大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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実は重症かもしれません。

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別荘に滞在して1週間が経った。

元々の予定通り、今日からカインが別荘に来るというので私は楽しみに待っていた。

というのも、悪い貴族を捕まえる計画が上手くいったことで、ようやく私にも外出許可が下りたのだ。

荷物を置いたらすぐに出かけようとカインを待つ。

「姉さん!」

馬車を降りてこちらに駆け寄ってくるカインに手を振っていると、ギュッと抱き着かれた。

「姉さん、大丈夫?・・ほんと、心配したんだぞ」

涙目でそう言うカインに謝って、元気アピールを繰り返したことで、カインはようやく笑顔を見せるようになった。

「姉さんが拐われて怪我をしたって聞いて、大変だったんだ・・しかもその理由が馬車が落ちたからだろう?それ聞いて、母さんが失神して倒れちゃうわ、キーラは号泣するわ、セバスチャンも皿を落として割っちゃっうわで・・倒れた母さんを慌てて助け起こそうとした弾みで、父さんぎっくり腰になっちゃうしさ・・」

「そ、そんなことが・・」

軽く想像しただけで修羅場・・

「そんな訳で、すぐにこっちに来れなかったんだ。命に別状はないとは聞かされていたけど、本当は皆、すぐにでも会いに来たかったんだよ」

「それでお父様もお母様も大丈夫なの?」

「うん。母さんは全然元気。父さんはまだベッドから起き上がれないけどね」

それは何というか、私より重症なのでは・・。



カインが疲れていないというので、早速馬車に乗って30分ほどのところにあるコルンの街に向かう。

もちろん、護衛の鍛錬を終えたアマンド様も一緒だ。

以前は私のそばを離れたがらなかったアマンド様だったが、犯人たちだけでなく悪い貴族も捕まったことで気持ちが切り替わったらしい。

ようやく私の部屋に入り浸ることはなくなり、鍛錬に勤しむようになった。

以前のアマンド様に戻ったようで、ひと安心である。

「カインは何か見たいものはあるのか?」

「あ、なんかさ、昔伝説の剣士が練習用に使っていた大木があるらしくて、すごい刀傷があるんだって!それ見たい!」

「ああ、あそこか。わかった。街を見たら帰りがけに寄って行こう。」

馭者に行き先を言づけて、アマンド様がまた隣に座った。

「そういや姉さん宛に届いたお見舞いの手紙、持ってきたから後で渡すね」

「まあ、ありがとう」

長閑な田舎道をポクポク進む。

外は秋晴れで空が高い。

やっと休暇らしい1日になりそうで、気持ちも自然に上向く。

と、唐突に馬車が止まった。

すぐに動き出さないのを気にして、アマンド様が馭者に声をかける。

「どうした?」

「すみません、若。前の馬車が止まっちまって・・どうやら車輪の調子が悪いらしくて・・」

カチャリ、と音がして見ると、アマンド様が剣の柄を握った音だった。

「あ、アマンド、外に出ますか?」

いつも通り助けに出るのだろうと、通りやすいように足を引っ込めるが、アマンド様は座ったままだ。

あれ?

「前の馬車は道を塞いでるのか?」

「あ、いえ。脇に寄っているので塞いでは・・」

「出せ。」

「はい?」

「馬車を出せ。」

「「え!?」」

にべもなく言うアマンド様に、私も馭者さんも思わず聞き返した。

「追い越せと言っている。」

「あ、アマンド様?」

聞き間違えだよね?

馭者さんも焦った声を出す。

「いいんですかい?相当困ってそうな顔でこっちを見てますけど・・」

フン、とアマンド様が鼻を鳴らす。

「罠だ」

「わ、罠?」

「俺が外に出ている間にレイリアを攫うつもりだろう」

・・・先ほどまで普通に見えていたアマンド様の表情に余裕がなくなり、目がギラギラと鋭い光を放つ。

「え・・あの爺さんがですかい?」

馭者さんが向こうを二度見した。

「いや、あの爺さんはゼペタさんですよ。去年息子に養豚場を譲って、隠居してる爺さんです」

「ほ、ほら。アマンド様。大丈夫ですよ。ゼペタさんを助けてあげてください。」

「・・・」

「アマンド様、ね?」

絶対に自分以外の誰かを馬車に載せないように念入りに私に約束させ、ぶつぶつ言いながらアマンド様が馬車から降りて行った。

「ねえ、アマンドってあんなんだったっけ?」

こそっとカインに聞かれて、私は苦笑いするしかない。

アマンド様の後遺症は、もしかしたら誰より重症かもしれない。

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