大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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婚約者の様子がおかしいです。

深い海の底で、揺られているようだった。

私の輪郭が溶けて、周囲と一体になったかのような心地よさに身を任せていた。

何を考えるのも億劫で、ただ揺蕩んでいたいのに、ずっと、不快な何かにノックされ続けている。

は、麻痺した感覚を呼び覚まそうとするかのように、ずっと私に揺さぶりをかけている。

もっと、寝かせて欲しいのに。

(痛・・い・・)

漠然とわかるのだ。

起きてしまったら、きっともっとひどいことになる。

だから、この痛みから目を背けて、許される限り、寝続けていたい。

でも・・

「・・・ア」

時折聞こえる、切なそうなその声を聞くたびに、苦しくなる。

起きなければ、と思う気持ちが首をもたげる。

誰かが、泣いている。

「リア・・」

違う。

アマンド様が、泣いている。






(ふわっ!?)

目を開けると。白い天井が目に入った。

パチパチ、と瞬きをする。

室内の明るさを見るに、朝というより昼に近いんじゃないだろうか。

ここはどこだろう?

起きようと体に力を入れた瞬間、

「!」

全身が痛み、あえなく撃沈した。

痛い!全身痛い!

特に腕!左腕が・・!

寝転がったまま左腕に目を移すと、白い包帯が巻かれていた。

え、何で?

そこに来てようやく記憶を探り出す。

(そうだ・・私あの苦いチョコを食べた後に・・)

サアッと全身が冷えたその瞬間、「リア?」と傍らからアマンド様の声がした。

痛くないようにゆっくり右を向くと、くたびれた表情のアマンド様が私を凝視していた。

良くなったはずの隈がまた色濃くなっていて、しかも顔色も、行きの馬車の時より相当悪い。

思わず声に出ていた。

「顔色が悪い!」

馬車でしっかり寝せたはずなのに!

「アマンド様、すごい隈ですよ?また寝てないんでしょう!やっぱり馬車じゃゆっくり体を休められないと思ったんです。どこかベッドでちゃんと寝ていただかないと・・ア、アマンド様?ちょっと・・!」

アマンド様は私の言うことなんて聞こえていないみたいに、ボロボロと涙をこぼして抱きついて来た。

うっ!重い!痛い!

情けない声を上げると、ハッとしたように体を浮かせてくれたけど、体重をかけないようにしながらまた抱きしめられた。

今日はいつでここはどこなのか、色々と尋ねても、アマンド様は嗚咽を漏らしながら泣くばかりで、ちっとも答えてくれない。

うーん、これはどういう状況だろうか。

困り果てた所で、ドアが開く音と共に「まぁ!」と懐かしい声がした。

「よかった!目が覚めたのね?」

パタパタと近づくその人物に目を向ける。

「おばさま・・」

そこにいたのは、目を潤ませたアマンド様のお母さまだった。

「どう?痛い?何か欲しいものはある?いえ、その前に飲み物を・・」

「ここ・・もしかしてコルンの別荘です?」

「ええ!ええ、そうよ!ちゃんとわかるのね?良かった・・!お医者様は大丈夫って仰ってたけれど本当に心配したわ・・」

やっと話ができる人が来てくれた!

いったいあれから何がどうなって今ここにいるのか、聞きたいことは沢山あるけれど、おばさまもぐしぐしと泣いていて、質問を重ねるのも気が引ける。

アマンド様も全然離れてくれないし・・ん?

(お、お、お、お、おばさまの前で!アマンド様に抱きしめられてる!)

気が付いて「ㇶェ」と小さく声が漏れた。

しかも私の恰好・・ネ、ネグリジェでは!?

「ア、アマンド様!ちょっと!離れてください!離れましょ・・離し・・ぐぇ」

言えば言うほど密着してくるのは何故!

「ああ、もうその子は放っときなさい。」

メイドに医者を呼ぶように言付けて戻って来たおばさまが、呆れたような顔で、アマンド様の頭をペシリと叩いた。

「ごめんなさいね。何度もこの部屋から追い出そうとしたんだけど、聞かなくて・・さすがに2人きりにはできないから、日中は私も一緒に居たから安心してね。夜もメイドに付き添わせていたから・・一緒のベッドに入ろうとするのだけは、辛うじて阻止したわ」

見れば、私の寝台にカウチソファが横付けされていて、アマンド様はそこで過ごしていたようだった。

「今さっき、やっとアマンドが寝たから、少しお手洗いに行って戻って来たところだったの。本当にごめんなさいね。」

「あの・・私、どれくらい寝てました?ここに向かう馬車の途中から記憶がなくて・・」

「ああそうよね、順に説明するわね」

おばさまの話では、私が攫われたその日のうちに、アマンド様は私を救ってくれていた。

私を見つけた報せの指笛は鳴ったけれど、もう夜になっていて、捜索は難航したそうだ。

「でもね、西の離宮の王宮騎士団が駆けつけてくれて、夜通し捜索してくれたおかげで真夜中にあなたたちを見つけることができたんですって。そのまま野営して、その翌朝・・昨日の朝にこの別荘に着いたのよ。本当に、あの広い森の中で見つかって良かった・・レイリアちゃんが起きないのは薬の影響だろうってお医者様が言ってたけど、ずっと目が覚めないから本当に心配で・・」

「すみません・・」

「やだもう、あなたが謝ることなんて何もないの!怪我までさせてしまって、レイリアちゃんには本当に申し訳なくて・・謝っても謝りきれないわ。ディセンシア伯には昨日のうちにお知らせしてあるけど、そのうち正式に謝罪に伺うわね・・ほら、そろそろ先生がくるわ。アマンド、離れなさい!」

ペシリ、ペシリ、とおばさまがアマンド様を叩く。

「あのアマンド様、大丈夫ですか?なんだか顔色が悪くて・・」

「ああ、気にしないで?高熱があるから、まあそうなるでしょ」

「高熱!?」

いや、なんだか熱いなとは思いましたけど!

「いいのよ。救助を待つ間の寒さで体調を崩しただけだから。その後、ちゃんと休めばすぐ治っただろうに、少しずつでも水を摂らせるといいってお医者様に言われて、寝ずにあなたの口にすこーしずつお水を垂らしたりしてたから、こんな高熱になるほどこじらせちゃって。」

ほら、離れなさい!とまたペシリとアマンド様が叩かれる。

「お、おばさま、病人なんですから優しく・・」

「いいえ、騎士のくせにレイリアちゃんをこんな目に合わせたんだから。自業自得です!」

ピシャリと言い放ち、お医者様が到着するまで、おばさまはペシリ、ペシリとアマンド様を叩いていた。










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