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夏
ジュディ様はご立腹。
「初めまして、婚約者のレイリア ディセンシアです。」
「まぁー!お綺麗な婚約者様ですこと!」
今日はずっと同じ言葉を繰り返している。
笑顔をし過ぎて表情筋が疲れてきた。
マルグリット家ご当主の挨拶で始まったお茶会は、早々に別会場での挨拶合戦に移行した。
藤棚から少し離れた場所に白い大きなテントが張ってあり、そこにも高級食材を多用した軽食やスイーツが並んでいる。
危惧していたような意地悪な人はいなかったが、やはりアマンド様は老若男女から大人気で、次々と高位貴族に声をかけられる。
ようやく挨拶の波が途絶えてきたところで侍従さんに呼びだされ、私はアマンド様と一旦別れた。
「あなたの仕業ね?」
不機嫌そうに私を睨むジュディさまは、今日も今日とて完璧な美少女ぶりを発揮している。
フリルが多用された藤色のドレス。
パフスリーブから伸びる腕は細く長くしなやかで。
ハーフアップした髪には藤の生花が飾られている。
コンセプトはズバリ、藤の花の妖精だろう。
「何のことでしょう?」
「あの子たちに、変なことを吹き込んだでしょう」
デビュタント前の子女の茶席として別に設けられたこの卓には、先ほど休憩室で沈痛な表情をしていた少女たちも座っていて、今では皆笑顔でおしゃべりに花を咲かせている。
さすが高位貴族のご令嬢たちだ。
この年ですでに気品がある。
「変なことなんて・・私はジュディ様の魅力をお伝えしただけです」
「何て言ったのかをおっしゃい」
「的確なアドバイスをくれて、とても頼りになる人だと・・相談事があるなら迷わずジュディ様を頼るべきだと伝えました」
「やっぱり!変だと思ったのよ!」
「何かありましたか?」
「茶会が始まった途端に、端から順番に悩みを打ち明け出したのよ!将来の不安とか、親との確執とか!」
あのご令嬢達は、私のアドバイスを活かしてくれたらしい。
「無い悩みを無理に捻り出そうとして、苦手な食べ物の克服法なんて聞いてくる子もいたんだから!」
プリプリと怒っているご様子のジュディ様だが、きっと全ての悩み事にアドバイスしてあげたんだろう。
でなければ、こんなに皆、晴れ晴れとした顔でおしゃべりを楽しんでいる訳がない。
「この子女向けの茶会はさっさとお開きにして、私はあなたと婚約者にちょっかいをかけに行きたかったのに!」
「ほんとやめてください」
危ないところだった。
「でもジュディ様、私、お邪魔じゃ無いですか?まだ悩みを聞いて欲しい人が居たりは…」
「そんなのいちいち付き合ってられないから、似た悩みを持つもの同士で分かれて話をする時間にしたのよ。それでようやく手が離れたってわけ。」
因みに、あそこが親との関係に悩んでるグループ、あそこは将来への不安のあるグループ、あっちは恋愛とかコンプレックスとかその他のことで悩んでる雑多なグループ、とジュディ様から説明を受ける。
その雑多なグループから立ち上がった1人のご令嬢が、紙を胸に抱いて近寄ってきた。
「ジュディ様!今いいでしょうか?あの、描けました!これがさっき言っていた、近々飼う予定のケトルピーラットのイラストです!・・どんな名前がいいでしょうか?」
ジュディ様は令嬢に気づかれない様にもう1度私を睨みつけると、にこやかに差し出された紙を手に取った。
ご令嬢達には丁寧に対応することにしているらしく、ジュディ様はニコニコ笑顔で完璧な外面を披露した。
「まあ、全身黄色ですのね。オムレツの様ですわ」
「・・・オムレツ!た、確かに!なんて斬新な!ありがとうございますジュディ様!私、あの子をオムレツと名付けますわ!」
令嬢が感激した様子で戻っていく。
半目のジュディ様が、後ろに控える侍従を振り返った。
「今のもちゃんとポイントとして加算してるでしょうね?」
侍従さんが顎に手を添えて考えている。
「どうでしょうか。今のはアドバイスとは言えないのではないかと…」
「名付けのヒントになったじゃない。結果を出したんだから有効よ」
「まあ、ゲルトさんからは今日は甘めに付けていいと言われてはおりますが…」
「じゃあ加算で決まりね!腹いせに、今日はポイントの荒稼ぎしてやるんだから!」
私は恐る恐る質問する。
「その、気になっていたんですが、ポイントって何ですか?」
「ポイントを貯めれば、私の欲しいものがもらえるの」
「欲しいもの・・?」
こんなにお金持ちなのに?
キョトンとする私に、ジュディ様がフン、と鼻を鳴らす。
「そんなに気になるんだったら、今度連れて行ってあげてもいいわよ?」
「気にはなりますけど。え?どこにですか?」
「教えない。いいわ、今日の罪滅ぼしに、今度付き合いなさい!」
ええ~。
「それにしてもあなたの婚約者、大人気ね。」
相変わらずアマンド様の周りには人集りができている。
10代半ばくらいの青年が、熱心にアマンド様に話しかけている。
ふと、アマンド様がこちらに気づいて小さく手を振った。
私も、軽く手を挙げて応える。
「あれで、他に本命がいる、ねぇ。」
訝しむようなジュディ様のその言葉に、慌てて会話を繋げる。
「それを言うなら、ジュディ様のお兄様の方が凄いことになっています!」
ディフィート様が登場した際の黄色い歓声を思い出す。
あそこだけ、令嬢の密集率が高い。
ディフィート様用に設けたと思われるお茶席の卓に入りきれない令嬢用に、周囲に椅子が増やされている。
マルグリット侯爵夫人も忙しそうだ。
「着席スタイルにして正解だったわね。今日は2人しか倒れてないわ」
わぁ、本当に倒れる人いるんだ…
アマンド様に視線を戻すと、今度は数名の令嬢に囲まれている。
令嬢の1人が腕を絡めるのを見て、私は立ち上がった。
「あの、私そろそろ戻ります。」
「あら、そんな急がなくてもいいじゃない」
「いえ、ジュディ様もお忙しいでしょうし、私はこれで」
ペコリ、と軽く会釈して、少し離れた白いテントを目指す。
「あれで、婚約解消したい、ねぇ」
ジュディ様の呆れたような声は、先を急ぐ私の耳に届くことはなかった。
「まぁー!お綺麗な婚約者様ですこと!」
今日はずっと同じ言葉を繰り返している。
笑顔をし過ぎて表情筋が疲れてきた。
マルグリット家ご当主の挨拶で始まったお茶会は、早々に別会場での挨拶合戦に移行した。
藤棚から少し離れた場所に白い大きなテントが張ってあり、そこにも高級食材を多用した軽食やスイーツが並んでいる。
危惧していたような意地悪な人はいなかったが、やはりアマンド様は老若男女から大人気で、次々と高位貴族に声をかけられる。
ようやく挨拶の波が途絶えてきたところで侍従さんに呼びだされ、私はアマンド様と一旦別れた。
「あなたの仕業ね?」
不機嫌そうに私を睨むジュディさまは、今日も今日とて完璧な美少女ぶりを発揮している。
フリルが多用された藤色のドレス。
パフスリーブから伸びる腕は細く長くしなやかで。
ハーフアップした髪には藤の生花が飾られている。
コンセプトはズバリ、藤の花の妖精だろう。
「何のことでしょう?」
「あの子たちに、変なことを吹き込んだでしょう」
デビュタント前の子女の茶席として別に設けられたこの卓には、先ほど休憩室で沈痛な表情をしていた少女たちも座っていて、今では皆笑顔でおしゃべりに花を咲かせている。
さすが高位貴族のご令嬢たちだ。
この年ですでに気品がある。
「変なことなんて・・私はジュディ様の魅力をお伝えしただけです」
「何て言ったのかをおっしゃい」
「的確なアドバイスをくれて、とても頼りになる人だと・・相談事があるなら迷わずジュディ様を頼るべきだと伝えました」
「やっぱり!変だと思ったのよ!」
「何かありましたか?」
「茶会が始まった途端に、端から順番に悩みを打ち明け出したのよ!将来の不安とか、親との確執とか!」
あのご令嬢達は、私のアドバイスを活かしてくれたらしい。
「無い悩みを無理に捻り出そうとして、苦手な食べ物の克服法なんて聞いてくる子もいたんだから!」
プリプリと怒っているご様子のジュディ様だが、きっと全ての悩み事にアドバイスしてあげたんだろう。
でなければ、こんなに皆、晴れ晴れとした顔でおしゃべりを楽しんでいる訳がない。
「この子女向けの茶会はさっさとお開きにして、私はあなたと婚約者にちょっかいをかけに行きたかったのに!」
「ほんとやめてください」
危ないところだった。
「でもジュディ様、私、お邪魔じゃ無いですか?まだ悩みを聞いて欲しい人が居たりは…」
「そんなのいちいち付き合ってられないから、似た悩みを持つもの同士で分かれて話をする時間にしたのよ。それでようやく手が離れたってわけ。」
因みに、あそこが親との関係に悩んでるグループ、あそこは将来への不安のあるグループ、あっちは恋愛とかコンプレックスとかその他のことで悩んでる雑多なグループ、とジュディ様から説明を受ける。
その雑多なグループから立ち上がった1人のご令嬢が、紙を胸に抱いて近寄ってきた。
「ジュディ様!今いいでしょうか?あの、描けました!これがさっき言っていた、近々飼う予定のケトルピーラットのイラストです!・・どんな名前がいいでしょうか?」
ジュディ様は令嬢に気づかれない様にもう1度私を睨みつけると、にこやかに差し出された紙を手に取った。
ご令嬢達には丁寧に対応することにしているらしく、ジュディ様はニコニコ笑顔で完璧な外面を披露した。
「まあ、全身黄色ですのね。オムレツの様ですわ」
「・・・オムレツ!た、確かに!なんて斬新な!ありがとうございますジュディ様!私、あの子をオムレツと名付けますわ!」
令嬢が感激した様子で戻っていく。
半目のジュディ様が、後ろに控える侍従を振り返った。
「今のもちゃんとポイントとして加算してるでしょうね?」
侍従さんが顎に手を添えて考えている。
「どうでしょうか。今のはアドバイスとは言えないのではないかと…」
「名付けのヒントになったじゃない。結果を出したんだから有効よ」
「まあ、ゲルトさんからは今日は甘めに付けていいと言われてはおりますが…」
「じゃあ加算で決まりね!腹いせに、今日はポイントの荒稼ぎしてやるんだから!」
私は恐る恐る質問する。
「その、気になっていたんですが、ポイントって何ですか?」
「ポイントを貯めれば、私の欲しいものがもらえるの」
「欲しいもの・・?」
こんなにお金持ちなのに?
キョトンとする私に、ジュディ様がフン、と鼻を鳴らす。
「そんなに気になるんだったら、今度連れて行ってあげてもいいわよ?」
「気にはなりますけど。え?どこにですか?」
「教えない。いいわ、今日の罪滅ぼしに、今度付き合いなさい!」
ええ~。
「それにしてもあなたの婚約者、大人気ね。」
相変わらずアマンド様の周りには人集りができている。
10代半ばくらいの青年が、熱心にアマンド様に話しかけている。
ふと、アマンド様がこちらに気づいて小さく手を振った。
私も、軽く手を挙げて応える。
「あれで、他に本命がいる、ねぇ。」
訝しむようなジュディ様のその言葉に、慌てて会話を繋げる。
「それを言うなら、ジュディ様のお兄様の方が凄いことになっています!」
ディフィート様が登場した際の黄色い歓声を思い出す。
あそこだけ、令嬢の密集率が高い。
ディフィート様用に設けたと思われるお茶席の卓に入りきれない令嬢用に、周囲に椅子が増やされている。
マルグリット侯爵夫人も忙しそうだ。
「着席スタイルにして正解だったわね。今日は2人しか倒れてないわ」
わぁ、本当に倒れる人いるんだ…
アマンド様に視線を戻すと、今度は数名の令嬢に囲まれている。
令嬢の1人が腕を絡めるのを見て、私は立ち上がった。
「あの、私そろそろ戻ります。」
「あら、そんな急がなくてもいいじゃない」
「いえ、ジュディ様もお忙しいでしょうし、私はこれで」
ペコリ、と軽く会釈して、少し離れた白いテントを目指す。
「あれで、婚約解消したい、ねぇ」
ジュディ様の呆れたような声は、先を急ぐ私の耳に届くことはなかった。
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