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第194話 エルフの所得番付
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次の日。イズモ国は朝から賑やかである。
「きゃはははは。一丁上がりよ、スクナ」
「これで17本目のドリル完成ね、ウエモン」
「あのーふたりとも、そろそろ鉄がなくなりますよ」
「「もうないの?!」」
残されたふたりは、ユウに言われた通りドリル作りに励んでいる。
レクサス(とついでにユウコ)の交渉により、キスキ家の買収は無事に成功した。正式にタナベ製鉄からシキ研の直轄工場となったのである。ここ一番でのレクサスの働きは見事である。ユウコが何の役に立ったのかは謎である。
正式名称はシキ研の製鉄事業部・キスキ製鉄所である。スクナはまだ学生であるが、その従業員として登録された。これでもうホッカイ国で徴兵される心配はなくなったのである。ウエモンとゼンシンは、タケウチからの派遣社員扱いである。
だが、ゼンシンが使えるのは小型炉のみであり、鉄の生産量は少ない。前日のテストは窯がすでにできていたから早かったが、今日からは窯の構築から始める必要があるのだ。
そのために当面は日に2バッチほどが限界である。しかもゼンシンはユウに指示された旋盤の開発もここで行っている。
それらの制限により、供給できる鉄で作れるドリルは日に30本程度である。
現状ではソロバン作り以外に売る先がない商品なので、その程度でも良いのだが、問題はこのふたりである。
「ねぇ。もっとドリルしようーよー」
「うん。私たちひまぽよー」
「いや、僕は忙しいんだけど」
「たたらするまで手伝えることがあんまりないのよねぇ」
「うん。ユウさんはじゃんじゃん作れって言ったけど、そこまで必要なのかなって気もするし。そもそも鉄がないし」
「あと5日で大窯の鉄ができるから、そこから銑鉄をもらうこともできると思うけど」
「それまでひまぽよかぁ」
「ひまぽよだねぇ」
「私もひまぽよなのよねぇ」
「ユウコさんは秘書なのに、置いてかれちゃったもんね」
「ハルミさんのこととなるとユウが必死になるって、本当みたいだね」
「うん、イズナはそう聞いているらしい。だけど、本人が言ったわけじゃなくて、ミノウ様がそう思っているってだけみたいだよ」
「あの天然魔王さんだからなぁ。まるで見当違いってこともあり得るけど」
「私はスクナの味方だからね。ハルミさんにも恩はあるけど、私はスクナの味方するからね」
「ありがとう、ウエモン。頼りにしているよ」
「おい! ユウコ殿はおるか?」
「はい。ここにいますけど、なんですか、キスキさん」
「いまミノ国から連絡があってな、どうやらユウも行方不明になったらしいのジャ」
「「「ええええっ!!!」」」
「ミノウ様がついていたのだが、はぐれてしまったらしい。ワシもちょっとだけ様子見に行ってこようかと思う。窯はしばらくの間は温度を上げて行くだけジャ。その間はヨシジにまかせておける。一緒にミノ国に行きたいものはおらんか」
「「「はいはいはい!!」」」
「3人か。ゼンシンはどうする?」
「僕はまだいろいろと仕事があります。これをやらないとユウさんに合わせる顔がありません」
「分かった。では、その3人を連れて行こう。それまで留守番を頼んだぞ」
「はい、気をつけて」
そしてミノ国のタケウチの食堂である。
「まったく、どいつもこいつも、勝手にいなくなるんだからな」
「社長、そんなことここで言っても誰にも分かりませんよ」
「まったく、魔王様がついていながらどうしてこんなことに」
「まったくもって申し訳ないヨ」
あ、いや。そんなつもりでは、すいません。ミノウ様を責めるつもりなんか、ぜんぜん、はい。
「ミノウがユウから離れるからいけないノだぞ」
「あんなにいきなり走り出すとは思わんかったのだヨ」
「せめてどっちに走って行ったのが分かれば良かったのですが」
「まったくもって申し訳ないヨ」
それなりに反省はしているミノウである。
ユウが落ちたあのとき、助けようともせずベースキャンプでのんびりお茶していたミノウは、帰ってきたミヨシに散々絞られたのであった。
しかも、ユウが落ちた場所を聞かれても、道を覚えるというスキルに欠けるミノウはまったく覚えておらず、さらに輪を掛けて絞られたのであった。
いまのミノウはほとんど絞りカスである。
「まったくもって申し訳なカスヨ」
そのあと、ミノウが持っていたイテコマシで楽しく遊んでいたオウミもまた、ミヨシ以下にとても冷たい目で見られているのである。くるりんぱっ。
捜索隊は食糧が尽きたので、一旦戻ってきたのである。そこにやってきたのがキスキ一同であった。
「おや、キスキではないノか。どうしたノだ」
「ユウまで行方不明と聞いてな。ちょっと様子伺いと、ついでにひまぽよしていた3人を送ってきたのジャよ」
「「「ただいまー」」」
「あらあら。みんなお帰り。お腹空いてる? ご飯あるわよ?」
「それより、ユウはどうなったの?」
「スクナも心配よね。まだ分からないの。グジョウのダンジョンで穴に落ちたようなのだけど、その場所が分からないのよ」
「ミヨシ? いま、グジョウって言った?」
「ええ、そうよ。ユウコはなにか心当たりがあるの?」
「グジョウのダンジョンに、有名なエルフの里があるのよ。まさか、そこだったりしないかしら」
皆が、え? という顔をした。そんなところにエルフの里が?
「あるのは確かよ。そこに落ちたかどうかは分からないけど、あの伝書ブタを繁殖・飼育している場所があるの」
「そんなところがあるのか。社長、これはちょっと行ってみる価値がありそうですね」
「ああそうだな。ユウコ殿、その正確な位置は分かるのか?」
「近くまで行けば分かります」
「近くまで行けば?」
「あ、そういえばホッカイ国で、ユウコと一緒にエルフの里に落っこちたね」
「あのときはスクナも一緒だったね。エルフは近くにいるとなんとなく分かるのよ」
「エルフの里ってのは落っこちないと入れないのか?」
「ソウ、さすがにそれはたまたまでしょう。でも、ユウコ。ダメ元でいいからそこを試してみて。私たちではもう探しきれないのよ」
「ふぅむ、エルフってのは不思議な能力があるんジャの」
「ええ、それが有名なエルフの心意気よ」
「いや、それはなんか違うノだ」
「よし、ダンジョンの場所は分かっておるのジャろ。ワシも一緒に行こう。ハルミ殿、そこからはお主が道案内ジャ」
「はい、すぐに行きましょう」
「ちょっと、ちょっと待つノだ。我はこらからご飯を」
「そうなのだヨ。ご飯が大事なのだヨ」
「えぇい、お主らはあとから来い。ユウコ、行くぞ!」
「はい!」
「ただの魔人に、あとから来いって言われたノだ」
「我ら、最近なんかすごく軽んじられているのだヨ」
自業自得である(キートン山田ふう)。
「あの、私たちも……また置いて行かれちゃった」
「はぁ。こうなると魔法少女・スクエモンも形無しね」
「「じゃあ、ご飯を食べようか」」
「「果報は食べて待つノだヨ」」
「ミノウ様!」
「オウミ様!」
「「きゅぅぅぅ」」
一方、ダンジョン下のエルフの里では、朝からもめていた。
「ハルミは最初、俺のことを知らないと言ったそうだな?」
「さぁてと。私は魔ネズミ狩りに行ってぐぇっっ……」
「逃がすものか!」
と、首根っこをつかんでみた。
「行ってんっ、行ってくくくっぅぅぅぅ。来るっ!」
あ、くそっ。逃げられた。やはり俺の握力ではやつは止められんか。
一晩寝て痛みは治まったが、まだ立って歩くと痛いのである。その原因を作ったハルミを詰問するつもりだったのだが、逃げられてしまった。
走り去るハルミを追いかけるなんて到底無理である。元気なときでもできないから、結果は同じだが。そこにハチマンがやってきた。
「どうだ、足の調子は。悪いのなら切ってやろうか?」
「なんで切るんだよ! それと、折ったのは手だ、手! 手の心配をしろ」
「そうか、手だったか。じゃあ、切るか?」
「なんでだよ!! お前は俺の心配をしてるんじゃなくて、嫌がらせをしたいだけだろ」
「それは違う。むしろ殺したいと思ってる」
「真顔でそういうこと言うの止めて。俺はお前に恨まれる覚えはないぞ」
「フン」
なにそのミヨシ的フンは。最近、こんなことが増えた気がするな。
そこへ医者のシロもやってきた。
「どうですか、具合は」
「こいつさえいなければ快適です」
「右の腕も5,6本折ってやろうか?」
「俺には右手は1本しかねぇよ! いいからどっか行きやがれ!」
「フン」
だからそれもやめろっての。こいつはもしかして、俺の天敵キャラか。
シロが俺の折れた手を持って少しずつ曲げたり伸ばしたりする。多少痛むが、一応は自由に動かせる程度には回復したようだ。
「もう大丈夫そうですね。若いから回復魔法も良く効いたようです。無理さえしなければもう寝てなくていいですよ。骨折箇所を心臓より低い場所に置くと痛みが出るかも知れないので、三角巾はしばらく着用したほうがいいでしょう。それと」
「そうか、それは助かった。それと?」
「またお客さんが来たみたいです」
お客さん? また誰か落ちたのか? しかし、ハチマンがそこいるということは、クッションなしで落ちたということになる。その人は重傷を負ったのでは……。
「私の心配をしやがれ!」
「おお、ユウ。やはりここにいたか。探したぞ」
「あぁユウさん、無事で良かったぁぁぁぁ」
「おぉ! キスキにユウコじゃないか。良くここが分かったな」
「お主まで行方不明になったと聞いて、泣くほど心配したのジャよ」
「キスキはもう帰っていいぞ」
「なんでジャよ!!」
「なんかキモい」
「泣くほど心配したのはワシじゃない。このユウコだ! 勘違いするでない」
「ああ、ユウコだったか。それならいい。もにもにもに」
「あぁん」
「ああ、久しぶりの女の子の成分が嬉しい」
「私をいったいなんだと思ってたんだよ!」
「まったく。会うなりそれか。ケガをしててもお主はユウのままジャな。そのユウコが、もしかしたらここじゃないかと言ったのジャよ。それでワシの転送魔法で飛んできたら、腕の骨を折って入院していたとはな。まあ、生きていて良かった。それでハルミとかいう子は一緒ジャないのか?」
「ハルミは魔ネズミ退治をしに遊びに行った」
「退治が遊びなのか」
「あいつにとってはな。で、ユウコはここの存在を知っていたのか」
「うん、エルフの里同士はそれなりに付き合いがあるからね。それにここはエルフの中では有名な里だから」
「なんで有名なんだ?」
「ここのエルフは、所得番付で毎年上位10位までを独占しているのよ」
なんでエルフ界に所得番付なんてものがあるんですかね?
「そ、そうか。エルフにしては豊かな生活をしているなとは思っていたが。そこまでとは驚いた」
「伝書ブタのおかげだけどな。ユウコ、お久しぶりだ」
「あぁぁ、ハチマン! 元気だった!? お久しぶりーー」
ハグしとる。なんだお前らは知り合いか。
「ユウコはホッカイ国にいたんじゃなかったのか?」
「うん、いまはね、このユウさんの」
「おっぱい係をしている」
「おっぱい係……違うわよ!! ユウさん、話している途中でちゃちゃ入れないで! 秘書よ、秘書をやってるの」
「SMのな」
「そう、さっきまで縄で縛られていて、違う!! それはそれは秘所!」
「落ち着けユウコ。さっきから恥ずかしい単語が湯水のようにあふれては零れてるんだが、あんたはそんなキャラだったのか?」
「違うってば。私は私よ。変わってないわよ!」
「そうだ変わってない。最初から変態だった」
「違いますって!……ちょっとハチマン、なんで私から距離を取るの? ねぇ、もっと近くに来てよ」
「な、なんか、悪い菌が移りそうな気がして」
「あぁ、もう。ハチマンまで私をヨゴレキャラにしないでよ」
「自覚してたんか?」
「自覚してません。じゃなくて!! ヨゴレじゃありませんって」
「ああ、私のユウコは変わってしまった。そうさせたのは、この男か。そうなのか。ハルミだけでなく、ユウコまで毒牙にかけたのか!!」
「誰が毒牙だ。ハルミもユウコもそれが素だ。お前が知らなかっただけだぞ」
「私が知らなかっただと! 許せん、切る!!」
「なんでだよ!!」
「いちゃラブはもうその辺にしておけ、ハチマンもユウ殿も」
「「誰がいちゃラブだ!!!」」
「キスキ殿も呆れているぞ」
「いやシズク殿。ワシはちょっと驚いてはいるが呆れているわけではない。人間とエルフが仲良く口げんかするところなんか、むしろちょっとした娯楽ジャわはははは」
俺の必死の防衛を娯楽にすんな。腕が5本だか6本だかになるとこだったんだぞ。
「きゃはははは。一丁上がりよ、スクナ」
「これで17本目のドリル完成ね、ウエモン」
「あのーふたりとも、そろそろ鉄がなくなりますよ」
「「もうないの?!」」
残されたふたりは、ユウに言われた通りドリル作りに励んでいる。
レクサス(とついでにユウコ)の交渉により、キスキ家の買収は無事に成功した。正式にタナベ製鉄からシキ研の直轄工場となったのである。ここ一番でのレクサスの働きは見事である。ユウコが何の役に立ったのかは謎である。
正式名称はシキ研の製鉄事業部・キスキ製鉄所である。スクナはまだ学生であるが、その従業員として登録された。これでもうホッカイ国で徴兵される心配はなくなったのである。ウエモンとゼンシンは、タケウチからの派遣社員扱いである。
だが、ゼンシンが使えるのは小型炉のみであり、鉄の生産量は少ない。前日のテストは窯がすでにできていたから早かったが、今日からは窯の構築から始める必要があるのだ。
そのために当面は日に2バッチほどが限界である。しかもゼンシンはユウに指示された旋盤の開発もここで行っている。
それらの制限により、供給できる鉄で作れるドリルは日に30本程度である。
現状ではソロバン作り以外に売る先がない商品なので、その程度でも良いのだが、問題はこのふたりである。
「ねぇ。もっとドリルしようーよー」
「うん。私たちひまぽよー」
「いや、僕は忙しいんだけど」
「たたらするまで手伝えることがあんまりないのよねぇ」
「うん。ユウさんはじゃんじゃん作れって言ったけど、そこまで必要なのかなって気もするし。そもそも鉄がないし」
「あと5日で大窯の鉄ができるから、そこから銑鉄をもらうこともできると思うけど」
「それまでひまぽよかぁ」
「ひまぽよだねぇ」
「私もひまぽよなのよねぇ」
「ユウコさんは秘書なのに、置いてかれちゃったもんね」
「ハルミさんのこととなるとユウが必死になるって、本当みたいだね」
「うん、イズナはそう聞いているらしい。だけど、本人が言ったわけじゃなくて、ミノウ様がそう思っているってだけみたいだよ」
「あの天然魔王さんだからなぁ。まるで見当違いってこともあり得るけど」
「私はスクナの味方だからね。ハルミさんにも恩はあるけど、私はスクナの味方するからね」
「ありがとう、ウエモン。頼りにしているよ」
「おい! ユウコ殿はおるか?」
「はい。ここにいますけど、なんですか、キスキさん」
「いまミノ国から連絡があってな、どうやらユウも行方不明になったらしいのジャ」
「「「ええええっ!!!」」」
「ミノウ様がついていたのだが、はぐれてしまったらしい。ワシもちょっとだけ様子見に行ってこようかと思う。窯はしばらくの間は温度を上げて行くだけジャ。その間はヨシジにまかせておける。一緒にミノ国に行きたいものはおらんか」
「「「はいはいはい!!」」」
「3人か。ゼンシンはどうする?」
「僕はまだいろいろと仕事があります。これをやらないとユウさんに合わせる顔がありません」
「分かった。では、その3人を連れて行こう。それまで留守番を頼んだぞ」
「はい、気をつけて」
そしてミノ国のタケウチの食堂である。
「まったく、どいつもこいつも、勝手にいなくなるんだからな」
「社長、そんなことここで言っても誰にも分かりませんよ」
「まったく、魔王様がついていながらどうしてこんなことに」
「まったくもって申し訳ないヨ」
あ、いや。そんなつもりでは、すいません。ミノウ様を責めるつもりなんか、ぜんぜん、はい。
「ミノウがユウから離れるからいけないノだぞ」
「あんなにいきなり走り出すとは思わんかったのだヨ」
「せめてどっちに走って行ったのが分かれば良かったのですが」
「まったくもって申し訳ないヨ」
それなりに反省はしているミノウである。
ユウが落ちたあのとき、助けようともせずベースキャンプでのんびりお茶していたミノウは、帰ってきたミヨシに散々絞られたのであった。
しかも、ユウが落ちた場所を聞かれても、道を覚えるというスキルに欠けるミノウはまったく覚えておらず、さらに輪を掛けて絞られたのであった。
いまのミノウはほとんど絞りカスである。
「まったくもって申し訳なカスヨ」
そのあと、ミノウが持っていたイテコマシで楽しく遊んでいたオウミもまた、ミヨシ以下にとても冷たい目で見られているのである。くるりんぱっ。
捜索隊は食糧が尽きたので、一旦戻ってきたのである。そこにやってきたのがキスキ一同であった。
「おや、キスキではないノか。どうしたノだ」
「ユウまで行方不明と聞いてな。ちょっと様子伺いと、ついでにひまぽよしていた3人を送ってきたのジャよ」
「「「ただいまー」」」
「あらあら。みんなお帰り。お腹空いてる? ご飯あるわよ?」
「それより、ユウはどうなったの?」
「スクナも心配よね。まだ分からないの。グジョウのダンジョンで穴に落ちたようなのだけど、その場所が分からないのよ」
「ミヨシ? いま、グジョウって言った?」
「ええ、そうよ。ユウコはなにか心当たりがあるの?」
「グジョウのダンジョンに、有名なエルフの里があるのよ。まさか、そこだったりしないかしら」
皆が、え? という顔をした。そんなところにエルフの里が?
「あるのは確かよ。そこに落ちたかどうかは分からないけど、あの伝書ブタを繁殖・飼育している場所があるの」
「そんなところがあるのか。社長、これはちょっと行ってみる価値がありそうですね」
「ああそうだな。ユウコ殿、その正確な位置は分かるのか?」
「近くまで行けば分かります」
「近くまで行けば?」
「あ、そういえばホッカイ国で、ユウコと一緒にエルフの里に落っこちたね」
「あのときはスクナも一緒だったね。エルフは近くにいるとなんとなく分かるのよ」
「エルフの里ってのは落っこちないと入れないのか?」
「ソウ、さすがにそれはたまたまでしょう。でも、ユウコ。ダメ元でいいからそこを試してみて。私たちではもう探しきれないのよ」
「ふぅむ、エルフってのは不思議な能力があるんジャの」
「ええ、それが有名なエルフの心意気よ」
「いや、それはなんか違うノだ」
「よし、ダンジョンの場所は分かっておるのジャろ。ワシも一緒に行こう。ハルミ殿、そこからはお主が道案内ジャ」
「はい、すぐに行きましょう」
「ちょっと、ちょっと待つノだ。我はこらからご飯を」
「そうなのだヨ。ご飯が大事なのだヨ」
「えぇい、お主らはあとから来い。ユウコ、行くぞ!」
「はい!」
「ただの魔人に、あとから来いって言われたノだ」
「我ら、最近なんかすごく軽んじられているのだヨ」
自業自得である(キートン山田ふう)。
「あの、私たちも……また置いて行かれちゃった」
「はぁ。こうなると魔法少女・スクエモンも形無しね」
「「じゃあ、ご飯を食べようか」」
「「果報は食べて待つノだヨ」」
「ミノウ様!」
「オウミ様!」
「「きゅぅぅぅ」」
一方、ダンジョン下のエルフの里では、朝からもめていた。
「ハルミは最初、俺のことを知らないと言ったそうだな?」
「さぁてと。私は魔ネズミ狩りに行ってぐぇっっ……」
「逃がすものか!」
と、首根っこをつかんでみた。
「行ってんっ、行ってくくくっぅぅぅぅ。来るっ!」
あ、くそっ。逃げられた。やはり俺の握力ではやつは止められんか。
一晩寝て痛みは治まったが、まだ立って歩くと痛いのである。その原因を作ったハルミを詰問するつもりだったのだが、逃げられてしまった。
走り去るハルミを追いかけるなんて到底無理である。元気なときでもできないから、結果は同じだが。そこにハチマンがやってきた。
「どうだ、足の調子は。悪いのなら切ってやろうか?」
「なんで切るんだよ! それと、折ったのは手だ、手! 手の心配をしろ」
「そうか、手だったか。じゃあ、切るか?」
「なんでだよ!! お前は俺の心配をしてるんじゃなくて、嫌がらせをしたいだけだろ」
「それは違う。むしろ殺したいと思ってる」
「真顔でそういうこと言うの止めて。俺はお前に恨まれる覚えはないぞ」
「フン」
なにそのミヨシ的フンは。最近、こんなことが増えた気がするな。
そこへ医者のシロもやってきた。
「どうですか、具合は」
「こいつさえいなければ快適です」
「右の腕も5,6本折ってやろうか?」
「俺には右手は1本しかねぇよ! いいからどっか行きやがれ!」
「フン」
だからそれもやめろっての。こいつはもしかして、俺の天敵キャラか。
シロが俺の折れた手を持って少しずつ曲げたり伸ばしたりする。多少痛むが、一応は自由に動かせる程度には回復したようだ。
「もう大丈夫そうですね。若いから回復魔法も良く効いたようです。無理さえしなければもう寝てなくていいですよ。骨折箇所を心臓より低い場所に置くと痛みが出るかも知れないので、三角巾はしばらく着用したほうがいいでしょう。それと」
「そうか、それは助かった。それと?」
「またお客さんが来たみたいです」
お客さん? また誰か落ちたのか? しかし、ハチマンがそこいるということは、クッションなしで落ちたということになる。その人は重傷を負ったのでは……。
「私の心配をしやがれ!」
「おお、ユウ。やはりここにいたか。探したぞ」
「あぁユウさん、無事で良かったぁぁぁぁ」
「おぉ! キスキにユウコじゃないか。良くここが分かったな」
「お主まで行方不明になったと聞いて、泣くほど心配したのジャよ」
「キスキはもう帰っていいぞ」
「なんでジャよ!!」
「なんかキモい」
「泣くほど心配したのはワシじゃない。このユウコだ! 勘違いするでない」
「ああ、ユウコだったか。それならいい。もにもにもに」
「あぁん」
「ああ、久しぶりの女の子の成分が嬉しい」
「私をいったいなんだと思ってたんだよ!」
「まったく。会うなりそれか。ケガをしててもお主はユウのままジャな。そのユウコが、もしかしたらここじゃないかと言ったのジャよ。それでワシの転送魔法で飛んできたら、腕の骨を折って入院していたとはな。まあ、生きていて良かった。それでハルミとかいう子は一緒ジャないのか?」
「ハルミは魔ネズミ退治をしに遊びに行った」
「退治が遊びなのか」
「あいつにとってはな。で、ユウコはここの存在を知っていたのか」
「うん、エルフの里同士はそれなりに付き合いがあるからね。それにここはエルフの中では有名な里だから」
「なんで有名なんだ?」
「ここのエルフは、所得番付で毎年上位10位までを独占しているのよ」
なんでエルフ界に所得番付なんてものがあるんですかね?
「そ、そうか。エルフにしては豊かな生活をしているなとは思っていたが。そこまでとは驚いた」
「伝書ブタのおかげだけどな。ユウコ、お久しぶりだ」
「あぁぁ、ハチマン! 元気だった!? お久しぶりーー」
ハグしとる。なんだお前らは知り合いか。
「ユウコはホッカイ国にいたんじゃなかったのか?」
「うん、いまはね、このユウさんの」
「おっぱい係をしている」
「おっぱい係……違うわよ!! ユウさん、話している途中でちゃちゃ入れないで! 秘書よ、秘書をやってるの」
「SMのな」
「そう、さっきまで縄で縛られていて、違う!! それはそれは秘所!」
「落ち着けユウコ。さっきから恥ずかしい単語が湯水のようにあふれては零れてるんだが、あんたはそんなキャラだったのか?」
「違うってば。私は私よ。変わってないわよ!」
「そうだ変わってない。最初から変態だった」
「違いますって!……ちょっとハチマン、なんで私から距離を取るの? ねぇ、もっと近くに来てよ」
「な、なんか、悪い菌が移りそうな気がして」
「あぁ、もう。ハチマンまで私をヨゴレキャラにしないでよ」
「自覚してたんか?」
「自覚してません。じゃなくて!! ヨゴレじゃありませんって」
「ああ、私のユウコは変わってしまった。そうさせたのは、この男か。そうなのか。ハルミだけでなく、ユウコまで毒牙にかけたのか!!」
「誰が毒牙だ。ハルミもユウコもそれが素だ。お前が知らなかっただけだぞ」
「私が知らなかっただと! 許せん、切る!!」
「なんでだよ!!」
「いちゃラブはもうその辺にしておけ、ハチマンもユウ殿も」
「「誰がいちゃラブだ!!!」」
「キスキ殿も呆れているぞ」
「いやシズク殿。ワシはちょっと驚いてはいるが呆れているわけではない。人間とエルフが仲良く口げんかするところなんか、むしろちょっとした娯楽ジャわはははは」
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ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
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