スローなライフにしてくれ

soue kitakaze

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第2章 的ななんかそいう感じの章

第31話 6級剣士・オヨリ

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 それから数分ほど待たされて、退屈し始めたころに神官が戻ってきた。

「お待たせしました。それでは2回戦を始めたいと思います」
「ちょっと待った、神官さん」
「はい、なんでしょうか」

「俺だけ2試合もやらされて、なんのメリットもなしなのか?」
「はぁ(ゴミを見る目)」
「はぁ(ゴミを見る目)じゃねぇよ。なんかあるだろ。お金が余分にもらえるとか、ひのきのぼうがもう1本プレゼントされるとか」

「ひのきのぼう? そんなもので良ければ何本でも差し上げますが」
「そのぐら……あっそうなの? じゃあ3本でも……そか、それならやろうじゃないか」

(分からん。この子の価値観がまったく分からん。たった1ドルのひのきのぼうにどんな思い入れがあるというのだ)

(注:キオスクでの販売価格10ドルは、店主がコウイチを素人だと見てぼったくったものだと思われる)

 一方そのころ、対戦相手の待合室では大騒動になっていた。

「お、おい。どうしたんだヤマシタ、血だらけじゃないか」
「う。。。ががががいつっくぅぅ」
「分かったもういい、しゃべるな。おい、早く治療魔法師のところへ連れて行け」

「どうするとあんなケガを負うことになるんだろう」
「医学の心得があるウトウでも分からんのなら、俺に分かるわけはない。俺たちは戦闘を見られないからな。ケガだけじゃなく意識ももうろうとしていたようだ。どんな攻撃を受けたらあんな風になるのだろう」

「ヤマシタは動きこそいまいちだが、頑丈さでは俺たち以上のものがあったはずだ。それがあんな血だらけで病院送りにされるとは」
「ちょっと頭には問題があったけどな」
「あと性格にもな」
「態度が悪いし弱いものには威張り散らすし」

「カガミもウトウもケガ人の悪口はそこまでだ。それよりやつをそこまで痛めつけたのは魔法と考えて良いだろうか?」
「じっくり見たわけはないが、大きな外傷は見当たらなかった。刀剣の類いではないと思う」

「刀剣も使わずにどうして顔があんな血だらけに?」
「寄ってたかってなぶり殺しにでもすればあのぐらい」
「相手はひとりだろ?」
「「「うぅむ?」」」

 血はほぼ口から出ているのだが、飛び散って全身に付着していた。それを一瞬見ただけで原因を把握するのは困難であった。本人がしゃべれなかったのでなおさらである。

 相手は入学して1日目の10級なのだから、いくら飛び級試験だとはいえ、情報収集が必要なほど強敵だとは誰も考えていなかった。

 そのうえ敗者本人は口を利くこともできず、そもそも正気を保ってさえいなかった。誰の目にもすぐ病院に運ばないといけない状態であり、あれこれ聞くわけにもいかなかった。圧倒的に情報が足りていないのである。

「オヨリ、次はお前が対戦するんだよな」
「ああ、神官殿にそう依頼された。最初の子のように手加減などしていたらこちらがやられそうだ」
「ヤマシタは永遠の9級だから良いが、俺たちは10級なんぞにみっともないマネはできないぞ」
「分かっているよカガミ。油断などしないさ」

「ん? そういえば最初のオヨリの相手ってエルフだったと言ってたな」
「ああ、そうだった。エルフで剣士は珍しい……そうか、エルフか」
「うむ。ヤマシタの相手も同じエルフだったとしたら、遠距離攻撃ということが濃厚だ」
「そういうことだな。弓か魔法か、あるいはその両方か」

「それでもあのケガは説明がつかないが」
「だが、遠距離攻撃には違いあるまい。開始直後が要注意、ということだな」

 彼らの読みはそれほど的外れではなかった。ただ、それが想像をはるか斜め上に越えたものであったことで、悲劇は繰り返されるのである。

 闘技場にふたりが入る。見つめ合う目と目。オヨリは相手の観察に余念がない

(やはりエルフか。しかしなんだあの棒のようなものは。戦いに使うものなのか? 遠距離攻撃者じゃなかったのか)

コウイチ「ぼけー」

(魔法の杖にしてはでかすぎるし、どう見ても木製だ。斬る類いのものじゃない。なにか仕込みでもあるのだろうか)

コウイチ「ぼけー」

 戦いに挑む姿勢なら、圧倒的にコウイチの負けである。格下の相手に対してもオヨリは油断をしていない。コウイチは……まあいつも通りである。試合は開始された。

「ボックス!」

 合図を聞くやいなや、さっと後ろに飛び退いたのはオヨリであった。遠距離攻撃を警戒して距離を取ったのである。魔法にしても飛び道具にしても、距離があったほうが避けやすいという判断である。

(ともかく距離を取ろう。そして攻撃の合間を縫って距離を詰め、俺の刀で峰打ちに)

 ちなみに、オヨリは日本刀使いである。刃で斬れば命に関わるので、通常、格下相手には峰打ちで充分なのである。

「ケツ!」
「なに?!」

 例によって開始早々に結界を発動し、相手を閉じ込めたコウイチである。

 ……楽だからである。しかもこのスキル、距離はほとんど関係なく相手が見えさえすれば発動できるようである。

「ほら、お前ら、仕事だぞ」
「「よしきたモんでござる」」

 コウイチは2匹を出して準備万端である。一方オヨリは当惑の中にあった。だが、行動は速かった。

 目の前に現れた膜のようなものがなんなのか。理解しようとするより先に刀を抜き斬りかかっていた。何度も手で触って感触を確かめていた(戦闘中に無駄な時間を使った)ヤマシタとの大きな差である。優れた剣士の本能であろう。

「斬! ……あれ? 斬れない。なんだこれは?」
「断! 裂!! 破!!! ダメだ、斬れない。この俺の愛刀・マーチンD-28をもってしても斬れないものがあるなんて」

 オヨリは市販のものとしては最高級に近いマーチン社製D-28というモデルの日本刀を使っている。3年ローンで購入した愛刀である。どこかの楽器の型番ではない。

(それ、高級ギターの型番だモん)

 ネコウサの突っ込みはさておき、戦闘は続く。

「これは結界なのか? それにしてはやけに柔らかいのはどうしてだろう。この街を守るドームならキズくらい付けられるのだが、かなり性質が違うようだ」

 そのときである。コウイチが再びケツと唱えると、オヨリの結界を覆うように2枚目の結界が現れた。

「まさかの二枚重ねか! ……まてよ? ということは、この結界が壊される危険性を感じて2枚にした、ということだろう。それならこれは斬れる、ということだ」

 そう確信(誤解だけど)したオヨリは、結界に斬りつけ突きを繰り出し、蹴りも入れ、ときどき指でまさぐり殴りつけ、再び斬りつけた。どこかに弱いところがないか、少しでも手応えのある場所はないか。そう考えての行動である。

「ひとりで刀を振り回して、あいつはいったい何と戦っているんだ?」
「そんなことはいいから、ネコウサ殿の提案を早くするでござる」
「そうだそうだ。早くするモん」

「なんで俺がお前らに仕えてるみたいになってんだよ。まったくもう、ケツ」

 コウイチの2個目の結界は、なにがでるかな♪ 的なサイコロ形状の結界である。同じ直方体には違いないが、カドが異様に丸く、ものすごく良く転がるアレである。

 そのほうが転がりやすいからきっと楽しいという、ネコウサ提案の産物である。結界の重ねがねも直方体以外の形状にするのも初めてであり、できるという保証はなかったが。

「なんかできちゃった」

 のであった。

「いやぁぁぁ!! とう!!! たぁぁぁ!! はあはあ、ダメだ。1枚目さえ破れる気配もない。しかしなんとかしないと……ん? なにか走ってくる。敵の攻撃か。それにしては可愛すぎるが……まさかこの結界、やつらだけ通り抜けることができるんじゃないだろうな」

 オヨリは咄嗟に刀をワンコロの真正面に構え、迎撃体勢を取った。ワンコロが襲いかかってくる! と思ったその刹那、オヨリは前後不覚に陥った。

 ぼよよ~んと、可愛い音が闘技場に響いた。ネコウサより先に着いたワンコロの頭突きによって、結界が飛ばされた音である。

「うわぁぁああぁぁぁ」

 結界の中で刀を構えていたオヨリは、なにが起こったのか分からないまま、自分の刀で自分を斬りつけていた。すでに血だらけである。

 結界はネコウサの希望通りに気前よく転がり続ける。ようやく止まりかけたところに、今度はネコウサが到着して頭突きである。

 ぼわぁぁぁん、というこれも可愛らしい音がして、先ほどとは違う方向に結界が転がる。

「うわぁぁああぁぁぁ」

 オヨリは立方体の結界の中にいる。しかし、その外側を包む結界はなにが出るかな?サイコロ形であり、不規則な転がりをする。
 中と外の結界の関係は固定されているため、ドテンドタンと転がるだけだったヤマシタのときと違い回転の止まるときがほとんどないが、衝撃だけはヤマシタのときと同じである。

 体勢を立て直す、などといういとまもあらばこそ、オヨリはひたすら転がり、結界に身体を打ち付け、手に構えたD-28で全身を切り刻むのであった。

 ネコウサ殿、こっちでござるぼよよよーん。ほいきた、そっちに返すモんぼわぁぁぁん。これはしかしなんでござるぼぼよん、そうですなあモんぼぁぁん。いつまででもやっていられるでござるほよよん、うんうん同意だモんぼぁぁぁん。

「「楽しい楽しい楽しいでござるモん!!」」

(あっちゃー。あのオヨリ殿の剣技とD-28をもってしても破れないのか。あの結界は物理攻撃の使い手ではなすすべがないようだ)

「うわぁぁああぁぁぁ」

 という何回目かのオヨリの悲鳴を聞いて、神官は勝負あったと見た。そしてこう叫んだ。

「すとーーーーぷ!!」

 最初の試合と同じ、レフリーストップである。それを聞いた2匹は。

「ぼよよよーん」
「ぼわぁぁぁん」
「ほれきた、ぼよよよーん」
「はいな、ぼわぁぁぁん」

 そんなことぐらいで、止めるわけがないのである。

「コ、コウイチ殿!! あの者たちを止めてくだされ!!」
「あ、ああ。分かった」
「ぼよよよーん」
「ぼわぁぁぁん」

「もうそろそろ」
「ぼよよよーん」
「ぼわぁぁぁん」

「戦闘を」
「ぼよよよーん」
「ぼわぁぁぁん」

「中止しろ」
「ぼよよよーん」
「ぼわぁぁぁん」

「できればもっと早口でお願いします!」

 そのあと、例によって3回ほど追加でどついたあと、ようやくオヨリは解放された。

「ふにゃらぁぁほよぉぉんぐぇえ」

 オヨリが控え室に運ばれてゆくと、先ほど以上に大騒動になった。

「ま、まさか、あのオヨリがここまで切り刻まれるとは!」
「ヤマシタのときより酷いじゃないか。いったいどんな攻撃を受けたのだ、オヨリ、しっかりしろ! どんな技だったんだ」
「じ、じご」

「「じご?」」
「地獄……車……」
「「地獄車だと!?」」

 オヨリはそこで気を失って(出血多量と思われる)、病院に搬送された。残されたものたちは「地獄車」という単語がなにを示すのか分からないものの、オヨリをここまで傷だらけにして戦闘不能にするぐらいである。ものすごい魔法かスキルに違いない。と考えた。そしてそのことを同僚や先輩後輩たちにふれ回ったのであった。

 そしてそれがオヨリ(とヤマシタ)が退院(治療魔法より3日で完治した)するまでに拡散され、ひとつの伝説ができあがったのであった。この世界に「地獄車」と呼ばれる新しい必殺技が誕生したらしいという伝説である。

「オヨリ殿……」
「ああ、ヤマシタか」
「あ、あの、件ですけど」
「分かってる。誰にも言わないでおこう」
「そうしてもらえると助かります」
「お主の家名に傷が付くし、俺としても不名誉なことだし」

 入学したばかりのエルフに戦闘で負けた、というだけではない。その内容たるやただ結界内でコロコロ転がされていただけ、なんて他人に言えるはずのないふたりなのであった。
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