123 / 165
秋
ジュディ様とのお出かけ
「やっと来たわね・・!」
マルグリット侯爵家に到着した私とアマンド様は、腕組みをしたジュディ様に出迎えられた。
初めて見るジュディ様のワンピース姿だ。
ワインレッドのスタンドカラーのワンピースは、前見頃の部分に金のダブルボタンで装飾されている。
髪はきっちりしたポニーテール。
ジュディ様の栗色の髪と服の色がよく似合っていた。
「以前も思ったが・・・あのご令嬢は、なんであんなに勝ち誇った顔をしてるんだ?」
アマンド様が小声で尋ねてくる。
「あれが張り切ってる時のジュディ様の通常運転ですわ」
「何をこそこそ話してるの!早く出発するわよ!」
今日も待てないジュディ様が、先に馬車に乗り込んだ。
前の馬車にジュディ様と私たち、後ろの馬車にゲルトさんが乗り2台の馬車が出発した。
アマンド様が今日の飛び入りの礼を述べるとジュディ様は「ふふん」と不敵に笑う。
「まさか来るとは思わなかったけど、ちょうど良かったわ。」
「今日はどちらへ?」
「着いたら教えてあげるわよ。・・・それはそうと私、最近招ばれていくつかのお茶会に参加したのだけど、あなた達、社交界で、理想のカップルだと持て囃されてるらしいわね?」
ふぇっ?
「理想のカップル!?」
「令嬢達が騒いでいたわよ?こないだの王宮の宴で、アマンド ガーナーは婚約者に何度もキスする熱々ぶりだったって」
「キ、キスなんて・・!」
してない、と言おうとして詰まる。
いや、されてた・・頭にだけど、1回だけキスされてた・・。
「でも、1回だけです!そんな何度もなんてしてないです!・・ね?アマンド様?」
そう言って隣に座るアマンド様に同意を求めたが、私に見えたのは彼の後頭部だけ。あれ?
可笑しそうにジュディ様が目を細めた。
「1回だけ?」
「1回です!きっと、話に尾ヒレをつけて面白おかしくされてるだけで・・」
「私がお母様に聞いた話と違うわねぇ。」
ジュディ様が勿体ぶって首を傾げる。
「登場して囲まれた時に頭に1回、2人でダンスしてる間に頬に2回、ディフィート兄様とレイリアがダンスし終わって戻った後は、確認できただけで8回は至る所にキスされてたって聴いたけど。」
「え!え!?」
ダンス?ディフィート様とも?
ていうか8回って何?
ぐりんと隣席を見ると、アマンド様が更に顔を逸らした。
「安心なさい、レイリア。私が訂正しておいてあげたわ」
ニッコリ笑むジュディ様に、嫌な予感が増す。
「何度もどころか、5分に1回はキスする熱々ぶりだった、って。」
「ジュディ様ぁ!」
コロコロ笑うジュディ様の笑い声を響かせながら、馬車は進んで行く。
「着いたわね。」
1時間ほどして馬車が完全に停まり、降り立つと、目の前にはのどかな風景が広がっていた。
豊かな牧草地の向こうに連なる山々。
澄み渡る青空を、スイスイとトンボが横切っていく。
「こっちよ。」
手を引かれ、馬車の反対側に回り込んで、初めてその大きな建造物に気がついた。
アマンド様が、やはり、と頷く。
「メイソン競馬場、か。」
「そう!今日はマロニエ賞のレースがあるのよ」
ウキウキと入り口に向かうジュディ様を見遣りながら、アマンド様が小声でたずねてきた。
「ご令嬢の貯めたポイントは、もしや競馬に使っていると言うことか?」
「まさか・・!未成年ですし、流石にそれはないんじゃ?」
「でもだからこそ、易々と出来ないようにポイント制にしているんじゃないか?バトラーに代理で馬券を買わせるとか、手はいくらでもあるだろう?」
アマンド様の眉間の皺が深まる。
「レイリア、止めよう。侯爵家が許しても、流石にこれは見過ごせない。」
「は、はい!」
急ぎジュディ様を追いかけ入場すると、左手方向に大勢の人が列を作っており、その先に並ぶカウンターには『馬券売り場』と掲げられていた。
その列の後方で、ジュディ様がゲルトさんから何かの券を受け取っている。
「ご令嬢!」
「ジュディ様!その券は」
ダメです!と言う前に、「はい」と券を手渡された。
私とアマンド様に、1枚ずつ。
「一般席が良いって言ったのに、ゲルトが貴賓席を買ってきちゃったわ。いいかしら?」
「え?あ、これ馬券じゃ無い・・?」
よく見ると、『入場券』と印字されている。
「レイリアあなた・・馬券を買いたいの?」
ジュディ様が呆れたように馬券売り場を指差す。
「買いたいんだったらあそこに並ばないとだけど、年若い令嬢が馬券を買うなんてあまり褒められた行為じゃないから、婚約者に買ってもらいなさいね。私はパドックに行きたいから先に行くわよ」
ん?
アマンド様と顔を見合わせて、先へ急ごうとするジュディ様に慌てて声をかける。
「あの、ジュディ様?」
「何よ?」
「今日ここに来た理由って・・?」
ジュディ様は思い切り変な顔をした。
「ここに私が来る理由なんて、馬を見る以外、他に何があるの?」
「・・・ナイですね、ハイ」
怪訝な様子で一瞥するジュディ様を、私たちは素知らぬ顔でやり過ごした。
マルグリット侯爵家に到着した私とアマンド様は、腕組みをしたジュディ様に出迎えられた。
初めて見るジュディ様のワンピース姿だ。
ワインレッドのスタンドカラーのワンピースは、前見頃の部分に金のダブルボタンで装飾されている。
髪はきっちりしたポニーテール。
ジュディ様の栗色の髪と服の色がよく似合っていた。
「以前も思ったが・・・あのご令嬢は、なんであんなに勝ち誇った顔をしてるんだ?」
アマンド様が小声で尋ねてくる。
「あれが張り切ってる時のジュディ様の通常運転ですわ」
「何をこそこそ話してるの!早く出発するわよ!」
今日も待てないジュディ様が、先に馬車に乗り込んだ。
前の馬車にジュディ様と私たち、後ろの馬車にゲルトさんが乗り2台の馬車が出発した。
アマンド様が今日の飛び入りの礼を述べるとジュディ様は「ふふん」と不敵に笑う。
「まさか来るとは思わなかったけど、ちょうど良かったわ。」
「今日はどちらへ?」
「着いたら教えてあげるわよ。・・・それはそうと私、最近招ばれていくつかのお茶会に参加したのだけど、あなた達、社交界で、理想のカップルだと持て囃されてるらしいわね?」
ふぇっ?
「理想のカップル!?」
「令嬢達が騒いでいたわよ?こないだの王宮の宴で、アマンド ガーナーは婚約者に何度もキスする熱々ぶりだったって」
「キ、キスなんて・・!」
してない、と言おうとして詰まる。
いや、されてた・・頭にだけど、1回だけキスされてた・・。
「でも、1回だけです!そんな何度もなんてしてないです!・・ね?アマンド様?」
そう言って隣に座るアマンド様に同意を求めたが、私に見えたのは彼の後頭部だけ。あれ?
可笑しそうにジュディ様が目を細めた。
「1回だけ?」
「1回です!きっと、話に尾ヒレをつけて面白おかしくされてるだけで・・」
「私がお母様に聞いた話と違うわねぇ。」
ジュディ様が勿体ぶって首を傾げる。
「登場して囲まれた時に頭に1回、2人でダンスしてる間に頬に2回、ディフィート兄様とレイリアがダンスし終わって戻った後は、確認できただけで8回は至る所にキスされてたって聴いたけど。」
「え!え!?」
ダンス?ディフィート様とも?
ていうか8回って何?
ぐりんと隣席を見ると、アマンド様が更に顔を逸らした。
「安心なさい、レイリア。私が訂正しておいてあげたわ」
ニッコリ笑むジュディ様に、嫌な予感が増す。
「何度もどころか、5分に1回はキスする熱々ぶりだった、って。」
「ジュディ様ぁ!」
コロコロ笑うジュディ様の笑い声を響かせながら、馬車は進んで行く。
「着いたわね。」
1時間ほどして馬車が完全に停まり、降り立つと、目の前にはのどかな風景が広がっていた。
豊かな牧草地の向こうに連なる山々。
澄み渡る青空を、スイスイとトンボが横切っていく。
「こっちよ。」
手を引かれ、馬車の反対側に回り込んで、初めてその大きな建造物に気がついた。
アマンド様が、やはり、と頷く。
「メイソン競馬場、か。」
「そう!今日はマロニエ賞のレースがあるのよ」
ウキウキと入り口に向かうジュディ様を見遣りながら、アマンド様が小声でたずねてきた。
「ご令嬢の貯めたポイントは、もしや競馬に使っていると言うことか?」
「まさか・・!未成年ですし、流石にそれはないんじゃ?」
「でもだからこそ、易々と出来ないようにポイント制にしているんじゃないか?バトラーに代理で馬券を買わせるとか、手はいくらでもあるだろう?」
アマンド様の眉間の皺が深まる。
「レイリア、止めよう。侯爵家が許しても、流石にこれは見過ごせない。」
「は、はい!」
急ぎジュディ様を追いかけ入場すると、左手方向に大勢の人が列を作っており、その先に並ぶカウンターには『馬券売り場』と掲げられていた。
その列の後方で、ジュディ様がゲルトさんから何かの券を受け取っている。
「ご令嬢!」
「ジュディ様!その券は」
ダメです!と言う前に、「はい」と券を手渡された。
私とアマンド様に、1枚ずつ。
「一般席が良いって言ったのに、ゲルトが貴賓席を買ってきちゃったわ。いいかしら?」
「え?あ、これ馬券じゃ無い・・?」
よく見ると、『入場券』と印字されている。
「レイリアあなた・・馬券を買いたいの?」
ジュディ様が呆れたように馬券売り場を指差す。
「買いたいんだったらあそこに並ばないとだけど、年若い令嬢が馬券を買うなんてあまり褒められた行為じゃないから、婚約者に買ってもらいなさいね。私はパドックに行きたいから先に行くわよ」
ん?
アマンド様と顔を見合わせて、先へ急ごうとするジュディ様に慌てて声をかける。
「あの、ジュディ様?」
「何よ?」
「今日ここに来た理由って・・?」
ジュディ様は思い切り変な顔をした。
「ここに私が来る理由なんて、馬を見る以外、他に何があるの?」
「・・・ナイですね、ハイ」
怪訝な様子で一瞥するジュディ様を、私たちは素知らぬ顔でやり過ごした。
あなたにおすすめの小説
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
あのひとのいちばん大切なひと
キムラましゅろう
恋愛
あのひとはわたしの大切なひと。
でも、あのひとにはわたしではない大切なひとがいる。
それでもいい。
あのひとの側にいられるなら。
あのひとの役にたてるなら。
でもそれも、もうすぐおしまい。
恋人を失ったアベルのために奮闘したリタ。
その恋人がアベルの元へ戻ると知り、リタは離れる決意をする。
一話完結の読み切りです。
読み切りゆえにいつも以上にご都合主義です。
誤字脱字ごめんなさい!最初に謝っておきます。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
※表紙はあさぎかな先生(@yatusiro1)にコラージュアートを作成していただいたものです。
(*´˘`*)シアワセデスッ
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
【完結】私を裏切った前世の婚約者と再会しました。
Rohdea
恋愛
ファルージャ王国の男爵令嬢のレティシーナは、物心ついた時から自分の前世……200年前の記憶を持っていた。
そんなレティシーナは非公認だった婚約者の伯爵令息・アルマンドとの初めての顔合わせで、衝撃を受ける。
かつての自分は同じ大陸のこことは別の国……
レヴィアタン王国の王女シャロンとして生きていた。
そして今、初めて顔を合わせたアルマンドは、
シャロンの婚約者でもあった隣国ランドゥーニ王国の王太子エミリオを彷彿とさせたから。
しかし、思い出すのはシャロンとエミリオは結ばれる事が無かったという事実。
何故なら──シャロンはエミリオに捨てられた。
そんなかつての自分を裏切った婚約者の生まれ変わりと今世で再会したレティシーナ。
当然、アルマンドとなんてうまくやっていけるはずが無い!
そう思うも、アルマンドとの婚約は正式に結ばれてしまう。
アルマンドに対して冷たく当たるも、当のアルマンドは前世の記憶があるのか無いのか分からないが、レティシーナの事をとにかく溺愛してきて……?
前世の記憶に囚われた2人が今世で手にする幸せとはーー?
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た
青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。
それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。
彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。
ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・
ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。