異世界でカイゼン

soue kitakaze

文字の大きさ
54 / 336

第54話 一発勝負

しおりを挟む
「これからは、俺の指示通りに動いてもらう、いいな?」

 とか言っているのは、12才の少年なのだが。

「「「「おう!!!」」」

 それに、ちゃんと乗ってくれるおまいらがすこ。

 いいのだ、俺の中の人は働き盛りの40才なのだから。鏡さえ見なきゃ、俺はいつも中の人だ。

「あっちではリタイアしてたのではなかったノか」

 リタイアはしてねぇよ。集団活動に向いていなかったから、会社勤めを辞めただけだよっと、こちょこちょこちょ。

「あひゃひゃひゃは、よ、よすのだ。そこ、我は弱いひゃひゃひゃひゃ」

「意外と楽しいんだよな、これ。こちょこちょこちょ。
「あひゃひゃひゃひゃ」
「好素とかいっぱ出そう。こちょこちょ」
「我が出しても仕方ないノだぁぁぁぁっひゃひゃひゃ」

 ま、そんなことはひれはれとして。格好つけてああは言ったものの、ひと月で600万とかどうやって作ればいいのか、それはこれから考えるのである。

 考えるのはこれからかよ! ってツッコミは、もう慣れてしまったオウミからは来ないと思うが、読者からも来ないとなるとちょっと寂しい。そんな俺である。さて考えるか。

 剣の受注なんか止めちゃって、ダマク・ラカスとステンレス包丁に専念するというのが現実的な方法だ。しかし、包丁だけでひと月600万を売り上げるのは難しい。

 まだそこまで市場が育っていないし、こちらの生産体制もできていない。大量に作って在庫ばかりが増えたら目も当てられない。

 それに、一番忘れてはいけないのは、必要なのは600万の現金だ、ということだ。売り上げではない。
 原価率が30%と仮定して、必要な売り上げは900万ぐらいはないといけないことになる。それをひと月でやれとか無理ゲーである。

 俺が(雑に)予言したこの工房の月辺り売り上げは1,000万だ。しかし、それは充分な宣伝効果と生産体制があってのこと。そうなるまでに1年ぐらいはかかるだろう。

 では、現金のためにクロム鉱山を売るか? 無害化したあとなら売れるだろう。

 しかし、この世界はクロムの使い方をまだ知らない。あれでステンレスができるなんてことが広まってしまったら、ステンレス包丁の売り上げが壊滅する。そしてクロム鉱の値段は跳ね上がる。
 今の段階で手放すのは悪手だ。

 タダでもらったものをすぐ売るというのも、いろいろまずいだろうしな。ソウの飲み会的に。

 かと言って、金めっきの需要はない。あっても入金が3ヶ月後では論外だ。

 となると。まあ、最初から分かってはいたことだ。これしかないと。しかしこれをやると、本当に一発勝負になる。だからぐだぐだと考えていたのだが、どうもこれしか思い浮かばない。

 この話が、そこいら中にあふれているドラマなら、いろいろなアイテムを積み重ねてだんだん目標に近づく。あと少しで届くってところで邪魔が入ったりする。そして間際になって、ほんのちょっとだけ足りないわぁ、あぁぁどうしよう、やっぱりダメか、ここまま時間切れかぁぁもうダメだ……ってときに救世主が現れる。ほらこれで間に合ったでしょ。そうか、そんな手があったのか、助かったぁぁぁぁ。

 ってなことになるのだが。

「またひとり言を言っているノか」
「だから、俺はひとり言で打線が組めるとあれほど」
「不気味だからよすノだ」

 魔王に不気味呼ばわりされた。

「と、ともかくだ。一発勝負なんだよ、オウミ」
「お、おうそうか。頑張るノだ」
「ということはだ」
「ん?」

「オウミは、これから休む暇もなく働いてもらうことになる」
「はぁ?」
「それと、ゼンシンもだ」
「はぁ?」

 通じてないのかな? こちょこちょ。

「きゃははきゃはひゃひゃ、なんなノだ。お前の行動と発言がぜんぜん繋がらひゃひゃひゃひゃ」

「これが終わったら有給をやるから、それまで頑張ってくれ」
「ひーひー。なんなノだ、頑張るのはお主なノだろ?」

「俺も頑張るけどな。ちょっとこっち来い。おーいゼンシンいるかー?」

 と、灼熱の部屋に入る。あじじじ。

「はーい、こちらです。もうすぐ一段落するので、少し待ってください」
「ゼンシン、昨日の今日ですぐ結果がでるわけはないが、ニホン刀の調子はどうだ」

「えっと。どうしても焼き入れで割れちゃうんです。泥を塗っても割れるときは割れるんですね」
「泥塗りは確率がまだ低いのか」
「ええ。低いというか、本当にあれが有効だったのか、それともたまたまだったのか、よく分からなくなってきました」

「それで、どんな工夫をした?」
「とにかく温度差を少なくしようと思って、水じゃなくて熱湯にしてみたり、泥水の中に突っ込んでみたりしましたが、いまのところうまくいってるものはありません」
「そうか。その泥だが、なにを混ぜたんだっけ?」

「えっと。粘土と焼却灰、それにその粉末です」
「粉末って、ああこれ、クロム鋼の粉末じゃないか。そんなものを混ぜたのか」
「ええ? そうだったんですか。粘度調整にちょうどいい感じの粉末だったもので。まずいですかね?」

「どうだろ? 鉄の表面にクロムが入るのかもしれないが、ほんのちょっとだろう。特に悪さするとは思えないがな。そういえば、これってクロム以外の成分が分かってないんだ。へんなものが入っているかもしれない。ステンレスを作るには問題なかったようだが」

「使うの止めた方がいいですかね」
「他に適当なものがなければ、使ってもいいだろ。あ、そういえば焼き入れだけどな」
「はい?」

「急激に冷やすから鉄が強くなるんだから、その温度差が少なくなっては、意味がないと思うんだ」
「ええ、それはそうですけど。割れるほどの差はいらないかなって」

「でも、刀の全部がバリバリに割れたわけじゃないだろ?」
「それはまあ、そうですが」
「厚みの違いじゃないのかなって思うんだが、どうだろ?」

「厚みの違いですか?」
「刀ってのは、刃の部分は細く、峰に近づくにつれて厚くなってゆくよな」
「あっ、そうか。刃先と峰では冷えて行く時間が大きく異なることになりますね」

「当然、厚みのある方が熱容量は大きい。これを急冷すると、表面だけがまず冷やされるので、まだ熱い中と冷えた外とで大きな温度差が生まれることになる。だから割れるんじゃね?」

「とすると、冷えて行く時間を合わせればいいということになりますか。それなら、泥を塗るときに、峰側を厚く、刃先は薄く塗ったらどうでしょう」

「うんそうだな。そうすれば峰の部分はゆっくり冷えてゆくか。いいな、それ。それなら割れにくくなるはずだ。もしかしたら、刃先の部分は泥なしてもいいかもしれない。その方向でやってみてくれ。どのみち、峰の部分まで焼きが入る必要はないしな」
「分かりました。それでやってみます」
「結果がでたら教えてくれ。それで、手は足りているか?」

「銑鉄作りのほうでも、いろいろと条件を変えてやっていますので、正直手はいくらあっても足りないぐらいです」
「原料の銑鉄を作って叩いて鍛えて、それで刀を打って研いで焼き入れして、をひとりだもんな」
「はい、それは仕方ないことですが」
「よしゼンシン。お前は今日から錬鉄作りと焼き入れだけを担当しろ」

「え、いいのですか? そうさせてもらえると助かりますが」
「助かると言ってもらって俺も助かる。本来なら刀を打つ仕事をするために呼んだのにな。不動明王さんに怒られそうだ」

「いえいえ、刀打ちの修行はどこでもできます。だけど、こんな新しい材料と製法の開発を、まだ見習いの僕なんかにまかせてもらえるなんて、よそではできません、というよりあり得ません」

 修行がどこでもできるとは思わないが、そう言ってもらえるのはありがたい。開発担当を11才の見習いにするのはよそではあり得ないってのは、その通りだろうな。

「そうか、それはよかった。じゃあ、ゼンシンは銑鉄をどんどん作ってくれ。オウミにも手伝わせる。オウミはこれから10日ほどはお前に預ける。どんなことにでもいいから使ってくれ」

「待て待て! 待つのだ、ユウ。我はお主と契約した眷属であってだな」
「眷属に命令だ。ゼンシンを手伝え」
「きゅぅぅぅ」

「ということだ、ゼンシン、よろしく頼む」
「あの、はい。それでよろしいのですか? オウミ様」
「プンプン。もう分かったノだプンプン。手伝えばいいノだろ、手伝えば。まったく魔王をいったいなんだと思っていきゃははははは」

 こちょこちょこちょ。まあ、そう言わず手伝ってくれ。この工房のためだ。

「ミヨシもつけるからさ」
「よし。それならいいノだ」

 ちょろい魔王さんは好きですよ。

「ということはユウさん。刀はだれが打つのですか?」
「ここにはひとりしかおるまい。この鉄を使って、刀を打ちたがっていた人がいただろ?」

 あぁ、あの人ね。とだれもが納得する人材である。国指定の1級刀工技術者・ヤッサンである。

「しかし、それでは剣の注文に応えらんぞ、ユウ」
「かまわないよヤッサン。その調整はソウにやらせる。なんなら全部キャンセルしたってかまわない」

「そ、そんなことをしたら、もう二度と注文がもらえなくなるぞ」
「来月までに600万を作れなければ、注文なんかあっても同じことだろ?」
「そ、それはそうだが」
「そういうことは経営者の仕事だ。まかせておけばいい」

「そ、そうか。それならやらせてもらおう。俺にとっても願ってもないことだからな」
「ああ、そうだったな。念願が叶ってよかったじゃないか」
「ありがとう、ユウ。俺は年甲斐もなく涙がでそうだ」

 おいおいおい。それほどのことじゃない。俺は自分の都合で言っているだけだ……。

 あ、もうダメ。あづいあづい。逃げよう。

「相変わらず、根性のないやつなノだ」
「あ、そうそう。オウミ。ひとつだけ言っておくことがある」
「なんなノだ?」

「これから作るニホン刀に、魔力をかけるのは厳禁だからな」
「あぁぇぇ?」

 不服そうなお返事だこと。やっぱりするつもりだったんかい。もう魔鉄はお腹いっぱいだよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

武装法人二階堂商会 ―― 企業買収(M&A)で異世界を支配する!

Innocentblue
ファンタジー
日本で企業買収の最前線を駆け抜けてきた敏腕社長・二階堂漣司。 裏切りにより命を落としたはずの彼が目を覚ましたのは、 剣と魔法が支配する異世界の戦場だった。 与えられたスキルは《企業買収(M&A)》。 兵士も村も土地も国家さえも、株式として評価・買収・支配できる異能の力。 「ならば、この世界そのものを買い叩く」 漣司は《武装法人二階堂商会》を設立。 冷徹な参謀にして最強の魔導士リュシア、獣人傭兵団、裏社会の戦力―― すべてを子会社として編成し、経済と武力を融合した前代未聞の経営戦争へと踏み出す。 弱小の村を救済し、都市と契約を結び、裏切り者を切り捨て、敵対勢力を力で買収する。 交渉は戦争、戦争は経営。 数字が命運を決め、契約が国境を塗り替える。 やがて商会は、都市国家・ギルド・貴族・宗教勢力すら巻き込み、 世界の価値そのものを再定義する巨大企業へと変貌していく。 これは、剣ではなく契約で世界を制圧する男の物語。 奪うのではない。支配するのでもない。 価値を見抜き、価値を操り、世界に値札を付ける―― 救済か、支配か。正義か、合理か。 その境界線を踏み越えながら、蓮司は異世界そのものを経営していく。 異世界×経済×武力が激突する、知略と覇道の武装経営ファンタジー。 「この世界には、村があり、町があり、国家がある。 ――全部まとめて、俺が買い叩く」

毒舌アイドルは毒の魔物に転生する。

馳 影輝
ファンタジー
毒舌を売りにして芸能界で活躍できる様になった。 元々はアイドルとしてデビューしたが、ヒラヒラの衣装や可愛い仕草も得意じゃ無かった。 バラエティーの仕事を貰って、毒舌でキャラを作ったらこれがハマり役で世間からのウケも良くとんとん拍子で有名人になれた。 だが、自宅に帰ると玄関に見知らぬ男性が立っていて私に近づくと静かにナイフで私を刺した。 アイドル時代のファンかも知れない。 突然の事で、怖くて動けない私は何度も刺されて意識を失った。 主人公の時田香澄は殺されてしまう。 気がつくとダンジョンの最下層にポイズンキラーとい魔物に転生する。 自分の現象を知りショックを受けるが、その部屋の主であるリトラの助言により地上を目指す。 ダンジョンの中で進化を繰り返して強くなり、人間の冒険者達が襲われている所に出くわす。 魔物でありながら、擬態を使って人間としても生きる姿や魔王種への進化を試みたり、数え切れないほどの激動の魔物人生が始まる。

鬼死回生~酒呑童子の異世界転生冒険記~

今田勝手
ファンタジー
平安時代の日本で魑魅魍魎を束ねた最強の鬼「酒呑童子」。 大江山で討伐されたその鬼は、死の間際「人に生まれ変わりたい」と願った。 目が覚めた彼が見たのは、平安京とは全く異なる世界で……。 これは、鬼が人間を目指す更生の物語である、のかもしれない。 ※本作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ネオページ」でも同時連載中です。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

処理中です...