130 / 165
秋
不審死を追って①
王都で、貴族の不審な死が増えている。
と言っても、表向きは病死とされているので、それが人々の話題に上ることはまだない。
全くの健康体だった隣人が、突然死という不幸に見舞われる。
死因となりそうな病気も見当たらず、結果、心臓麻痺で片付けられることが殆どだ。
だが、本当の死因はそうではない事を、王都の一部の者は知っている。
突然死の調査は今月に入って既に2件目だ。
王都の南にある中規模の教会から出てくると、グルトは左右を確認し、停車していた馬車に乗り込んだ。
「どうだった」
間髪入れずに聞いてきたのは、保安局の同僚キルシュナーだ。
今日の夕方開かれる会議に向けて、少しでも手がかりが欲しいキルシュナーに連れられ、グルトは聞き込みをしている。
無愛想で大柄なキルシュナーが声をかけたところで、警戒されるだけなので、聞き込みは専らグルトの担当だ。
結局グルトはひと月の予定だった交流研修の期間を延長され、未だに保安局にいる。
あれだけ嫌っていた保安局だったが、嫌味たらしく見えた同僚たちも、根はそんなに悪い者ばかりではない。
剣の腕にまかせて、悪い奴を片っ端から捕まえていく騎士の時とは違い、地道に証拠を集めていく保安局のやり方は地味な作業の連続で、とにかく時間がかかる。
グルトは着席して、キルシュナーに報告した。
「自室から飛び降りて、即死だったようです。」
「自殺か?」
「いえ、様子を聞くに、錯乱していたんじゃないかと。飲食もまともにとれず、最近は寝るのを極度に恐れていたそうです。」
「当たりだな。典型的な末期常習者だ。受け渡しは?」
「屋敷に届けられていたそうですが、使用人は介さず直接受け取っていて・・有力な情報はなかったです」
キルシュナーはふん、と鼻を鳴らした。
彼は、よくこうやって鼻を鳴らす。
組んだ当初は、自分のせいで相手の気を悪くさせたのかといちいち気を揉んだが、3ヶ月も一緒にいれば、これは自分に向けたものではないとわかってきた。
パチン、と音がして目をやると、隣に座るベルナードが懐中時計を確認した所だった。
オールバックの藍の髪はキッチリ整えられ、曇りのない眼鏡は細い鼻に行儀良く鎮座している。
いつもと雰囲気が違うのは、全身黒尽くめの服を着ているせいだろう。
保安局のエースであるベルナードは、元々はキルシュナーと組んでいたが、グルトとキルシュナーをペアにして、以降は実質の陣頭指揮を取っていた。
「時間だ。行くぞ」
ベルナードが胸元に懐中時計を仕舞いそう告げる。
キルシュナーが御者に「出してくれ」と声を掛けた。
次の目的地に向けて動き出す車内から、グルトはもう一度、教会に視線を向けた。
先ほど話を聞いた男は、今も亡くした主に祈りを捧げているのだろうか。
気が重くなり、そっと息を吐く。
「なんだ、疲れたか?」
目敏いベルナードには気づかれたらしい。
「いえ、この後の葬儀・・10歳、でしたっけ」
「ああ。突然死だから、一応な。私の知り合いの家だから顔を出しやすい。年齢的に、アレの可能性は低いだろう。疲れたなら馬車で休んでいろ。」
子どもの葬儀と聞いて憂鬱なのだと話しても、ベルナードには伝わるまい。
「いえ、疲れたとかじゃないです。大丈夫です」
「そうか?」
疲れてる時には甘いものがいいぞ、と差し出された飴を受け取って、口の中に放り込んだ。
『君は"グッドスリープ"を知っているか?』
ベルナードのこの言葉から、全てが始まった。
『最近世間を賑わせている、違法薬物だ。強力な幻覚剤だよ』
夏の終わり頃から増え出した突然死には、"グッドスリープ"が大いに関係している。
と言っても、表向きは病死とされているので、それが人々の話題に上ることはまだない。
全くの健康体だった隣人が、突然死という不幸に見舞われる。
死因となりそうな病気も見当たらず、結果、心臓麻痺で片付けられることが殆どだ。
だが、本当の死因はそうではない事を、王都の一部の者は知っている。
突然死の調査は今月に入って既に2件目だ。
王都の南にある中規模の教会から出てくると、グルトは左右を確認し、停車していた馬車に乗り込んだ。
「どうだった」
間髪入れずに聞いてきたのは、保安局の同僚キルシュナーだ。
今日の夕方開かれる会議に向けて、少しでも手がかりが欲しいキルシュナーに連れられ、グルトは聞き込みをしている。
無愛想で大柄なキルシュナーが声をかけたところで、警戒されるだけなので、聞き込みは専らグルトの担当だ。
結局グルトはひと月の予定だった交流研修の期間を延長され、未だに保安局にいる。
あれだけ嫌っていた保安局だったが、嫌味たらしく見えた同僚たちも、根はそんなに悪い者ばかりではない。
剣の腕にまかせて、悪い奴を片っ端から捕まえていく騎士の時とは違い、地道に証拠を集めていく保安局のやり方は地味な作業の連続で、とにかく時間がかかる。
グルトは着席して、キルシュナーに報告した。
「自室から飛び降りて、即死だったようです。」
「自殺か?」
「いえ、様子を聞くに、錯乱していたんじゃないかと。飲食もまともにとれず、最近は寝るのを極度に恐れていたそうです。」
「当たりだな。典型的な末期常習者だ。受け渡しは?」
「屋敷に届けられていたそうですが、使用人は介さず直接受け取っていて・・有力な情報はなかったです」
キルシュナーはふん、と鼻を鳴らした。
彼は、よくこうやって鼻を鳴らす。
組んだ当初は、自分のせいで相手の気を悪くさせたのかといちいち気を揉んだが、3ヶ月も一緒にいれば、これは自分に向けたものではないとわかってきた。
パチン、と音がして目をやると、隣に座るベルナードが懐中時計を確認した所だった。
オールバックの藍の髪はキッチリ整えられ、曇りのない眼鏡は細い鼻に行儀良く鎮座している。
いつもと雰囲気が違うのは、全身黒尽くめの服を着ているせいだろう。
保安局のエースであるベルナードは、元々はキルシュナーと組んでいたが、グルトとキルシュナーをペアにして、以降は実質の陣頭指揮を取っていた。
「時間だ。行くぞ」
ベルナードが胸元に懐中時計を仕舞いそう告げる。
キルシュナーが御者に「出してくれ」と声を掛けた。
次の目的地に向けて動き出す車内から、グルトはもう一度、教会に視線を向けた。
先ほど話を聞いた男は、今も亡くした主に祈りを捧げているのだろうか。
気が重くなり、そっと息を吐く。
「なんだ、疲れたか?」
目敏いベルナードには気づかれたらしい。
「いえ、この後の葬儀・・10歳、でしたっけ」
「ああ。突然死だから、一応な。私の知り合いの家だから顔を出しやすい。年齢的に、アレの可能性は低いだろう。疲れたなら馬車で休んでいろ。」
子どもの葬儀と聞いて憂鬱なのだと話しても、ベルナードには伝わるまい。
「いえ、疲れたとかじゃないです。大丈夫です」
「そうか?」
疲れてる時には甘いものがいいぞ、と差し出された飴を受け取って、口の中に放り込んだ。
『君は"グッドスリープ"を知っているか?』
ベルナードのこの言葉から、全てが始まった。
『最近世間を賑わせている、違法薬物だ。強力な幻覚剤だよ』
夏の終わり頃から増え出した突然死には、"グッドスリープ"が大いに関係している。
あなたにおすすめの小説
お飾りな妻は何を思う
湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。
彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。
次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。
そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。
貴方に私は相応しくない【完結】
迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。
彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。
天使のような無邪気な笑みで愛を語り。
彼は私の心を踏みにじる。
私は貴方の都合の良い子にはなれません。
私は貴方に相応しい女にはなれません。
あのひとのいちばん大切なひと
キムラましゅろう
恋愛
あのひとはわたしの大切なひと。
でも、あのひとにはわたしではない大切なひとがいる。
それでもいい。
あのひとの側にいられるなら。
あのひとの役にたてるなら。
でもそれも、もうすぐおしまい。
恋人を失ったアベルのために奮闘したリタ。
その恋人がアベルの元へ戻ると知り、リタは離れる決意をする。
一話完結の読み切りです。
読み切りゆえにいつも以上にご都合主義です。
誤字脱字ごめんなさい!最初に謝っておきます。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
※表紙はあさぎかな先生(@yatusiro1)にコラージュアートを作成していただいたものです。
(*´˘`*)シアワセデスッ
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
【完結】私を裏切った前世の婚約者と再会しました。
Rohdea
恋愛
ファルージャ王国の男爵令嬢のレティシーナは、物心ついた時から自分の前世……200年前の記憶を持っていた。
そんなレティシーナは非公認だった婚約者の伯爵令息・アルマンドとの初めての顔合わせで、衝撃を受ける。
かつての自分は同じ大陸のこことは別の国……
レヴィアタン王国の王女シャロンとして生きていた。
そして今、初めて顔を合わせたアルマンドは、
シャロンの婚約者でもあった隣国ランドゥーニ王国の王太子エミリオを彷彿とさせたから。
しかし、思い出すのはシャロンとエミリオは結ばれる事が無かったという事実。
何故なら──シャロンはエミリオに捨てられた。
そんなかつての自分を裏切った婚約者の生まれ変わりと今世で再会したレティシーナ。
当然、アルマンドとなんてうまくやっていけるはずが無い!
そう思うも、アルマンドとの婚約は正式に結ばれてしまう。
アルマンドに対して冷たく当たるも、当のアルマンドは前世の記憶があるのか無いのか分からないが、レティシーナの事をとにかく溺愛してきて……?
前世の記憶に囚われた2人が今世で手にする幸せとはーー?
さよなら、私の初恋の人
キムラましゅろう
恋愛
さよなら私のかわいい王子さま。
破天荒で常識外れで魔術バカの、私の優しくて愛しい王子さま。
出会いは10歳。
世話係に任命されたのも10歳。
それから5年間、リリシャは問題行動の多い末っ子王子ハロルドの世話を焼き続けてきた。
そんなリリシャにハロルドも信頼を寄せていて。
だけどいつまでも子供のままではいられない。
ハロルドの婚約者選定の話が上がり出し、リリシャは引き際を悟る。
いつもながらの完全ご都合主義。
作中「GGL」というBL要素のある本に触れる箇所があります。
直接的な描写はありませんが、地雷の方はご自衛をお願いいたします。
※関連作品『懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい』
誤字脱字の宝庫です。温かい目でお読み頂けますと幸いです。
小説家になろうさんでも時差投稿します。
(完結)婚約者の勇者に忘れられた王女様――行方不明になった勇者は妻と子供を伴い戻って来た
青空一夏
恋愛
私はジョージア王国の王女でレイラ・ジョージア。護衛騎士のアルフィーは私の憧れの男性だった。彼はローガンナ男爵家の三男で到底私とは結婚できる身分ではない。
それでも私は彼にお嫁さんにしてほしいと告白し勇者になってくれるようにお願いした。勇者は望めば王女とも婚姻できるからだ。
彼は私の為に勇者になり私と婚約。その後、魔物討伐に向かった。
ところが彼は行方不明となりおよそ2年後やっと戻って来た。しかし、彼の横には子供を抱いた見知らぬ女性が立っており・・・・・・
ハッピーエンドではない悲恋になるかもしれません。もやもやエンドの追記あり。ちょっとしたざまぁになっています。