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それぞれの夏

これを機に夢を叶えようと思う。

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夏編の『来てはいけない場所に来てしまったのかもしれません』『恋はするものではなく落ちるもの』のアマンドサイドです。
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プラージュでのランチの後、再び馬車に乗る。

「この後はどこに参りますの?」

「実は既に予約しているところがあって…そこでもいいか?」

俺には、いつか叶えたい夢があった。

子供の頃、街で見かけたケトルピーラットとレイリアがリンクしたその時から、俺の中でケトルピーラットは特別な存在だ。

いつか、レイリアとケトルピーラットを共演させたい。

今度の日曜は、その夢を叶える絶好のチャンスだ。

問題は、どのようにケトルピーラットを調達するか。

相手は生き物だ。

購入するのは容易いが、たかが俺の夢のために買うなど許されない。

かといって、元々ペットなどとは無縁の生活を送ってきた俺だ。

誰かが飼っているケトルピーラットを借りて、万が一何かあったら申し訳が立たない。

さてどうしたものかと考えていた俺は、勤務で街を見回っている際にある看板を見つけた。

「・・・『ケトピカフェ♡プイプイ』?」

店の外には数人並んでいて、人気店らしい。

一緒に見回っていた騎士仲間のゼノが、俺のつぶやきを聞いて説明してくれる。

「お堅いお前は知らないだろ。最近こういう店が流行ってるんだよ。カフェなんだけど、ケトルピーラットがいてよ。ケトルピーラットを見るだけじゃなくて、追加料金払えば自分のところのテーブルで抱っこしたり、撫でたりできるんだ。動物好きの女の子とか大喜びよ。」

俺は思わず空を見上げた。

天啓来たり・・!

「予約は必要か?」

「え・・アマンド、まさかの興味アリ!?」

驚くゼノに詳しく仕組みを聞こうとしたが、それなら今予約してこいと強く勧められた。

店に入り、まっすぐカウンターに向かう。

「いらっしゃいませ。」

「予約をしたいのだが」

「承知致しました。それでは日時ですが・・」

日曜は予約がないと入れないらしく、希望の時間帯は2枠しか残っていなかった。

危ないところだった。ゼノに感謝だ。

「それでは日曜の午後2時からの2時間をお取りしました。ケトルピーラットの予約はいかがされますか?」

「それは予約しないとだめなのか?」

「どの子でもよければ予約は不要ですが、お好きな子がいらっしゃるなら予約をお勧めしております。こちらイラストですが、ご参考までにどうぞ」

渡されたカタログをペラペラめくる。

レイリアとケトルピーラットの共演さえ見られれば、別にどれでも・・と思っていたが、あるケトルピーラットのページで指が止まる。

このオレンジの毛並み・・!

説明書きでは、この店の5番人気らしい。

チャームポイントのところに、『お店一番の食いしん坊!美味しそうに目を細めて食べる姿が最高にキュート!』と書いてある。

「ニンジンちゃんで頼む。」

「承知致しました。一緒にセットパックはいかがですか?」

メニュー表に載っているセットパックは全部で5種類あるようだ。

「オススメを教えてくれ」

「そうですね・・用途にもよりますが、オススメはこちらのケトピちゃん大満足セットになります。餌とおもちゃ、ブラシの3点セットで、ケトピを堪能するだけでなく、恋人とイチャイチャできるとカップルから大人気で」

「ケトピちゃん大満足セットを頼む。」

「ご予約ありがとうございます。」

そんな経緯で、今日、とうとうレイリアを『ケトピカフェ♡プイプイ』に連れてくることができた。

レイリアにドリンクの注文を聞いている間も、楽しみすぎてワクワクが止まらない。

待望の瞬間。

「はいお待たせしましたー!ニンジンちゃんです!」

「ニンジンちゃん・・!」

一気にレイリアの頬が上気する。

夢にまで見た、レイリアとケトルピーラット ニンジンちゃんの共演!

くぅ・・!なんって可愛いんだ!!

俺のレイリアケトルピーラットが、ケトルピーラットを愛でている・・!

「アマンド様は、ケトルピーラットが好きなんですか?」

「大好きだ」

大好きに決まってるだろう、レイリアケトルピーラットだぞ?

ちょっと俺の情緒が混乱しているのは自覚している。

冷静になれ、俺。

「かわいいっ!アマンド様、見てください!」

大はしゃぎで喜ぶレイリア。

セットについていたおもちゃやブラシは、2人が協力して行うものが多い。

例えばブラッシングでは、俺がニンジンちゃんを両手にのせて、レイリアがブラッシングするので自然と距離が近づく。

あの時、大満足セットを予約した自分を褒めてやりたい。

あっという間に2時間が経過し、名残惜しいものの会計へ向かう。

「こちらお釣りでございます。お客様、会員カードはいかがされますか?」

「会員カード?」

「はい。ご利用に応じたポイントをお付けして、ポイント数によって会員限定のサービスがお受けになれます。また、隔月でお好きなケトルピーラットの飼育記録をお送りしております。」

「作ろう。」

レイリアとの話題作りに最適だ。

「ありがとうございます。飼育記録はどのケトピちゃんにいたしますか?」

「ニンジンちゃんで。」

「かしこまりました」

カフェを去ろうとして物販コーナーが目に入る。

そこには色とりどりのケトルピーラットのぬいぐるみ。

思わず、レイリアに似た色のぬいぐるみを探してしまう。

自分が持つわけにはいかないが、レイリアには今日の思い出に持っていてほしい。

俺は大満足でその店を後にしたのだった。
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