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第328話 ラーメン食べるよ?
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なんだろ? なんか釈然としない気持ちが私の中でわだかまって、オウミのふわふわみたいな雲を作っている。まるで雨に濡れないように着たレインコートの中が、汗でぐしょぐしょになったときのように不快である。
私はもともとユウさんの部下なのだから、それをわざわざミノウとの眷属契約を解除する条件にした意味が分からない。
もしかすると、なにか理由があるフリをしてみただけなのかも知れない。ユウさんのことだから、そのぐらいのことしそうだ。
「どう思う?」
「ボ、ボ、ボクに分かるわけがないモん」
「それもそうよね。じゃ、ミノウ?」
「ボクにも分かるわけがないヨ」
分かりづらいものマネしないの! この子たちに聞いた私がバカでした。もういいや、ラーメン作ろう。
ってな感じでラーメンの開発は進み、どうにか食べられるものができるようになったので試食会である。
「ずるずるずる」
「どうにかではないノだ。お主は最初のやつから完食していたではないノかずるずる」
「オウミに言われたくねぇよ。そんなにうまくなくても、俺は食べられるんだよずるずる。お前もじゃねぇか」
「そうなノだ。しかしこのスープはずいぶんと良くなったノだずるずる。いったいなにが入っているいるノだ、ウエモン?」
「鶏ガラと煮干しをベースにして、そこに玉ねぎ、コンブ、ショウガ、ニンニク、シイタケ、ゴボウ、それにミヨシが調達してきた魚のアラを煮込んでとったダシをブレンドした」
「鶏ガラの旨みに、煮干しと野菜の旨みがうまく噛み合っている。これぞ重層スープだ。後味までおいしい俺の理想に近いスープになっている」
「スクナの揃えた材料だ。まずいわけがない」
「材料だけじゃダメなんだが、そこはウエモンの腕というか舌だろうなずるずる。ウエモン良くやった。これは良いものだ」
「そ、そうか。がしがしがし」
「だからそれは止めろっての! ただ、このラーメンにはまだ問題がある」
「褒めておいて落とすな。これじゃダメなのか?」
「スープはとりあえずこれでいい。改良の余地があるとしても、これだけの完成度だ。ヘタにいじるとバランスが崩れるかも知れない。だからこのレシピはしっかり記録しておいてくれ。いつでも同じものが作れるようにな。しかし、麺がちょっと良くないな」
「麺かぁ。そこは私には良く分からん。ちょっとモナカを呼んでこようか」
「我は充分うまいと思うノだ。ベータはなんて言っているノだ?」
「あ、そうだった。シキ研1の肥えた舌を持つベータもついでに呼んできてくれ」
「分かった。ミヨシもいたはずだからみんな呼んでくる」
「ユウさん、お気に召しませんでしたか?」 モナカ。
「僕はものすごくうまいと思いましたけど?」 ベータ。
「あら、おいしそうな匂い」 ミヨシ。
「モナカの麺が悪いわけではないが、このスープにいまいちあってないんだ」
「そうですか。ではどういうふうにすればいいでしょう。私もこんな料理初めてなので、戸惑いが多くて」
「それは苦労かけたな。簡単に言うと麺がスープに絡まないんだ。だからせっかくのおいしいスープが生かされていない。つるっとし過ぎてると思う。もっと細ければ良いかも知れないが」
豚骨スープのようにこってり味ならもっと太くてもいいぐらいだが、このあっさり味のスープだとこれでも太すぎるのである。極細麺にしたいものである。
「とはいっても、これ以上細くなんか切れませんし、表面をざらつかせるなんてできませんし。うどんならもっと細く――そうめんのように伸ばしてやれば――できるんですが、この麺はなんか黄色っぽい光沢があるっていうか、表面がつるつるしていてちょっと切りにくいです」
「つるつるなのは、かん水を入れているからな。うぅむ。俺も知らない世界に入ったか。まさか1本1本にヤスリをかけるわけにはいくまいし。……これはどうやって切った?」
「私のダマク・ラカスを使いました」
「それでもこのレベルにしかならないのか……そうだ、オウミヨシだったらどうだ?」
「あ、それ。私が最初にやったんだけど、全然ダメだったのよ」
「ミヨシでも切れなかったのか」
「切れるんだけど、うまくいかないのよ。オウミヨシは固いものなら得意なんだけど、あれだけ柔らかい生地となるとね」
「そうか。オウミヨシは鉄だって斬れる包丁だもんな。小麦粉が相手では柔らか過ぎるのか」
「そうなの。オウミヨシで切ると、細くはなるんだけど麺がぐねぐねって、ミミズが這いずった跡のようになっちゃって。初めて見たときは我ながらすっごい笑ったわよ」
「そうそう。私も見ました。あれはちょっとキモかったですね」
「そんなわけでこれ以上の」
「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!!!」
「あぁ驚いた。なによ。そんな大声出して」
「細いけどぐねぐになった麺だと? それはまだ残っているか?」
「いや、あんなキモいもの、とっくに捨てちゃったわよ」
「キモい言うな。それじゃ、もう一度切ってみてくれ」
「別にいいけど、あんなもの食べ物にはならないわよ」
「いいから切ってみてくれ。もしかすると、もしかするぞ」
台所に戻り、ミヨシがオウミヨシを持って、モナカの作った生地の端に刃を当てた。そしてまっすぐ手前に引くと、切粉のような生地がぴろぴろぴろっぴーと飛び出して来た。
「ほらね? キモいでしょ。これが足下に落ちてたら飛び上がって驚く自信があるわよ」
「ですよね。ある意味ケシケシンよりも気味が悪いですよ。黄色いし細いしぐねぐねだし」
「ねぇ、ミヨシ。でもそれって、このラーメンに使えるんじゃない?」
「ウエモン、どういうこと? まさかこんなものを食べるつもり?」
俺は猛烈に感動している。あっさり系ラーメンには細麺が合う。だが、それは製麺機なんてものがある世界での話だ。手作業ではそんな細くは切れない。
実際に、切れ味抜群のダマク・ラカスでさえもあのレベルだったのだ。
しかし、オウミヨシで切ったこの麺ならば、あっさりスープに良く絡む。これで極上の味わいになるに違いない。
「ウエモンの言う通りだ。これは使えるぞ、ミヨシ、この生地1枚だけでいい。全部オウミヨシで切ってみてくれ。ウエモン、それを茹でてこのスープに入れてくれ。もう一度、試食会だ」
「分かった」
「ユウ、これを食べるつもりなの?」
「ユウさん、これはちょっと私は食べる気持ちになれませんけど」
「麺を単体で見るからなにかの生き物のように感じるんだよ。これを何十本かまとめて、こうして茹でて、このスープの中に入れる。別に見た目はなんともないだろ?」
「まあ、それなら。ねぇ」
「でも、元を知っているだけに」
「騙されたと思って食ってみろ」
「「うーん」」
いつもと逆の、こちらにはない異文化コミュニケーションである。しっかり味わいたまえ。
「ずる……おっ?!」
「ずる……えぇ!?」
「だいたい予想通りの反応で喜ばしい限りである」
「どうして? さっきと同じスープで、麺も同じ。斬り方が変わったわけなのに、どうしてこんなに味が違うの???」
「ミヨシ、それはお前の切った縮れ麺のおかげだよ」
「縮れ麺?」
「なるほど、そういわれれば確かに縮れてますね、ずるずるずるずる」
「あー、だから縮れ麺なのねずるずるずる。おいしー」
「うまいノだ。なんかすごくうまいノだ。さっきよりも1ランク上がったノだ。これはもっとたくさん作るべきなノだ、ずるずるずる」
「僕にも、僕にも食べさせてください、ずるずるずる。おおっ!?」
「どうだ、ベータの舌でこれに点数をつけるとしたら?」
「そうですね。100点満点で」
「うむ」
「180点ぐらいです」
「満点をだいぶ越えてんぞ?」
「いままでに食べたことのない味です。これがラーメンですか。これはこの国の最高料理のひとつになりますよ」
「待て待て待て。これは庶民の食べ物だぞ?」
「なにをおっしゃいます。こんなうまいもの。トヨタ家でも一度も食べたことありません。舌がとろけるというのはこういうことを言うのだと、始めてあの言葉の意味が分かりましたよ。ユウさん、これは革命です! 食の革命ですよ」
俺が318話で言ったセリフをとりやがった?!
まだこの世界には、味に対する免疫ができていないのだ。生まれながらの富裕層であるベータがそういう言うのなら、おそらくこれはニホン1の食べ物に相当するのだろう。
ってことは、これを量産したらばかうけじゃね? 丸儲けじゃね? うはうはうは。
「それで、残るのはベータのタレだが、これに関してはほぼ完璧だと俺は思う」
「僕はもらったレシピ通りに作っただけです。材料は厳選しましたけどずるずる」
ベータでもこのラーメンは手放せないらしい。
「基本は醤油とコンブです。それにミリン、料理酒、ニンニク、ショウガを加え、最後にスクナさんの作っている叉焼を漬けた汁を1匙加えました」
「そうか。基本通りだな。それがあるからこそ、この味が出ているんだ。ベータも良くやったよ」
「でも、僕はただレシピ通りのものを」
「改良はこれからやってくれ。まずはうまいラーメンという未知の食べ物を作ること。それが大事だったんだ」
「はい、そうですね。頑張ります」
ちょっと寂しそうだ。このラーメンにベータのタレはおそらく10%ぐらいしか寄与していないだろう。俺に言われた通りのことをしただけということに、なにがしかの物足りなさを感じているのかも知れない。
「お前はまだ若い。これからだよ。あ、タレはな。水から作るといいぞ」
「え? 水からですか? つまり沸かす前の?」
「そう。タレの旨みは作成にかけた時間に比例する。素材を水に入れてから沸かしてダシをとったら、最後にもう一度冷やす。そうすると旨みが増す。試してみてくれ」
「はい。やってみます!」
一晩寝かしたカレーはうまい。そう思っている人は多いだろう。それは料理を作った人間の実感であり、そして事実でもある。
実は、一晩おくことが重要なのではなく、一度冷やすことが大切なのである。それによって、料理中のアミノ酸(旨み成分)は最大で5割増える。それが一晩寝かしたカレーはうまいという現象を引き起こすのである。久しぶりのまめち。
「あとは、これに乗せるトッピングだな。スクナ、叉焼はどうなっている?」
「最初に漬け込んだのは、量も少なくて試食でなくなってしまいました。でも、丸1日以上漬けても、それほど変わらないと言う確認だけはできてます」
仕事の話をしているせいか、スクナが敬語になってる。別に普通でいいのになぁ。
「そうか。じゃあ、1日のリードタイムで量産可能ってことだな?」
「はい。さきほど大量に漬け込んだので、明日にはそれも食べられますよ。叉焼以外にも、刻みネギ、半切りゆで卵、炒めたモヤシ、焼き海苔、メンマ、コーンなんかも入れるつもりです」
「えらく盛りだくさんだ……あれ? メンマってあるのか? それにコーンっていま手に入るのはイエローコーンだけだろ?」
「え? あ、ああ、そう、そうね、そうだったわね、これはあくまで私の希望というか予定というか、ね」
予定はいいけど、どうしてメンマを知っているのだろう? あれは中国や台湾に自生する麻竹(マチク)を発酵させた食品だったはずだ。
それをメンマと名付けたのは日本人で、ラーメンとマチクの合成語だ。つまり、ラーメンなしではあり得ない名前である。なにげにまめち。
それがどうしてここで普及しているのだろう? あと、イエローコーンはラーメンには向かないよなぁ。
スクナ。まさかお前?!
そこに凶報が飛び込んで来た。
私はもともとユウさんの部下なのだから、それをわざわざミノウとの眷属契約を解除する条件にした意味が分からない。
もしかすると、なにか理由があるフリをしてみただけなのかも知れない。ユウさんのことだから、そのぐらいのことしそうだ。
「どう思う?」
「ボ、ボ、ボクに分かるわけがないモん」
「それもそうよね。じゃ、ミノウ?」
「ボクにも分かるわけがないヨ」
分かりづらいものマネしないの! この子たちに聞いた私がバカでした。もういいや、ラーメン作ろう。
ってな感じでラーメンの開発は進み、どうにか食べられるものができるようになったので試食会である。
「ずるずるずる」
「どうにかではないノだ。お主は最初のやつから完食していたではないノかずるずる」
「オウミに言われたくねぇよ。そんなにうまくなくても、俺は食べられるんだよずるずる。お前もじゃねぇか」
「そうなノだ。しかしこのスープはずいぶんと良くなったノだずるずる。いったいなにが入っているいるノだ、ウエモン?」
「鶏ガラと煮干しをベースにして、そこに玉ねぎ、コンブ、ショウガ、ニンニク、シイタケ、ゴボウ、それにミヨシが調達してきた魚のアラを煮込んでとったダシをブレンドした」
「鶏ガラの旨みに、煮干しと野菜の旨みがうまく噛み合っている。これぞ重層スープだ。後味までおいしい俺の理想に近いスープになっている」
「スクナの揃えた材料だ。まずいわけがない」
「材料だけじゃダメなんだが、そこはウエモンの腕というか舌だろうなずるずる。ウエモン良くやった。これは良いものだ」
「そ、そうか。がしがしがし」
「だからそれは止めろっての! ただ、このラーメンにはまだ問題がある」
「褒めておいて落とすな。これじゃダメなのか?」
「スープはとりあえずこれでいい。改良の余地があるとしても、これだけの完成度だ。ヘタにいじるとバランスが崩れるかも知れない。だからこのレシピはしっかり記録しておいてくれ。いつでも同じものが作れるようにな。しかし、麺がちょっと良くないな」
「麺かぁ。そこは私には良く分からん。ちょっとモナカを呼んでこようか」
「我は充分うまいと思うノだ。ベータはなんて言っているノだ?」
「あ、そうだった。シキ研1の肥えた舌を持つベータもついでに呼んできてくれ」
「分かった。ミヨシもいたはずだからみんな呼んでくる」
「ユウさん、お気に召しませんでしたか?」 モナカ。
「僕はものすごくうまいと思いましたけど?」 ベータ。
「あら、おいしそうな匂い」 ミヨシ。
「モナカの麺が悪いわけではないが、このスープにいまいちあってないんだ」
「そうですか。ではどういうふうにすればいいでしょう。私もこんな料理初めてなので、戸惑いが多くて」
「それは苦労かけたな。簡単に言うと麺がスープに絡まないんだ。だからせっかくのおいしいスープが生かされていない。つるっとし過ぎてると思う。もっと細ければ良いかも知れないが」
豚骨スープのようにこってり味ならもっと太くてもいいぐらいだが、このあっさり味のスープだとこれでも太すぎるのである。極細麺にしたいものである。
「とはいっても、これ以上細くなんか切れませんし、表面をざらつかせるなんてできませんし。うどんならもっと細く――そうめんのように伸ばしてやれば――できるんですが、この麺はなんか黄色っぽい光沢があるっていうか、表面がつるつるしていてちょっと切りにくいです」
「つるつるなのは、かん水を入れているからな。うぅむ。俺も知らない世界に入ったか。まさか1本1本にヤスリをかけるわけにはいくまいし。……これはどうやって切った?」
「私のダマク・ラカスを使いました」
「それでもこのレベルにしかならないのか……そうだ、オウミヨシだったらどうだ?」
「あ、それ。私が最初にやったんだけど、全然ダメだったのよ」
「ミヨシでも切れなかったのか」
「切れるんだけど、うまくいかないのよ。オウミヨシは固いものなら得意なんだけど、あれだけ柔らかい生地となるとね」
「そうか。オウミヨシは鉄だって斬れる包丁だもんな。小麦粉が相手では柔らか過ぎるのか」
「そうなの。オウミヨシで切ると、細くはなるんだけど麺がぐねぐねって、ミミズが這いずった跡のようになっちゃって。初めて見たときは我ながらすっごい笑ったわよ」
「そうそう。私も見ました。あれはちょっとキモかったですね」
「そんなわけでこれ以上の」
「ちょっと待ったぁぁぁぁ!!!!」
「あぁ驚いた。なによ。そんな大声出して」
「細いけどぐねぐになった麺だと? それはまだ残っているか?」
「いや、あんなキモいもの、とっくに捨てちゃったわよ」
「キモい言うな。それじゃ、もう一度切ってみてくれ」
「別にいいけど、あんなもの食べ物にはならないわよ」
「いいから切ってみてくれ。もしかすると、もしかするぞ」
台所に戻り、ミヨシがオウミヨシを持って、モナカの作った生地の端に刃を当てた。そしてまっすぐ手前に引くと、切粉のような生地がぴろぴろぴろっぴーと飛び出して来た。
「ほらね? キモいでしょ。これが足下に落ちてたら飛び上がって驚く自信があるわよ」
「ですよね。ある意味ケシケシンよりも気味が悪いですよ。黄色いし細いしぐねぐねだし」
「ねぇ、ミヨシ。でもそれって、このラーメンに使えるんじゃない?」
「ウエモン、どういうこと? まさかこんなものを食べるつもり?」
俺は猛烈に感動している。あっさり系ラーメンには細麺が合う。だが、それは製麺機なんてものがある世界での話だ。手作業ではそんな細くは切れない。
実際に、切れ味抜群のダマク・ラカスでさえもあのレベルだったのだ。
しかし、オウミヨシで切ったこの麺ならば、あっさりスープに良く絡む。これで極上の味わいになるに違いない。
「ウエモンの言う通りだ。これは使えるぞ、ミヨシ、この生地1枚だけでいい。全部オウミヨシで切ってみてくれ。ウエモン、それを茹でてこのスープに入れてくれ。もう一度、試食会だ」
「分かった」
「ユウ、これを食べるつもりなの?」
「ユウさん、これはちょっと私は食べる気持ちになれませんけど」
「麺を単体で見るからなにかの生き物のように感じるんだよ。これを何十本かまとめて、こうして茹でて、このスープの中に入れる。別に見た目はなんともないだろ?」
「まあ、それなら。ねぇ」
「でも、元を知っているだけに」
「騙されたと思って食ってみろ」
「「うーん」」
いつもと逆の、こちらにはない異文化コミュニケーションである。しっかり味わいたまえ。
「ずる……おっ?!」
「ずる……えぇ!?」
「だいたい予想通りの反応で喜ばしい限りである」
「どうして? さっきと同じスープで、麺も同じ。斬り方が変わったわけなのに、どうしてこんなに味が違うの???」
「ミヨシ、それはお前の切った縮れ麺のおかげだよ」
「縮れ麺?」
「なるほど、そういわれれば確かに縮れてますね、ずるずるずるずる」
「あー、だから縮れ麺なのねずるずるずる。おいしー」
「うまいノだ。なんかすごくうまいノだ。さっきよりも1ランク上がったノだ。これはもっとたくさん作るべきなノだ、ずるずるずる」
「僕にも、僕にも食べさせてください、ずるずるずる。おおっ!?」
「どうだ、ベータの舌でこれに点数をつけるとしたら?」
「そうですね。100点満点で」
「うむ」
「180点ぐらいです」
「満点をだいぶ越えてんぞ?」
「いままでに食べたことのない味です。これがラーメンですか。これはこの国の最高料理のひとつになりますよ」
「待て待て待て。これは庶民の食べ物だぞ?」
「なにをおっしゃいます。こんなうまいもの。トヨタ家でも一度も食べたことありません。舌がとろけるというのはこういうことを言うのだと、始めてあの言葉の意味が分かりましたよ。ユウさん、これは革命です! 食の革命ですよ」
俺が318話で言ったセリフをとりやがった?!
まだこの世界には、味に対する免疫ができていないのだ。生まれながらの富裕層であるベータがそういう言うのなら、おそらくこれはニホン1の食べ物に相当するのだろう。
ってことは、これを量産したらばかうけじゃね? 丸儲けじゃね? うはうはうは。
「それで、残るのはベータのタレだが、これに関してはほぼ完璧だと俺は思う」
「僕はもらったレシピ通りに作っただけです。材料は厳選しましたけどずるずる」
ベータでもこのラーメンは手放せないらしい。
「基本は醤油とコンブです。それにミリン、料理酒、ニンニク、ショウガを加え、最後にスクナさんの作っている叉焼を漬けた汁を1匙加えました」
「そうか。基本通りだな。それがあるからこそ、この味が出ているんだ。ベータも良くやったよ」
「でも、僕はただレシピ通りのものを」
「改良はこれからやってくれ。まずはうまいラーメンという未知の食べ物を作ること。それが大事だったんだ」
「はい、そうですね。頑張ります」
ちょっと寂しそうだ。このラーメンにベータのタレはおそらく10%ぐらいしか寄与していないだろう。俺に言われた通りのことをしただけということに、なにがしかの物足りなさを感じているのかも知れない。
「お前はまだ若い。これからだよ。あ、タレはな。水から作るといいぞ」
「え? 水からですか? つまり沸かす前の?」
「そう。タレの旨みは作成にかけた時間に比例する。素材を水に入れてから沸かしてダシをとったら、最後にもう一度冷やす。そうすると旨みが増す。試してみてくれ」
「はい。やってみます!」
一晩寝かしたカレーはうまい。そう思っている人は多いだろう。それは料理を作った人間の実感であり、そして事実でもある。
実は、一晩おくことが重要なのではなく、一度冷やすことが大切なのである。それによって、料理中のアミノ酸(旨み成分)は最大で5割増える。それが一晩寝かしたカレーはうまいという現象を引き起こすのである。久しぶりのまめち。
「あとは、これに乗せるトッピングだな。スクナ、叉焼はどうなっている?」
「最初に漬け込んだのは、量も少なくて試食でなくなってしまいました。でも、丸1日以上漬けても、それほど変わらないと言う確認だけはできてます」
仕事の話をしているせいか、スクナが敬語になってる。別に普通でいいのになぁ。
「そうか。じゃあ、1日のリードタイムで量産可能ってことだな?」
「はい。さきほど大量に漬け込んだので、明日にはそれも食べられますよ。叉焼以外にも、刻みネギ、半切りゆで卵、炒めたモヤシ、焼き海苔、メンマ、コーンなんかも入れるつもりです」
「えらく盛りだくさんだ……あれ? メンマってあるのか? それにコーンっていま手に入るのはイエローコーンだけだろ?」
「え? あ、ああ、そう、そうね、そうだったわね、これはあくまで私の希望というか予定というか、ね」
予定はいいけど、どうしてメンマを知っているのだろう? あれは中国や台湾に自生する麻竹(マチク)を発酵させた食品だったはずだ。
それをメンマと名付けたのは日本人で、ラーメンとマチクの合成語だ。つまり、ラーメンなしではあり得ない名前である。なにげにまめち。
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