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4、トラウマと眠れぬ夜
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「お湯、お先にありがとうございました」
「少しは疲れが取れたか?」
「おかげさまで、体が楽になりました」
シャワーではなく、足を伸ばして入れる風呂は最高だった。日本人にはやはり風呂だな。
「フーマ、こっちへ」
「何ですか?」
一人掛けのソファーに座らされると、「髪を乾かす」と背後に立ったエグベアートは手から温風を出す。
「あ……魔法」
「俺は、風と火の属性持ちだからな」
「便利ですね」
「まあ、他人の髪を乾かすのは初めてだから、熱かったら言ってくれ」
「温かくて気持ちいい風です。普段は自分の髪を?」
「いや。遠征に出たときは魔法でクリーンをかけるだけで洗わないからな。邸では、使用人がやる」
あ。この人、絶対貴族だ。名前もだし、薄々は感じていたが団長ってだけでなく、爵位も高そうだ。
うん、気づかなかったことにしよう。呼び捨てもそうだし、身分とか気疲れしちゃいそうだ。王都までの旅が終わるまでは考えまい。
「フーマの髪はサラサラだな」
「もっとボリュームが欲しかったんですけどね」
禿げる家系ではないが、サラサラ過ぎて、セットしてもすぐに落ちてしまうのだ。ハリコシと良い感じの癖があって、両サイドを後ろに流していた友人が羨ましかった。
「そうか? 美しくて良いと思うぞ。私の髪はなかなか扱い難い」
「俺はカッコいいと思いますよ」
なんたって、よく似合ってる。
「はは、フーマがそう言うならこの髪も悪くはないな。では、私も風呂をもらおう」
「はい。乾かしてくれて、ありがとうございました」
お礼を言って、俺はベッドに向かう。
風呂敷の中から出した枕と、この部屋に置かれた枕を並べる。他人と眠るなんて、高校の修学旅行以来かもしれない。最後に隣で寝たのは――腐れ縁の元友人。
さっきの会話じゃないが、昔から俺の髪はサラサラで羨ましいと、よく女子に言われた。
そんな風に、俺に好感触で近づいてきた女子たちは、皆その元友人が目当てだったのだ。俺と付き合うまでいっても、いざデートに行った翌日には振られてしまう。
で、いつの間にか、そいつと付き合っているんだ。
それも一度や二度とじゃない。最後に付き合った同じ大学の女子の、手酷い裏切り行為から俺は勃たなくなった。経験もしたことないのに。
完全にトラウマ。俺の中で、友人は――元友人に変わったのだ。
それから魔法使いへ真っしぐら。
腐れ縁の元友人との縁も切れたはずが、何故か職場で再会。エリートでいい会社に入ったはずの元友人が、突然上司とか耐えられなかった。
で、転職。
更には召喚されてるし。
だからいっそ、こっちの世界で楽しく新生活を始めるのも、悪くないかもしれない。
※※※
う、うぅん……。なんか……苦しい。
あんなに馬車でも眠ったのに、俺はいつの間にかまた爆睡していた。苦しかった原因は、横で寝ているエグベアートだ。
俺を抱きしめた状態で眠っている。んで、厚い胸板に俺の顔面は埋まっていた。そりゃ苦しくもなるわ。
トラウマを思い出したせいか、俺はまた寝ながら泣いてしまったみたいだ。たまにこうなる。いいかげん忘れたいのに。
エグベアートのシャツに、涙の染みが出来てしまっている。
もしかして、この体勢になったのは、泣いていたのをエグベアートが気遣って?
はっずっ! いい歳こいたオッサンが!
もぞりと顔を上げれば、彫刻のように整った顔面がある。やばい、なんかドキドキする。同性だがこれはマズい気がした。
だって、なんか硬くてでっかいヤツが、俺に当たっているんだ。騎士団長なんて仕事だから、疲れも溜まっているのだろう。うん、疲れマラってやつだな。
さすがに、ふにゃっとした自分のヤツでも、当たったら居た堪れない。サイズの違いに心が折れてしまう。
どうにか、エグベアートを起こさないように、体勢をずらして壁側を向く。で、気がついた。
あ、こっちの方がヤバくないか……。
尻の割れ目に、しっかりとエグベアートのエグベアートが挟まってしまったのだ。
※※※
完全に寝不足だ。
いや、昨日からのトータルで言えば、睡眠時間は十分だった。むしろ寝過ぎ……精神的な疲労でそう感じただけだ。
だって、仕方ないだろう!
項にかかる吐息のような寝息。俺を抱きしめるように、両腕は腹に回されている。
俺が動いてしまったせいか、しっくりくる体勢を求めたらしいエグベアートが動くたび、尻に押し付けられた熱くて硬いやつも動く。尻と太ももの付け根の間で。……卑猥過ぎる。
泣いた恥などすっかり忘れ、俺はただひたすらに無になるよう、頭を空っぽにした。
そして、早朝――。
ようやくエグベアートは起きたのか、トイレに向かってくれた。処理には少し時間がかかるだろう。
俺は、ふぅと息を吐く。
もしも、俺が気づいているなんて知ったら、きっとエグベアートも気不味いだろうから、もう暫くは寝た振りをしよう。
結局、しっかりと二度寝をしてしまい、破壊力満点の美形に、またしても起こされたのだった。
※※※
「よく眠れましたか?」
カーティスに朝食の際、満面の笑顔で訊かれた。
「…………あ、はい」
「団長も、顔色が良くなりましたね」
おかわりに立ったエグベアートを見ながら、カーティスは小声で言う。
「え?」と、思わず聞き返す。
「団長は、連日の魔物討伐を終えて王都に戻ったばかりで、観測地の確認に向かわれたのです。私は別件で、討伐は不参加でしたが、団長はかなりお疲れでした。私が観測地に行けたら良かったのですが、耐性がないと辿りつけない場所なので。浄化されていてホッとしましたよ。あの状態の団長では心配だったのです」
伏目がちのカーティスは、ずっと心配していたらしい。
「俺みたいなお荷物が、役にたったのなら良かったです!」
「フーマ殿には本当に感謝しています。フーマ殿が居なければ、ゆっくり宿で休む方ではないですからね」
少し寂しそうにカーティスは微笑む。
やはり、昨夜のあれは身体の疲れからだったのだ。馬車の中でも、宿でも書類仕事をしていたし。
そんな状態で、俺を気遣ってドライヤー代わりをしてくれるとか、どんだけお人好しなんだよ。
「少しは疲れが取れたか?」
「おかげさまで、体が楽になりました」
シャワーではなく、足を伸ばして入れる風呂は最高だった。日本人にはやはり風呂だな。
「フーマ、こっちへ」
「何ですか?」
一人掛けのソファーに座らされると、「髪を乾かす」と背後に立ったエグベアートは手から温風を出す。
「あ……魔法」
「俺は、風と火の属性持ちだからな」
「便利ですね」
「まあ、他人の髪を乾かすのは初めてだから、熱かったら言ってくれ」
「温かくて気持ちいい風です。普段は自分の髪を?」
「いや。遠征に出たときは魔法でクリーンをかけるだけで洗わないからな。邸では、使用人がやる」
あ。この人、絶対貴族だ。名前もだし、薄々は感じていたが団長ってだけでなく、爵位も高そうだ。
うん、気づかなかったことにしよう。呼び捨てもそうだし、身分とか気疲れしちゃいそうだ。王都までの旅が終わるまでは考えまい。
「フーマの髪はサラサラだな」
「もっとボリュームが欲しかったんですけどね」
禿げる家系ではないが、サラサラ過ぎて、セットしてもすぐに落ちてしまうのだ。ハリコシと良い感じの癖があって、両サイドを後ろに流していた友人が羨ましかった。
「そうか? 美しくて良いと思うぞ。私の髪はなかなか扱い難い」
「俺はカッコいいと思いますよ」
なんたって、よく似合ってる。
「はは、フーマがそう言うならこの髪も悪くはないな。では、私も風呂をもらおう」
「はい。乾かしてくれて、ありがとうございました」
お礼を言って、俺はベッドに向かう。
風呂敷の中から出した枕と、この部屋に置かれた枕を並べる。他人と眠るなんて、高校の修学旅行以来かもしれない。最後に隣で寝たのは――腐れ縁の元友人。
さっきの会話じゃないが、昔から俺の髪はサラサラで羨ましいと、よく女子に言われた。
そんな風に、俺に好感触で近づいてきた女子たちは、皆その元友人が目当てだったのだ。俺と付き合うまでいっても、いざデートに行った翌日には振られてしまう。
で、いつの間にか、そいつと付き合っているんだ。
それも一度や二度とじゃない。最後に付き合った同じ大学の女子の、手酷い裏切り行為から俺は勃たなくなった。経験もしたことないのに。
完全にトラウマ。俺の中で、友人は――元友人に変わったのだ。
それから魔法使いへ真っしぐら。
腐れ縁の元友人との縁も切れたはずが、何故か職場で再会。エリートでいい会社に入ったはずの元友人が、突然上司とか耐えられなかった。
で、転職。
更には召喚されてるし。
だからいっそ、こっちの世界で楽しく新生活を始めるのも、悪くないかもしれない。
※※※
う、うぅん……。なんか……苦しい。
あんなに馬車でも眠ったのに、俺はいつの間にかまた爆睡していた。苦しかった原因は、横で寝ているエグベアートだ。
俺を抱きしめた状態で眠っている。んで、厚い胸板に俺の顔面は埋まっていた。そりゃ苦しくもなるわ。
トラウマを思い出したせいか、俺はまた寝ながら泣いてしまったみたいだ。たまにこうなる。いいかげん忘れたいのに。
エグベアートのシャツに、涙の染みが出来てしまっている。
もしかして、この体勢になったのは、泣いていたのをエグベアートが気遣って?
はっずっ! いい歳こいたオッサンが!
もぞりと顔を上げれば、彫刻のように整った顔面がある。やばい、なんかドキドキする。同性だがこれはマズい気がした。
だって、なんか硬くてでっかいヤツが、俺に当たっているんだ。騎士団長なんて仕事だから、疲れも溜まっているのだろう。うん、疲れマラってやつだな。
さすがに、ふにゃっとした自分のヤツでも、当たったら居た堪れない。サイズの違いに心が折れてしまう。
どうにか、エグベアートを起こさないように、体勢をずらして壁側を向く。で、気がついた。
あ、こっちの方がヤバくないか……。
尻の割れ目に、しっかりとエグベアートのエグベアートが挟まってしまったのだ。
※※※
完全に寝不足だ。
いや、昨日からのトータルで言えば、睡眠時間は十分だった。むしろ寝過ぎ……精神的な疲労でそう感じただけだ。
だって、仕方ないだろう!
項にかかる吐息のような寝息。俺を抱きしめるように、両腕は腹に回されている。
俺が動いてしまったせいか、しっくりくる体勢を求めたらしいエグベアートが動くたび、尻に押し付けられた熱くて硬いやつも動く。尻と太ももの付け根の間で。……卑猥過ぎる。
泣いた恥などすっかり忘れ、俺はただひたすらに無になるよう、頭を空っぽにした。
そして、早朝――。
ようやくエグベアートは起きたのか、トイレに向かってくれた。処理には少し時間がかかるだろう。
俺は、ふぅと息を吐く。
もしも、俺が気づいているなんて知ったら、きっとエグベアートも気不味いだろうから、もう暫くは寝た振りをしよう。
結局、しっかりと二度寝をしてしまい、破壊力満点の美形に、またしても起こされたのだった。
※※※
「よく眠れましたか?」
カーティスに朝食の際、満面の笑顔で訊かれた。
「…………あ、はい」
「団長も、顔色が良くなりましたね」
おかわりに立ったエグベアートを見ながら、カーティスは小声で言う。
「え?」と、思わず聞き返す。
「団長は、連日の魔物討伐を終えて王都に戻ったばかりで、観測地の確認に向かわれたのです。私は別件で、討伐は不参加でしたが、団長はかなりお疲れでした。私が観測地に行けたら良かったのですが、耐性がないと辿りつけない場所なので。浄化されていてホッとしましたよ。あの状態の団長では心配だったのです」
伏目がちのカーティスは、ずっと心配していたらしい。
「俺みたいなお荷物が、役にたったのなら良かったです!」
「フーマ殿には本当に感謝しています。フーマ殿が居なければ、ゆっくり宿で休む方ではないですからね」
少し寂しそうにカーティスは微笑む。
やはり、昨夜のあれは身体の疲れからだったのだ。馬車の中でも、宿でも書類仕事をしていたし。
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