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冬
除け者たちの会談
「ハァ・・」と、重苦しいため息が部屋に響く。
日曜の朝イチで、目の前の御仁に呼び出され、登城した訳だが。
ジュディ嬢の誕生日パーティから締め出されたことを憂い、エルバート王子殿下は再びため息を吐いた。
「それで、アマンドはどうするんだ。」
そう言われて、俺は肩を竦める。
「どうするもこうするも…さすがに招待されていないのに侯爵家に乗り込むわけには行きませんし・・」
そう、あの令嬢に二言はない。
レイリアの誕生日パーティーを一緒に開くと言えば実現させるし、俺たちを参加させないと決めたら、どう足掻いたところで参加を許してはくれないだろう。
だから仕方ない。
・・仕方ないんだ。
そこまで考えたところで、勝ち誇ったようなジュディ嬢の顔が思い出され、グッと拳を握りこむ。
んなわけあるか!
レイリアの18歳の誕生日だぞ?
順風満帆、これから結婚に向けて一直線というところなのに、レイリアの誕生日に一緒にいられないとか、なんの冗談だ!
去年のレイリアの誕生日、俺はまだレイリアへの思いをかなり拗らせていたし、ちょうど夜通しの仕事も入ってしまい、満足に祝うことはできなかった。
だから今年こそは、という気持ちがあった。
それだけじゃない。
一旦は王都に重体説が流れたレイリアが、主役として、表立って出る場ということで社交界の注目度は高い。
リアに怪我をさせるという失態を犯した俺がそのパーティーに同伴していないとなれば、俺とリアの関係を邪推する者も出てくるだろう。
今やリアはマルグリット侯爵家のお気に入り、引いてはジュディ嬢贔屓の王妃殿下の覚えもめでたい、社交界注目の人物だ。
俺との関係に少しでも綻びを見つければ、レイリアとお近づきになろうとする輩が必ず出てくる。
(一分の隙も見せられるか!結婚することを大々的にアピールするチャンスだったのに!)
俺が沸々と怒りを溜めていると「困ったな‥」と殿下が呟いた。
「今回のジュディの誕生日に合わせて、私も婚約を発表するつもりだったんだが…」
俺はパッと顔を上げた。
婚約?婚約と言ったか?
「そうですか!とうとうご婚約を!」
あのジュディ嬢が了承するとは思わなかったが、そこまで2人の仲は進展してたのか!
「・・ああ。王家と侯爵家の間では、話はついている。」
力なく微笑む殿下。
ん?
「殿下、まさか・・当のご令嬢は、婚約をご承知おきなんですよね?」
殿下はわかりやすく顔を逸らした。
おぉい!そこが最大の関門だろ!
「私からのサプライズプレゼントとして、その場で発表するつもりだった・・のだが」
「・・・」
一番ダメなパターンだろ、それ。
ジト目の俺に殿下は「わかっている」と息を吐いた。
「わかっているんだ、アマンド。普通の令嬢ならそれで外堀は埋められるだろうが、ジュディには無意味だと。だが、誰もジュディに婚約の話をしてくれない。」
「あー・・・」
察した俺に、殿下が続ける。
「マルグリット侯爵がこれ以上ジュディの不興を買いたくないからとかなりゴネてな。婚約には承諾してくれたが、王家の一方的な発表ということにしてくれるなら、と条件がついた。王家」も同様で、ジュディの恨みを買いたくないから本人へ知らせる役回りだけはやりたくない、と。」
深刻そうな顔で、両家の非協力を告白する殿下は、「斯くなる上は、自分で、何とかするしかないんだ。」と独りごちた。
ジュディ嬢のあの気の強さだ。
相手が王家だとしても、勝手に決められた婚約とあれば黙っていないだろう。
これは・・巻き込まれないに限る。
「それは大変ですね。私でお力になれることは無いでしょうが、陰ながら応援して」
「上手く、行ってたんだ」
俺の言葉をわざわざ遮って、殿下が言葉を被せてくる。
イヤな予感しかしないが、俺が言葉を挟めるはずもない。
「乗馬のレクチャーを重ねて、ジュディとはかなり距離を縮められてね。はしゃいだジュディが無意識にではあるが、昔のように愛称で私を呼んでくれたりもしたこともあった。あの時は、ようやく信頼を取り戻せたようで嬉しかったよ。この分なら、多少は揉めるだろうが、私との婚約も最終的には承諾してくれるだろうと、王家もマルグリットも胸を撫で下ろしていたところだったんだ。それなのに・・」
殿下は窓の外に目を向けた。
俺の位置からは殿下の横顔が見れたが、その目線は窓の外のどこか遠くに向けられている。
「君たちの事件がね、ああ、いや失礼、君達がどうこうという訳じゃないんだ。そこは誤解しないで聞いて欲しいんだが、レイリアさんが転落して意識不明の重体だとか、心ならずもジュディを欺く形になってしまっただろう?実は誘拐だった件も伏せていたし、あれでジュディが完全にお冠なんだ。」
ぐ・・
切々と語る殿下に、俺の良心はチクチクと痛みを訴える。
「そこからは口も聞いてもらえない、没交渉に逆戻りしてしまった。だからと言って、国の安全とレイリアさんの名誉のために、あの時はそうするしかなかったからね。婚約者候補とは言え、一介の貴族令嬢に仔細を話せる訳はない。その結果、私がジュディから嘘つきと呼ばれることになっても、婚約発表どころか婚約を結べるかも危うくなったとしてもね。ああ、婚約で思い出した。アマンド、レイリアさんに婚約指輪を贈ったそうじゃないか。順調そうで何より。羨ましい限りだ」
俺は耐えきれずに、胸を押さえてガクリと膝をついた
くそっ、胸が痛い。
「殿下、その節は申し訳ありませんでした・・!そんな大変なご迷惑をおかけしていたとは・・」
「わかってくれたか、アマンド」
あー。
言いたくない。
言いたくないが、言うしかない。
「せめてものご恩返しに・・ジュディ嬢との間を取り持つお手伝いを・・どうかさせてもらえませんか」
そうか、と静かに頷いて、殿下が右手を差し出してきた。
「締め出された者同士、何とか頑張ろう。頼りにしている」
殿下と握手を交わしながら思うことはただひとつ。
ああ、面倒なことになった。
日曜の朝イチで、目の前の御仁に呼び出され、登城した訳だが。
ジュディ嬢の誕生日パーティから締め出されたことを憂い、エルバート王子殿下は再びため息を吐いた。
「それで、アマンドはどうするんだ。」
そう言われて、俺は肩を竦める。
「どうするもこうするも…さすがに招待されていないのに侯爵家に乗り込むわけには行きませんし・・」
そう、あの令嬢に二言はない。
レイリアの誕生日パーティーを一緒に開くと言えば実現させるし、俺たちを参加させないと決めたら、どう足掻いたところで参加を許してはくれないだろう。
だから仕方ない。
・・仕方ないんだ。
そこまで考えたところで、勝ち誇ったようなジュディ嬢の顔が思い出され、グッと拳を握りこむ。
んなわけあるか!
レイリアの18歳の誕生日だぞ?
順風満帆、これから結婚に向けて一直線というところなのに、レイリアの誕生日に一緒にいられないとか、なんの冗談だ!
去年のレイリアの誕生日、俺はまだレイリアへの思いをかなり拗らせていたし、ちょうど夜通しの仕事も入ってしまい、満足に祝うことはできなかった。
だから今年こそは、という気持ちがあった。
それだけじゃない。
一旦は王都に重体説が流れたレイリアが、主役として、表立って出る場ということで社交界の注目度は高い。
リアに怪我をさせるという失態を犯した俺がそのパーティーに同伴していないとなれば、俺とリアの関係を邪推する者も出てくるだろう。
今やリアはマルグリット侯爵家のお気に入り、引いてはジュディ嬢贔屓の王妃殿下の覚えもめでたい、社交界注目の人物だ。
俺との関係に少しでも綻びを見つければ、レイリアとお近づきになろうとする輩が必ず出てくる。
(一分の隙も見せられるか!結婚することを大々的にアピールするチャンスだったのに!)
俺が沸々と怒りを溜めていると「困ったな‥」と殿下が呟いた。
「今回のジュディの誕生日に合わせて、私も婚約を発表するつもりだったんだが…」
俺はパッと顔を上げた。
婚約?婚約と言ったか?
「そうですか!とうとうご婚約を!」
あのジュディ嬢が了承するとは思わなかったが、そこまで2人の仲は進展してたのか!
「・・ああ。王家と侯爵家の間では、話はついている。」
力なく微笑む殿下。
ん?
「殿下、まさか・・当のご令嬢は、婚約をご承知おきなんですよね?」
殿下はわかりやすく顔を逸らした。
おぉい!そこが最大の関門だろ!
「私からのサプライズプレゼントとして、その場で発表するつもりだった・・のだが」
「・・・」
一番ダメなパターンだろ、それ。
ジト目の俺に殿下は「わかっている」と息を吐いた。
「わかっているんだ、アマンド。普通の令嬢ならそれで外堀は埋められるだろうが、ジュディには無意味だと。だが、誰もジュディに婚約の話をしてくれない。」
「あー・・・」
察した俺に、殿下が続ける。
「マルグリット侯爵がこれ以上ジュディの不興を買いたくないからとかなりゴネてな。婚約には承諾してくれたが、王家の一方的な発表ということにしてくれるなら、と条件がついた。王家」も同様で、ジュディの恨みを買いたくないから本人へ知らせる役回りだけはやりたくない、と。」
深刻そうな顔で、両家の非協力を告白する殿下は、「斯くなる上は、自分で、何とかするしかないんだ。」と独りごちた。
ジュディ嬢のあの気の強さだ。
相手が王家だとしても、勝手に決められた婚約とあれば黙っていないだろう。
これは・・巻き込まれないに限る。
「それは大変ですね。私でお力になれることは無いでしょうが、陰ながら応援して」
「上手く、行ってたんだ」
俺の言葉をわざわざ遮って、殿下が言葉を被せてくる。
イヤな予感しかしないが、俺が言葉を挟めるはずもない。
「乗馬のレクチャーを重ねて、ジュディとはかなり距離を縮められてね。はしゃいだジュディが無意識にではあるが、昔のように愛称で私を呼んでくれたりもしたこともあった。あの時は、ようやく信頼を取り戻せたようで嬉しかったよ。この分なら、多少は揉めるだろうが、私との婚約も最終的には承諾してくれるだろうと、王家もマルグリットも胸を撫で下ろしていたところだったんだ。それなのに・・」
殿下は窓の外に目を向けた。
俺の位置からは殿下の横顔が見れたが、その目線は窓の外のどこか遠くに向けられている。
「君たちの事件がね、ああ、いや失礼、君達がどうこうという訳じゃないんだ。そこは誤解しないで聞いて欲しいんだが、レイリアさんが転落して意識不明の重体だとか、心ならずもジュディを欺く形になってしまっただろう?実は誘拐だった件も伏せていたし、あれでジュディが完全にお冠なんだ。」
ぐ・・
切々と語る殿下に、俺の良心はチクチクと痛みを訴える。
「そこからは口も聞いてもらえない、没交渉に逆戻りしてしまった。だからと言って、国の安全とレイリアさんの名誉のために、あの時はそうするしかなかったからね。婚約者候補とは言え、一介の貴族令嬢に仔細を話せる訳はない。その結果、私がジュディから嘘つきと呼ばれることになっても、婚約発表どころか婚約を結べるかも危うくなったとしてもね。ああ、婚約で思い出した。アマンド、レイリアさんに婚約指輪を贈ったそうじゃないか。順調そうで何より。羨ましい限りだ」
俺は耐えきれずに、胸を押さえてガクリと膝をついた
くそっ、胸が痛い。
「殿下、その節は申し訳ありませんでした・・!そんな大変なご迷惑をおかけしていたとは・・」
「わかってくれたか、アマンド」
あー。
言いたくない。
言いたくないが、言うしかない。
「せめてものご恩返しに・・ジュディ嬢との間を取り持つお手伝いを・・どうかさせてもらえませんか」
そうか、と静かに頷いて、殿下が右手を差し出してきた。
「締め出された者同士、何とか頑張ろう。頼りにしている」
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ああ、面倒なことになった。
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