105 / 165
それぞれの御前試合
王子殿下の特命⑤世界の果てからの帰還
しおりを挟む
ドンドコドンドコドンドコドンドコ
闇夜に響く、絶え間ないドラムの音。
俺は周りを囲むムキムキの男たちを見回した。
「おい、アル。あいつなんて言ってんの?」
「『神にササゲヨ』言ってる。」
捧げるって、普通に考えて殺られるんじゃね?
現に、俺とアルは後ろ手に縛られて、連中の囲む焚き火近くに転がされている。
「敵じゃないし、剣舞を披露してほしくて依頼しにきたって言ってくれ」
アルが訳して話すが、連中はゲラゲラと笑うばかり。
「おい、アル!ちゃんと意味通じてんのか?」
「ワタシ、ドレアドの言葉話しテル。デモ、この人たち、話しツージない。」
どうやら言葉の問題じゃないらしい。
そう、俺とアルは馬車で北西へ向かい、広大なジャングルに到着した。
狩猟民族ドレアドに会いたいんだが、と地元民に相談すると、「ジャングルに行けば自ずと会える」と言われ、ジャングルを彷徨うこと3日。
ドレアドには会えた。
というか、会った瞬間に捕獲され、縄で縛られ歩かされ、夜になり・・そして今に至る。
余興の開催どころか、その前に命が危うい。
一番体が大きく、虎を従えた男が俺たちに話しかけてきた。
アルの訳を待つ。
「このヒト、族長。奴隷になるか、供物になるかキイテル。」
どっちもヤダ。
「奴隷になるナラ、役にたつコトないとダメ」
アルは奴隷を選んだ。
初めは通訳出来ることを売り込んだが却下され、ダメ元でハーモニカを吹いたら大ウケ。
見事に奴隷に確定した。
次は俺の番だ。
ヤバいぞ、何も特技なんて思い浮かばない。
そうこうする内に、太鼓に合わせてどうやら剣舞が始まった。
これが獣使いの剣、ドレアド ガガンか。
1人に対し、従える獣は1匹。
狼や犬、猿など種類は様々だ。
湾曲した中剣を持ち、従える獣と見事なコンビネーションを取りながら、一心不乱に舞い続ける。
それは勇壮で猛々しく、舞というより・・・それは祈りのようだ。
そう思ったところで、あの分厚い本、「世界の剣舞~その起源と今昔~」のドレアドのページを思い返す。
確か・・ドレアド ガガンの"ガガン"はドレアド語で武神という意味だ。
連中にとって、これはドレアドの武神をこの地から解き放つ儀式なのだ。
地に眠る武神を儀式により解き放つと、武神はその礼に、森の恵みをもたらす。
だからドレアド族は定住せず、ジャングルの至る所でドレアド ガガンを踊る。
武神を解き放ち、森の恩恵に預かるために。
"ドレアド ガガン"はドレアドにとって、剣舞ではない。
意味を履き違えていたのは俺の方だった。
ということはつまり・・
「ドスル?奴隷?供物?」
聞いてくるアルに、首を横に振ると、俺は族長に直接語りかけた。
「ドレアドの民よ。私はバルト王国より参ったグース トラべリッチだ。実は、我が国の聖地で、他国と共に武神を解き放つ祭りを開催する。我が国で、貴殿らの武神も呼び起こしてはくれまいか。遠く離れた異国の地での儀式に、ガガンもお喜びとなろう。」
ドレアドから3人の若い衆と3匹を派遣することを族長から約束され、俺とアルは無事に解放された。
因みに、太鼓を鳴らす男衆の中に、明らかにドレアド族と顔立ちが違うヤツがいて、確認したら、やっぱり消息不明になってた影さんだった。
奴隷になってた影さんの解放も交渉してみたけど、族長は許してくれなかったので、若い衆が王都に来る時の案内役に推しておいた。
影さんに、「ミッションに失敗して、もう国には帰れないと思っていました・・これで帰る言い訳ができます・・!」って泣いて感謝されたのはここだけの話だ。
さらに南下して、最後の流派の誘致に成功し、俺のミッションは終了。
大きな港でアルに別れを告げて、俺は約4ヶ月ぶりに、バルト王国の王都に帰りついた。
「失礼します」
この部屋に来るのも、実に4ヶ月ぶりだ。
「ああ、トラべリッチさん、長旅ご苦労様でした。随分、顔つきが精悍になられて・・」
レイダンさんに招き入れられ、王子殿下の執務室に足を踏み入れる。
この4ヶ月の成果の報告に訪れたのだが、今日は王子殿下もご在室なので緊張感が違う。
「お願いしていた5件とも、誘致に成功したと聞いて、殿下もお喜びです。」
すでに報告内容はご存知のようだ。
となれば俺が殿下に伝えることは1つ。
「リュシールデュールについてはまだ保留と言われてしまっていますが・・その、衣装のデザイナーの件は、独断で進めてしまって申し訳ございませんでしたっ」
勝手に決めて、あろうことか殿下にデザイナーの手配をお願いするとか、懲戒プラス不敬罪も適応されかねないんじゃないかと俺は内心ヒヤヒヤしていた。
「ああ、あれには驚きましたが大丈夫ですよ。殿下が一筆書いただけで、"ハイルスミス"は喜んで応じてくれましたし、早速デザイナーチームが現地に赴いているそうです」
良かった・・一歩前進だ。
でもハイブランドに衣装を依頼することになったし、やっぱり・・
「費用もかさんでしまいましたよね・・」
「あ、それも大丈夫です。次の公務の際に、殿下がハイルスミスの靴とアクセサリーをお召しになればそれで済む話ですから。」
「あ、そっすか。」
「ハイルスミスとの調整は6課6班にお任せしてるので、そちらに聞いてもらった方が早いでしょう。迅速に動いてくれて助かってます」
へぇ・・シム班長かな?
「・・開催方法は、何か良い案が見つかったのか?」
相変わらずの無表情で王子殿下が口を開く。
「はい。途中に見学した祭りから、何となくヒントはもらいました。少し班に戻って検討してからお伝えしますので、今しばらくお待ちください」
エルバート殿下は小さく頷く。
「わかった。引き続き励め。」
闇夜に響く、絶え間ないドラムの音。
俺は周りを囲むムキムキの男たちを見回した。
「おい、アル。あいつなんて言ってんの?」
「『神にササゲヨ』言ってる。」
捧げるって、普通に考えて殺られるんじゃね?
現に、俺とアルは後ろ手に縛られて、連中の囲む焚き火近くに転がされている。
「敵じゃないし、剣舞を披露してほしくて依頼しにきたって言ってくれ」
アルが訳して話すが、連中はゲラゲラと笑うばかり。
「おい、アル!ちゃんと意味通じてんのか?」
「ワタシ、ドレアドの言葉話しテル。デモ、この人たち、話しツージない。」
どうやら言葉の問題じゃないらしい。
そう、俺とアルは馬車で北西へ向かい、広大なジャングルに到着した。
狩猟民族ドレアドに会いたいんだが、と地元民に相談すると、「ジャングルに行けば自ずと会える」と言われ、ジャングルを彷徨うこと3日。
ドレアドには会えた。
というか、会った瞬間に捕獲され、縄で縛られ歩かされ、夜になり・・そして今に至る。
余興の開催どころか、その前に命が危うい。
一番体が大きく、虎を従えた男が俺たちに話しかけてきた。
アルの訳を待つ。
「このヒト、族長。奴隷になるか、供物になるかキイテル。」
どっちもヤダ。
「奴隷になるナラ、役にたつコトないとダメ」
アルは奴隷を選んだ。
初めは通訳出来ることを売り込んだが却下され、ダメ元でハーモニカを吹いたら大ウケ。
見事に奴隷に確定した。
次は俺の番だ。
ヤバいぞ、何も特技なんて思い浮かばない。
そうこうする内に、太鼓に合わせてどうやら剣舞が始まった。
これが獣使いの剣、ドレアド ガガンか。
1人に対し、従える獣は1匹。
狼や犬、猿など種類は様々だ。
湾曲した中剣を持ち、従える獣と見事なコンビネーションを取りながら、一心不乱に舞い続ける。
それは勇壮で猛々しく、舞というより・・・それは祈りのようだ。
そう思ったところで、あの分厚い本、「世界の剣舞~その起源と今昔~」のドレアドのページを思い返す。
確か・・ドレアド ガガンの"ガガン"はドレアド語で武神という意味だ。
連中にとって、これはドレアドの武神をこの地から解き放つ儀式なのだ。
地に眠る武神を儀式により解き放つと、武神はその礼に、森の恵みをもたらす。
だからドレアド族は定住せず、ジャングルの至る所でドレアド ガガンを踊る。
武神を解き放ち、森の恩恵に預かるために。
"ドレアド ガガン"はドレアドにとって、剣舞ではない。
意味を履き違えていたのは俺の方だった。
ということはつまり・・
「ドスル?奴隷?供物?」
聞いてくるアルに、首を横に振ると、俺は族長に直接語りかけた。
「ドレアドの民よ。私はバルト王国より参ったグース トラべリッチだ。実は、我が国の聖地で、他国と共に武神を解き放つ祭りを開催する。我が国で、貴殿らの武神も呼び起こしてはくれまいか。遠く離れた異国の地での儀式に、ガガンもお喜びとなろう。」
ドレアドから3人の若い衆と3匹を派遣することを族長から約束され、俺とアルは無事に解放された。
因みに、太鼓を鳴らす男衆の中に、明らかにドレアド族と顔立ちが違うヤツがいて、確認したら、やっぱり消息不明になってた影さんだった。
奴隷になってた影さんの解放も交渉してみたけど、族長は許してくれなかったので、若い衆が王都に来る時の案内役に推しておいた。
影さんに、「ミッションに失敗して、もう国には帰れないと思っていました・・これで帰る言い訳ができます・・!」って泣いて感謝されたのはここだけの話だ。
さらに南下して、最後の流派の誘致に成功し、俺のミッションは終了。
大きな港でアルに別れを告げて、俺は約4ヶ月ぶりに、バルト王国の王都に帰りついた。
「失礼します」
この部屋に来るのも、実に4ヶ月ぶりだ。
「ああ、トラべリッチさん、長旅ご苦労様でした。随分、顔つきが精悍になられて・・」
レイダンさんに招き入れられ、王子殿下の執務室に足を踏み入れる。
この4ヶ月の成果の報告に訪れたのだが、今日は王子殿下もご在室なので緊張感が違う。
「お願いしていた5件とも、誘致に成功したと聞いて、殿下もお喜びです。」
すでに報告内容はご存知のようだ。
となれば俺が殿下に伝えることは1つ。
「リュシールデュールについてはまだ保留と言われてしまっていますが・・その、衣装のデザイナーの件は、独断で進めてしまって申し訳ございませんでしたっ」
勝手に決めて、あろうことか殿下にデザイナーの手配をお願いするとか、懲戒プラス不敬罪も適応されかねないんじゃないかと俺は内心ヒヤヒヤしていた。
「ああ、あれには驚きましたが大丈夫ですよ。殿下が一筆書いただけで、"ハイルスミス"は喜んで応じてくれましたし、早速デザイナーチームが現地に赴いているそうです」
良かった・・一歩前進だ。
でもハイブランドに衣装を依頼することになったし、やっぱり・・
「費用もかさんでしまいましたよね・・」
「あ、それも大丈夫です。次の公務の際に、殿下がハイルスミスの靴とアクセサリーをお召しになればそれで済む話ですから。」
「あ、そっすか。」
「ハイルスミスとの調整は6課6班にお任せしてるので、そちらに聞いてもらった方が早いでしょう。迅速に動いてくれて助かってます」
へぇ・・シム班長かな?
「・・開催方法は、何か良い案が見つかったのか?」
相変わらずの無表情で王子殿下が口を開く。
「はい。途中に見学した祭りから、何となくヒントはもらいました。少し班に戻って検討してからお伝えしますので、今しばらくお待ちください」
エルバート殿下は小さく頷く。
「わかった。引き続き励め。」
70
あなたにおすすめの小説
家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた
今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。
二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。
ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。
その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。
が、彼女の前に再びアレクが現れる。
どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…
『めでたしめでたし』の、その後で
ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。
手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。
まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。
しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。
ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。
そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。
しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。
継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。
それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。
シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。
そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。
彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。
彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。
2人の間の障害はそればかりではなかった。
なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。
彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。
[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜
h.h
恋愛
王子グレンの婚約者候補であったはずのルーラ。互いに想いあう二人だったが、政略結婚によりグレンは隣国の王女と結婚することになる。そしてルーラもまた別の人と婚約することに……。「将来僕のお嫁さんになって」そんな約束を記憶の奥にしまいこんで、二人は国のために自らの心を犠牲にしようとしていた。ある日、隣国の王女に関する重大な秘密を知ってしまったルーラは、一人真実を解明するために動き出す。「国のためと言いながら、本当はグレン様を取られたくなだけなのかもしれないの」「国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ」
二人は再び手を取り合うことができるのか……。
全23話で完結(すでに完結済みで投稿しています)
元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。
有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。
けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。
絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。
「君は決して平凡なんかじゃない」
誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。
政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。
玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。
「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」
――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる