She is So Cute! ~彼女は送球人~

オフィス景

文字の大きさ
7 / 12

6 この女は……

しおりを挟む
「納得いかない」

 ベッドの上で胡座をかいたあゆみは、アイドルらしからね顔をしながら唸り声をあげた。

「健介に何があったわけ?」

 あゆみの知る健介は、ハンドボール大好き少年だった。小学生の時にこのスポーツに出会って以来熱中し、好きこそものの上手なれを体現した健介はめきめき腕を上げ、全国に名を轟かす選手にまでなったのだ。

 何よりもハンドボール優先の生活は、小学生にとっては非常に奇異なものに映る。奇異でありながら、実に楽しそうな健介を見ていると、あゆみの中にひとつの疑問が浮かんできた。

 そんなに面白いの?

 元々好奇心旺盛な質のあゆみが一度そう思ってしまうと、これはもう確かめずにはいられなかった。

 ちょうどその時仲のいい、よくつるむメンバーがハンドボールの七人と重なっていたことも追い風になった。

 そして、七人もハンドボールというスポーツの虜になったのだ。

 あゆみ自身はどうにもならない事情により一時競技から離れたものの、こうしてまた戻ってきた。健介とも以前のようにつきあえるかと思っていたのだが、まるっきり当てが外れてしまった。

「あの健介が本気でハンドをやめるはずがない」

 それはあゆみの確信だった。

    

 部屋で寝転んでいたら、ノックもなしに突然扉が開かれた。驚いた健介が跳ね起きると、何やら怖い顔をしたあゆみが仁王立ちしていた。

「何だよいきなり。人の部屋に入る時はノックくらいするもんだぞ」

「必要ナッシング」

 健介の正論をあゆみがぶった切る。

「ノックなんかしたら、弱味を掴むチャンスがなくなるじゃない」

「あのな……」

 健介はガックリ脱力した。

 こいつ、変わってねえ。こういう傍若無人なところ、まったく変わってねえ……

「…で、何だよ、用事は?」

 疲労感を覚えながら健介は訊いた。積極的に話を聞きたいとはこれっぽっちも思わなかったが、聞かずに終わらせることはできないだろうと判断したのだ。それならばさっさと終わらせようと思ったのだ。

「調べたわよ!」

「は?」

「健介がハンドから離れた理由」

「そのことか……」

 健介は苦虫をかみ潰した。

「ほじくり返しても誰も喜ばねえ話だからな。放っといてくれ」

「そうはいかないわ」

 あゆみは健介に詰め寄った。唇が触れんばかりの距離に健介はのけ反った。

「ちょ、ちけえって!」

 健介の反応には構わず、あゆみは更に言い募る。

「問題を突き詰めてって解決すれば、健介がハンドに戻って来るでしょ。そしたらコーチもしてもらえるし、あたしにとってはメリットしかないのよ」

「…何て自分勝手なヤツなんだ……」

 そんな理由で古傷をひっかかれたら、それこそたまったものではない。健介の表情も固くなった。

「とにかく、俺はもうハンドはやんねえって決めたんだ。あきらめろ」

「絶対あきらめない」

 あゆみはきっぱり言い切った。

「ちゃんとした理由があるならともかく、そうじゃないんだから、あたしはあきらめない」

「……」

 健介の表情が物騒な色を帯びた。

「知ったような口きくんじゃねえ」

「そんな顔したって怖くないわよ」

 つんとあごをそびやかしたあゆみと健介は、一触即発の空気を醸し出した。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...