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6 この女は……
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「納得いかない」
ベッドの上で胡座をかいたあゆみは、アイドルらしからね顔をしながら唸り声をあげた。
「健介に何があったわけ?」
あゆみの知る健介は、ハンドボール大好き少年だった。小学生の時にこのスポーツに出会って以来熱中し、好きこそものの上手なれを体現した健介はめきめき腕を上げ、全国に名を轟かす選手にまでなったのだ。
何よりもハンドボール優先の生活は、小学生にとっては非常に奇異なものに映る。奇異でありながら、実に楽しそうな健介を見ていると、あゆみの中にひとつの疑問が浮かんできた。
そんなに面白いの?
元々好奇心旺盛な質のあゆみが一度そう思ってしまうと、これはもう確かめずにはいられなかった。
ちょうどその時仲のいい、よくつるむメンバーがハンドボールの七人と重なっていたことも追い風になった。
そして、七人もハンドボールというスポーツの虜になったのだ。
あゆみ自身はどうにもならない事情により一時競技から離れたものの、こうしてまた戻ってきた。健介とも以前のようにつきあえるかと思っていたのだが、まるっきり当てが外れてしまった。
「あの健介が本気でハンドをやめるはずがない」
それはあゆみの確信だった。
部屋で寝転んでいたら、ノックもなしに突然扉が開かれた。驚いた健介が跳ね起きると、何やら怖い顔をしたあゆみが仁王立ちしていた。
「何だよいきなり。人の部屋に入る時はノックくらいするもんだぞ」
「必要ナッシング」
健介の正論をあゆみがぶった切る。
「ノックなんかしたら、弱味を掴むチャンスがなくなるじゃない」
「あのな……」
健介はガックリ脱力した。
こいつ、変わってねえ。こういう傍若無人なところ、まったく変わってねえ……
「…で、何だよ、用事は?」
疲労感を覚えながら健介は訊いた。積極的に話を聞きたいとはこれっぽっちも思わなかったが、聞かずに終わらせることはできないだろうと判断したのだ。それならばさっさと終わらせようと思ったのだ。
「調べたわよ!」
「は?」
「健介がハンドから離れた理由」
「そのことか……」
健介は苦虫をかみ潰した。
「ほじくり返しても誰も喜ばねえ話だからな。放っといてくれ」
「そうはいかないわ」
あゆみは健介に詰め寄った。唇が触れんばかりの距離に健介はのけ反った。
「ちょ、ちけえって!」
健介の反応には構わず、あゆみは更に言い募る。
「問題を突き詰めてって解決すれば、健介がハンドに戻って来るでしょ。そしたらコーチもしてもらえるし、あたしにとってはメリットしかないのよ」
「…何て自分勝手なヤツなんだ……」
そんな理由で古傷をひっかかれたら、それこそたまったものではない。健介の表情も固くなった。
「とにかく、俺はもうハンドはやんねえって決めたんだ。あきらめろ」
「絶対あきらめない」
あゆみはきっぱり言い切った。
「ちゃんとした理由があるならともかく、そうじゃないんだから、あたしはあきらめない」
「……」
健介の表情が物騒な色を帯びた。
「知ったような口きくんじゃねえ」
「そんな顔したって怖くないわよ」
つんとあごをそびやかしたあゆみと健介は、一触即発の空気を醸し出した。
ベッドの上で胡座をかいたあゆみは、アイドルらしからね顔をしながら唸り声をあげた。
「健介に何があったわけ?」
あゆみの知る健介は、ハンドボール大好き少年だった。小学生の時にこのスポーツに出会って以来熱中し、好きこそものの上手なれを体現した健介はめきめき腕を上げ、全国に名を轟かす選手にまでなったのだ。
何よりもハンドボール優先の生活は、小学生にとっては非常に奇異なものに映る。奇異でありながら、実に楽しそうな健介を見ていると、あゆみの中にひとつの疑問が浮かんできた。
そんなに面白いの?
元々好奇心旺盛な質のあゆみが一度そう思ってしまうと、これはもう確かめずにはいられなかった。
ちょうどその時仲のいい、よくつるむメンバーがハンドボールの七人と重なっていたことも追い風になった。
そして、七人もハンドボールというスポーツの虜になったのだ。
あゆみ自身はどうにもならない事情により一時競技から離れたものの、こうしてまた戻ってきた。健介とも以前のようにつきあえるかと思っていたのだが、まるっきり当てが外れてしまった。
「あの健介が本気でハンドをやめるはずがない」
それはあゆみの確信だった。
部屋で寝転んでいたら、ノックもなしに突然扉が開かれた。驚いた健介が跳ね起きると、何やら怖い顔をしたあゆみが仁王立ちしていた。
「何だよいきなり。人の部屋に入る時はノックくらいするもんだぞ」
「必要ナッシング」
健介の正論をあゆみがぶった切る。
「ノックなんかしたら、弱味を掴むチャンスがなくなるじゃない」
「あのな……」
健介はガックリ脱力した。
こいつ、変わってねえ。こういう傍若無人なところ、まったく変わってねえ……
「…で、何だよ、用事は?」
疲労感を覚えながら健介は訊いた。積極的に話を聞きたいとはこれっぽっちも思わなかったが、聞かずに終わらせることはできないだろうと判断したのだ。それならばさっさと終わらせようと思ったのだ。
「調べたわよ!」
「は?」
「健介がハンドから離れた理由」
「そのことか……」
健介は苦虫をかみ潰した。
「ほじくり返しても誰も喜ばねえ話だからな。放っといてくれ」
「そうはいかないわ」
あゆみは健介に詰め寄った。唇が触れんばかりの距離に健介はのけ反った。
「ちょ、ちけえって!」
健介の反応には構わず、あゆみは更に言い募る。
「問題を突き詰めてって解決すれば、健介がハンドに戻って来るでしょ。そしたらコーチもしてもらえるし、あたしにとってはメリットしかないのよ」
「…何て自分勝手なヤツなんだ……」
そんな理由で古傷をひっかかれたら、それこそたまったものではない。健介の表情も固くなった。
「とにかく、俺はもうハンドはやんねえって決めたんだ。あきらめろ」
「絶対あきらめない」
あゆみはきっぱり言い切った。
「ちゃんとした理由があるならともかく、そうじゃないんだから、あたしはあきらめない」
「……」
健介の表情が物騒な色を帯びた。
「知ったような口きくんじゃねえ」
「そんな顔したって怖くないわよ」
つんとあごをそびやかしたあゆみと健介は、一触即発の空気を醸し出した。
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