大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

文字の大きさ
147 / 165

計画当日となりました

しおりを挟む
作戦決行の日。

私を誘拐した犯人達を餌にして、これから悪い貴族をおびき寄せ、捕まえるのだ。

この屋敷にいれば安全だと言われてはいるけれど、それでも肩に力が入る。

屋敷の中もずっと落ち着かない雰囲気だ。

おばさまもだけど、珍しくアマンド様まで、朝挨拶して以降ずっと姿を見せていない。

私もなんとなくそわそわしてしまって、無駄に部屋の中をうろうろしたり、窓の外を眺めたりしている。

今も窓に立ち、階下を眺めている。

それにしても、今日は見るたびに人が増えていく。

護衛の人なんて、今までの倍近くいるんじゃないだろうか?

いや、護衛の中に王宮騎士団も混じっているからそう見えるんだろう。

西の離宮の王宮騎士団が巡回してくれているとは聞いていたけれど、敷地内で見かけるのは初めてだった。

ほんと・・えらいことになってる・・!

そこまで考えて、ん?と首を傾げた。

王宮騎士団が、個人の邸宅を警護するなんてことあるだろうか。

それに、と私は視線を階下から門の方へ移動させる。

この警備の固めよう、不自然すぎやしないだろうか。

こんなに屋敷の警備を固めたら、襲撃されることをさも予想しているみたいで、計画が気づかれてしまうんじゃ・・

そこまで考えたところで、ドアがノックされた。

「お嬢様、奥様がお呼びです。応接間へどうぞ。」

「え、あ・・・はい。」

家令さんに案内されて、初めてこの部屋を出た。

廊下には深緑色の絨毯が張られ、落ち着いたカントリー調の内装で纏められている。

「こちらです」

少し緊張した面持ちの家令さんが連れてきてくれたドアの前にはまたも護衛・・じゃない。

一瞬、黒い騎士服なので王宮騎士団だと思った。

でも、王宮騎士団のマントは赤色のはず。

ドアの前にいる騎士は、騎士服だけでなく、金の縁飾りのついたマントまで黒一色だ。

あの騎士服は・・

(まさか・・近衛騎士?)

応接間のドアが開けられ、視界の隅に捉えた人物で瞬時に悟り、私は慌てて片腕で不格好なカーテンシーをした。

(エルバート王子殿下・・!)

「失礼」と断って、アマンド様が立ち上がり、私を席にエスコートしてくれる。

久々にお会いする王子殿下は正装で、この訪問は公式のものなのだろうと予想がついた。

殿下は立ち上がり、私が席に座るまで無言で待っていた。

「レイリアさん。急に呼び立ててすまなかった。まだ床に臥せっているだろうと思っていたの、先ほどアマンドからもう歩いていると聞いて、どうしてもこの目で確認したかったんだ。体調はどうだろうか」

「お気遣いいただき、ありがとうございます。私はもうこの通り、元気にしておりますわ」

元気アピールをしようと笑顔で声を張るけれど、殿下の視線は私の左腕にずっと注がれていた。

「まだ、痛むだろう・・腕については聞いていたが、右足も何か怪我を?わずかに庇った歩き方をしている。」

久々に長く歩いたせいでわずかに痛くなっただけなのに、殿下はよく見ていらっしゃる。

お見舞いの花束を頂いた後、殿下がここに来た理由をお話ししてくれた。

「君のお見舞いが一番の目的だけど、それを今日にしたのはね。この屋敷の警備を万全にして、間違ってもこちらを襲撃させる気すら起こさせないようにしたかったからなんだ。私がここにくれば、近衛も王宮騎士団も引き連れてこれるからね。」

「そんなことのためにご足労いただいたなんて・・・」

申し訳なさすぎる。

「いや、今日のこの計画は王家うちも注目しているんだ。事の成り行きを近場から確認しておきたかったのもある。レイリアさんが畏まる必要はないよ」

「ありがとうございます。でも私如きのお見舞いという名目は少し無理があるような・・」

恐る恐るそう言うと、殿下は首を横に振った。

「友人が怖い目に遭ったんだ。本当に、心配したよ。」

「・・ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」

「ジュディも、君が事故に遭ったと聞いてから随分弱ってしまっている。」

「ジュディ様が・・?」

「ジュディには今回の計画は漏らせないから、馬車が落ちて君が意識不明の重体だとしか伝えてないんだ」

「あ・・」

正直、弱気になったジュディ様なんて想像がつかないけれど、それはれとても心苦しい。

本当はこんなに元気なのに余計な心配をさせてしまって申し訳な・・ん?それは何というか、大丈夫だろうか。

「王子殿下・・私こんなにピンピンしてるんですが、大丈夫でしょうか?」

心ならずも、結果的にジュディ様を欺いているような・・?

殿下の表情がわずかに翳ったように見えた。

「・・・なるべく穏便に済ませたいが、無理だろうね。心配をかけた君も多少責められるだろうが・・真実を伝えなかった私は、今回ばかりは無事では済まないだろうな」

ですよね。

これから確実に来るであろうジュディ様の報復。

私と殿下はそろって大きなため息をついた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた

今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。 二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。 ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。 その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。 が、彼女の前に再びアレクが現れる。 どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…

『めでたしめでたし』の、その後で

ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。 手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。 まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。 しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。 ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。 そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。 しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。 継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。 それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。 シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。 そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。 彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。 彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。 2人の間の障害はそればかりではなかった。 なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。 彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。

[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜

h.h
恋愛
王子グレンの婚約者候補であったはずのルーラ。互いに想いあう二人だったが、政略結婚によりグレンは隣国の王女と結婚することになる。そしてルーラもまた別の人と婚約することに……。「将来僕のお嫁さんになって」そんな約束を記憶の奥にしまいこんで、二人は国のために自らの心を犠牲にしようとしていた。ある日、隣国の王女に関する重大な秘密を知ってしまったルーラは、一人真実を解明するために動き出す。「国のためと言いながら、本当はグレン様を取られたくなだけなのかもしれないの」「国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ」 二人は再び手を取り合うことができるのか……。 全23話で完結(すでに完結済みで投稿しています)

元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。

有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。 けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。 ​絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。 「君は決して平凡なんかじゃない」 誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。 ​政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。 玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。 「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」 ――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ

汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。 ※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。

完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。 王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。 貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。 だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……

「ばっかじゃないの」とつぶやいた

吉田ルネ
恋愛
少々貞操観念のバグったイケメン夫がやらかした

処理中です...