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7、新婚さんじゃあるまいし
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「いってらっしゃいませ」
「ああ、行ってくる」
ホテルのロビーみたいな玄関ホールで、王城へ向かうエグベアートを見送る。
第五騎士団の派遣(?)として俺の登録をするために。すぐに帰って来られるらしく、街歩きはランチを兼ねて、戻ってから行くことになった。
なかなか歩き出さないエグベアートは、何か言いたそうに俺を見下ろす。
「フーマ……その、なんだ……」
「どうしました?」
「私にも敬語はやめてくれないか?」
「え⁉︎ さすがにそれは」と口篭ってしまう。
エグベアートは伯爵様で騎士団長だ。平民がタメ口したら、当人はよくても周囲から顰蹙を買ってしまう。
「この邸と、二人の時だけでいい……駄目、だろうか?」
尻尾を下げてしょんぼりする大型犬の姿が重なる。
でっかいのに可愛いとか、ちょっとズルくないか?
「それでしたら……」と言うと、エグベアートはパッと華やかな笑顔になった。
「ありがとうフーマ! すぐに帰る。待っていてくれ!」
「うん、楽しみにしてる。いってらっしゃい」
切り替えの早い俺は、そんなやり取りを終えて、与えられた自分の部屋へ戻ろうしたが――後ろに控えていたバルウィンが、満面の笑みでこちらを見ていた。
「えっと、何?」
「微笑ましい光景に感動しておりました。次からは、ハグとかキスをして差し上げたら、更に悦ばれますよ」
「しないよ?」
「それは残念です」
バルウィンはさっきのエグベアートを真似て、しょんぼりする。
「エグベアートの真似しても無理! 会って数日のオッサンからキスとか、ドン引きされちゃうよ」
「おや? フーマ様はお嫌ではないのですね」
「え……。俺は嫌じゃない……たぶん? エグベアートに気持ち悪がられる方が怖い」
トラウマで、自分から女性に触れるのは絶対に無理だけど。
「挨拶程度の文化なら受け入れられるけど、違うよね?」
この世界には身分制度があるから、下の者からできる訳がない。そのくらいは俺でもわかる。
「この国の貴族文化の一つです」
「うそだぁ。新婚さんじゃあるまいし」
胡乱な目でバルウィンを見る。
「では、エグベアート様にご確認するのが良いでしょう。私は嘘は言っておりませんから」
にこにこと、バルウィンはゴリ押ししてくる。
「……訊くだけね」
「はい! では、デートの準備をいたします」
「へ?」
俺は浴室に連れていかれ、メイド長のアメリーを筆頭に、ご高齢のメイドさん達によって、全身ピカピカに磨き上げられてしまった。
しかも髪まで切られた……なぜに⁉︎
※※※
エグベアートは言っていた通り、昼食時間の前には帰って来た。
朝同様に、バルウィンと出迎える。
「ただいま、フーマ」
「おかえりなさい」
「髪を切ったのか。よく似合っている」
エグベアートは手を伸ばし、俺のサイドの髪を流すように手櫛で梳いた。整えてくれただけだろうが、大きな手のひらが頬を撫でドキンとする。何を意識しているんだ俺はっ!
「な、なら、よかった。あと、服もありがとう」
伯爵邸に着いた時に用意されていた服とはまた違う、少しフリルのついたシャツとトラウザーズ。
この邸で暮らすことになり、仕事でも必要になるからと採寸され、新調してもらったものだ。
――ゴホン!
と、背後からバルウィンの咳払いが聞こえた。さっさと訊けという事なのだろう。
「今朝、バルウィンから教えてもらったのだけど……。見送りの時にハグやキスするのって、貴族文化のひとつだって……本当?」
瞠目したエグベアートは、バルウィンの方を見て溜め息を吐く。
「あるには、ある。ただ、それはお互いに同意があればだ。義務ではないし、相手が望まなければしてはいけない」
「だよねー!」
よかった。それなら常識の範囲内だ。
「フーマが望んでしてくれるなら、私は嬉しいが……無理ではないから、心配しなくていい」
「は? 俺がして嬉しいの?」
「当たり前だ。嬉しいに決まっている」
それって、エグベアートはしてほしいって事だよな? チラッとバルウィンを見ると、笑顔で頷いている。視線が「はよ行け」と言っているような気がする。まじか。
「えっと、じゃあやり直しで……おかえりなさい?」
両腕を前につき出すと、カッと目を見開いたエグベアートは「いいのか?」と掠れた声で言う。
俺が頷いた次の瞬間には、エグベアートにハグ――縦抱っこ状態に抱き締められた。
そのまま頬にキスをと思ったら、エグベアートの片手が俺の後頭部を押さえた。
ん?
これは、エグベアートからするパターンなのだろうか。まあ、ほっぺだし、どっちからでもいいか。
エグベアートは顔を近づけて、キスをした。
ん゛んっ⁉︎
唇を唇で塞がれ、熱を持った厚みのある舌がヌルリと入ってきた。
は、嘘だろ⁉︎ 口に……それもディープなやつとか聞いてない!
貪るように舌を絡められ、離そうと角度を変えれば舌を吸われて、また入ってくる。敏感な部分をなぞられると、ゾクゾクして体の力が抜けてしまう。
と、その時。
「――ゴホン、ゴホン‼︎」
大きな咳払いが聞こえ、やっと唇が解放された。
力が入らず、クタリとした俺に気づいたエグベアートが焦り出す。
「やりすぎです」と、怒気を含んだバルウィンの声。
そうだ、ここは玄関ホールだった。絶対、みんなに見られていたはず。恥ずかし過ぎて、顔を上げられない‼︎
ぐううっ、ちゃんとしたキスは初めてだったのに。
ん……いや、オッサンのファースト(ディープ)キスを、こんな美形に貰ってもらったのは喜ぶべきか?
「す、すまない! 嬉しくて、ついっ……」
新婚さんでも、こんな濃厚なのは毎日しないだろうな。眉を下げ、慌てまくる大型犬に笑ってしまう。
「……いいけどさぁ。次は唇は禁止、頬だけだからな……」
※※※
それから、冷静さを取り戻したエグベアートから、姿を変える魔道具を貰った。調査隊は任務によって、顔バレすると危険が伴う事があるらしく、見た目そのものを別人に変えるものらしい。
指輪の形になっているので自分で嵌めようとしたが、エグベアートがサッと箱から取り出し、片膝をついて俺の左手を取った。
え……まさか?
エグベアートはニコリと笑みを浮かべ、そのまま薬指へ。まるで、プロポーズのシチュエーションみたいに。
「よく似合っている」
上目遣いのイケメンの破壊力たるや!
「ありがと……」
じゃなーい‼︎
異世界だから、エグベアートは嵌める指の意味を知らないだろうけどっ。指輪も魔道具だしね!
本当のことを言えない俺は、そのまま魔道具を試した状態で、街へ繰り出すことになった。
エグベアートよ……これ以上なにかしたら、チェリーなオッサンの精神力のHPは0になってしまうからな?
「ああ、行ってくる」
ホテルのロビーみたいな玄関ホールで、王城へ向かうエグベアートを見送る。
第五騎士団の派遣(?)として俺の登録をするために。すぐに帰って来られるらしく、街歩きはランチを兼ねて、戻ってから行くことになった。
なかなか歩き出さないエグベアートは、何か言いたそうに俺を見下ろす。
「フーマ……その、なんだ……」
「どうしました?」
「私にも敬語はやめてくれないか?」
「え⁉︎ さすがにそれは」と口篭ってしまう。
エグベアートは伯爵様で騎士団長だ。平民がタメ口したら、当人はよくても周囲から顰蹙を買ってしまう。
「この邸と、二人の時だけでいい……駄目、だろうか?」
尻尾を下げてしょんぼりする大型犬の姿が重なる。
でっかいのに可愛いとか、ちょっとズルくないか?
「それでしたら……」と言うと、エグベアートはパッと華やかな笑顔になった。
「ありがとうフーマ! すぐに帰る。待っていてくれ!」
「うん、楽しみにしてる。いってらっしゃい」
切り替えの早い俺は、そんなやり取りを終えて、与えられた自分の部屋へ戻ろうしたが――後ろに控えていたバルウィンが、満面の笑みでこちらを見ていた。
「えっと、何?」
「微笑ましい光景に感動しておりました。次からは、ハグとかキスをして差し上げたら、更に悦ばれますよ」
「しないよ?」
「それは残念です」
バルウィンはさっきのエグベアートを真似て、しょんぼりする。
「エグベアートの真似しても無理! 会って数日のオッサンからキスとか、ドン引きされちゃうよ」
「おや? フーマ様はお嫌ではないのですね」
「え……。俺は嫌じゃない……たぶん? エグベアートに気持ち悪がられる方が怖い」
トラウマで、自分から女性に触れるのは絶対に無理だけど。
「挨拶程度の文化なら受け入れられるけど、違うよね?」
この世界には身分制度があるから、下の者からできる訳がない。そのくらいは俺でもわかる。
「この国の貴族文化の一つです」
「うそだぁ。新婚さんじゃあるまいし」
胡乱な目でバルウィンを見る。
「では、エグベアート様にご確認するのが良いでしょう。私は嘘は言っておりませんから」
にこにこと、バルウィンはゴリ押ししてくる。
「……訊くだけね」
「はい! では、デートの準備をいたします」
「へ?」
俺は浴室に連れていかれ、メイド長のアメリーを筆頭に、ご高齢のメイドさん達によって、全身ピカピカに磨き上げられてしまった。
しかも髪まで切られた……なぜに⁉︎
※※※
エグベアートは言っていた通り、昼食時間の前には帰って来た。
朝同様に、バルウィンと出迎える。
「ただいま、フーマ」
「おかえりなさい」
「髪を切ったのか。よく似合っている」
エグベアートは手を伸ばし、俺のサイドの髪を流すように手櫛で梳いた。整えてくれただけだろうが、大きな手のひらが頬を撫でドキンとする。何を意識しているんだ俺はっ!
「な、なら、よかった。あと、服もありがとう」
伯爵邸に着いた時に用意されていた服とはまた違う、少しフリルのついたシャツとトラウザーズ。
この邸で暮らすことになり、仕事でも必要になるからと採寸され、新調してもらったものだ。
――ゴホン!
と、背後からバルウィンの咳払いが聞こえた。さっさと訊けという事なのだろう。
「今朝、バルウィンから教えてもらったのだけど……。見送りの時にハグやキスするのって、貴族文化のひとつだって……本当?」
瞠目したエグベアートは、バルウィンの方を見て溜め息を吐く。
「あるには、ある。ただ、それはお互いに同意があればだ。義務ではないし、相手が望まなければしてはいけない」
「だよねー!」
よかった。それなら常識の範囲内だ。
「フーマが望んでしてくれるなら、私は嬉しいが……無理ではないから、心配しなくていい」
「は? 俺がして嬉しいの?」
「当たり前だ。嬉しいに決まっている」
それって、エグベアートはしてほしいって事だよな? チラッとバルウィンを見ると、笑顔で頷いている。視線が「はよ行け」と言っているような気がする。まじか。
「えっと、じゃあやり直しで……おかえりなさい?」
両腕を前につき出すと、カッと目を見開いたエグベアートは「いいのか?」と掠れた声で言う。
俺が頷いた次の瞬間には、エグベアートにハグ――縦抱っこ状態に抱き締められた。
そのまま頬にキスをと思ったら、エグベアートの片手が俺の後頭部を押さえた。
ん?
これは、エグベアートからするパターンなのだろうか。まあ、ほっぺだし、どっちからでもいいか。
エグベアートは顔を近づけて、キスをした。
ん゛んっ⁉︎
唇を唇で塞がれ、熱を持った厚みのある舌がヌルリと入ってきた。
は、嘘だろ⁉︎ 口に……それもディープなやつとか聞いてない!
貪るように舌を絡められ、離そうと角度を変えれば舌を吸われて、また入ってくる。敏感な部分をなぞられると、ゾクゾクして体の力が抜けてしまう。
と、その時。
「――ゴホン、ゴホン‼︎」
大きな咳払いが聞こえ、やっと唇が解放された。
力が入らず、クタリとした俺に気づいたエグベアートが焦り出す。
「やりすぎです」と、怒気を含んだバルウィンの声。
そうだ、ここは玄関ホールだった。絶対、みんなに見られていたはず。恥ずかし過ぎて、顔を上げられない‼︎
ぐううっ、ちゃんとしたキスは初めてだったのに。
ん……いや、オッサンのファースト(ディープ)キスを、こんな美形に貰ってもらったのは喜ぶべきか?
「す、すまない! 嬉しくて、ついっ……」
新婚さんでも、こんな濃厚なのは毎日しないだろうな。眉を下げ、慌てまくる大型犬に笑ってしまう。
「……いいけどさぁ。次は唇は禁止、頬だけだからな……」
※※※
それから、冷静さを取り戻したエグベアートから、姿を変える魔道具を貰った。調査隊は任務によって、顔バレすると危険が伴う事があるらしく、見た目そのものを別人に変えるものらしい。
指輪の形になっているので自分で嵌めようとしたが、エグベアートがサッと箱から取り出し、片膝をついて俺の左手を取った。
え……まさか?
エグベアートはニコリと笑みを浮かべ、そのまま薬指へ。まるで、プロポーズのシチュエーションみたいに。
「よく似合っている」
上目遣いのイケメンの破壊力たるや!
「ありがと……」
じゃなーい‼︎
異世界だから、エグベアートは嵌める指の意味を知らないだろうけどっ。指輪も魔道具だしね!
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