上 下
96 / 144
御前試合

彼の気持ち 私の気持ち

しおりを挟む
その後、アマンド様にこれまでのことを話した。

友人から、アマンド様と愛し合っていると言われて、信じてしまったこと。

2人が結ばれるための協力を約束し、婚約の解消まで考えていたこと。

アマンド様は急かさずにじっと私の話に耳を傾け、聞き終えると、しばらく沈黙した。

「・・俺から、身を引こうとしていたの?」

「ごめ・・ごめんなさい」

「レイリアは・・俺は要らなかった?」

ふるふると首を横に振る。

アマンド様じゃない。

私が、要らない存在だと思っていた。

嫌われるために我儘を頑張って、でもうまくいかなくて。

嫌われようとしていたのに、アマンド様に会う度に、もっともっと好きになっていった。

アマンド様は、小さくため息をついた。

「まさかそんなことになっていたとは思わなかった・・・レイリアに信じてもらえなかったことは、正直、ショックだよ」

彼の言葉が重くのしかかり、ギュッと目を閉じる。

「でも、俺が去年レイリアにあんな態度をとっていなければ、つけ込まれることも、君がそれを信じてしまうこともなかった。君に嫉妬してほしくて、思わせぶりな態度をとってしまったことも、確かにあった。・・俺の自業自得だ。レイリア、目を開けて」

恐る恐る目を開き、見つめ返す。

月明かりを受けて、彼の金色の瞳は、本物の月のように輝いている。

「去年の俺は・・仕事に体力も気力も時間も奪われて、思い返せばこれまでで一番辛い1年だった。でも何より辛かったのは・・君と会えなかったことだ」

「私と・・?」

そうだよ、と彼は笑む。

「君が、俺の体や仕事を思って、会う頻度を減らそうと言ってくれていることはわかっていた。でも、そう言われる度に、俺は君から『要らない』と言われているようで、寂しかった。」

私の右手を、彼の左手がそっと包む。

「俺はね、レイリア。とても面倒くさい男なんだ。許されるなら、四六時中レイリアと一緒にいたいし、レイリアにも、いつも俺のことを思っていて欲しい。それくらい求めているから、君にそれを奪われるのが、耐えられなかったんだ・・」

初めて聞く、アマンド様の気持ち。

お茶会を減らそう、と提案しても、彼はいつも拒否して、その度に不機嫌になった。

私は彼から”怒り”の感情を感じていたものの、なぜ彼が怒るのか、その理由が分からなくて。

怒りの理由に思いを巡らすよりも、どうにか彼を休ませなければと、そればかり考えていた。

「会う回数を減らすことになってからも、本当はレイリアは俺と会いたくないんじゃないかって君のことを邪推して・・拗れに拗れて、あんな頑なな態度になっていた。・・・レイリアに信じてもらえなくてショックだとさっき言ったけど、訂正するよ。俺が言えた義理じゃない。俺だって、レイリアを信じられていなかったんだ・・」

会うことに固執した彼と、彼の体のことしか考えていなかった私と。

あの頃の私たちに欠けていたものーー

「私、もっと・・アマンド様とお話しするべきでした・・」

「俺もだよ。これからは、もっと話すようにしよう。」

少しの沈黙の後、アマンド様がキュッと私の手を握る。

「レイリア、その・・」

「はい」

「今もちゃんと、レイリアの気持ちは俺にあるって思っていい?」

・・そうだ。

彼にちゃんと、伝えなくちゃ。

右隣にいる彼に体を向けてから、顔を伏せて、息を整えた。

ドキドキする。

「アムド、大好き!」と気軽に言っていた、子どもの頃とはわけが違う。

改まってアマンド様に想いを伝えることなんて、実際初めてじゃないだろうか。

小さく息を吐き、顔を上げて目を合わせる。

「アマンド様。私も、アマンド様のことが」

ドーン!!

ヒュルルルルー ドーン!!ドーン!!

「へ?」

閃光と煌めき。

体の奥まで響く大音。

「・・花火!」

夜空に次々と咲き誇る大輪の花に、一瞬で目を奪われる。

「すごい!こんな近くで見れるなんて!王子殿下が仰っていたのは、もしかしてこのことだったんですね!」

「・・ああ、きっとそうだ」

興奮しながら見上げると、上がる花火に照らされて、アマンド様の表情がはっきりと目に映った。

繕ってはいたけれど、なんだかとってもしょんぼり見えて。

彼の手を握り返す。

「アマンド様」

「うん?」

次々と打ち上がる花火。

遠くに聞こえる歓声。

火薬の匂い。

「好きです。私も、アマンド様のことが、大好き」

言葉もなく抱き込まれて、彼の香りを胸いっぱい吸い込んだ。

耳元で囁かれる愛の言葉。

花火も見たいけれど、今はもっと、大事にしなきゃいけないことがあるから。

愛しい人に名を呼ばれ、私は瞼を閉じて、彼の口付けを受け入れた。





しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

木曜日生まれの子供達

BL / 連載中 24h.ポイント:3,819pt お気に入り:842

オネェな王弟はおっとり悪役令嬢を溺愛する

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:40,235pt お気に入り:2,550

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,613

夫の愛人が訪ねてきました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:52,937pt お気に入り:476

愛され奴隷の幸福論

BL / 連載中 24h.ポイント:1,867pt お気に入り:1,940

処理中です...