白銀の王

春乃來壱

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4.穏やかな朝。

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「……ん」

眩しさに目を細めながらお腹になにか重みを感じそちらに目を向けると、碧のお腹にむいが顔を乗せてスヤスヤと寝ていた。
その寝顔を見ながら起きない様に優しく頭を撫でる。

「あ、起きたっすか?」

むいを撫でているとガチャりとドアが開き、人間姿のフィーが入ってくる。

「おはよう、フィー。…俺って、寝れてた?」

「はいっす。1番最初にむいが寝ちゃって、その寝顔を見てたらだんだんとミドリくんもウトウトし始めて。とは言ってもミドリくんが寝たのは3時間くらいっすけど…」

「そっか」

3時間だけでも碧にとっては衝撃的だった。今までは龍斗達がいなければ全くと言っていいほど眠れなかったのだ。なのに何故…と、そこまで考えて碧は、ふと記憶に引っ掛かりを覚える。

碧が龍斗たちに引き取られてすぐの頃、碧を心配してくれた龍斗と奈那が夜一緒に居てくれた時は眠れていたし、中学校で行った修学旅行では泊まった旅館で輝璃と2人部屋になった時も喋ってる間に眠っていた。

それからも輝璃や龍斗が一緒に居てくれた時は眠れていたし…自分は人が近くにいると眠れたのか、と思うもそれは何か違う気がした。

碧の親から龍斗達に引き取られるまで数日間だけ施設で過ごしたが、その時は碧を安心させるために施設の人が近くにいてくれたが眠れなかった。中学校の修学旅行だって、旅館の次の日にホテルに泊まった時は大人数部屋だったが暗いし眠れないしで、明るいロビーへ移動して朝まで本を読んでいた記憶がある。

「…龍斗達と一緒の時だけ眠れてる?」

「カガリさんってミドリくんの大切な人っすよね?」

フィーの言葉を聞き、碧はパズルの最後のピースがカチリとハマったような気分になった。

「…あ、そっかわかった」

「…?なにかわかったんすか?」

「俺、好きな人と一緒に居る時だけ寝れるらしい」

言葉にすると我ながら子供っぽい理由だなぁ、と少し顔が赤くなる。
でもそれ以外に理由がないと思った。
龍斗や奈那さん、輝璃に雪は碧のずっと一緒にいたいと思える大切で大好きな人達で。

昨日の夜に碧は、むいの寝顔を見ながらフィーと話している時に2人のことを好きだと思ったのだ。

見ず知らずの自分のことを助けようとここまで連れてきてくれたむいも、嫌悪している帝国人かもしれない自分を治して助けてくれたフィーも。優しくて温かい2人を大切だと、そう思ったのだ。

「ふふ…安心したら寝れるなんて、そんな子供っぽい理由とは思わなかったなぁ」

ずっと前から悩んでたことの理由が分かってスッキリした碧はくすくすと笑みを零すと、むいからポンっと音がする。人の姿に戻ったむいが眠そうに目を擦りながら碧を見つめてくる。

「ミドリは、むいとフィーのこと、すき?」

「うん。好きだよ」

「…そんなストレートに伝えられると流石に照れるっすねぇ」

フィーが照れくさそうに頬をかきながら「でも ありがとうっす」と言いながら碧の頭を撫でてくる。

「じゃあこれからは3人一緒に寝るっすからね」

「みんなでねるの?!」

それを聞いてむいが きゃー!と嬉しそうに飛び跳ねる。
その姿が微笑ましくてくすくす笑っていると、フィーがむいにひそひそと何かを伝え始めた。
碧が首をかしげているとフィーとむいがこちらを向いて笑いながら「むいたちもミドリのことすきだよ!」と伝えてくれる。

その後しばらくほのぼのした告白大会は続いた。ひとしきり笑ったあと、フィーが作ってくれた朝ごはんを食べながら碧の元いた世界や輝璃達の話をする。

「地球に魔法はなかったけど飛行機って呼ばれる乗り物があってね……」

「それでね、龍斗ったら“この前のお返しだー!”とか言って俺のと間違えて奈那さんが楽しみに取っておいたケーキ食べちゃってさ……」

「輝璃と雪ってあんまり似てないって思われがちなんだけど、すっごく似てるんだよ。初めて会った時もね……」

「俺、ルーティアに飛ばされた時は不安だったけど、輝璃や雪も居てすごくほっとしたんだよね……」

話してるとニコニコ相槌を打ちながら聞いていたフィーの表情がだんだんと曇り出す。

「フィー?どうかした?」

「…ミドリくんが急にいなくなったからカガリさん達心配してるんじゃないっすか?それに、ミドリくん今帝国じゃ犯罪者ってことになってるんすよね?早く誤解を解きに行かないと…でも今行ったら危険…?いやでも早く行かないとミドリくんのお友達も危ない目にあうかもしれないっすし…僕とむいで行って連れてくればいいんすかね?あぁ、でも僕、お友達の顔知らないっす、まぁでも行ってみたら意外とわかるかもしれないっすし…」

フィーが口に手を当て難しい顔でブツブツ言いながら考え込む。どうやら本気で城に乗り込もうかと考え始めてるようなので慌てて止める。

「わー!待って待って落ち着いて!輝璃達なら大丈夫だから!」

「でも早く行かないと…!あのクズに何されるかわかったもんじゃないっすよ!」

碧の話を聞いて会ったことも無い輝璃達を本気で心配しているらしいフィーに、碧は自分が落ち着いていられる理由を話す。

「輝璃達は遠くない内に災厄の森ここに来ると思うから大丈夫だよ」

「え?ここに来るんすか?」

「ミドリのともだち来るの?むいと遊んでくれるかな?」

今までご飯に夢中だったむいが碧の友達、と聞いて目を輝かせて聞いてくる。

「うん。待ってたら来るよ。きっとフィーもむいも2人と気が合うよ」

碧が笑いながらそういうとフィーは何故わかるのか、といった顔でこちらを見ていた。

「…輝璃と雪は凄いんだよ。なんたって俺のヒーローだからね」

碧が笑みを浮かべながらそう言うと、フィーは少しキョトンとしてから「ミドリくんがそう言うなら大丈夫なんすね」と納得して、話題は昨日碧が頼んでいた魔法の話に移った。

魔法は奥が深いらしく、魔法のランクにも初級魔法、中級魔法、上級魔法、最上級魔法、神級魔法と種類がある。

魔法の分類も、練習すれば誰でも使えるような生活魔法から、攻撃魔法、防御魔法、回復魔法、サポート魔法、召喚魔法、空間魔法、黒魔法、白魔法などかなり多くの種類あるが今でも魔法研究などで増えていっているらしい。

「まぁ魔法に関しては実際見た方がわかりやすいと思うっす。ご飯食べ終わったら外に出て練習するっすよ」

その助言通り、ご飯を食べ終えてむいと遊んでから3人で外に出た。

「じゃあまずはライトから練習していくっす」

ライトと言うのは生活魔法の1つで小さく明かりを灯す魔法で、フィーからの説明を聞く限りイメージ的には豆電球くらいの明るさらしい。

「あれ?すぐ魔法属性ってやつを調べるわけじゃないんだね?」

魔力マナの流れが分かってればそれでもいいんすけど…ミドリくんの世界は魔法がない世界らしいっすからまずは魔力の流し方から練習するんす」

「あ、そっか…確かに俺 魔力の流れって言われてもわからないや」

「焦ってる訳でもないっすしゆっくりやってくっすよ」

「そうだね」

「魔法を使う時の1番簡単なコツは、どこからどんなふうに出すのかをイメージしながら使うことっすね。例えば、手のひらにライトの魔法を出す時は手に少し力を込める感じで…【ライト】」



「おお…!」

フィーが魔法を使うと、碧の目の前に
【生活魔法・ライトを取得しました】と文字が浮かび、機械的なアナウンス音が流れた。

なんだかゲームっぽいなぁと思いながらフィーの方に再び視線を向けると、フィーの掌には5センチほどの光る球体がふよふよと浮かんでいた。

「慣れるまでは自分の体の一部から魔法が出るようにイメージしてやるとやりやすいと思うっす。あ、それと生活魔法は大丈夫っすけど、攻撃魔法の時の込めるマナの量には気をつけるっすよ。攻撃魔法はマナを込めれば込めた分だけ威力が上がったりするっすからね。」

「へぇ…じゃあ初級魔法でも魔力を込め続ければかなり強い攻撃になるってこと?」

「原理的にはそうっすね。でも魔力を多く込めるにはかなり繊細なマナのコントロールが必要になってくるんすけどそれを失敗するとそのまま魔法が爆発したりするんす」

「…え。なにそれこわい…」

「まぁ余程のことがない限り魔法の爆発は起きないと思うんで安心するっす。マナの流し方さえわかれば量の調節も結構簡単にできるようになるっすよ」

「そうなんだ…よかった」

「ミドリくんはまずマナの流れを知ることからっすかね。ちょっと失礼するっすよ」

そう言いながらフィーは碧の両手を取った。碧が首を傾げると、

「僕がミドリくんに少しだけマナを流すからその流れを覚えて欲しいっす」

「ん。わかった。頑張って覚えるね」

「じゃあ行くっすよ」

フィーが目を閉じたので碧もそれに習い目を閉じる。

繋いだ手から温かい何かが入ってきて、手から腕へ流れそこからゆっくりと全身に巡っていき最後に腹部に集まりその流れが止まった。なんだかポカポカする。

碧が目を開けるとフィーが手を離しながらこちらを見てくる。

「…わかったっすか?」

「うん!」

「それは良かったっす。じゃあその流れを意識しながら手にマナを集めるイメージで“ライト”って言ってみるっす」

「わかった……【ライト】」

フィーの言われた指示通りにイメージしてやってみると碧の手からも5センチほどのピカピカ光る球体が出てきた。初めて魔法が使えて嬉しくなった碧は笑顔のままフィーに顔を向けると何故か驚いた顔をしていた。

「あれ?なんか俺おかしかった?」

不安になり声をかけるとフィーはハッとした様子で首を左右に振り否定する。

「あ!違うんす!何処もおかしな所はなかったんすけど、ただあまりにも僕のと似てたもんっすから」

「…?人によって魔法って違ってくるものなの?」

フィーによると今使った“ライト”の魔法は初めて使う時はもっと小さく、2センチほどの大きさで光も微弱なものらしい。

そこから大きさを変えたり光の強弱を調節するもので、何度も使い慣れてくると、魔法発動時に大きさや光の強弱を好きなように変えて出せる様になるとの事だった。

「だからミドリくんが1発でその大きさを出したんで少しびっくりしたんす。」

「そうだったんだ…でもなんで出来たんだろう?」

「…ワタリビトは最初から使えるようになってるとかなんすかね?ちょっとステータス見せてもらってもいいっすか?」

「わかった。…ステータス」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
Lv1
名前:小鳥遊 碧
性別:男
年齢:18歳
種族:人類種
体力:3250/3250
魔力:5050/5100
攻撃力:1820
防御力:1200
命中率:Lv.3
回避率:Lv.1
幸運力:Lv.Max
状態:呪い(解呪済)

役職:怪盗 Lv.Max
【⠀効果  】あらゆるモノを盗むことが出来る。

〖 ライト 〗

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