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第53話 来月いっぱいで
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朝は9時に起きて、夜は9時に寝る。それが俺の健康ライフである。この身体は良く食べるが良く寝るのだ。それだけ眠らないと頭が働かない。ちょうど1日の半分寝ていることになる。長いなとは自分で思うが、どうしようもないのだ。
そして、寝ている間にエライことになったのが、かのダマク・ラカス事件である。
「なんであれが事件なノか?」
「俺の中では、そう定義されているぞ。しかし、いまだに分からんのは誰がそんなことを言い出して、さらには広めたのかということなんだが」
「???」
「なんだ、どうした?」
「ダマク・ラカスのどこが問題なノか? もともとお主の命名であろう?」
「ちげぇよ。あれは前の世界で実際に存在する、ダマスカスという都市でかつて作られていたという伝説の鋼なんだ。オウミにもそう言っただろ?」
「ノだ?」
「なんだその反応は」
「騙すカス?」
「どこかのチンピラ詐欺師みたいに言うな」
「ダマクラカスではなかったのか?」
「違うと言っている……まさか、お前、お前か、お前が原因だったのか!?」
「いやいやいや、我は聞いた通りにだな、そのまま、正確に正直に」
「どこが聞いた通りだよ! お前か! 人が苦労して作った特殊鋼の名前を、おかしな語呂合わせにしやがったやつは」
お主は別になんの苦労もしておらんではないか。やかましいよ、頭は使ってんだ。我はたしかに40話でダマクラカスと聞いたノだ。そんなこと言った覚えはねぇ。我は悪くないノだ。お前が元凶じゃねぇか。聞いたままをヤッサンにきっちり伝えただけなノだ。どうしてそういうとこだけきっちりしてんだよ!!!
「またこのふたりは、いつもの幼稚な兄妹げんかしてますよ、ミヨシさん」
「あらあら、仲の良いことで」
「よかぁねぇよ!」
「よくないノだ!」
「はいはい。分かったからふたりともご飯にしましょうね」
「「う、おう」」
ご飯には弱い俺とオウミである。それだけは共通点と認めてやる。
「ミヨシ、これはなんなノだ? 見たことない果実なノだが?」
「果実ってより、木の実と言ったほうがよさそうだだ。それにしてはずいぶんとでっかいな。長さは30cmはあるか? 形はちょっと痩せた冬瓜って感じ。汚いオレンジ色であまりうまそうには見えないが」
台所の流しの横に無造作に置かれていた実を、めざとく見つけたオウミと俺であった。
「それね。工房の奥で知らないうちに自生していた木に、ぽこぽこなっていたのよ。なんだか分からないけど、なにかに使えないかと思って採取してみたの。まだ食べちゃ駄目よ。毒があるかもしれないんだから」
「「ほーい」」
しかし、わけの分からん木が自生する工房っていったい……。
「ばくばくばくばく、ずずずずっ。あー、うまい。やっぱり朝はご飯と味噌汁ですな! ずずずず。ばくばく……あの? ミヨシさん?」
「な、なに、なにかしら」
鼻の頭に汗をかいてますけど。
「味噌汁以外のおかずってのは、どこに隠してあるのでしょうか?」
「か、隠してなんか、いないもん。今日はちょっとおかずの調達ができなかっただけだもん」
なんで涙声?
「あ、いや、そ、そでしたか、ずずずずず。まあ、たまにはこういうのも悪くないですな、わはははは」
俺の笑い声が部屋に悲しく響く。おかしいだろ、こういうときこそ笑い飛ばすのがこの工房の伝統じゃないのか。
「ユ、ユウ。じつはだな」
「ん?」
ものすごく言いにくそうにソウが口を開く。
「お金がない」
「そうか、わはははは? ははは、は? あれ、なんで笑わない??」
「いやあ、すまんすまん。お前たちにもいらん苦労をかけることになってしまったな」
じじい、久しぶりに登場したと思ったら神妙な顔でなにを言い出すんだ。ん? なってしまった? ということはすでに確定した事項ということか?
朝は9時に起きて、夜は9時に寝る。それが俺の健康ライフである。長い睡眠時間のおかげで、寝ている間にエライことになっていることがある。
それがこれだった。
「隠しても仕方ない。こんな場だが言ってしまおう。じつは、ここは来月いっぱいで閉鎖することになった」
ぶぶぶぶっぅぅぅぅと、マンガみたいに口の中のご飯と味噌汁が一緒になって吹き出た。
「ど、どういうことだ! 大株主である俺に相談もなしに、そんな勝手なこと」
「お前は大株主ではあっても、しょせんは8%の株主にすぎん。経営権は持たないのだ。これは経営者であるワシの判断だ」
くっそ正論である。1/3以上持っていれば取締役になることも可能だが、たった8%では株主総会で偉そうにできる以外のメリットはない。
「どういうことか説明してくれ」
「それ、私から言うね」
とミヨシが前置きして語ったことを要約すると、こういうことになる。
・俺がここに来る前からタケウチ工房には、1,000万を超える借金があった。
・社長は起死回生を狙って、めっきに目を付けた。
・そして俺の手助けもあり、その事業は軌道に乗るかに見えた。
・しかし、なかなか現金にならない。その間も借金は増える一方だった。めっき設備や倉庫などで設備投資をしたことが、借金を増やす結果となった。
・それでも、金めっきの売掛金(3ヶ月後に現金にできる)が100万ほどあり、ステンレス包丁も在庫を売れば50万程度にはなるだろう。さらには、新規受注した剣や防具の売り上げもある。それで、運営はなんとかできていた。
・ところが今朝になって、タケウチ工房に金を貸している銀行が、急に返済を求めてきたのだ。貸し剥がしってやつである。
・その銀行への返済金額は600万ほどになる。それを来月中に返済しなければならない。
・返済しなければ口座は凍結され、この工房は差し押さえ物件となる。そうなればもう商売はできない。
・いまココ
「状況はだいたい分かった。それは大変だなばくばくもしゃ。……あれ? なんでみんなそんな沈んだ顔をしてるんだ?」
「ユウ、お前ってやつは、そういうやつだとは思っていたが……」
「ユウにとっては、ここなんて腰掛け程度の工房にすぎませんものね」
「ユウさんほどの智恵や知識があれば、どこでだってやって行けますね」
「お前ってやつは、もう転職を考えておるノか」
上から順に、ソウ、ミヨシ、アチラ、オウミである。
まったくもって、はなはだ遺憾である。
「お前ら、なんで俺がここを辞めること前提でしゃべってんだよ」
「え? だって、ユウはここの関係者ではないし」
「ソウ、株主ってのは関係者じゃないのか?」
「あ、いや、そういう意味じゃなく」
「一番けしからんのは、オウミ!!!」
「わぁお、ビックリしたノだ! 驚かすなノだ」
「お前は俺の眷属の分際で、転職とかどういう了見だよ」
「沈んだ顔をしてないのはお主だけなノだ。ここなんかどうでもいいと思っているからなノだ。そうに決まってきゅぅぅぅ」
「いい加減にしないと、絞め殺して俺の経験値にするぞ。いいか、来月まで猶予があるなら、話は簡単じゃないか。それまでに600万稼げばいいんだろ?」
「「「「?????」」」
あれ? 通じてないのか、俺が間違っているのか?
「稼げばいいよね?」 弱気か。
「「「それができるぐらいなら、苦労するか!!!!」」」
なんだ、間違ってないじゃないか。それならいいや。
「それで、銀行はなんで急に返済しろと言ってきたんだ?」
「担当はなかなか白状はしなかったが、おそらくは金めっきのことがバレたのだろうとワシは思う」
「金めっきがバレた? 別に内緒でやっている事業じゃないだろ」
「どこにもない技術をタケウチ工房は持っている、ということがバレたんだ。そして大きな借金があることもな」
あぁー、そういうことか。ドレミ伯爵は金めっきのことを広めてくれたらしい。いまは戦争が近いということで注文は止まっているが、貴族の間では話題沸騰のようだ。
それを小耳に挟んだやつがいたのだろう。それが銀行に伝わり……いや、それならおかしい。
ということは、そういうことだよな?
「で? 出資しようってのは、どこのどいつだ?」
なんのこっちゃ? という顔をじじいがしやがった。あら、まだだったかという表情をしたら、なんのこっちゃ? と返ってきた。
「銀行をたきつけてタケウチを倒産するように仕向けて、途方に暮れたところにホワイトナイトを気取って現れる。そんな絵を描いたやつに心当たりはないかと、聞いたんだ」
「なんのこっちゃ?」
じじいは顔も言葉も同じじゃねぇか。
「分からんか。つまりだな、銀行ってのは金を貸して金利をもらう、それが通常業務だろ?」
まさかこっちでは違ってたりしないだろな。どきどき。
「もちろん、そうだ。そうだが、ユウ。出資とか、それはなんの話だ?」
「いま、じじいが言ったじゃないか。タケウチには高い技術力と優秀な俺がいてそして借金があることがバレたって」
「バレたことがひとつ多いようなノだが」
「つまり、銀行がタケウチを乗っ取ろうとする理由がないということだ。高い技術があって優秀な俺がいるなら、金利を取りっぱぐれる心配はない。慌てて資金を回収する必要はないだろ」
「その『優秀な俺が』の部分は削ったほうがいいと思うノだ」
いちいちうるさいよ。
「しかし、実際に銀行は全部返却しろと言ってきているんだぞ?」
「だからさ。これは銀行屋の発想じゃない。だが銀行に金利以上に利益が出るぞと、そそのかしたやつがいたとしたらまた話は別になる」
「ユウ、それってどこかの会社が銀行と組んで、この工房を買収しようとしているってことか?」
「そう考えればつじつまが合うという話だ。実際にどうかまでは分からん。だが、もしその推測が正しければ、もうじき買収をしかけた張本人が現れるはずだ。困っているそうですね、うちが出資しましょうか、とかなんとか言ってな」
そんな単純な作戦あるやろか? アナログ世界とは言ってもあまりに雑な手法だ。もう少し、ひねりがあるかもしれない。
「どこのどいつだ! ワシの会社を買収しようなどと!!」
怒るのが遅いって。
「だけど社長。それが分かったところで、返済をしないといけないことに変わりはありません。このお金がない現状で私たちにいったいなにができますか?」
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
息子相手でもそうなるのね。
「することはふたつある」
それはいったいなんだ? とみなが聞く体勢になってくれた。それを確認してから俺は言う。
「そういうやつが現れたら、すぐに断らないでぐずぐず話を引き延ばす。そういうのはじじいが得意だろ?」
「引き延ばせばいいのか? それなら簡単だ」
「そうしてくれ。引き延ばしているうちに、馬脚を現すだろう。そしたら相手の情報をなるべく多くつかんでくれ」
「うむ、それはなんとかしよう」
「それはまかせた。そしてもうひとつ」
うんうん。そんなに見つめられると照れちゃうな。
「支払いは来月末って言ったな。まだ1ヶ月以上ある。さっきも言ったが、その間に600万を作ろう」
「お前は簡単に言うが、そんなことできるわけが」
「ない、と実験計画法のときにもそう言ってたな、じじい。それで、できたらどんな者でもやるとも言ってたっけな」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」
ふふふふ。忘れていたな。俺もいま思い出したんだが。
「その約束もまだ果たしてもらっていないが、来月末までに600万を俺が作ったら、今度はなにをくれる?」
「なんでもだ」
はい?
「ここにあるもの、なんでも好きなものを好きなだけ持っていけぇぇぇぇ!!!!」
「やけくそで言うな!! 分かった、もらってやるよ。それからみんな」
「これからは、俺の指示通りに動いてもらう、いいな?」
「「「「おう!!!」」」
威勢のいい返事が返ってきた。やる気になってくれたようで重畳である。では、なにはともあれ大切なことを言っておかねばならない。
「それじゃ、お代わり!!」
そっちかよ!!!
ずぶずぶずぶと、皆がコケる音がした。腹が減っては戦はできないんだよ、2回目、だっけ。
そして、寝ている間にエライことになったのが、かのダマク・ラカス事件である。
「なんであれが事件なノか?」
「俺の中では、そう定義されているぞ。しかし、いまだに分からんのは誰がそんなことを言い出して、さらには広めたのかということなんだが」
「???」
「なんだ、どうした?」
「ダマク・ラカスのどこが問題なノか? もともとお主の命名であろう?」
「ちげぇよ。あれは前の世界で実際に存在する、ダマスカスという都市でかつて作られていたという伝説の鋼なんだ。オウミにもそう言っただろ?」
「ノだ?」
「なんだその反応は」
「騙すカス?」
「どこかのチンピラ詐欺師みたいに言うな」
「ダマクラカスではなかったのか?」
「違うと言っている……まさか、お前、お前か、お前が原因だったのか!?」
「いやいやいや、我は聞いた通りにだな、そのまま、正確に正直に」
「どこが聞いた通りだよ! お前か! 人が苦労して作った特殊鋼の名前を、おかしな語呂合わせにしやがったやつは」
お主は別になんの苦労もしておらんではないか。やかましいよ、頭は使ってんだ。我はたしかに40話でダマクラカスと聞いたノだ。そんなこと言った覚えはねぇ。我は悪くないノだ。お前が元凶じゃねぇか。聞いたままをヤッサンにきっちり伝えただけなノだ。どうしてそういうとこだけきっちりしてんだよ!!!
「またこのふたりは、いつもの幼稚な兄妹げんかしてますよ、ミヨシさん」
「あらあら、仲の良いことで」
「よかぁねぇよ!」
「よくないノだ!」
「はいはい。分かったからふたりともご飯にしましょうね」
「「う、おう」」
ご飯には弱い俺とオウミである。それだけは共通点と認めてやる。
「ミヨシ、これはなんなノだ? 見たことない果実なノだが?」
「果実ってより、木の実と言ったほうがよさそうだだ。それにしてはずいぶんとでっかいな。長さは30cmはあるか? 形はちょっと痩せた冬瓜って感じ。汚いオレンジ色であまりうまそうには見えないが」
台所の流しの横に無造作に置かれていた実を、めざとく見つけたオウミと俺であった。
「それね。工房の奥で知らないうちに自生していた木に、ぽこぽこなっていたのよ。なんだか分からないけど、なにかに使えないかと思って採取してみたの。まだ食べちゃ駄目よ。毒があるかもしれないんだから」
「「ほーい」」
しかし、わけの分からん木が自生する工房っていったい……。
「ばくばくばくばく、ずずずずっ。あー、うまい。やっぱり朝はご飯と味噌汁ですな! ずずずず。ばくばく……あの? ミヨシさん?」
「な、なに、なにかしら」
鼻の頭に汗をかいてますけど。
「味噌汁以外のおかずってのは、どこに隠してあるのでしょうか?」
「か、隠してなんか、いないもん。今日はちょっとおかずの調達ができなかっただけだもん」
なんで涙声?
「あ、いや、そ、そでしたか、ずずずずず。まあ、たまにはこういうのも悪くないですな、わはははは」
俺の笑い声が部屋に悲しく響く。おかしいだろ、こういうときこそ笑い飛ばすのがこの工房の伝統じゃないのか。
「ユ、ユウ。じつはだな」
「ん?」
ものすごく言いにくそうにソウが口を開く。
「お金がない」
「そうか、わはははは? ははは、は? あれ、なんで笑わない??」
「いやあ、すまんすまん。お前たちにもいらん苦労をかけることになってしまったな」
じじい、久しぶりに登場したと思ったら神妙な顔でなにを言い出すんだ。ん? なってしまった? ということはすでに確定した事項ということか?
朝は9時に起きて、夜は9時に寝る。それが俺の健康ライフである。長い睡眠時間のおかげで、寝ている間にエライことになっていることがある。
それがこれだった。
「隠しても仕方ない。こんな場だが言ってしまおう。じつは、ここは来月いっぱいで閉鎖することになった」
ぶぶぶぶっぅぅぅぅと、マンガみたいに口の中のご飯と味噌汁が一緒になって吹き出た。
「ど、どういうことだ! 大株主である俺に相談もなしに、そんな勝手なこと」
「お前は大株主ではあっても、しょせんは8%の株主にすぎん。経営権は持たないのだ。これは経営者であるワシの判断だ」
くっそ正論である。1/3以上持っていれば取締役になることも可能だが、たった8%では株主総会で偉そうにできる以外のメリットはない。
「どういうことか説明してくれ」
「それ、私から言うね」
とミヨシが前置きして語ったことを要約すると、こういうことになる。
・俺がここに来る前からタケウチ工房には、1,000万を超える借金があった。
・社長は起死回生を狙って、めっきに目を付けた。
・そして俺の手助けもあり、その事業は軌道に乗るかに見えた。
・しかし、なかなか現金にならない。その間も借金は増える一方だった。めっき設備や倉庫などで設備投資をしたことが、借金を増やす結果となった。
・それでも、金めっきの売掛金(3ヶ月後に現金にできる)が100万ほどあり、ステンレス包丁も在庫を売れば50万程度にはなるだろう。さらには、新規受注した剣や防具の売り上げもある。それで、運営はなんとかできていた。
・ところが今朝になって、タケウチ工房に金を貸している銀行が、急に返済を求めてきたのだ。貸し剥がしってやつである。
・その銀行への返済金額は600万ほどになる。それを来月中に返済しなければならない。
・返済しなければ口座は凍結され、この工房は差し押さえ物件となる。そうなればもう商売はできない。
・いまココ
「状況はだいたい分かった。それは大変だなばくばくもしゃ。……あれ? なんでみんなそんな沈んだ顔をしてるんだ?」
「ユウ、お前ってやつは、そういうやつだとは思っていたが……」
「ユウにとっては、ここなんて腰掛け程度の工房にすぎませんものね」
「ユウさんほどの智恵や知識があれば、どこでだってやって行けますね」
「お前ってやつは、もう転職を考えておるノか」
上から順に、ソウ、ミヨシ、アチラ、オウミである。
まったくもって、はなはだ遺憾である。
「お前ら、なんで俺がここを辞めること前提でしゃべってんだよ」
「え? だって、ユウはここの関係者ではないし」
「ソウ、株主ってのは関係者じゃないのか?」
「あ、いや、そういう意味じゃなく」
「一番けしからんのは、オウミ!!!」
「わぁお、ビックリしたノだ! 驚かすなノだ」
「お前は俺の眷属の分際で、転職とかどういう了見だよ」
「沈んだ顔をしてないのはお主だけなノだ。ここなんかどうでもいいと思っているからなノだ。そうに決まってきゅぅぅぅ」
「いい加減にしないと、絞め殺して俺の経験値にするぞ。いいか、来月まで猶予があるなら、話は簡単じゃないか。それまでに600万稼げばいいんだろ?」
「「「「?????」」」
あれ? 通じてないのか、俺が間違っているのか?
「稼げばいいよね?」 弱気か。
「「「それができるぐらいなら、苦労するか!!!!」」」
なんだ、間違ってないじゃないか。それならいいや。
「それで、銀行はなんで急に返済しろと言ってきたんだ?」
「担当はなかなか白状はしなかったが、おそらくは金めっきのことがバレたのだろうとワシは思う」
「金めっきがバレた? 別に内緒でやっている事業じゃないだろ」
「どこにもない技術をタケウチ工房は持っている、ということがバレたんだ。そして大きな借金があることもな」
あぁー、そういうことか。ドレミ伯爵は金めっきのことを広めてくれたらしい。いまは戦争が近いということで注文は止まっているが、貴族の間では話題沸騰のようだ。
それを小耳に挟んだやつがいたのだろう。それが銀行に伝わり……いや、それならおかしい。
ということは、そういうことだよな?
「で? 出資しようってのは、どこのどいつだ?」
なんのこっちゃ? という顔をじじいがしやがった。あら、まだだったかという表情をしたら、なんのこっちゃ? と返ってきた。
「銀行をたきつけてタケウチを倒産するように仕向けて、途方に暮れたところにホワイトナイトを気取って現れる。そんな絵を描いたやつに心当たりはないかと、聞いたんだ」
「なんのこっちゃ?」
じじいは顔も言葉も同じじゃねぇか。
「分からんか。つまりだな、銀行ってのは金を貸して金利をもらう、それが通常業務だろ?」
まさかこっちでは違ってたりしないだろな。どきどき。
「もちろん、そうだ。そうだが、ユウ。出資とか、それはなんの話だ?」
「いま、じじいが言ったじゃないか。タケウチには高い技術力と優秀な俺がいてそして借金があることがバレたって」
「バレたことがひとつ多いようなノだが」
「つまり、銀行がタケウチを乗っ取ろうとする理由がないということだ。高い技術があって優秀な俺がいるなら、金利を取りっぱぐれる心配はない。慌てて資金を回収する必要はないだろ」
「その『優秀な俺が』の部分は削ったほうがいいと思うノだ」
いちいちうるさいよ。
「しかし、実際に銀行は全部返却しろと言ってきているんだぞ?」
「だからさ。これは銀行屋の発想じゃない。だが銀行に金利以上に利益が出るぞと、そそのかしたやつがいたとしたらまた話は別になる」
「ユウ、それってどこかの会社が銀行と組んで、この工房を買収しようとしているってことか?」
「そう考えればつじつまが合うという話だ。実際にどうかまでは分からん。だが、もしその推測が正しければ、もうじき買収をしかけた張本人が現れるはずだ。困っているそうですね、うちが出資しましょうか、とかなんとか言ってな」
そんな単純な作戦あるやろか? アナログ世界とは言ってもあまりに雑な手法だ。もう少し、ひねりがあるかもしれない。
「どこのどいつだ! ワシの会社を買収しようなどと!!」
怒るのが遅いって。
「だけど社長。それが分かったところで、返済をしないといけないことに変わりはありません。このお金がない現状で私たちにいったいなにができますか?」
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
息子相手でもそうなるのね。
「することはふたつある」
それはいったいなんだ? とみなが聞く体勢になってくれた。それを確認してから俺は言う。
「そういうやつが現れたら、すぐに断らないでぐずぐず話を引き延ばす。そういうのはじじいが得意だろ?」
「引き延ばせばいいのか? それなら簡単だ」
「そうしてくれ。引き延ばしているうちに、馬脚を現すだろう。そしたら相手の情報をなるべく多くつかんでくれ」
「うむ、それはなんとかしよう」
「それはまかせた。そしてもうひとつ」
うんうん。そんなに見つめられると照れちゃうな。
「支払いは来月末って言ったな。まだ1ヶ月以上ある。さっきも言ったが、その間に600万を作ろう」
「お前は簡単に言うが、そんなことできるわけが」
「ない、と実験計画法のときにもそう言ってたな、じじい。それで、できたらどんな者でもやるとも言ってたっけな」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ」
ふふふふ。忘れていたな。俺もいま思い出したんだが。
「その約束もまだ果たしてもらっていないが、来月末までに600万を俺が作ったら、今度はなにをくれる?」
「なんでもだ」
はい?
「ここにあるもの、なんでも好きなものを好きなだけ持っていけぇぇぇぇ!!!!」
「やけくそで言うな!! 分かった、もらってやるよ。それからみんな」
「これからは、俺の指示通りに動いてもらう、いいな?」
「「「「おう!!!」」」
威勢のいい返事が返ってきた。やる気になってくれたようで重畳である。では、なにはともあれ大切なことを言っておかねばならない。
「それじゃ、お代わり!!」
そっちかよ!!!
ずぶずぶずぶと、皆がコケる音がした。腹が減っては戦はできないんだよ、2回目、だっけ。
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