トガビト_ワールドクリエイション

ウツロうつつ

文字の大きさ
12 / 86
第3章~大戦~

第12話 混沌2――なんか一周しちゃって逆に冷めてきた。

しおりを挟む
―――10年前
  ブラックの獲物を求めての旅路は、ブラックの予想以上に難航していた。

 それもそうだ。今までブラックが獲物を探し回っていた狩場は星の中に限定されていた。しかし、今は宇宙が狩場、それは砂漠の中で一つの砂粒を見つけるよりも更に難しいことである。

 その証拠にブラックはあの暗い星を旅立ってから一匹の獲物すら喰らえていなかった。

 しかし、ブラックのこれまでの80年は全くの無駄だったというわけではない。ブラックはこの80年で自身の身体を精緻にコントロールする術――マナコントロールを高いレベルまで獲得していた。

 そのため、以前はほぼ勘に近い形で行っていた、マナによる索敵を意識的に行えるようになっており、その上、自身の保有するマナを勢い良く放出することによる高速移動まで出来るようになっていた。

 また、基本的にマナ生命体に食事などはいらない。そのためブラックが餓死することもない。しかし、ブラックは知ってしまっていた。同胞を喰らう愉しさを、充足感を、万能感を。

 故に80年もの断食はブラックにどうしようもないほどの飢餓感を与え、渇いていた。

 そんなブラックの渇きが呼び水を呼んだのか、ブラックの広範囲に及ぶ索敵が、一体のマナ生命体の反応を感知した。しかし、その獲物はブラックが今までに喰らってきた獲物と何処か違う。
 
――まずは感じるマナの保有量だ。明らかにこの獲物方が多くのマナを保有している。次は形だ。いつもの丸いだけの形じゃない。もっと複雑で見たこともない形をしている。どうする、やめておくか。しかし、久方ぶりの獲物である。形など些細なことであるし、マナも多ければ多いほど良い。

 ブラックは決める。次の獲物はこいつにすると。

 ならば後は喰らうだけ、ブラックは獲物に向かって矢のように真っ直ぐ、一直線に飛び出した。

 ブラックが獲物に近づくにつれて、その姿が明らかになる。獲物は人型をしていた。しかし、この宙域に『秩序コスモス』はまだ一人も来ていないはずだ。つまり、そこにいる個体は『混沌カオス』に属する個体であるのだろう。なぜその個体がブラックのいる宙域にいたのかはわからない。たまたまなのか、誰かの意図によるものなのか、兎に角、今ブラックが補食しようとしている個体は『混沌』に属する個体であろうということだ。

 ブラックと獲物の距離もあとわずか。そこまで来たところで、獲物の方も高速飛来してくるブラックに気が付く。

「な、なんだぁ!!」

 自身に高速飛来してくる巨大な物体。獲物は驚きの声を上げながら腕を交差させて防御姿勢をとる。が、いつまで経っても衝突の衝撃はやってこない。獲物は間抜けな顔をして「ああ?」と声を上げた。どうやらブラックは獲物を掠めるように通り抜けたようだ。しかし、ブラックはなぜそんなことしたのか、逸る心を抑えられず失敗したのか。いや、違う。

 獲物は急な喪失感に襲われる。そういえば体の調子がどこかおかしい。自身の目で体を点検する。右手はある。左手もある。体は、右足はある。左足、がない。

「あ、あ、あ、あしぃいぎゃーーー」

 突然の緊急事態に獲物は叫び声を上げる。

「く、くそぅ何なんだあいつ」

 今までに感じたことのない大きな喪失感に耐えながら、獲物は自身を喰らった襲撃者の行方を探す。しかし、見つからない。

「一体どこにいきやが――」 

 言い切る前に再度の衝撃。今度は警戒していたせいもあってかはっきりとわかる。右腕が喰われたと。

 左足に次いで右腕を失った大きな喪失感に獲物は必死に耐えている。ここで冷静さまで失ってはいけないと。

 獲物は何としてでも襲撃者を見つけねばと、必死の形相で目を凝らす。すると、一瞬ではあるが視界の端に何かを捉えた。

「そこか!!」

 捉えた何かを確認すべく、獲物は頭をその方向に向ける。が、そこにはなにもいない。次の瞬間、また視界の端に何かを捉えた。今度はほぼ反射的に反応し、体を向けるも何もなし。それを4度、5度と繰り返したところで獲物は気が付く。。こいつは自分をなぶることを愉しんでいると。気付いたことで、獲物の中にあったなにかが切れる

「ふっざけんなぁ!!」

 自身の保有するマナを体外に高速放出することによる周囲への無差別砲撃。マナを大量に失っているにも関わらず、自分から更にマナを放出するなど愚の骨頂。ではあるが獲物はこのままなぶり殺しされるよりはまだましと、それ以上にこの気に入らない襲撃者への怒りが獲物に愚を犯させた。

「はぁ、はぁ、どうだコラ、これで……」

 獲物に小さな衝撃、次の瞬間これまでに比べて小さな喪失感。今度は右の足の足首から先が喰われていた。

「――、――、―!!」

 言葉にならない叫び。獲物は絶望した。しまった。自分は攻撃したのではない、のだと。その証拠に自身にはもう攻撃をする余力はなく、今まで影も形もなかった襲撃者がその姿を現している。丸い体を二つに裂いて、嘲るようにこちらを見ている。

 後は最後の仕上げのみ、ケイオスは獲物にゆっくりと近づいていき、いつかのように一口で獲物を体内に取り込みゆっくりと溶かし始める。

「――!!――!!―!―!―!―」

 いつかの獲物とは違い、今回の獲物はマナも多く、何よりも頭が良い分、怒り、悲しみ、痛み、苦しみ、そして失望。様々な感情を吐き出し、それはブラックを大いに愉しませた。

 獲物の命が絶え、その魂を吐き出すと、ブラックにある変化が起きた。

 それまで知りようのなかった知識や経験といった記憶が怒涛のようにブラックの頭に押し寄せてきたのだ。経験したことのない事態に、ブラックは混乱するが、記憶の波は嵐がやがて凪になるように、その勢いを段々と弱めていき、それに伴ってブラックの混乱も治まっていった。

――はは!こんなこともあるんだな」

 それは、ブラックが初めて行った言葉を使用した思考であった。

 それまで野山を駆ける獣程度の知能しかなかったブラックが言葉を用いたのである。

――しっかし、獲物の肉――マナだっけか?こんな特性があるとはな

 ブラックの言うマナの特性とは、記憶の保存が出来るという特性のことであった。

 今までもブラックは多くのマナ生命体を喰らってきたが、そのどれもが誕生したばかりの個体で、何かを記憶する前に、もしくは何かを記憶してもその経験は浅く、喰われても新たな知識や経験としてブラックに蓄積されなかった。そのため、今の今までマナのその特質はブラックに気付かれることはなかった。

 ちなみにではあるが、レイはマナのこの特性については全く知らない。

 ブラックは獲物を喰らうことで得た情報を、ゆっくりと咀嚼するように念入りに吟味する。

 すると、自身の今の姿について思い至る。そういえばこのままだったなと。

 ブラックは自身の丸い形を変形させ始める。

 誰を基にしようか、こいつか?はたまたこいつか。ブラックは獲物の記憶にあった様々な人型から自分に相応しい形を選ぶ。髪は短く白色に、瞳は紅色が良い。体はスラリと細身にしよう。服はレザー生地の上下黒色だ

 完成した新たな体にブラックは違和感を覚える。何かが違う……ああそうだ!これでは大きすぎるのだと。

 違和感に気が付いたブラックは自身の体をそのまま小さくすることにする。大きな体を小さくするには無理矢理小さくするしかない、そう考えたブラックは自身の体を構成するマナを無理矢理に圧縮、適正な大きさに調節する。

「よっしゃ!こんなもんだろ」

 ブラックは自身の体を点検するように見回し満足する。

「後は……名前、か」

 ブラックというのは便宜上の名前で、ブラック自身がそう呼ばれていることなどブラックは知らない。

 ブラックは獲物の記憶の中にあった『秩序』と『混沌』についての記憶に注目する。『秩序』、管理者!?この宇宙を管理する!?あり得ねえ、誰かの下につくのもごめんこうむる。で、あれば『混沌』だな。Chaos、KhAOS

「よっしゃ!!」

 ブラックは決めた。自身の呼び名とその在り方を

「俺の名前はケイオスだ!!」

 名は体を表す。ここに混沌を冠する者が誕生した。この者は宇宙に何をもたらすのか、それは誰もまだ知らない。
 混沌故に……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

スキル買います

モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」 ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。 見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。 婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。 レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。 そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。 かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。

処理中です...