237 / 336
第237話 遠征
しおりを挟む
「その7つの領地ってのは、どことどこだ?」
「ヒタチ、サツマ、イワミ、シナノ、アワ、ヒダ。それにミノじゃ」
「ミノも入ってるのか!? 分かった、早速行ってくる。約束を忘れるなよ。だが、その前に準備が必要だ」
「準備だと?」
「いや、それはこっちの話だ。あ、そうだ、ハタ坊は文字は書けるのか?」
「誰にものを言っているのよ。私は姫君なのよ。高等教育を受けているの。歌のひとつやふたつ、軽くひねって」
「よし。それじゃ一緒に来い。オウミ、ちょっとサバエさん家に移動するぞ。転送を頼む。ハルミとアシナはここで待機だ」
「最後まで聞けよ!」
「「う、うん分かった。待ってる」」
「ほいノだ。ひょいっ」
「あらら、行ってしまいましたわね」
「なんというか、こうと決めると素早いやつじゃの。ハルミとアシナは少し休むと良い。タケ、案内してやってくれ。あとで食事を運ばせる。改築したばかりの別室にはシャワーもベッドもあるぞ」
「はい、ありがとうございます。そうさせていただきます」
「ところで、アメノミナカヌシノミコト様。ユウのことですけど」
「どうかしたのか?」
「オウミに聞いたのですけど、ユウはアマテラスの末裔の可能性があると」
「ほひぇぇ?」
「なんですか、変な声を出して」
「いやいや、驚いたのじゃ。アマテラスじゃと?」
「ええ、なんでもアイヅのダンジョンで窮地に陥ったオウミは、咄嗟にユウに光攻撃呪文を教えたそうですの」
「ふむ。さっきやつが言いかけたことじゃな。それでどうなった?」
「あのミノウオウハルを手に持って光攻撃呪文を唱えたら、そこから発生した光が、50階層もあるダンジョン中の魔物を一撃で浄化してしまったそうですわ」
「ほひぇぇ?」
「アメノミナカヌシノミコト様は驚くとその声が出ますのね」
「あ、ああ。そんな、ことが、本当にあるのか? 階層をまたいで攻撃を通すなど、ワシでも無理だと思うのだが」
「ですわね。でも、アマテラス様なら」
「ああ、そうか。光属性か」
「ええ。光に特化した特性を持つあの一族ならあるいは」
「そうか。ダンジョンを住み処とする魔物なら光には特に弱い。だからできた技であろう。しかしそれにしても分厚い壁をどうやって光がすり抜けられるのか。しかも攻撃魔法じゃと……あ? ハルミは……それでか?」
「なんですの?」
「いや、ハルミはクラスチェンジでレベル1に戻っているはずなのじゃが、さっきの話ではすでにレベル28になっているらしい」
「それはきっとパーティを組んでいたからですわね。ユウのおこぼれを貰ったのでしょうね」
「おこぼれでレベル28にもなったのか。ということは本人は」
「レベル88だそうですわ」
「ほひぇぇ?」
「数百年ぶりにレベル100の人間が誕生しそうですわね」
「ああ、そうなるかも知れん。あとダンジョンを5つか6つ破壊するだけじゃな」
「本来なら、ひとりでひとつ攻略することさえ異常なのですけどね。あ、でもアメノミナカヌシノミコト様?」
「なんじゃ?」
「ということは、ユウもクラスチェンジができるのではありませんこと?」
「ああ、そうじゃな!? それなら一旦レベル1に戻せる。……しかしユウの職種はいったいなんじゃろう?」
「確かカイゼン、とか言ってましたわね」
「そんな概念はこの世界にはないぞ」
「ですわねぇ」
「どうしたもんじゃろ?」
「さぁ?」
「いっそ、勇者にしろと言われたほうがまだ楽じゃ」
「それはそれで、問題になりそうですけど」
「そうれもそうか。あの体格ではのう」
一方、サバエさん家に戻ったユウは。
「よし、書けた。スクナとハタ坊。これを書き写してくれ」
コピー機があれば楽なんだがなぁ。
「これを写すんかーい」
「がしがしがしがし」
「汚い字だこと」
どれからどうツッコめばいいのやら。とりあえず、ウエモンは書き写さなくていいからその癖は治せ。
俺が即興で書いたのは「マニュアル」である。オオクニたちのことだ。アイヅと同じように、ミノウ紙をただ送りつけたのだろう。
だからどう扱っていいのか分からなかった領地の人たちは、過去のやり方で決算を行ったと推測したのだ。
ヒタチ、サツマ、イワミ、シナノ、アワ、ヒダ、ミノ。
いずれも保守性の強い地域である。それだけにいままでのやり方を変えることに抵抗があったものと思われる。
そこにたった1枚の紙が送られてきて、さぞや当惑したことであろう。それも決算間近であっただけになおさらである。
だから気づかないふりをして、「今回はいままで通りで出しておきましょう」などと言い訳をして、従来の方法で提出したのであろう。
そいつらを納得させるため、マニュアルを作って持って行くのだ。これを見て再提出しろと言うだけだ。
おそらくそれだけで終わる。余裕を見て、それぞれに10枚ずつ、計20枚書いてもらった。
「できたぞ」
ハタ坊、早いな! どれどれ。
「おい、これは本当にハタ坊が書いたんだよな?」
「あたりめだ」
「それを言うなら当たり前な。スルメの干物か」
「はーい、私もできたよ。でも、ハタ坊ってすごいね。すっごいキレイな字。ねぇ、ハタ坊、私に字の書き方教えてくれない?」
「え? あ、ああ。まあ。良いけど。良いよ」
ハタ坊がどぎまぎしとる。スクナの人なつっこさは尋常じゃない。それにしても、これは本当に美しい字だ。その上読みやすくて早い。
スクナだってヘタじゃないが、これはレベルが突き抜けているようだ。
「字が書けるのは王族の嗜みだからね。アイヅに来てからは、機織り技術も皆に教えたけど、ついでに文字の書き取りも教えていたわよ」
「ほぉ。機織りの技術もか。だからハタオリヒメという名が付いたのだな。お前を見直さないといけないな」
「それだけじゃないわよ。糸ってのは相場がかなり動くのよ。蚕の成育の良い年もあれば悪い年もある。だから当然、織物の値段も変わる。相場チェックや品質管理に値段交渉もやっていたわ」
「そこまでか!? ダンジョン経営の傍らにそこまでやれるものか」
「小さいころからスパルタ教育を受けたもの。そのぐらい簡単なことよ」
「スパルタって、どんな教育を受けてきたんだ?」
「礼儀作法、読み書きソロバン、茶道、剣道、戦車道、編み物、裁縫、交渉術、算学、化学に物理学、経営術それから」
「待った待った!! お前のすごいのは分かったが、ひとつおかしなものが混じっているぞ」
「てへぺろー」
「オウミ、これはお前の仕業じゃないよな?」
「ち、ち、違うのだ! それは我も初めて知ったノだ。てへぺろ、とはこういうときに使うものか。メモしておくノだ」
「せんでいい! ってか戦車道はスルーかよ」
「メモすんのかーい」
「スクナも乗らなくていいから」
「がし」
「ひょい」
「がっしがし」
「ひょい」
「が……避けるな!!」
「いつまでもやられっぱなしだと思うな!」
まったくこいつらの相手をすると話が進まん。さて、マニュアルもできたことだし、それでは持って行くか。
「あ、あの。ユウさん」
「おっと、なんだスクナ」
「あの、私、そろそろホッカイ国に帰らないといけないの」
「あっ。そうか、そろそろ雪も溶ける季節か?!」
「うん。今年は雪が多かったからいつもよりもうちょっと遅いみたいだけど、あと1,2週間ぐらいで帰らないといけないと思う」
「そうか。学業優先だからなぁ。それは仕方ないな」
「だけど、私まだなにもしてない」
「なにもって、ここでドリルしてたじゃないか」
「あれはウエモンがメインだもの。鉄の棒を削れるのは、ウエモンの魔バイトだけ。私はその補助役に過ぎないもの」
「それでも充分役には立ったぞ。ドリルがあれば、旋盤もボール盤も販売できるんだ。あれは利益率がとても高い。おいしい商品だ」
「うん。それはそうだけど」
なんだろう? スクナはあまり自己主張の強くないキャラだけに、活躍の場が少なかったのは確かだが。
「ユウはこれからどこへ行く?」
「ウエモン、ユウさんと言え。これから各国を回って、このマニュアルを置いてくる」
「置いてくるだけではいけないと思うノだ」
「ちゃんと説明もしないといけないでしょう?」
「いや、それはちょっと。なんだ。その。はれほれ」
「どんだけ人見知りなのよ」
「ややや、かましいわ」
「じゃあ、スクナも連れて行け」
「なんだって?」
ウエモンがおかしないことを言い出した。
「ドリルの在庫も溜まったし、スクナの役はサバエさんでも代行が可能だ」
「まじでか?! ドリルの在庫ってどのくらいある?」
「えっとね。汎用タイプは2,705本。長さが35cmの特殊なやつは512本。それにテストで作ったいろいろな長さ・太さのやつは全部で120本」
すごいな! ってかちょっと作り過ぎたか。ほとんどがステンレス綱だから錆びる心配はないが、在庫を持ちすぎるのも良くない。そっちは止めて珠の生産の手伝いでも。
「最近はソロバンの珠作りも手伝ってるぞ。昨日なんか1日で24,000個作ったぞ」
させようと思ったら、もうやっていた。おみそれいたしました。え? 24,000個だと?!
「おいおい。そこまで来たのか!! すっげー。俺の最終予定数をすでに越えているじゃないか」
「私たちが手伝ってだけどね。いろいろ細かい改善もやったよ?」
「そうなのか。その場に立ち会えなくて残念だ。しかしお前ら。もうすっかりサバエさん家の子になってしまったな」
「うん、私たち、お母さんって呼んでる」
「そうか、お父さんも呼んであげてな」
「だからスクナを連れて行け」
「だから、の意味が繋がらないんだが」
「もう分からんちんめ!!」
「はぁぁ!?」
「スクナはずっと前からユウに惚れてるんだよ!! だからホッカイ国に戻る前に、もっといろいろい話とかしたいんだよ!! それなのにエチ国でほったらかしにしているだろうがしがしがし」
「いや、あの。それを言われても。ス、スクナ?」
ひょいって、ウエモン攻撃を避けるわけに行かなくなったこの状況をどうしよう。
「ウ、ウエモンったら。そんなことまで」
と言いながら真っ赤になるスクナである。俺も面と向かってそんなことを言われたことがないので、真っ赤である。ウエモンに踏まれた俺の足も真っ赤である(当社比)。
しかし、俺にはせねばならない仕事がある。
「ハタ坊。お前は人の転送はできるか?」
「そりゃもちろんできるわよ。生き物ならどれだけでもいけるよ」
「どれだけでもか。すごいな」
とチラッとオウミを見る。
「す、すごくなんかないノだ。ハタ坊は生き物だけであろう。我は荷物でも人でも、どちらもで運べるノだ」
「そうなのか?」
「それはそうだね。あたしは神だから生き物だけ。ただ、その生き物が身に付けているものなら一緒に運べるよ」
運んでもらうたびに素っ裸にされてはかなわん。そのぐらいは当然……と思ってちゃいけないのか。
どっちにしても、異世界ならではの機能であり制約だ。ミノウは生き物はだめだが、荷物は大量に運べる。オウミはどちらもそこそこ運べる。カンキチは手荷物レベルだったな。それにハタ坊は生き物なら大勢運べるか。
眷属の使い分けを考えなきゃいけないなぁ。
「分かった。じゃあスクナ。俺と一緒にニホン全国行脚の旅に出るか」
「え? いいの?」
「7つの領地を回る仕事があるんだ。1週間で終わらせる。ハタ坊、お前が転送係だ。俺の護衛にハルミ。スクナの護衛にアシナとしよう。そして交渉はスクナ、お前がメインでやれ。そして最後にもう一度アイヅに行って、ユウコを回収してこよう」
「せめて、保護するって言ってあげるべきなノだ」
かくして、識の魔法を得るための遠征団が結成されたのであった。
「ヒタチ、サツマ、イワミ、シナノ、アワ、ヒダ。それにミノじゃ」
「ミノも入ってるのか!? 分かった、早速行ってくる。約束を忘れるなよ。だが、その前に準備が必要だ」
「準備だと?」
「いや、それはこっちの話だ。あ、そうだ、ハタ坊は文字は書けるのか?」
「誰にものを言っているのよ。私は姫君なのよ。高等教育を受けているの。歌のひとつやふたつ、軽くひねって」
「よし。それじゃ一緒に来い。オウミ、ちょっとサバエさん家に移動するぞ。転送を頼む。ハルミとアシナはここで待機だ」
「最後まで聞けよ!」
「「う、うん分かった。待ってる」」
「ほいノだ。ひょいっ」
「あらら、行ってしまいましたわね」
「なんというか、こうと決めると素早いやつじゃの。ハルミとアシナは少し休むと良い。タケ、案内してやってくれ。あとで食事を運ばせる。改築したばかりの別室にはシャワーもベッドもあるぞ」
「はい、ありがとうございます。そうさせていただきます」
「ところで、アメノミナカヌシノミコト様。ユウのことですけど」
「どうかしたのか?」
「オウミに聞いたのですけど、ユウはアマテラスの末裔の可能性があると」
「ほひぇぇ?」
「なんですか、変な声を出して」
「いやいや、驚いたのじゃ。アマテラスじゃと?」
「ええ、なんでもアイヅのダンジョンで窮地に陥ったオウミは、咄嗟にユウに光攻撃呪文を教えたそうですの」
「ふむ。さっきやつが言いかけたことじゃな。それでどうなった?」
「あのミノウオウハルを手に持って光攻撃呪文を唱えたら、そこから発生した光が、50階層もあるダンジョン中の魔物を一撃で浄化してしまったそうですわ」
「ほひぇぇ?」
「アメノミナカヌシノミコト様は驚くとその声が出ますのね」
「あ、ああ。そんな、ことが、本当にあるのか? 階層をまたいで攻撃を通すなど、ワシでも無理だと思うのだが」
「ですわね。でも、アマテラス様なら」
「ああ、そうか。光属性か」
「ええ。光に特化した特性を持つあの一族ならあるいは」
「そうか。ダンジョンを住み処とする魔物なら光には特に弱い。だからできた技であろう。しかしそれにしても分厚い壁をどうやって光がすり抜けられるのか。しかも攻撃魔法じゃと……あ? ハルミは……それでか?」
「なんですの?」
「いや、ハルミはクラスチェンジでレベル1に戻っているはずなのじゃが、さっきの話ではすでにレベル28になっているらしい」
「それはきっとパーティを組んでいたからですわね。ユウのおこぼれを貰ったのでしょうね」
「おこぼれでレベル28にもなったのか。ということは本人は」
「レベル88だそうですわ」
「ほひぇぇ?」
「数百年ぶりにレベル100の人間が誕生しそうですわね」
「ああ、そうなるかも知れん。あとダンジョンを5つか6つ破壊するだけじゃな」
「本来なら、ひとりでひとつ攻略することさえ異常なのですけどね。あ、でもアメノミナカヌシノミコト様?」
「なんじゃ?」
「ということは、ユウもクラスチェンジができるのではありませんこと?」
「ああ、そうじゃな!? それなら一旦レベル1に戻せる。……しかしユウの職種はいったいなんじゃろう?」
「確かカイゼン、とか言ってましたわね」
「そんな概念はこの世界にはないぞ」
「ですわねぇ」
「どうしたもんじゃろ?」
「さぁ?」
「いっそ、勇者にしろと言われたほうがまだ楽じゃ」
「それはそれで、問題になりそうですけど」
「そうれもそうか。あの体格ではのう」
一方、サバエさん家に戻ったユウは。
「よし、書けた。スクナとハタ坊。これを書き写してくれ」
コピー機があれば楽なんだがなぁ。
「これを写すんかーい」
「がしがしがしがし」
「汚い字だこと」
どれからどうツッコめばいいのやら。とりあえず、ウエモンは書き写さなくていいからその癖は治せ。
俺が即興で書いたのは「マニュアル」である。オオクニたちのことだ。アイヅと同じように、ミノウ紙をただ送りつけたのだろう。
だからどう扱っていいのか分からなかった領地の人たちは、過去のやり方で決算を行ったと推測したのだ。
ヒタチ、サツマ、イワミ、シナノ、アワ、ヒダ、ミノ。
いずれも保守性の強い地域である。それだけにいままでのやり方を変えることに抵抗があったものと思われる。
そこにたった1枚の紙が送られてきて、さぞや当惑したことであろう。それも決算間近であっただけになおさらである。
だから気づかないふりをして、「今回はいままで通りで出しておきましょう」などと言い訳をして、従来の方法で提出したのであろう。
そいつらを納得させるため、マニュアルを作って持って行くのだ。これを見て再提出しろと言うだけだ。
おそらくそれだけで終わる。余裕を見て、それぞれに10枚ずつ、計20枚書いてもらった。
「できたぞ」
ハタ坊、早いな! どれどれ。
「おい、これは本当にハタ坊が書いたんだよな?」
「あたりめだ」
「それを言うなら当たり前な。スルメの干物か」
「はーい、私もできたよ。でも、ハタ坊ってすごいね。すっごいキレイな字。ねぇ、ハタ坊、私に字の書き方教えてくれない?」
「え? あ、ああ。まあ。良いけど。良いよ」
ハタ坊がどぎまぎしとる。スクナの人なつっこさは尋常じゃない。それにしても、これは本当に美しい字だ。その上読みやすくて早い。
スクナだってヘタじゃないが、これはレベルが突き抜けているようだ。
「字が書けるのは王族の嗜みだからね。アイヅに来てからは、機織り技術も皆に教えたけど、ついでに文字の書き取りも教えていたわよ」
「ほぉ。機織りの技術もか。だからハタオリヒメという名が付いたのだな。お前を見直さないといけないな」
「それだけじゃないわよ。糸ってのは相場がかなり動くのよ。蚕の成育の良い年もあれば悪い年もある。だから当然、織物の値段も変わる。相場チェックや品質管理に値段交渉もやっていたわ」
「そこまでか!? ダンジョン経営の傍らにそこまでやれるものか」
「小さいころからスパルタ教育を受けたもの。そのぐらい簡単なことよ」
「スパルタって、どんな教育を受けてきたんだ?」
「礼儀作法、読み書きソロバン、茶道、剣道、戦車道、編み物、裁縫、交渉術、算学、化学に物理学、経営術それから」
「待った待った!! お前のすごいのは分かったが、ひとつおかしなものが混じっているぞ」
「てへぺろー」
「オウミ、これはお前の仕業じゃないよな?」
「ち、ち、違うのだ! それは我も初めて知ったノだ。てへぺろ、とはこういうときに使うものか。メモしておくノだ」
「せんでいい! ってか戦車道はスルーかよ」
「メモすんのかーい」
「スクナも乗らなくていいから」
「がし」
「ひょい」
「がっしがし」
「ひょい」
「が……避けるな!!」
「いつまでもやられっぱなしだと思うな!」
まったくこいつらの相手をすると話が進まん。さて、マニュアルもできたことだし、それでは持って行くか。
「あ、あの。ユウさん」
「おっと、なんだスクナ」
「あの、私、そろそろホッカイ国に帰らないといけないの」
「あっ。そうか、そろそろ雪も溶ける季節か?!」
「うん。今年は雪が多かったからいつもよりもうちょっと遅いみたいだけど、あと1,2週間ぐらいで帰らないといけないと思う」
「そうか。学業優先だからなぁ。それは仕方ないな」
「だけど、私まだなにもしてない」
「なにもって、ここでドリルしてたじゃないか」
「あれはウエモンがメインだもの。鉄の棒を削れるのは、ウエモンの魔バイトだけ。私はその補助役に過ぎないもの」
「それでも充分役には立ったぞ。ドリルがあれば、旋盤もボール盤も販売できるんだ。あれは利益率がとても高い。おいしい商品だ」
「うん。それはそうだけど」
なんだろう? スクナはあまり自己主張の強くないキャラだけに、活躍の場が少なかったのは確かだが。
「ユウはこれからどこへ行く?」
「ウエモン、ユウさんと言え。これから各国を回って、このマニュアルを置いてくる」
「置いてくるだけではいけないと思うノだ」
「ちゃんと説明もしないといけないでしょう?」
「いや、それはちょっと。なんだ。その。はれほれ」
「どんだけ人見知りなのよ」
「ややや、かましいわ」
「じゃあ、スクナも連れて行け」
「なんだって?」
ウエモンがおかしないことを言い出した。
「ドリルの在庫も溜まったし、スクナの役はサバエさんでも代行が可能だ」
「まじでか?! ドリルの在庫ってどのくらいある?」
「えっとね。汎用タイプは2,705本。長さが35cmの特殊なやつは512本。それにテストで作ったいろいろな長さ・太さのやつは全部で120本」
すごいな! ってかちょっと作り過ぎたか。ほとんどがステンレス綱だから錆びる心配はないが、在庫を持ちすぎるのも良くない。そっちは止めて珠の生産の手伝いでも。
「最近はソロバンの珠作りも手伝ってるぞ。昨日なんか1日で24,000個作ったぞ」
させようと思ったら、もうやっていた。おみそれいたしました。え? 24,000個だと?!
「おいおい。そこまで来たのか!! すっげー。俺の最終予定数をすでに越えているじゃないか」
「私たちが手伝ってだけどね。いろいろ細かい改善もやったよ?」
「そうなのか。その場に立ち会えなくて残念だ。しかしお前ら。もうすっかりサバエさん家の子になってしまったな」
「うん、私たち、お母さんって呼んでる」
「そうか、お父さんも呼んであげてな」
「だからスクナを連れて行け」
「だから、の意味が繋がらないんだが」
「もう分からんちんめ!!」
「はぁぁ!?」
「スクナはずっと前からユウに惚れてるんだよ!! だからホッカイ国に戻る前に、もっといろいろい話とかしたいんだよ!! それなのにエチ国でほったらかしにしているだろうがしがしがし」
「いや、あの。それを言われても。ス、スクナ?」
ひょいって、ウエモン攻撃を避けるわけに行かなくなったこの状況をどうしよう。
「ウ、ウエモンったら。そんなことまで」
と言いながら真っ赤になるスクナである。俺も面と向かってそんなことを言われたことがないので、真っ赤である。ウエモンに踏まれた俺の足も真っ赤である(当社比)。
しかし、俺にはせねばならない仕事がある。
「ハタ坊。お前は人の転送はできるか?」
「そりゃもちろんできるわよ。生き物ならどれだけでもいけるよ」
「どれだけでもか。すごいな」
とチラッとオウミを見る。
「す、すごくなんかないノだ。ハタ坊は生き物だけであろう。我は荷物でも人でも、どちらもで運べるノだ」
「そうなのか?」
「それはそうだね。あたしは神だから生き物だけ。ただ、その生き物が身に付けているものなら一緒に運べるよ」
運んでもらうたびに素っ裸にされてはかなわん。そのぐらいは当然……と思ってちゃいけないのか。
どっちにしても、異世界ならではの機能であり制約だ。ミノウは生き物はだめだが、荷物は大量に運べる。オウミはどちらもそこそこ運べる。カンキチは手荷物レベルだったな。それにハタ坊は生き物なら大勢運べるか。
眷属の使い分けを考えなきゃいけないなぁ。
「分かった。じゃあスクナ。俺と一緒にニホン全国行脚の旅に出るか」
「え? いいの?」
「7つの領地を回る仕事があるんだ。1週間で終わらせる。ハタ坊、お前が転送係だ。俺の護衛にハルミ。スクナの護衛にアシナとしよう。そして交渉はスクナ、お前がメインでやれ。そして最後にもう一度アイヅに行って、ユウコを回収してこよう」
「せめて、保護するって言ってあげるべきなノだ」
かくして、識の魔法を得るための遠征団が結成されたのであった。
0
あなたにおすすめの小説
武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!
Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。
裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、
剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。
与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。
兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。
「ならば、この世界そのものを買い叩く」
漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。
冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力――
すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。
弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。
交渉は戦争、戦争は経営。
数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。
やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、
世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。
これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。
奪うのではない。支配するのでもない。
価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける――
救済か、支配か。正義か、合理か。
その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。
異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。
「この世界には、村があり、町があり、国家がある。
――全部まとめて、俺が買い叩く」
毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。
馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。
元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。
バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。
だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。
アイドル時代のファンかも知れない。
突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。
主人公の時田香澄は殺されてしまう。
気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。
自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。
ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。
魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。
鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~
今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。
大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。
目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。
これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。
※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。
異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!
理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。
ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。
仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!
唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~
専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。
ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる