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御前試合
招待状
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カインに約束した通り、父にはその日のうちに王都に残ることを伝えた。
「こっちにいる間、何か予定はあるのかい?」
「いいえ、特にはありません。」
「御前試合を観に行くことにしたのでは?」
「・・いいえ」
父が気遣うような視線を向ける。
「レイリア。きっとお前とアマンド君の間には、何か誤解があると思うよ。お前は観に行きたくないの?」
去年も来るなと言われて、今年も、と言われて、誤解も何も無い。
「私が行くことは望まれていないし・・行く理由が無いもの。」
「相手がどう思ってるか、じゃなくて、レイリアの気持ちを聞いてるんだよ。相手に合わせることばかり優先して、自分の気持ちを置いてけぼりにしていないかい?」
だって、アマンド様は私が行くと迷惑だろうし、集中の邪魔になるかもしれないし・・
俯いたままの私に父は困ったように微笑んだ。
「レイリアは少し、自分の気持ちを大切にすることを覚えないといけないね。」
食堂で、家族と夕食を囲む。
最近は食欲が落ちていたが、今日は珍しくお腹が減っていた。
王都に残ることを許されたカインは、昼間しょげていたのが嘘みたいに、モリモリ食べ進めている。
インゲン豆のポタージュに引き続き、ホタテのカルパッチョに取り掛かろうとしていると、母が口を開いた。
「レイリア」
「はい?」
「あなた、おばあさまの家に行くのは取りやめたって本当?旦那様から聞いたわ」
「ええ」
「そう!」
満面の笑みを浮かべた母が、テーブルの上を滑らせ差し出してくるものが何か、さすがにもうわかる。
封蝋の紋様を確認し、開封済みの手紙を手にとって私はため息をついた。
「お母様、いい加減にしてください」
「レイリア、開けてごらんなさい」
「すでに開いているじゃないですか・・」
ワクワクした様子の母に促され、便箋に目を通す。
挨拶も何もなく、数行のみの簡素な文。
『レイリア 御前試合をうちの特別席で見せてあげるわ。これをつけて来なさい。J』
中から、私たちがクラブで作っている刺繍バッジが出てきて驚いた。
まさかこのバッジを、マルグリッド侯爵家も予約してくれていたとは思わなかった。
黒地に赤い龍。
王宮騎士団の応援バッジだ。
「レイリア、侯爵家の観覧席に招かれるって凄いことよ!私も娘時代に御前試合を観に行ったきりだけど、闘技場の一番高いところに、王族の観覧席と同じ並びにあるんですもの!観覧席に限っては正装でご観覧になるから、あの一角だけ、そりゃもう華々しくて!昔から、娘達にとっては憧れの場所なんだから!」
興奮しきりの母が、熱弁する。
「いいわね、レイリア。高位貴族に誘われたんだから、行かないわけにいかないわよ?」
母に言葉を告げられずにいると、父が優しく微笑んでウインクした。
「レイリア、行っておいで。お前が御前試合に行く理由が出来たじゃないか」
「こっちにいる間、何か予定はあるのかい?」
「いいえ、特にはありません。」
「御前試合を観に行くことにしたのでは?」
「・・いいえ」
父が気遣うような視線を向ける。
「レイリア。きっとお前とアマンド君の間には、何か誤解があると思うよ。お前は観に行きたくないの?」
去年も来るなと言われて、今年も、と言われて、誤解も何も無い。
「私が行くことは望まれていないし・・行く理由が無いもの。」
「相手がどう思ってるか、じゃなくて、レイリアの気持ちを聞いてるんだよ。相手に合わせることばかり優先して、自分の気持ちを置いてけぼりにしていないかい?」
だって、アマンド様は私が行くと迷惑だろうし、集中の邪魔になるかもしれないし・・
俯いたままの私に父は困ったように微笑んだ。
「レイリアは少し、自分の気持ちを大切にすることを覚えないといけないね。」
食堂で、家族と夕食を囲む。
最近は食欲が落ちていたが、今日は珍しくお腹が減っていた。
王都に残ることを許されたカインは、昼間しょげていたのが嘘みたいに、モリモリ食べ進めている。
インゲン豆のポタージュに引き続き、ホタテのカルパッチョに取り掛かろうとしていると、母が口を開いた。
「レイリア」
「はい?」
「あなた、おばあさまの家に行くのは取りやめたって本当?旦那様から聞いたわ」
「ええ」
「そう!」
満面の笑みを浮かべた母が、テーブルの上を滑らせ差し出してくるものが何か、さすがにもうわかる。
封蝋の紋様を確認し、開封済みの手紙を手にとって私はため息をついた。
「お母様、いい加減にしてください」
「レイリア、開けてごらんなさい」
「すでに開いているじゃないですか・・」
ワクワクした様子の母に促され、便箋に目を通す。
挨拶も何もなく、数行のみの簡素な文。
『レイリア 御前試合をうちの特別席で見せてあげるわ。これをつけて来なさい。J』
中から、私たちがクラブで作っている刺繍バッジが出てきて驚いた。
まさかこのバッジを、マルグリッド侯爵家も予約してくれていたとは思わなかった。
黒地に赤い龍。
王宮騎士団の応援バッジだ。
「レイリア、侯爵家の観覧席に招かれるって凄いことよ!私も娘時代に御前試合を観に行ったきりだけど、闘技場の一番高いところに、王族の観覧席と同じ並びにあるんですもの!観覧席に限っては正装でご観覧になるから、あの一角だけ、そりゃもう華々しくて!昔から、娘達にとっては憧れの場所なんだから!」
興奮しきりの母が、熱弁する。
「いいわね、レイリア。高位貴族に誘われたんだから、行かないわけにいかないわよ?」
母に言葉を告げられずにいると、父が優しく微笑んでウインクした。
「レイリア、行っておいで。お前が御前試合に行く理由が出来たじゃないか」
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