最近急にお嬢様が綺麗になったって屋敷の者も騒めいているんですよ?」

「それはキーラのおかげで・・」

「いーえ。私のおかげではなく、他の誰か様のおかげですね。さ、その誰か様がいらっしゃるまでまだ1時間ほどありますし、何か召上るものを準備しますね」

「…わかったわ、キーラ。そしたら、セバスチャンを呼んでくれるかしら?」





強い日差し。

もうすっかり夏の暑さだ。

迎えに来たアマンド様も、腕をまくっている。

今日の彼は白いシャツにホワイトベージュの麻のレイヤードを重ねていた。

スラックスは深いネイビーで、爽やかな雰囲気だ。

着崩しているのに、なんでこんなに格好良いんだろう。

彼は馬車を降りて目を見開くと、そのまま足早にやってきた。

「レイリア…よく、似合っている。」

目を細めてそう言う彼に、顔が熱くなる。

本当に?

本当に、大丈夫?

不安で、居ても立っても居られない。

「アマンド様、本当ですか?私、おかしくありませんか?これで侯爵家のお茶会に行って、本当に大丈夫でしょうか?」

アマンド様に両手を取られて、そこで初めて彼を見上げた。

髪型がいつもと違うことに、今更気づく。

「指先が冷たいな…緊張してるの?」

そう言われて、素直に頷く。

「私、1人で行くなんて大口を叩いていたのに、不安で…」

マルグリット侯爵家のお茶会なら、きっと騎士団の上層部の人も来るだろう。

初めて彼の婚約者として社交をするのに、失敗してしまったらどうしよう。

本音を言えば、行きたくない、そのひと言に尽きる。

「お世辞ではなくて、私の姿を見ての本当の本音が聴きたいんですの。社交の場は貴族の戦場と言いますし、先に指摘してもらった方が、対策も立てられますから…!」

こないだのお出かけでは、貴族の高等技術『誉め殺し』を披露してきたアマンド様だ。

きっと今の私を見て、腹の中に一物や二物は抱えているだろう。

「本音を言って欲しいの?」

覚悟を決めてコクコク頷く。

ジュディ様の無茶振りを恐れていたが、ここまで来たなら、今日は彼の婚約者として、その役目をしっかり果たさねばならない。

そのためには、貴族の戦場に向かう前に、心の装備も万全にしておかねば。

どんな酷いことを言われても、私は真摯に受け止める。

「そうか…本音か…」

流石に、私に関するネガティブな感想を、うちの侍従たちに聞かれたくないのだろう。

アマンド様は私の両肩に手を置くと身を屈め、私の耳元で、声を密める。

「・・・本当は茶会なんて行かずに、このままレイリアを攫って、俺の部屋に連れ帰りたい。」

低音で囁かれ、頭の奥がジンッと痺れる。

「そこでずっと過ごすんだ、2人きりで…」

頬に柔らかい感触が当たり、チュッという音と共に離れた。

気づいた時には、彼は私と向き直っていた。

「どうする?茶会はやめて、このまま俺の家に」

「お茶会に!お茶会に参ります!」

頬を押さえながら、涙目で私は叫んだ。

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