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10 あゆみのモチベーション
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「はあーっ」
聞き出した話のしょうもなさに、あゆみは自分史上最深のため息をついた。
「…何なのよ、それ」
呆れた顔で言われて、健介は不貞腐れる。
「だから言っただろが、つまんねー話だって」
「ほんっとにつまんなかったわね」
あゆみは肩をすくめた。芝居がかった仕草だが、さすがはアイドルというべきか、妙に様になっていた。
「どれだけ時間を無駄にしてるのよ。もったいないったらありゃしない」
「部外者は気楽に言うけどな、またあんな思いをするくらいならチームスポーツなんてやりたかねえよ」
「はあー、健介らしいって言えばその通りなんだけど……歯がゆいわね」
「おまえが何を思ってコーチなんて言い出したか知らんけど、俺にはその気はないからあきらめてくれ」
「そういうわけにはいかないわ。あたしには健介の力が必要なんだから」
どれだけ断られても、あゆみにあきらめるつもりはなかった。むしろ承諾してもらえるまでしつこく粘る気満々であった。
「だから、何で俺なんだよ」
「そんなの決まってるじゃない。あたしにとってハンドボールと健介はイコールなんだから」
「は?」
健介の目が点になる。
「何だ、そりゃ?」
「始めたきっかけも健介だし、続けてくモチベーションも健介なんだから、当然イコールになるでしょ」
当たり前のようにあゆみは言うが、健介の頭にはクエスチョンマークが浮かぶばかりである。
「…きっかけはまぁわからなくもないが、モチベーションが俺ってどういうことだ?」
「健介より上手くなりたいのよ」
「ポジション違うけど?」
「選手として評価されたいって思ってたの!」
あゆみの声が高くなった。
「それがずっとあたしの目標だったんだもん。モチベーションって言ったっていいじゃない。ダメなの!?」
「ダ、ダメじゃねえ」
勢いに押されるように健介は頷いた。
「これでまた健介の背中を追いかけられると思ってたのに、当の健介は下らない理由でハンド辞めちゃってるし、あたしのこの想いはどこへ行けばいいのよ……」
「……」
がっくりとうなだれるあゆみに、そんなの知るかとは言えなくなってしまった健介である
今でこそやり場のない想いを拗らせてすねた感じになってしまっている健介だが、元はまっすぐな熱血少年である。ほぼほぼ同類であるあゆみの心を見誤ることはなかった。
それでもその拗らせがおかしな意地に変換されてさしまっているせいで、はいそうですかという訳にはなかなかいかなかった。
あと一押しと感じたあゆみは、最善と思われる言葉に真心を込めることにした。ここで変な小細工を弄しようとしないのは、あゆみの美点であったろう。
「ーーあたしは、何があっても裏切らないよ」
「……」
口に出しての返事はなかった。
しかし、あゆみははっきりと感じ取った。
健介の心が動いたことを。
聞き出した話のしょうもなさに、あゆみは自分史上最深のため息をついた。
「…何なのよ、それ」
呆れた顔で言われて、健介は不貞腐れる。
「だから言っただろが、つまんねー話だって」
「ほんっとにつまんなかったわね」
あゆみは肩をすくめた。芝居がかった仕草だが、さすがはアイドルというべきか、妙に様になっていた。
「どれだけ時間を無駄にしてるのよ。もったいないったらありゃしない」
「部外者は気楽に言うけどな、またあんな思いをするくらいならチームスポーツなんてやりたかねえよ」
「はあー、健介らしいって言えばその通りなんだけど……歯がゆいわね」
「おまえが何を思ってコーチなんて言い出したか知らんけど、俺にはその気はないからあきらめてくれ」
「そういうわけにはいかないわ。あたしには健介の力が必要なんだから」
どれだけ断られても、あゆみにあきらめるつもりはなかった。むしろ承諾してもらえるまでしつこく粘る気満々であった。
「だから、何で俺なんだよ」
「そんなの決まってるじゃない。あたしにとってハンドボールと健介はイコールなんだから」
「は?」
健介の目が点になる。
「何だ、そりゃ?」
「始めたきっかけも健介だし、続けてくモチベーションも健介なんだから、当然イコールになるでしょ」
当たり前のようにあゆみは言うが、健介の頭にはクエスチョンマークが浮かぶばかりである。
「…きっかけはまぁわからなくもないが、モチベーションが俺ってどういうことだ?」
「健介より上手くなりたいのよ」
「ポジション違うけど?」
「選手として評価されたいって思ってたの!」
あゆみの声が高くなった。
「それがずっとあたしの目標だったんだもん。モチベーションって言ったっていいじゃない。ダメなの!?」
「ダ、ダメじゃねえ」
勢いに押されるように健介は頷いた。
「これでまた健介の背中を追いかけられると思ってたのに、当の健介は下らない理由でハンド辞めちゃってるし、あたしのこの想いはどこへ行けばいいのよ……」
「……」
がっくりとうなだれるあゆみに、そんなの知るかとは言えなくなってしまった健介である
今でこそやり場のない想いを拗らせてすねた感じになってしまっている健介だが、元はまっすぐな熱血少年である。ほぼほぼ同類であるあゆみの心を見誤ることはなかった。
それでもその拗らせがおかしな意地に変換されてさしまっているせいで、はいそうですかという訳にはなかなかいかなかった。
あと一押しと感じたあゆみは、最善と思われる言葉に真心を込めることにした。ここで変な小細工を弄しようとしないのは、あゆみの美点であったろう。
「ーーあたしは、何があっても裏切らないよ」
「……」
口に出しての返事はなかった。
しかし、あゆみははっきりと感じ取った。
健介の心が動いたことを。
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