大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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それぞれの御前試合

王子殿下の特命③異国の地でお役目開始

高速船は揺れも少なく、何より速かった。

通常は5日かかる行程が、3日で到着したのだ。

「あ!おーい!」

『歓迎!グース トラべリッチ様』と書かれた札を持つ中肉中背の男を見つけて、俺は手を挙げて駆け寄った。

快適な船旅のおかげで、モチベーションも上がりまくりだ。

「俺がグースだ。あんたは・・」

「ドモー。通訳兼コーディネーターのアルね。荷物コレダケ?」

「ああ、よろしく頼む。」

「ホテル、コッチね。行きマッショ」

「あ、いや!」

早速ホテルに案内してくれようとするアルを、引き留める。

「早速連れてってくれ!剣の達人のところに!」

快適な船旅により、俺のコンディションは上々だ。

初めての異国に、気持ちも盛り上がる。

「これから?ダイジョブ?」

「ああ!」

「じゃ行きマッショ!」

アルに連れられ、1軒目!

早速行ってみよう!



********************************



誰だ?着いてすぐに剣の達人のところに連れて行けと言った奴は。

(ああ、俺だったな・・)

そう、虚ろに思い出す。

この国に到着し、早速目的地へ、と頼んだのは、一昨日のことだ。

馬車で夜まで移動して、馬車の中で野宿し、まだ夜も明けきらないうちから、また馬車で移動して。

おかげで身体はガチガチだ。

まぁ異国だし、俺の想定が甘かったってのはあるよな。

でもさ、こんな遠いなら、アルももうちょっと確認してくれてもよかったんじゃない?

1日じゃ着かないよ、とかさ。

でも、ま、初対面同士だしな。

通訳といえども、コミュニュケーションエラーが起こって不思議はないよな。

そう自分に言い聞かせて、馬車がようやっと到着する。

いつの間にか山岳地帯にやってきていたようだ。

アルが山を指差して笑顔で告げた。

「ここからこの山にアタックするネ!」

アタックーー登山に詳しい方では無い俺でも、普通の登山には用いない言葉であることはわかった。

ハハハ、またまた、何を大袈裟な。

アルは通訳のくせに冗談もできんだな。

俺は、信じたく無くて、無意識に、その可能性から必死で目を逸らしていたんだろう。

「行きマッショ!」のかけ声に、そろり、と一歩を踏み出した。

3つの山を越えて、ウーシェンロア派の達人、タクルさんの家に到着したのは、それから4日後のことだった。


********************************


この国に来て、間も無く3週間が経つ。

ウーシェンロア派のタクルさんの誘致に成功し、俺は約3週間ぶりに、この国の港まで戻ってきた。

体重は、5キロ痩せ、肌は褐色となり、髪と髭が伸び放題である。

タクルさんは20代半ばの青年だった。

8年ほど前から、人里離れた山奥で1人暮らしをしていたらしく、まあそれでウーシェンロアの後継は途絶えたと思われていたんだろう。

やはり剣の達人は、己を磨くために極地に身を置くものなのだ。

そう思っていた。

余興への出場を打診したところ、丁重に断られ、そこを粘って粘ってよくよく話を聞いてみると、この過疎地に引っ越した理由が、失恋をきっかけに何もかも嫌になったせいだと判明。

タクルさんはただの引きこもりだった。

タクルさんの自信を取り戻し、社会生活へ復帰させるべく、そこからは生活を共にしながらタクルさんを褒めちぎる日々。

剣舞は流石だった。

演奏はアルのハーモニカと、俺の手拍子だけの簡素なものではあったが、踊り出すとヘラッとしていたタクルさんが急に雄々しくなる。

特に、群生する竹の間を通るにも関わらず、竹を支柱のように使って縦横無尽に舞い回る様は息も忘れて見入ってしまう。

(これは、会場にも竹林を登場させたいな・・)

タクルさんは最終的には俺の熱意に負けたと言っていたが、俺がいつか発した「いやー、多分ですけど、剣舞見たら俺の国の女子、まじ惚れると思います。タクルさん、モテモテっすよ」の言葉が決め手だったと見ている。

招待状と日程表、そして船のチケットを渡して、俺はひとつ目のお役目を終えたのだった。

その後、もう1つの流派は拍子抜けするほどあっさりと誘致に成功。

それで俺は、少し楽観的になってしまったのかもしれない。

次なる流派リュシールデュールもこの勢いで行くぞ、と意気込みながら、アルと出発したのだった。

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