大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

文字の大きさ
54 / 165

不審者かもしれません

しおりを挟む
ジュディ様のお茶席から、白いテントの会場まで戻る小径の途中、聖ジルチアの彫像を通り過ぎるところで、声がかかった。

「やあ、君がレイリアさんだね」

彫像の影からゆっくりと現れたのは、黒髪黒目の青年だった。

年の頃は私と同じ位にも見えるし、落ち着いた雰囲気から20歳をすでに越えているようにも見える。

白い肌は陶器のようで、作り物のような印象を受ける。

「あの・・」

初対面、だと思うのだけれど、相手が私を認識しているらしいので言葉が続かない。

「ああ、合ってるよ。私と君は初対面だ。」

「・・あの、どちら様でしょう?」

出来れば早く向こうに行きたいんですが…

「私は、ジュディと縁の深い者だよ。」

オリーブグリーンのスーツは上質で、高位貴族であることは間違い無い。

「・・・ご親戚の方ですか?」

私の質問に答えずに微笑む。

怪しい・・・

「警戒しないでおくれ。本当は私はここに来てはいけないことになっているんだよ。だから名も明かせない。でも、そうだな…」

チラッと彫像を見る

「ルチア、とでも呼んでくれ。」

今しがた作った偽名で自己紹介されても困る。

「ジュディに友人ができたと聞いて、一度、君と話してみたかったんだ。」

「ジュディ様ならあちらですが…」

「行きたいのは山々なんだけどね。ジュディには嫌われてるんだ・・・今日は久々に公式な茶会を設けるとディフィートから聞いて、少し様子を見に来たんだ」

「ディフィート様とお知り合いなんですか?」

「そうだよ。ちょっとは信用してくれたかな?」

「・・・」

知り合い、といっても自称だし。

「君のおかげで、ジュディは令嬢たちとも親交を深められたし、悪い噂も払拭できそうだ。」

なぜ作り物みたいだと思ったのか、わかった。

この人、感情が読めないんだ。

「ジュディからあんなに心許されていて、羨ましい限りだよ。少し嫉妬してしまうな」

言葉ではそう言っているけれど、感情は乗っていないように聞こえる。

「そうだ、私とも友達になってくれない?」

穏やかな表情ではある。

が、なんとなく、気を許せない。

「いえ、ちょっとそれは…」

芝を踏む音がして顔を向けると、アマンド様がこちらに向かって来るところだった。

「ああ、ガーナー伯爵令息か」

アマンド様が私の前に立ちはだかる。

「・・・どなた様ですか」

「初めまして、ルチアだ」

堂々と嘘をつくルチア(仮)を無視して、アマンド様はチラリと私をみた。

「知り合いか?」

「いえ。」

アマンド様が警戒している。
 
「アマンド様、やはりこの人、不審者ですか?」

ヒソヒソと話したのに、ルチア(仮)には聞こえたようだ。

「ひどいなぁ。父上が聞いたら嘆き悲しむよ」

「レイリアに何か御用ですか」

「おしゃべりしていたんだ。ね?」

そう言って、凪いだ瞳を私に向ける。

「2人とも、私の友達になってくれたら嬉しいんだけどね。」

「身元の不確かな人はちょっと…」

「まあ、そうなるか。じゃあ…私がちゃんと名乗ったら、その時は友達になっておくれね。約束だよ」

「そろそろお時間です。」

彫像の影から、ふいに男の声がかかる。

もう1人居たのか…

「それじゃ、私はもう行くよ。話せて楽しかった。きっとまた会うだろうから、よろしくね、2人とも」

そう言って、ルチア(仮)は私たちと反対方向に歩いて行った。







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた

今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。 二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。 ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。 その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。 が、彼女の前に再びアレクが現れる。 どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…

『めでたしめでたし』の、その後で

ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。 手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。 まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。 しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。 ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。 そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。 しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。 継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。 それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。 シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。 そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。 彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。 彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。 2人の間の障害はそればかりではなかった。 なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。 彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。

[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜

h.h
恋愛
王子グレンの婚約者候補であったはずのルーラ。互いに想いあう二人だったが、政略結婚によりグレンは隣国の王女と結婚することになる。そしてルーラもまた別の人と婚約することに……。「将来僕のお嫁さんになって」そんな約束を記憶の奥にしまいこんで、二人は国のために自らの心を犠牲にしようとしていた。ある日、隣国の王女に関する重大な秘密を知ってしまったルーラは、一人真実を解明するために動き出す。「国のためと言いながら、本当はグレン様を取られたくなだけなのかもしれないの」「国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ」 二人は再び手を取り合うことができるのか……。 全23話で完結(すでに完結済みで投稿しています)

元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。

有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。 けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。 ​絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。 「君は決して平凡なんかじゃない」 誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。 ​政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。 玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。 「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」 ――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

「ばっかじゃないの」とつぶやいた

吉田ルネ
恋愛
少々貞操観念のバグったイケメン夫がやらかした

処理中です...