大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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御前試合

対面

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ドアを開いたアマンド様が、目の前の光景に固まっている。

「やあ、久しぶりだねアマンド」

殿下が声をかけると、すぐにアマンド様は胸に手を当て礼をとった。

「王子殿下に拝謁いたします。」

「堅苦しいのはいい。君と私は友人だろう?」

「・・畏れ多いことです。その節は、大変失礼しました」

「いつ気づいた?」

「あの日のうちに。遠方からお姿を拝見した事が何度かあったので、もしや、と。ディフィート卿の反応で確信しました」

「ふっ、レイリアさんに警戒されないように君の髪色で変装したんだが、効果なかったか。それはそうと、素晴らしい試合だった。陛下も感嘆しておられたよ。」

「身に余るお言葉です。」

「いつか手合わせを願いたいな。ああ、来週に宮で夜会があるんだ。参加するように。勿論、レイリアさんも一緒にね」

「・・承知いたしました」 

王子殿下が振り返ってジュディ様に微笑む。

「さて、それでは・・ジュディ、待たせたね。行こうか」

「その前に、私、ガーナー伯爵令息と初めてお会いしますの」 

アマンド様が再び礼をとる。

「アマンド ガーナーです。先ほど侯爵夫人にもご挨拶させていただきました。急な申し出にも関わらず、入室を許可してくださり、ありがとうございました」

「ジュディ マルグリットよ。色々とあなたには言いたいことがあるけど、今日は火急の用事があるからまた今度にするわ。殿下、場所はどこです?」

「ここの屋上だよ」

「殿下、お先に!それじゃレイリア、またね!」

待てないジュディ様が、あっという間にドアの向こうに消えていく。

「それじゃ私も失礼するよ。・・・ああ、アマンド、レイリアさん」

「はい?」

「今日は夜空が綺麗だろうから、暗くなるまで待っているといい」

そう言って、王子殿下もすぐに後を追う。

殿下とジュディ様が退室して、残された私たち2人はしばし呆然としてしまった。

あ、そうだ。お祝いの言葉を伝えないと!

「アマ」「レイリア、話は後だ!急ぐぞ!」

「はぇ?ちょっ!」

何を言う暇もなく、急いでいる風のアマンド様に手を引っ張られドアを抜けると、私は観覧席の回廊を必死で走らされていた。

今日の靴はそんなにヒールは高くないが、走ることは想定していない。

観覧席の専用入り口に到着する頃にはすっかり息が上がり、足が痛い。

慌てていたアマンド様も、そこまで来てようやく私の格好に思い至ったらしい。

「あ・・すまない!間に合うかギリギリで・・」

「ハァ、ハァ、アマンド様、一体何をそんなに」

振り返り、空を仰ぎ見たアマンド様が、まずい!と叫んだ。

「日が沈む!レイリア、話は後だ!おぶって行かせてくれ!」

おぶ!?

「さすがにそれは・・」

中腰になって背中を向けるアマンド様が焦れたように声を上げた。

「屋台!」

え?

「俺が毎年行ってた屋台が、今年も来てるんだ!珍しい異国のお菓子の・・今日を逃したら来年まで食べられない!」

「それって・・」

アマンド様の話にあった、あの?

いつか行ってみたいと子供の頃から夢だった、あの!?

「ほら、レイリア!おぶうのは少しの間だから!」

促され、意を決して彼の肩に手をかける。

アマンド様におぶってもらうのは、子供の頃以来だ。

「し、失礼します!」

私をおぶって立ち上がったアマンド様が、何やら動かない。

あれ?

「・・アマンド様?」

「レイリア、これから全力で走る。すごく揺れるし、振り落としてしまうかもしれないから、しっかり掴まってほしい」

そんなに急いでいたとは・・!!

その後具体的な指示があり、レクチャーされた通り、張り付くようにぴっとり身を寄せると、仄かにベルガモットの香りがした。

アマンド様が走り出す。

まさか、屋台に連れていってもらえるなんて。

『御前試合の2日間は、街がそれ一色になるんだ。見たこともないような異国の屋台もやってきて、その時だけ王都が違う国になったみたいで!とにかくほんっと凄いんだから!リアもいつか一緒に行こう。毎年絶対行く屋台があるんだ。そこの珍しいお菓子、リアにも食べさせてあげるからね。』

広く硬い背中に揺られながら、期待に胸を膨らませた。




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