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4 黎明の翼
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冒険者ギルドの扉をくぐると、一斉に視線が集まってくる。その視線の種類が最近急激に変わりつつあった。
「おい、あれがーー」
「ああ。『黎明の翼』だ」
「この前オークの群れを撃破したって」
「あの若さでなぁ」
周囲の噂話が耳に届いてくる。
ナディアとアーノルドに俺を加えた冒険者パーティー『黎明の翼』は、現在冒険者ギルドで最も注目されている存在となっていた。
注目される理由は圧倒的なその戦績。パーティー結成直後からただ一度の失敗もなくあっという間に銅ランクまで昇格した。
そして、銅ランク昇格後初めてのクエストで三桁に届こうかというオークの群れを殲滅してのけたのだ。通常なら複数のパーティーで対処するレベルだが、まったく問題なく、ほぼ無傷での戦果であった。
登録したてのルーキーの戦果とは思えない。注目はされない方がおかしかった。
「マジですげえな。スキル授かったばかりでもう使いこなしてるのかよ」
「そのスキルがまたハンパねえんだろ」
「ああ。『四属性魔法』と『剣豪』だからな。どっちも滅多に出ないレアスキルだ」
「あれ、もう一人は?」
「あれは二人のおまけだよ。戦闘力はまったくないらしい。幼馴染ってことで寄生してるだけのザコだよ」
うるせえよ。
んなこた言われんでも俺が一番わかってるっつーの。
俺のスキルに関してはまったく進展がない。新しい単語は思い出せないし、手がかりすら見つからない。
そうなると俺は戦闘では何の役にも立たない。用具及び食事係だ。
二人はそれでもいいと言ってくれるが、それに甘えてたらいけないと思うし、そのつもりもない。
と意気込みはするのだが、いかんせんどうやったらスキルが育つのかーー強くなれるのかさっぱりわからない。ナディア、アーノルドとの差は開く一方だ。
出来る限りのことはやろうと剣の素振りなどは欠かしていないが、それだけでは焼け石に水でしかない。
あー、くそ……辞書が欲しいな……
前世だったら絶対に思わなかったことを、今痛切に思う。
でも、アルファベットがない世界に辞書なんてあるわけがない。
前途は多難だとため息をついた時、ナディアの鋭い声が飛んだ。
「気をつけて! ヤバいのが来るわよ!!」
通路の奥で何かがキラッと光ったと思ったら、棒状の物が猛スピードで飛んできた。
「うおっ!?」
かわせたのは正直まぐれだ。次も同じようにかわせる自信はない。
棒状の何かはガッチガチの岩盤に根本まで突き刺さった。なんて貫通力だよ。
心を整える間もなく、本体が突進してきた。凶悪な角を生やした猪の魔物ーーホーンボアだ。
ホーンボア自体は珍しくもない、ありふれた魔物なのだが、その大きさが尋常ではなかった。三人が並んで歩ける幅の通路が窮屈に感じるほどの巨体も脅威だが、その角の大きさは成人男性に匹敵する。
そんなのが正面から突っ込んで来たのだ。半端ないド迫力に逃げ出しそうになったのだが、ボアの巨体から逃げれそうな場所はなかった。
「うおっ!」
前に出たアーノルドが真っ向から剣を振り下ろす。
いくら何でもそりゃ無理だろ。吹っ飛ばされるぞ。
と思ったのだが、アーノルドの剣とボアの角は激しい火花を散らしつつ拮抗した。
マジか!?
初めて親友をバケモノだと思った。こいつ、絶対人間じゃない。
「チャンス!」
ナディアが魔法を発動する。
「ウォーターカッター!」
超高圧の水流が放たれる。以前巨岩を両断するのを見たこともある、ナディアの必殺魔法だ。
しかし、ボアの硬い体毛がナディアの魔法を弾いた。
「ウソっ!?」
予想外の結果にナディアは動きを止めてしまう。
そこへボアの体毛が射出された。
「あぶねえっ!」
間一髪、俺のタックルが間に合った。もつれて転がった俺たちを掠め、体毛が岩壁に突き刺さる。
どんなんだよ!?
騒いでる場合じゃない。あんなの食らったらひとたまりもない。幸い正面には打ち出せなさそうなので、そちらに避難する。
「あたしのウォーターカッターが効かないなんて……」
ナディアはショックを受けている。この場で慰めているゆとりはないが、ひとつの言葉が引っ掛かった。
ん? もしかして、カッターってCじゃないか?
閃いた、というほどではないが、今の俺には天啓に等しかった。
ただ、自信はなかった。だから、小声で呟いた。
「ーーカット」
「うおっ!?」
声をあげたのはアーノルドだった。
それもそのはず、鍔迫り合いを繰り広げていた相手がいきなり真っ二つに両断されたのだ。びっくりもするだろう。
「え? 何?」
ナディアも驚いている。
が、一番驚いていたのは俺だった。
マジか……
「おい、あれがーー」
「ああ。『黎明の翼』だ」
「この前オークの群れを撃破したって」
「あの若さでなぁ」
周囲の噂話が耳に届いてくる。
ナディアとアーノルドに俺を加えた冒険者パーティー『黎明の翼』は、現在冒険者ギルドで最も注目されている存在となっていた。
注目される理由は圧倒的なその戦績。パーティー結成直後からただ一度の失敗もなくあっという間に銅ランクまで昇格した。
そして、銅ランク昇格後初めてのクエストで三桁に届こうかというオークの群れを殲滅してのけたのだ。通常なら複数のパーティーで対処するレベルだが、まったく問題なく、ほぼ無傷での戦果であった。
登録したてのルーキーの戦果とは思えない。注目はされない方がおかしかった。
「マジですげえな。スキル授かったばかりでもう使いこなしてるのかよ」
「そのスキルがまたハンパねえんだろ」
「ああ。『四属性魔法』と『剣豪』だからな。どっちも滅多に出ないレアスキルだ」
「あれ、もう一人は?」
「あれは二人のおまけだよ。戦闘力はまったくないらしい。幼馴染ってことで寄生してるだけのザコだよ」
うるせえよ。
んなこた言われんでも俺が一番わかってるっつーの。
俺のスキルに関してはまったく進展がない。新しい単語は思い出せないし、手がかりすら見つからない。
そうなると俺は戦闘では何の役にも立たない。用具及び食事係だ。
二人はそれでもいいと言ってくれるが、それに甘えてたらいけないと思うし、そのつもりもない。
と意気込みはするのだが、いかんせんどうやったらスキルが育つのかーー強くなれるのかさっぱりわからない。ナディア、アーノルドとの差は開く一方だ。
出来る限りのことはやろうと剣の素振りなどは欠かしていないが、それだけでは焼け石に水でしかない。
あー、くそ……辞書が欲しいな……
前世だったら絶対に思わなかったことを、今痛切に思う。
でも、アルファベットがない世界に辞書なんてあるわけがない。
前途は多難だとため息をついた時、ナディアの鋭い声が飛んだ。
「気をつけて! ヤバいのが来るわよ!!」
通路の奥で何かがキラッと光ったと思ったら、棒状の物が猛スピードで飛んできた。
「うおっ!?」
かわせたのは正直まぐれだ。次も同じようにかわせる自信はない。
棒状の何かはガッチガチの岩盤に根本まで突き刺さった。なんて貫通力だよ。
心を整える間もなく、本体が突進してきた。凶悪な角を生やした猪の魔物ーーホーンボアだ。
ホーンボア自体は珍しくもない、ありふれた魔物なのだが、その大きさが尋常ではなかった。三人が並んで歩ける幅の通路が窮屈に感じるほどの巨体も脅威だが、その角の大きさは成人男性に匹敵する。
そんなのが正面から突っ込んで来たのだ。半端ないド迫力に逃げ出しそうになったのだが、ボアの巨体から逃げれそうな場所はなかった。
「うおっ!」
前に出たアーノルドが真っ向から剣を振り下ろす。
いくら何でもそりゃ無理だろ。吹っ飛ばされるぞ。
と思ったのだが、アーノルドの剣とボアの角は激しい火花を散らしつつ拮抗した。
マジか!?
初めて親友をバケモノだと思った。こいつ、絶対人間じゃない。
「チャンス!」
ナディアが魔法を発動する。
「ウォーターカッター!」
超高圧の水流が放たれる。以前巨岩を両断するのを見たこともある、ナディアの必殺魔法だ。
しかし、ボアの硬い体毛がナディアの魔法を弾いた。
「ウソっ!?」
予想外の結果にナディアは動きを止めてしまう。
そこへボアの体毛が射出された。
「あぶねえっ!」
間一髪、俺のタックルが間に合った。もつれて転がった俺たちを掠め、体毛が岩壁に突き刺さる。
どんなんだよ!?
騒いでる場合じゃない。あんなの食らったらひとたまりもない。幸い正面には打ち出せなさそうなので、そちらに避難する。
「あたしのウォーターカッターが効かないなんて……」
ナディアはショックを受けている。この場で慰めているゆとりはないが、ひとつの言葉が引っ掛かった。
ん? もしかして、カッターってCじゃないか?
閃いた、というほどではないが、今の俺には天啓に等しかった。
ただ、自信はなかった。だから、小声で呟いた。
「ーーカット」
「うおっ!?」
声をあげたのはアーノルドだった。
それもそのはず、鍔迫り合いを繰り広げていた相手がいきなり真っ二つに両断されたのだ。びっくりもするだろう。
「え? 何?」
ナディアも驚いている。
が、一番驚いていたのは俺だった。
マジか……
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