異世界でカイゼン

soue kitakaze

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第14話 合金

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 口からのでまかせを言ってしまったのは事実だ。

 しかしもちろん、まったくのノープランというわけではない。いくつかの候補は頭の中にある。だが、それをここでは言わないほうが良いだろう。

「いいだろう、そこまで言うならやらせてみようじゃないか」

 おっ、じじい。今回はやけに俺に協力的だな。

「その代わり、失敗したらどうなるか分かっているだろうな?」

 はい? 

「ただで済むと思うなよ」

 じじいは何を言っているのだ。俺は経営者じゃない。ただの……、ただの……ただの何だろ?

 作業者じゃないし、そもそもここの社員になる契約もしてないし、所属はまだヤマシタなのか? あれ? 俺って何? 私はどこ?

「それはもちろんだとも。失敗したら俺が責任をとって」
「とって?」
「ほんじゃ、さようなら~」

 それだけで済むかぁぁぁぁ!! とツッコまれた。これも予定調和である。

 じじいは、失敗しやがったらここで一生ただ働きさせてやる、という表情をしたので、そのときはこの工房を潰してやるからなという表情でお返しをしてやった。ぐぬぐぬぐぬ。

「もういい。ともかく、めっきラインはもうひとつ作るぞ。ユウ、それもお前が立ち会え。明日、その分も含めて工事をしてもらおう」

「ちょっとちょっと、社長。そんなお金がいったいどこにあるんですか」
「心配するな。ワシの老後の蓄えを放出してやる」

 そんなんあったんかい。

「じゃあ、それを食い潰すまでは続けるということで」

 じゃあ、じゃねぇぇぇ!!

 その年で、老後も何もないだろが。

 今回は皆にツッコまれる回数の多い回だ。しかし、金に関しては俺にできることはない。ありがたく申し出を受け取らせてもらう。

「それでユウ。もうひとつのめっきには、どんな設備が必要だ? ダクトや排水は明日の工事で一気に作ってもらうとして、後は今のラインと同じで良いのか?」

 ここまできて、ようやく俺の中にひと筋の道ができていた。金めっきの下地としてつける金属に最もふさわしいもの。それはきっとアレだ。

 融点が比較的低く、酸にもアルカリにも腐食にも強い。化学的に安定した金属。銀色の光沢があり高い導電性を持つ。単独よりも他の金属と合金としてよく使われる。銅との合金は使用環境が厳しいとされる通貨にさえ使われた。

 元の世界では形状記憶合金や水素電池にも使われている。それほど汎用性の高い金属だ。

 ただ、アレがこの世界にあるかどうかが分からない。

 白金がふんだんにあるというこの世界だ。前の世界で比較的安価だった(とは言ってもレアメタルだが)アレが、ここにもあるとは限らない。

「その前に聞いておきたいことがあるんだが」
「なんだ?」

「銅は手に入るか?」
「銅か。高いがなんとかなると思う」
「ふむ、じゃあ、亜鉛やニッケルは?」
「ああ、それなら安いもんだ。ニッケルはウチの工房の在庫に常にある。模造刀の注文はだいたいニッケルだからな」

 おっ、しめしめ。ついでだ他の金属のことも聞いておこう。

「コバルト、クロム、アルミニウム、チタン、ニオブは?」
「半分くらい分からん。クロムはいくらでも手に入るが、あれには問題があって買いたくはないが。アルミニウムも売っているがすごく高価だ。後はなんのことかさっぱり」

「チタンならワシは聞いたことがあるぞ。なんでもとてつもなく固い金属だそうだな? ただ、固すぎて加工ができず使い道がないらしいが」

 ふむふむふむ。なかなかに良い情報が集まった。やはりここは、書類ではなく口コミで情報を伝える文化なのだろう。

「あれ? クロムにはなんの問題があるんだ?」
「ああ、実はすぐ近くの鉱山では、クロムがいくらでも採れるんだ。ただ、毒性が強くて人を病気にするということが分かって以来、今は閉山されている」

 毒性が強いのは六価クロムだろう。三価クロムにもクロム鉱石にも毒性はないはずだ。確か三価クロムを高温で焼くと六価クロムになるんじゃなかったか? そこは採掘の過程で、鉱石を高温に晒すような何かをやってしまったのだろう。

「毒性が高いので、今は掘っていないと?」
「その通り。だが、すでに掘ってしまったものは手に入る。誰も欲しがらないからタダ同然だ」

「毒なんかもらってもねぇ」
「なんか近づくだけでかぶれたりするそうよ」

 ハルミとミヨシ、そこで女子会をしないように。

「あのー、ちょっと良いかな?」
「なんだ?」

「そのクロムのことなんだが、覚醒魔法で還元してやれば、毒性はなくなるんだけど」

 えぇぇぇぇ!? よくツッコみよく驚く人たち。

「なんだそれ、どういう理屈だ?」
「クロムはもともと無毒だ。それを加熱すると酸化して六価クロムというものができる。これが有害なんだよ。だから過剰な酸素をとってやれば良い。それ、アチラが得意だよな?」

 アチラが、え? という顔をした。そして、本当ですか?? と俺に崇拝の目を向ける。やめろ、うっとおしい。俺がお前のために仕事を作ってやったわけじゃない。偶然だ、偶然。

「ユウさん、ありが……ありがと…ござい、ずずっ」

 おいおい。泣くほどのことか?!

 あっちの世界でも、六価クロムは公害病の原因物質として有名になった。現在ではそれを特殊な技術で還元処理している。そのためにかなりのコストとなっているはずだ。

 それをこの世界では、11才の坊主がちょちょいっと魔法をかけるだけで……。ああ、こいつも連れて帰りてぇ。

「おい、それが本当なら一大事だ。ソウ、すぐ鉱山へ行ってクロムを採れるだけ採ってこい。さっそく実験するぞ」
「待った社長! 覚醒魔法をかける前は毒なんだ。そんなたくさんは持って来られない。まずは少量で実験をしてからだ」

「そ、そうだったな。よし、アチラとソウにユウ。今から行って、採取してこい。それがうまくいったら、ありったけ取りに行こう。今ならほとんどタダでクロムが手に入るぞ」

 ぱこん、という可愛い音がした。ハルミがじじいの白髪頭を手ではたいたのだ。

「痛っ、何をするハルミ」
「いつもそうやって後先考えずに行動する癖をなんとかしなさいよ。たとえ毒がないとしても、それ何に使うの? どこに置くの?」

 ソウが助け船を出す。

「置き場は裏の森を少し削って、簡単な小屋を建てれば確保できるだろう。使い道は……ユウ、なんかあるか?」
「安心しろ。それならいくらでもある」
「マジか」

「ああ、鉄にそのクロムを混ぜるんだよ」
「クロムをめっきするということか?」
「違う、溶かして混ぜるんだ。合金というんだが……あれ?」

 そんなことできるのか??? という視線が痛い。ここの技術レベルがまったく分からない。めっきがあるのに合金がないだと?

「いや、合金という言葉は聞いたことがある。港のほうに製鉄所があるが、そこでやっていると噂に聞いた。ただし、それは鉛とかスズとかの融点の低いものに限った話だ。鉄の合金なんて聞いたことはない」

 合金自体はあるのか。しかし鉄の合金は存在しないと。融点が高いからか? しかし鉄が作れるだけの温度にできるんだよな?
 よく分からん。しかしそれが本当なら、これ儲かり放題じゃね? 俺が覚えているだけでも鉄の合金なんかいくらでもある。

 今ならタダ同然で原料が手に入って、しかも市場を席巻できるぞ。

 そして最初に作るとしたら、やはりアレ……じゃなくてソレだよな。

 ああ、もったいぶっているうちにややこしくなってきた。アレはめっきで、ソレは合金だ。

「合金って割と知られていないんだな。鉄にそのクロムを10%ぐらい混ぜて合金を作ると、ステンレスって金属になるんだ」

 ソレとはステンレスのことでした。ちゃんちゃん。

「ほほぅ。で、それにはどんな特徴があるんだ?」
「ステンレスってのはだな、見た目は鉄そのものだが」
「ふむ」

「錆びないんだよ」

 えぇぇぇぇぇぇ!!??

 はい、いつものヒキです。
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