【完結】神子召喚に巻き込まれ、騎士団長に溺愛された可憐な(?)オッサンです。

猫野 暇

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6、エグベアートside

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 王都に戻り、先に伯爵邸に寄ってフーマをバルウィンに任せると、そのまま王城の第五騎士団本部に向かった。

 副団長であるカーティスと、フーマの件をどう報告にあげるかを話し合う為に。フーマは、自身の事を隠している。だからこそ、それを尊重したかった。

「カーティス、どう思う?」
「やはり、フーマ様は初代様と同じ『愛し子の神子』様かと」
「私もそう思う。あの男の召喚に巻き込まれてしまったのは、本当なのだろう。フーマの背には聖痕が無かったからな」
「団長……いくら遮音結界を張ったからといって、あの男呼ばわりは駄目でしょう。彼は歴とした『贖罪の神子』様なのですから」

 この国での神子召喚には、初代神子が神とお決めになった約束が、秘匿とされる王家の文献に残っている。
 それを守れないなら、異世界で幸せに暮らす者を、拉致まがいで召喚すべきではないと、初代様は仰ったのだとか。

 召喚される神子は――異世界で何らかの罪を持ち、もう一度だけ神がチャンスを与えても良いと思われた者。贖罪として、背中の聖痕が消えるまで、この世界の穢れを浄化する。

 もちろん、召喚された当人は贖罪だと知らない。清い心を得る為には、自身で気づくまで教えてはいけないのだ。
 聖痕が消え、この世界で寿命を全うすれば、魂はまた元の世界で新しい生を受けることができる。
 
 欲を持っていることが多い『贖罪の神子』は、王家によって甘い言葉や優雅な生活を与えられ、神子として崇められる。
 聖痕がこの国の王家に繋がれた楔だと、決して気づかせぬように。聖痕がある限り、どこに逃げてもまた召喚陣に戻されるのだから。

 ――だが。

 今回の『贖罪の神子』は召喚時に他者を巻き込んだ。

 召喚されてすぐ、あの男は「風磨はどこだ!」と叫んだのだ。確かに腕を掴んで、一緒に召喚されたと。
 けれど、召喚陣の中にはあの男しか居なかった。整った華のある顔立ちなのに、瞳の奥は仄暗く、どこか歪さを感じる男。

 万が一にも、『贖罪の神子』以外の異世界人を召喚してしまえば、神との約束を違えたことになってしまう。
 そこで、俺は陛下の命を受け、王城以外で過去に異世界と繋がったことのある場所。初代神子が現れたという泉へ向かったのだ。
  
 穢れに満ちていたはずの場所が、魔物一匹おらず、泉が完全に浄化されていたことに驚愕した。

 そして、すぐ近くの今は使われていない山小屋で見つけた、美しい人物。
 陛下から聞いた年齢にはとても見えなかったので、巻き込まれた別人かとも思ったが……名を聞けば、当人だった。
 しかも、背中を見せてもらうよう頼む必要もない、あられもない姿で眠っていたのだ。俺は神に、精神力を試されたのかもしれない……。

 陛下からの指示は、巻き込まれた者が一般人であれば、召喚の件を隠し一時的な保護を。背中に聖痕があれば『贖罪の神子』とし、王城に連れて来るようにと。

 観測者というのは、保護対象者の為に作った仮の役職だ。一芝居打ち、認めても認めなくても、召喚に巻き込まれた者に警戒されないよう、仕事や住まいを紹介する予定だった。秘密裏に警護する為に。
 神子に関する詳しいことは、俺たちから話すことが出来ないからだ。王家の判断を待つしかない。

 けれど『愛し子』の可能性は考えていなかった。

「フーマ様は、神子になりたくないのでしょうね」
「そうだろうな。『観測者』なんて有りもしない話に、すぐに乗ってきたのだから」
「けれど、元の世界に戻りたいといった感じも受けませんでした」
「ああ。こっちの世界で、慎ましやかな生活を望んでいるようだ」
「ですが、あのご容姿では……。異世界の方だとすぐに気づかれてしまうでしょう。かと言って、王城に来たら『贖罪の神子』がフーマ様に何をしでかすかわかりませんからね」
「憶測でしかないが――。今回の『贖罪の神子』は、所謂いわゆる犯罪者ではなく『愛し子』にをして、神に選ばれたのではないだろうか?」
「……ありそうですね。『愛し子』から離すために神子に選ばれた。なのに、フーマ様まで連れて来てしまうとは。それが事実であれば、恐ろしい執念ですね」
「まったくだ」

 フーマは、俺に肌を見られても気にしない様子から、男慣れしているのかと思った。あの男の執着心を考えれば、元恋人のせんもあるかと。
 だから、俺は馬車でフーマを誘惑してみた。

 俺は、火と風の属性以外に闇を持っている。闇の魔力を放出すれば、男女問わず一時的に魅了できるからだ。
 けれど、フーマには効かなかった。

 体を密着させても、恥じらうだけで特に反応はなく、すぐにスヤスヤと眠りに入った。その時ふわりと、フーマから神の香りとも呼ばれる花と同じ、清らかで神聖な香りを強く感じたのだ。
 俺は、闇の力があるからこそ、穢れた場所に入ることもできるし、神聖な香りにも敏感だ。フーマが『愛し子』であるのは間違いない。

「本当にフーマは……元の世界に戻りたくないのだろうか?」
「戻りたければ、自分も召喚されたと名乗りをあげるのでは? 元の世界へ帰せと」
「だが、ああして元の世界の物を、大切に隠し持っている。やはり、心では帰りたいと思っているのかもしれない」
「どうでしょう? 思い入れがある物や……。自分の存在を隠す為に、手元に置いているだけかもしれませんよ。フーマ様は子供ではありませんから」

 そうだ、彼は俺たちより年上だ。
 色々と経験しているぶん、何事にも動じないのかと思ったのだが――違った。

 宿で風呂から上がると、フーマはベッドの中でひとり涙を流し、震えながら身を小さく丸めて眠っていたのだ。
 どうしようもなく、胸が締め付けられた。
 少しでもフーマの不安が取り除ければと、そっと寄り添うように横になったのだが……。

 フーマは俺の胸に擦り寄って、ぎゅうぎゅうと抱きついてきて、またしても俺の方が試されているような状態になってしまった。
 あげく、寝返りを打とうとしたのか、やたら動かれ理性を保つのが大変だった。
 できることなら、このままフーマを離したくない――そんな感情を抱くほど、他者に惹かれるとは思わなかった。

 だが、それは叶わない。

 彼の望みが最優先だからだ。でなければ、俺自身が今回の『贖罪の神子』と同じになってしまう。それだけは駄目だ。
 我が侯爵家は、初代神子様に誓いを立てた、王家と贖罪の神子の監視者なのだから。闇を受け継いだのも、俺が侯爵家の人間だからだ。
 実家は出たが、末裔であることに変わりはない。

「陛下だけには、報告すべきだろうな」
「……ご当主様に、ご相談されてみては?」
「そうだな……。とりあえずは、泉が浄化されていた報告だけは上げておこう。あの異世界の菓子の箱は、全て処分しておいてくれ」
「承知しました」
 
 俺たちがすべきことの、一つだけはハッキリしている。
 フーマを『贖罪の神子』から守ること。
 同時に召喚されたのに、別々の場所に現れたその意味を、俺たちは考えなければならないのだ。
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