大好きな彼の婚約者の座を譲るため、ワガママを言って嫌われようと思います。

airria

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ようやく別荘ライフを満喫します

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無事車輪が直り、ペコペコと頭を下げるゼペタさんに手を振りながら、馬車はまた田舎路を走る。

幾らもしないうちに、遠くに白い一角が見えてきた。

「あ、ほら!あれがコルンの"白キノコ"ね!」

円柱状の白い石壁に、これまた白い円錐形の屋根を乗せた建物がいくつも並ぶ。

コルンでもここでしか見られない遺跡群で、その姿形から"白キノコ"の愛称で親しまれる、コルンで一番有名な観光地だ。

今でも多くが住居だが、一部店舗にもなっているらしい。

「小人でも住んでそうな見た目ね。」

「姉さん知ってる?あの遺跡が"白キノコ"って呼ばれてるのを知った商人が白マッシュルームを持ち込んで、それから本当にこの辺りの特産品がマッシュルームになったって話。私塾で習ったんだ!」

「マッシュルームの串焼きは有名だな。土産ものもキノコグッズばかりで女性に人気がある。」




馬車が到着して、早速観光だ。

遠めに見えた”白キノコ”は小屋くらいの大きさで、それが何軒も連なっている。

白壁が青空と紅葉に映える。

近場にあった土産物店に入ってみると、部屋同士が繋がっていて、中は意外にも広い。

「本当にキノコグッズばかり・・」

軒先にも店内にもずらっとキノコグッズが並ぶ。

本物そっくりの白マッシュルームの置物にはじまって、マッシュルーム型の帽子、アクセサリー、マッシュルームそっくりの子供用椅子まである。

「あ、これ可愛い」

マッシュルームのペンスタンドを見つけて眺めていると、「気に入ったのがあった?」とアマンド様が覗き込んだ。

「これお土産にいいかな、と思って。」

笠の部分に穴が空いていて、そこにペンを挿すと、本物のマッシュル―ムからペンが生えているようだ。

「ジュディ様にと思ったんですけど・・」

心配をかけてしまったし、こんな可愛いペンスタンドがデスクにあったら、少し和むかなぁなんて思った。

でも、ちょっと庶民的すぎるお土産かしら・・。

そう伝えると、そばを離れたアマンド様が「レイリア、これは?」と別の棚を差し示した。

同じマッシュルームのペンスタンドだが、こちらは陶器で出来ていて、愛らしい妖精が腰掛けている。

「わ・・可愛い。妖精の種類も沢山!」

「好きな色で名前を入れてくれるみたいだぞ?」

「え?あ、ほんとですね!」

値札の横に、「名入れします」と書いてある。

「どの妖精にする?」

どれも可愛い・・!

悩んでから、薄紫色の蝶々の羽を持つ妖精に決める。

小首を傾げて微笑む様子がジュディ様っぽい。

紫色で「ジュディ」と名入れしてもらい、少し考えてから、机仕事の多いお父様には小人が傍らに立つマッシュルームのペンスタンドを選ぶ。

カインも小人のペンスタンドを選び、「ロイ」と名入れしてもらっているようだ。

名入れ後、包んでもらったものを受け取ると、アマンド様が当然のように支払ってくれた。



街並みを見ながら連れ立って歩いていく。

そこここで屋台が出ていて、おなかが減ったアマンド様とカインはマッシュルームと厚切りベーコンが交互に刺さった串焼きを選んで食べだした。

「あっっつ!熱い!あ、でもうまっ!」

「うまい・・塩加減が絶妙だな」

「え、このベーコンめっちゃうまくない?脂が甘い!えーもっと買ってくればよかった!」

「カイン、何本だ?今買ってきてやる」

「え?いいの?」

「俺も追加するからな」

「そ、そんな美味しいの?」

なんだか二人の様子を見ているとおなかが減ってくる。

ベンチで座って待っていると、少しして両手に皿を持ったアマンド様が戻ってきた。

ひと皿に5本ずつくらい載っているんじゃないだろうか。

「カイン、こっちの皿のはトッピングでチーズものせてきた。焼きたてだぞ」

「マジ!?さすがアマンド!わかってんなー!」

ひと皿をカインに渡して、アマンド様が私の隣に座る。

「レイリアも食べるだろう?」

「はいっ!」

串を持とうと手を伸ばすとツイっと皿を遠ざけられた。

「レイリア、片手で何かあったら危ないだろう」

串を手に持ったアマンド様がフーフーと串焼きに息を吹きかけている。

「アマンド様、串焼きごときで何があるというんですか・・」

そうぼやいている間に口元に「ほら」と串焼きを差し出された。

渋々口を開き、マッシュルームを迎え入れる。

ジューシーでかぐわしい香りが口いっぱいに広がった。

ベーコンも炭で炙っているせいか、脂がカリッとして甘くて本当においしい。

「チーズのせも食べるか?」

うんうんと頷く私にアマンド様は満足そうに笑って、再び串を差し出した。

とろりと溶けたチーズがマッシュルームを覆っている。

これもまた美味しい!

チーズのコクとミルキーさが、マッシュルームの芳醇さを引き上げている。

「美味しい?」

目を輝かせて頷く私だが、ここで困ったことが起きた。

期待に胸を弾ませながら次のチーズ乗せベーコンを口に含めたのだが、串から伸びたチーズが切れないのだ。

串から体を遠ざけてみたけれど、むしろさっきよりも伸びている部分が太くなってしまった。

この姿は恥ずかしいし、手でチーズを切るのもお行儀が悪い。

ベーコンを咀嚼中で話せない私は、アマンド様に目線でアピールする。

串の方をくるくるするなりして、巻き付けてチーズ切ってもらえませんか?

「チーズ?」

本日何度目か、うんうん頷く。

アマンド様が流れるように同じ串から次のマッシュルームを食べた。

「?」

そのまま伸びたチーズを舌に巻き付けながら辿って・・私の唇にチュッと触れる。

「うん、うまいな」と言って何事もなかったかのように次に手を伸ばすアマンド様。

チーズは切れていた。

固まったまま、ゆっくりと隣を振り返る。

幸いなことにカインは伸びるチーズと格闘していてこちらを見ていなかったようだ。

「アマンド、チーズ切れない!ちょっと助けて!」

新しい串を手に持って、アマンド様がチーズを絡めとる様子を見ながら私は心中で突っ込む。

アマンド様・・・さっきも普通にチーズ切れましたよね?
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