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御前試合

さあ出発

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迎えにきたマルグリット侯爵家の馬車は、昨日のよりもひと回り大きく立派だった。

「おはようございます、レイリア様」

「あ、ゲルトさん。おはようございます。・・・ん?」

なぜゲルトさんがいるんだろう、という疑問は、馬車のドアが開いてすぐに解決した。

朱に近い、赤いドレスに身を包んだジュディ様が、席に座っていたからだ。

「ポカンとしてないで、早くお乗りなさい。」

「え・・ジュディ様、いらしてたんですか?」

「一度は貴方の住まいを見にくるつもりだったから、よ」

マルグリット家のお城みたいなお屋敷に比べたら特に面白みもないと思うが、そういえばいつもお呼ばれするばかりで、ジュディ様をうちに招くという発想が無かった。

「ジュディ様さえ良ければ、いつか、うちでお茶会しましょうか?」

あ、でも高位貴族をうちに招くのって逆に失礼だったりして・・

「いいわ。そこまで言うなら来てあげても良くってよ」

澄ましてそう答えたジュディ様は、向かいに腰を下ろした私を一瞥した。

「ちゃんと、黒のドレスを着てきたわね。」

「あ、はい。」

昨日、帰り際にジュディ様にご指摘を受けたのだ。

マルグリット侯爵家の観覧席に座るのだから、ドレスも王宮騎士団の色である赤か黒を着用するべきだし、そんなこと貴族の間では常識なのだ、と。

昨日はキーラが気を利かせてルビーのネックレスを合わせてくれていたので、そこは及第点を貰えたが、ドレスのカラーまでは配慮が足りなかった。

とは言え、ジュディ様のような完璧な美少女ならまだしも、私に赤を着こなす自信はない。

そんなわけで、消去法で黒のドレスを選んだ。

真夏に黒。

少し暑苦しい色ではあるが、今日のドレスは大きくウェーブのついたシルクオーガンジーが腰からサイドにかけてあしらってあり、その透け感が涼やかさを感じさせる。

「ドレスは良いとして・・何なの、その帽子は」

「えっと、日焼けが心配で・・」

「ふうん?」

私が被っているのは、いつかアマンド様に買ってもらったカンカン帽だ。

遠目でも私だとすぐわかる髪色を隠すために、ツバが一番大きい帽子を選んだらカンカン帽に辿り着いた。

唯一の懸念は、アマンド様自らが選んだ帽子なので気付かれやすいんじゃないか、というところだが、カンカン帽は今年の流行で、巷には同じような帽子が溢れている。

この帽子に髪が全部おさまるわけではないが、余っている部分はツバで隠れるし、顎の下でリボンで結べる安心感もあり、吟味を重ねた結果、私的にはこのカンカン帽がベストチョイスだと判断したのだ。

ジロジロと無遠慮に眺めてくるジュディ様に思わず尋ねる。

「その・・合わないですか?」

「合わないっていうか、だいぶ変でしょ、それ。そもそも格式高いドレスにそんな普段使いの帽子を合わせる意味がわからないし」

ジュディ様の、的確に相手にダメージを与える返し。

舌戦の御前試合があるなら、ジュディ様の優勝は間違いない。

そんなことを考えているうちに、私とジュディ様を乗せた馬車が動き出した。

ゲルトさんは昼食と共に、もう1台の馬車で後ろから付いてくる。

昨日よりも街は混雑していて、会場に到着するのに時間がかかった。

闘技場の正面入り口が見えてくる。

「あ、そうだ・・!ジュディ様、私見て行きたいところがあるので、正面で降ろしてもらってもいいですか?」

「どこに行くの?」

「クラブの刺繍バッジの売り場を見ておきたくて」

 キーラとカインから、バッジ売り場が人気過ぎてすごいことになっていたと聞いて、今日確かめに行きたかったのだ。

 私がそう言うと、ジュディ様が間髪入れずに口を開いた。

「私も一緒に行くわ」
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