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秋
初めてのレッスン
「レイリア、これが私のエリザベータよ。賢くて、私にとっても懐いているの」
コックスウェルを彷彿とさせる艶のある黒馬は、話に聞いていた通り、真っ白な鬣を持つ美しい馬だった。
体高は成馬ほどあるが、2歳だけあって、線はまだ細い。
「エリザベータ、レイリアよ。」
ジュディ様におとなしく撫でられていたエリザベータが、チラッとこちらを見た。
その長い顔を馬房から私に突き出してくる。
撫でろということだろうか。
おっかなビックリしながら鼻面を撫でていると、後ろ足をカツカツと鳴らしだした。
何かのサインのようだけど・・
「ブラッシングの催促だわ。」
「え・・私がですか?」
「私には1回もしたことがないけどね。ちょうどいいわ。乗馬の先生が間もなくいらっしゃるから、エリザベータを馬房から出さないとなの。外で待っている間にやってあげて。」
使用人に教わりながら、体のブラッシングを始める。
してほしい場所と違うと、エリザベータが後ろ足をカツカツ鳴らして振り返り、私をじっと見つめてくる。
主張が強い。
気が弱い馬だと聞いていたが、やはり飼い主に似てくるのだろうか。
カツカツ、と足音が聞こえ出すと慌てて場所を変えて探らねばならず、エリザベータが満足げにブルルンと鼻を鳴らす頃には一仕事終えた程度の疲労を感じた。
「ふふ、エリザベータとジュディはすっかりお友達ね」
そう笑うジュディ様だが、エリザベータが私のことを同等に見てくれているとは思えない。
格下に見られている。絶対に。
マルグリット侯爵は、ジュディ様に危険がないように、乗馬の先生をわざわざ頼んだらしい。
乗馬なんてお屋敷の騎士でも誰でも教えられそうだけれど、もしかしたら、ジュディ様が練習に入り浸らないように、「乗馬の先生がいない時じゃないと練習できない」ということにしたかったのかもしれない。
ブラッシングを終えて鞍を取り付けていると、こちらに向かう馬車が見えた。
「あぁ、先生がいらしたわ」
遠目ではあるものの、馬車の周囲は何頭もの馬が並走し、警備が随分と物々しい。
「すごい警備ですね・・」
先生は乗馬界の重鎮なのだろうか。
「・・・」
押し黙ったジュディ様の目の前に馬車が停まり、ドアが開く。
当たり前のように乗馬服を着た王子殿下が姿を現した。
「やぁジュディ。これから乗馬レッスンを担当するエルバートだ。」
「・・・」
「師弟関係にはなるけれど、ジュディとはそれよりも一歩踏み込んでフランクな関係を築いていきたい。先生呼びはせず、是非エルと呼んでほしいな。」
「ゲルト、どういうこと」
ジュディ様が綺麗に殿下を無視した。
「お父様が、『一流の乗馬の先生を準備する』と言うから受け入れたのよ?」
「はい、その通りでございます」
「ジュディ、その点については問題ないよ。」
殿下が胸ポケットから大事そうに何かを取り出し広げて見せた。
それは証書だった。
金縁の枠の中に『乗馬指導者ライセンス1級』の文字が見える。
『乗馬指導者ライセンス【1級】
以下の者に上記ライセンスを与える。
エルバート ジルシアド クライセン デュエ バルト(敬称略)
バルト王国馬術連盟 』
「1級はライセンスの中では一番上なんだ。幼児から競馬の騎手まで手広く教えることのできる資格だから安心してほしい。」
「5級から始めて、1級取得まで3年かかったよ。」と、いい笑顔で報告する王子殿下に対し、ジュディ様の声は低い。
「ゲルト、今日のお父様との観劇はキャンセルして。お父様とは金輪際、一切口を聞かないことにするわ。」
ようやく雪解けを迎えたと思われた父娘の和解は、早速撤回されてしまった。
その後、エリザベータが殿下にブラッシングを催促する非常に気まずい一幕を経て、レッスンが始まった。
不本意そうにレッスンを受けるジュディ様だったが、途中殿下と2人乗りで早駆けを体験する時などは声をあげて笑ったりもしていて。
乗馬を習うジュディ様は総じて楽しそうで、私もゲルトさんも胸を撫で下ろしたのだった。
コックスウェルを彷彿とさせる艶のある黒馬は、話に聞いていた通り、真っ白な鬣を持つ美しい馬だった。
体高は成馬ほどあるが、2歳だけあって、線はまだ細い。
「エリザベータ、レイリアよ。」
ジュディ様におとなしく撫でられていたエリザベータが、チラッとこちらを見た。
その長い顔を馬房から私に突き出してくる。
撫でろということだろうか。
おっかなビックリしながら鼻面を撫でていると、後ろ足をカツカツと鳴らしだした。
何かのサインのようだけど・・
「ブラッシングの催促だわ。」
「え・・私がですか?」
「私には1回もしたことがないけどね。ちょうどいいわ。乗馬の先生が間もなくいらっしゃるから、エリザベータを馬房から出さないとなの。外で待っている間にやってあげて。」
使用人に教わりながら、体のブラッシングを始める。
してほしい場所と違うと、エリザベータが後ろ足をカツカツ鳴らして振り返り、私をじっと見つめてくる。
主張が強い。
気が弱い馬だと聞いていたが、やはり飼い主に似てくるのだろうか。
カツカツ、と足音が聞こえ出すと慌てて場所を変えて探らねばならず、エリザベータが満足げにブルルンと鼻を鳴らす頃には一仕事終えた程度の疲労を感じた。
「ふふ、エリザベータとジュディはすっかりお友達ね」
そう笑うジュディ様だが、エリザベータが私のことを同等に見てくれているとは思えない。
格下に見られている。絶対に。
マルグリット侯爵は、ジュディ様に危険がないように、乗馬の先生をわざわざ頼んだらしい。
乗馬なんてお屋敷の騎士でも誰でも教えられそうだけれど、もしかしたら、ジュディ様が練習に入り浸らないように、「乗馬の先生がいない時じゃないと練習できない」ということにしたかったのかもしれない。
ブラッシングを終えて鞍を取り付けていると、こちらに向かう馬車が見えた。
「あぁ、先生がいらしたわ」
遠目ではあるものの、馬車の周囲は何頭もの馬が並走し、警備が随分と物々しい。
「すごい警備ですね・・」
先生は乗馬界の重鎮なのだろうか。
「・・・」
押し黙ったジュディ様の目の前に馬車が停まり、ドアが開く。
当たり前のように乗馬服を着た王子殿下が姿を現した。
「やぁジュディ。これから乗馬レッスンを担当するエルバートだ。」
「・・・」
「師弟関係にはなるけれど、ジュディとはそれよりも一歩踏み込んでフランクな関係を築いていきたい。先生呼びはせず、是非エルと呼んでほしいな。」
「ゲルト、どういうこと」
ジュディ様が綺麗に殿下を無視した。
「お父様が、『一流の乗馬の先生を準備する』と言うから受け入れたのよ?」
「はい、その通りでございます」
「ジュディ、その点については問題ないよ。」
殿下が胸ポケットから大事そうに何かを取り出し広げて見せた。
それは証書だった。
金縁の枠の中に『乗馬指導者ライセンス1級』の文字が見える。
『乗馬指導者ライセンス【1級】
以下の者に上記ライセンスを与える。
エルバート ジルシアド クライセン デュエ バルト(敬称略)
バルト王国馬術連盟 』
「1級はライセンスの中では一番上なんだ。幼児から競馬の騎手まで手広く教えることのできる資格だから安心してほしい。」
「5級から始めて、1級取得まで3年かかったよ。」と、いい笑顔で報告する王子殿下に対し、ジュディ様の声は低い。
「ゲルト、今日のお父様との観劇はキャンセルして。お父様とは金輪際、一切口を聞かないことにするわ。」
ようやく雪解けを迎えたと思われた父娘の和解は、早速撤回されてしまった。
その後、エリザベータが殿下にブラッシングを催促する非常に気まずい一幕を経て、レッスンが始まった。
不本意そうにレッスンを受けるジュディ様だったが、途中殿下と2人乗りで早駆けを体験する時などは声をあげて笑ったりもしていて。
乗馬を習うジュディ様は総じて楽しそうで、私もゲルトさんも胸を撫で下ろしたのだった。
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