149 / 165
秋
実は重症かもしれません。
しおりを挟む
別荘に滞在して1週間が経った。
元々の予定通り、今日からカインが別荘に来るというので私は楽しみに待っていた。
というのも、悪い貴族を捕まえる計画が上手くいったことで、ようやく私にも外出許可が下りたのだ。
荷物を置いたらすぐに出かけようとカインを待つ。
「姉さん!」
馬車を降りてこちらに駆け寄ってくるカインに手を振っていると、ギュッと抱き着かれた。
「姉さん、大丈夫?・・ほんと、心配したんだぞ」
涙目でそう言うカインに謝って、元気アピールを繰り返したことで、カインはようやく笑顔を見せるようになった。
「姉さんが拐われて怪我をしたって聞いて、大変だったんだ・・しかもその理由が馬車が落ちたからだろう?それ聞いて、母さんが失神して倒れちゃうわ、キーラは号泣するわ、セバスチャンも皿を落として割っちゃっうわで・・倒れた母さんを慌てて助け起こそうとした弾みで、父さんぎっくり腰になっちゃうしさ・・」
「そ、そんなことが・・」
軽く想像しただけで修羅場・・
「そんな訳で、すぐにこっちに来れなかったんだ。命に別状はないとは聞かされていたけど、本当は皆、すぐにでも会いに来たかったんだよ」
「それでお父様もお母様も大丈夫なの?」
「うん。母さんは全然元気。父さんはまだベッドから起き上がれないけどね」
それは何というか、私より重症なのでは・・。
カインが疲れていないというので、早速馬車に乗って30分ほどのところにあるコルンの街に向かう。
もちろん、護衛の鍛錬を終えたアマンド様も一緒だ。
以前は私のそばを離れたがらなかったアマンド様だったが、犯人たちだけでなく悪い貴族も捕まったことで気持ちが切り替わったらしい。
ようやく私の部屋に入り浸ることはなくなり、鍛錬に勤しむようになった。
以前のアマンド様に戻ったようで、ひと安心である。
「カインは何か見たいものはあるのか?」
「あ、なんかさ、昔伝説の剣士が練習用に使っていた大木があるらしくて、すごい刀傷があるんだって!それ見たい!」
「ああ、あそこか。わかった。街を見たら帰りがけに寄って行こう。」
馭者に行き先を言づけて、アマンド様がまた隣に座った。
「そういや姉さん宛に届いたお見舞いの手紙、持ってきたから後で渡すね」
「まあ、ありがとう」
長閑な田舎道をポクポク進む。
外は秋晴れで空が高い。
やっと休暇らしい1日になりそうで、気持ちも自然に上向く。
と、唐突に馬車が止まった。
すぐに動き出さないのを気にして、アマンド様が馭者に声をかける。
「どうした?」
「すみません、若。前の馬車が止まっちまって・・どうやら車輪の調子が悪いらしくて・・」
カチャリ、と音がして見ると、アマンド様が剣の柄を握った音だった。
「あ、アマンド、外に出ますか?」
いつも通り助けに出るのだろうと、通りやすいように足を引っ込めるが、アマンド様は座ったままだ。
あれ?
「前の馬車は道を塞いでるのか?」
「あ、いえ。脇に寄っているので塞いでは・・」
「出せ。」
「はい?」
「馬車を出せ。」
「「え!?」」
にべもなく言うアマンド様に、私も馭者さんも思わず聞き返した。
「追い越せと言っている。」
「あ、アマンド様?」
聞き間違えだよね?
馭者さんも焦った声を出す。
「いいんですかい?相当困ってそうな顔でこっちを見てますけど・・」
フン、とアマンド様が鼻を鳴らす。
「罠だ」
「わ、罠?」
「俺が外に出ている間にレイリアを攫うつもりだろう」
・・・先ほどまで普通に見えていたアマンド様の表情に余裕がなくなり、目がギラギラと鋭い光を放つ。
「え・・あの爺さんがですかい?」
馭者さんが向こうを二度見した。
「いや、あの爺さんはゼペタさんですよ。去年息子に養豚場を譲って、隠居してる爺さんです」
「ほ、ほら。アマンド様。大丈夫ですよ。ゼペタさんを助けてあげてください。」
「・・・」
「アマンド様、ね?」
絶対に自分以外の誰かを馬車に載せないように念入りに私に約束させ、ぶつぶつ言いながらアマンド様が馬車から降りて行った。
「ねえ、アマンドってあんなんだったっけ?」
こそっとカインに聞かれて、私は苦笑いするしかない。
アマンド様の後遺症は、もしかしたら誰より重症かもしれない。
元々の予定通り、今日からカインが別荘に来るというので私は楽しみに待っていた。
というのも、悪い貴族を捕まえる計画が上手くいったことで、ようやく私にも外出許可が下りたのだ。
荷物を置いたらすぐに出かけようとカインを待つ。
「姉さん!」
馬車を降りてこちらに駆け寄ってくるカインに手を振っていると、ギュッと抱き着かれた。
「姉さん、大丈夫?・・ほんと、心配したんだぞ」
涙目でそう言うカインに謝って、元気アピールを繰り返したことで、カインはようやく笑顔を見せるようになった。
「姉さんが拐われて怪我をしたって聞いて、大変だったんだ・・しかもその理由が馬車が落ちたからだろう?それ聞いて、母さんが失神して倒れちゃうわ、キーラは号泣するわ、セバスチャンも皿を落として割っちゃっうわで・・倒れた母さんを慌てて助け起こそうとした弾みで、父さんぎっくり腰になっちゃうしさ・・」
「そ、そんなことが・・」
軽く想像しただけで修羅場・・
「そんな訳で、すぐにこっちに来れなかったんだ。命に別状はないとは聞かされていたけど、本当は皆、すぐにでも会いに来たかったんだよ」
「それでお父様もお母様も大丈夫なの?」
「うん。母さんは全然元気。父さんはまだベッドから起き上がれないけどね」
それは何というか、私より重症なのでは・・。
カインが疲れていないというので、早速馬車に乗って30分ほどのところにあるコルンの街に向かう。
もちろん、護衛の鍛錬を終えたアマンド様も一緒だ。
以前は私のそばを離れたがらなかったアマンド様だったが、犯人たちだけでなく悪い貴族も捕まったことで気持ちが切り替わったらしい。
ようやく私の部屋に入り浸ることはなくなり、鍛錬に勤しむようになった。
以前のアマンド様に戻ったようで、ひと安心である。
「カインは何か見たいものはあるのか?」
「あ、なんかさ、昔伝説の剣士が練習用に使っていた大木があるらしくて、すごい刀傷があるんだって!それ見たい!」
「ああ、あそこか。わかった。街を見たら帰りがけに寄って行こう。」
馭者に行き先を言づけて、アマンド様がまた隣に座った。
「そういや姉さん宛に届いたお見舞いの手紙、持ってきたから後で渡すね」
「まあ、ありがとう」
長閑な田舎道をポクポク進む。
外は秋晴れで空が高い。
やっと休暇らしい1日になりそうで、気持ちも自然に上向く。
と、唐突に馬車が止まった。
すぐに動き出さないのを気にして、アマンド様が馭者に声をかける。
「どうした?」
「すみません、若。前の馬車が止まっちまって・・どうやら車輪の調子が悪いらしくて・・」
カチャリ、と音がして見ると、アマンド様が剣の柄を握った音だった。
「あ、アマンド、外に出ますか?」
いつも通り助けに出るのだろうと、通りやすいように足を引っ込めるが、アマンド様は座ったままだ。
あれ?
「前の馬車は道を塞いでるのか?」
「あ、いえ。脇に寄っているので塞いでは・・」
「出せ。」
「はい?」
「馬車を出せ。」
「「え!?」」
にべもなく言うアマンド様に、私も馭者さんも思わず聞き返した。
「追い越せと言っている。」
「あ、アマンド様?」
聞き間違えだよね?
馭者さんも焦った声を出す。
「いいんですかい?相当困ってそうな顔でこっちを見てますけど・・」
フン、とアマンド様が鼻を鳴らす。
「罠だ」
「わ、罠?」
「俺が外に出ている間にレイリアを攫うつもりだろう」
・・・先ほどまで普通に見えていたアマンド様の表情に余裕がなくなり、目がギラギラと鋭い光を放つ。
「え・・あの爺さんがですかい?」
馭者さんが向こうを二度見した。
「いや、あの爺さんはゼペタさんですよ。去年息子に養豚場を譲って、隠居してる爺さんです」
「ほ、ほら。アマンド様。大丈夫ですよ。ゼペタさんを助けてあげてください。」
「・・・」
「アマンド様、ね?」
絶対に自分以外の誰かを馬車に載せないように念入りに私に約束させ、ぶつぶつ言いながらアマンド様が馬車から降りて行った。
「ねえ、アマンドってあんなんだったっけ?」
こそっとカインに聞かれて、私は苦笑いするしかない。
アマンド様の後遺症は、もしかしたら誰より重症かもしれない。
379
あなたにおすすめの小説
元婚約者様へ――あなたは泣き叫んでいるようですが、私はとても幸せです。
有賀冬馬
恋愛
侯爵令嬢の私は、婚約者である騎士アラン様との結婚を夢見ていた。
けれど彼は、「平凡な令嬢は団長の妻にふさわしくない」と、私を捨ててより高位の令嬢を選ぶ。
絶望に暮れた私が、旅の道中で出会ったのは、国中から恐れられる魔導王様だった。
「君は決して平凡なんかじゃない」
誰も知らない優しい笑顔で、私を大切に扱ってくれる彼。やがて私たちは夫婦になり、数年後。
政争で窮地に陥ったアラン様が、助けを求めて城にやってくる。
玉座の横で微笑む私を見て愕然とする彼に、魔導王様は冷たく一言。
「我が妃を泣かせた罪、覚悟はあるな」
――ああ、アラン様。あなたに捨てられたおかげで、私はこんなに幸せになりました。心から、どうぞお幸せに。
[完結]「私が婚約者だったはずなのに」愛する人が別の人と婚約するとしたら〜恋する二人を切り裂く政略結婚の行方は〜
h.h
恋愛
王子グレンの婚約者候補であったはずのルーラ。互いに想いあう二人だったが、政略結婚によりグレンは隣国の王女と結婚することになる。そしてルーラもまた別の人と婚約することに……。「将来僕のお嫁さんになって」そんな約束を記憶の奥にしまいこんで、二人は国のために自らの心を犠牲にしようとしていた。ある日、隣国の王女に関する重大な秘密を知ってしまったルーラは、一人真実を解明するために動き出す。「国のためと言いながら、本当はグレン様を取られたくなだけなのかもしれないの」「国のためと言いながら、彼女を俺のものにしたくて抗っているみたいだ」
二人は再び手を取り合うことができるのか……。
全23話で完結(すでに完結済みで投稿しています)
完結 貴族生活を棄てたら王子が追って来てメンドクサイ。
音爽(ネソウ)
恋愛
王子の婚約者になってから様々な嫌がらせを受けるようになった侯爵令嬢。
王子は助けてくれないし、母親と妹まで嫉妬を向ける始末。
貴族社会が嫌になった彼女は家出を決行した。
だが、有能がゆえに王子妃に選ばれた彼女は追われることに……
家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた
今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。
二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。
ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。
その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。
が、彼女の前に再びアレクが現れる。
どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…
その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*
音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。
塩対応より下があるなんて……。
この婚約は間違っている?
*2021年7月完結
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
『めでたしめでたし』の、その後で
ゆきな
恋愛
シャロン・ブーケ伯爵令嬢は社交界デビューの際、ブレント王子に見初められた。
手にキスをされ、一晩中彼とダンスを楽しんだシャロンは、すっかり有頂天だった。
まるで、おとぎ話のお姫様になったような気分だったのである。
しかし、踊り疲れた彼女がブレント王子に導かれるままにやって来たのは、彼の寝室だった。
ブレント王子はお気に入りの娘を見つけるとベッドに誘い込み、飽きたら多額の持参金をもたせて、適当な男の元へと嫁がせることを繰り返していたのだ。
そんなこととは知らなかったシャロンは恐怖のあまり固まってしまったものの、なんとか彼の手を振り切って逃げ帰ってくる。
しかし彼女を迎えた継母と異母妹の態度は冷たかった。
継母はブレント王子の悪癖を知りつつ、持参金目当てにシャロンを王子の元へと送り出していたのである。
それなのに何故逃げ帰ってきたのかと、継母はシャロンを責めた上、役立たずと罵って、その日から彼女を使用人同然にこき使うようになった。
シャロンはそんな苦境の中でも挫けることなく、耐えていた。
そんなある日、ようやくシャロンを愛してくれる青年、スタンリー・クーパー伯爵と出会う。
彼女はスタンリーを心の支えに、辛い毎日を懸命に生きたが、異母妹はシャロンの幸せを許さなかった。
彼女は、どうにかして2人の仲を引き裂こうと企んでいた。
2人の間の障害はそればかりではなかった。
なんとブレント王子は、いまだにシャロンを諦めていなかったのだ。
彼女の身も心も手に入れたい欲求にかられたブレント王子は、彼女を力づくで自分のものにしようと企んでいたのである。
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる