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王子殿下の要請

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通された部屋で待っていた御人。

エルバート ジルシアド クライセン ドュエ バルト第一王子。

金の飾りがあしらわれた白い正装は、どこからどう見てもいわゆる"王子様"だ。

金の髪に、整った顔立ちも相まって、微笑みを浮かべる姿はどこか神々しい。

(そういえば・・殿下のセカンドネームは聖ジルチアが只人だった頃の御名だったな)

「やあ、アマンド。来てくれたか。」

微笑むその目からは、何の感情も読み取れない。

これでもまだいい方で、王宮での執務中は表情さえ浮かべないらしい。

「能面王子」あるいは「無血王子」と一部貴族から揶揄される所以だ。

エルバート殿下からお呼びがかかる理由に心当たりがあるとしたら、殿下にとって特別らしいあの令嬢に関することくらいしか思いつかないが・・

「さて、レイリアさんが来る前に手短に話そう。私もここに長居はできない」

そう、俺たちを呼びに来た近衛の、その後ろに控えていた侍女に連れられ、レイリアは手洗いへ寄ってからここに来ることになっている。

レイリアに聞かせたくない話があるということだろう。

「単刀直入に言おう。王宮騎士団に入らないか?」

「王宮・・騎士団ですか?」

王国騎士団と王宮騎士団は別物だ。

王宮警護を主とする王宮騎士団の規模は、王国騎士団と比べるまでも無く小さい。

だが、所属する騎士は腕だけで無く、身許も確かな精鋭揃いだ。

王宮騎士団は近衛騎士への門戸ともなる。

そのため、入団するのに"剣の腕"と"騎士としての適正"が第一に求められる王国騎士団と違って、王宮騎士団への入団には身許の確かさも求められ、それなりの貴族からの推薦状が必要となる。

俺が王国騎士団を志望したのは、父の影響が大きかった。

俺も、父のように王都の安全を守りたいと、そう思って入団試験を受けたので、王宮騎士団への入団など考えたこともなかったが・・

「なぜかと、お聞きしても?」

「白状するとね、南西が、少しきな臭い。」

南西・・現王制への反対勢力が根強く残る地方だ。

「経済力こそが力だと妄信している野蛮な輩との交流が活発になっているらしくてね。マティスの大伯母も不審な動きを見せている。」

マティスの大伯母・・権力闘争で失脚し、当時小国だったマティスへ嫁いだ先王の王姉のことだ。

「それでなぜ、俺が王宮騎士団に・・?」

「アマンドには、ゆくゆくは近衛となり、私の側近になって欲しいと思っている。その騎士としての実力と、貴族も民も虜にする圧倒的な人気で私を支えて欲しい。」

幼い弟王子はいるものの、エルバート殿下は誰が何と言おうと現時点で王位第一継承者だ。反対勢力が強まろうが、殿下の立場は磐石に思えるが。

「私は父上ほど民衆から慕われてはいないし、貴族から絶対的な信頼も得られていない。保険はいくらでも欲しいものだ」

自嘲するようなことを、淡々と言う。

「・・君の婚約者がジュディと仲が良いことは全く無関係ではないよ。王妃となるジュディのためにも、レイリアさんには出来るだけ侮られない立場にいてもらった方が安全だからね。でも、それはみたいなものだ。」

「光栄ではありますが・・」

「直ぐに答えが欲しいわけではない。考えておいて欲しい。」

俺の意思を尊重するかのようなその口ぶりに、思わず聞いてしまう。

「命令はされないのですか。」

「仮にも友人に、無理強いは出来ないからね。」

それが本心か、それとも口先だけのパフォーマンスか。

彼の表情からは窺うことができない。

その時、ノックが鳴り、侍女に連れられレイリアが現れた。

「やあ、レイリアさん。楽しんでくれてるかな?」

「はいっ。殿下、私、お酒をいただきました」

そうか、好きなだけ飲んでいくといい、と声をかけられ、嬉しそうにするレイリアがこちらを振り返った。

「アムド」

両腕を広げて、勢いのままに抱きついてくる。それを受け止めてから、やはり聞いておくべきだと口を開いた。

「殿下、ひとつお聞きしても?」

殿下が真っ直ぐに俺を見据える。

「マルグリット侯爵令嬢が王妃になると言うのは・・決定事項ですか?」

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