大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

文字の大きさ
97 / 165
御前試合

おやすみ

しおりを挟む
「ボートウェル子爵家に、厳重に抗議する。」

花火が終わり、馬車寄せでガーナー家の馬車がこちらに近づくのを見ながら、アマンド様が私に告げた。

「詳細は君のお父上が帰ってきてからだが、連名での抗議文になるだろう。」

「その・・あまり大ごとには」

してほしくない、と言い切る前に「レイリア」と嗜められた。

「俺たちを意図的に破局させようとしていたんだぞ?許容出来るわけがない。王家も認めている伯爵家同士の婚約を破談させようとするなど・・出るところに出れば、反逆罪にもなり得る大罪だ。そこを抗議に留めるんだから、むしろ感謝してほしいくらいだ。非は向こうにある。」

「・・はい」

できれば争いは避けたい。

でも、アマンド様に言葉にされてようやく、私の考えの甘さに気づく。

メイベルのしたことは、とっくに「ごめんなさい」で済む問題ではなくなっていたのだ。

「今後は俺にもレイリアにも、一切接触しないよう要請するつもりだ。君も、ボートウェル子爵令嬢とはもう会わないでほしい。そうじゃないと安心できない。」

「・・はい。」

ふと、今日のメイベルの格好を思い返し、背筋が冷える。

なんであんな・・私そっくりの格好をしていたんだろう。

去年アマンド様が私と見間違えた、同じ髪色の人物も・・前後の状況や言動から考えて、メイベルの可能性が高い。

彼女に嘘をつかれていたのもショックだが、それよりも何か・・いつの間にか得体の知れない者になり変わっていたような、そんな気味悪さを感じてしまう。

「さ、乗ろう。」

気づくと馬車が目の前に到着していた。





*******************************






揺れが止まり、意識が少し浮上する。

「アマンドー!姉さんもおかえり!え・・姉さん寝てるの!?」

「カイン!しー!静かに・・!」

アマンド様の顰めた声が、上の方から聞こえる。

私はいつから横になっていたんだろう。

優しく頭を撫でる手はそのままで、安心する。

「姉さん、今朝散々俺のことバカにしてたんだよ。夕食中に寝るなんて信じられないって。自分は夕食にもなる前から寝ちゃってんじゃん」

カインの笑い声。

だってしょうがないじゃない。

身体がいうことを聞かないんだもの。

今日は朝から何度も泣いて、ドキドキしたりホッとしたり・・そうそう、ドレス姿で走ったりもしたんだった。

眠くて眠くて、馬車が走り出してすぐに寝てしまった。

身体が重くて、指先をピクリとも動かせない。

「姉さん、姉さん、おーい。うちに着いたよ」

「カイン、起こさないでやってくれ。俺が運ぶ」

「いいっていいって。アマンドはちょっと待ってて。今、誰か護衛とか連れてくるから。」

「護衛?」

「姉さんのベッドまで運ぶの、代わってもらった方がいいだろ?アマンド疲れてるだろうし」

「必要ない。俺が連れて行く」

抱えられ、横向きのままふわっと持ち上げられた。

「ええ?アマンドが姉さんの部屋に行くのはまずいんじゃない?」

「カインも着いてきてくれれば問題ないだろ」

「あ、そっか。」

心地よい浮遊感。

ゆらゆらする揺れに誘われ、私はまた深い眠りに潜っていく。

「キーラ!姉さん寝て帰ってきたんだよ」

「ま、お嬢様!」

「どこに運べばいい。寝支度などもあるだろう?」

「は、ハイ!そうですね・・ではこちらのベッドへお願いします」

そっと横たえられ、ベッドが沈む。

さっきまでのゆらゆらが無くなってしまって、なんだか残念に思えた。

「他に何か手伝えることはあるか」

「いえっ!あとはこちらにお任せください。大変ありがとうございました。」

「・・・そうか。それでは失礼する」

足音が再び近づいてきた。

額に当たった柔らかな感触が、ゆっくりと離れていく。

「おやすみ、レイリア。」

そうして私は、再び深い眠りの世界へ旅立っていった。





















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた

今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。 二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。 ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。 その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。 が、彼女の前に再びアレクが現れる。 どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…

『めでたしめでたし』の、その後で

ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。 手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。 まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。 しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。 ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。 そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。 しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。 継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。 それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。 シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。 そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。 彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。 彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。 2人の間の障害はそればかりではなかった。 なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。 彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。

[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜

h.h
恋愛
王子グレンの婚約者候補であったはずのルーラ。互いに想いあう二人だったが、政略結婚によりグレンは隣国の王女と結婚することになる。そしてルーラもまた別の人と婚約することに……。「将来僕のお嫁さんになって」そんな約束を記憶の奥にしまいこんで、二人は国のために自らの心を犠牲にしようとしていた。ある日、隣国の王女に関する重大な秘密を知ってしまったルーラは、一人真実を解明するために動き出す。「国のためと言いながら、本当はグレン様を取られたくなだけなのかもしれないの」「国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ」 二人は再び手を取り合うことができるのか……。 全23話で完結(すでに完結済みで投稿しています)

元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。

有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。 けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。 ​絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。 「君は決して平凡なんかじゃない」 誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。 ​政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。 玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。 「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」 ――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

「ばっかじゃないの」とつぶやいた

吉田ルネ
恋愛
少々貞操観念のバグったイケメン夫がやらかした

処理中です...