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16 異世界での日常
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ランチタイムが終わると、一応一段落となる。ここから夕方まではちょこちょこ単発でお客さんが来るだけだ。初日のように客足が途絶えないというような極端な混雑にはなっていない。
かといって、暇なわけでは決してない。夜の分の仕込みがあるのだ。
「ゴブリンの下茹では?」
「終わってるわ」
「ありがとう。そしたらこっちの鍋で煮込み始めといて」
「はぁい」
「ありゃ、ニンジンがもうないな」
「後で買い物行った時でいい?」
「悪いね。頼むわ」
「りょうかーい」
元の世界では一人で切り盛りしていたので、カレンさんの存在は非常にありがたい。気は利くし、物覚えはいいし、手先は器用だし、明るくて客あしらいも上手い、と得難い人材なのだ。
そんなこんなで仕込みをしていると、あっという間に時は過ぎ、夜の混雑時間がやってくる。
夜は単なる食事ではなく、酒を飲みに来る者も多い。
アルコールが入ると、問題が起こりやすくなる。実際にウチでも大乱闘が起こりかけたことがある。
「お店の中のもの少しでも壊した人、出入り禁止!」
カレンさんの一喝で十人以上の男たちがピタリと動きを止めたあの光景は、思い出すだけで今でも笑える。
以来、ウチは「楽しいお酒を飲むお店」「喧嘩御法度」と認識され、揉め事は起こっていない。
今日も皆明るいお酒を楽しんでいる。
食事としての一番人気は生姜焼きだが、つまみとしての一番人気はゴブリンの煮込みだ。
焼き鳥とか出せれば良さそうなんだけどな……
つまみ系メニューの充実を図りたいところだが、現状その余裕がない。
人を増やすのも考えなきゃいかんかもな。
一度カレンさんにも打診したことがあったが、その時は冷たく返された。
「必要ありません。間に合ってます」
「いやいや毎日大変そうじゃん」
「大丈夫です」
「あれ、怒ってる?」
「怒ってません」
これで怒ってないんだったら、本気で怒ったら店くらい簡単に潰れそうだな。
そう思いはしたが、俺も馬鹿ではないので口には出さない。
結局増員の話はそれっきりになってしまっているのだが、このままだといつ破綻しても不思議ではない。
もう一度ちゃんと話した方がいいよな。
今日も大忙しの営業時間を終えると、オアシスタイムーー飯の時間になる。
「今日のメニューは肉団子の甘酢あんかけと春雨の中華風サラダだ」
「美味しそう」
今にも涎を垂らさんばかりのカレンさん。
「さぁ、あったかいうちに食おう」
「いただきまーす」
肉団子をひとつ食べて、頷く。
我ながらいいできだ。カリっと揚がった外側にふわっとした食感の内側。カリふわな団子に甘酢あんがよい塩梅に絡まり、えもいわれぬ美味を作り出すことに成功していた。
「んんーーーっ!!」
相変わらずカレンさんのリアクションは一級品だ。ここまで旨そうに食べてもらえれば張り切らざるを得なくなる。
「美味しい! 絶品! いくらでも食べられる!」
肉団子は結構な勢いで数を減らしている。うかうかしていると、俺の分まで食われてしまいそうだ。
「このサラダがさっぱりしてて、口の中をリセットしてくれるのー。それでまたいくらでも食べられるようになるのー」
ほっといたらいつまでも食べていそうだったが、思わぬところからストップがかかった。
突然町中に鐘の音が鳴り響いた。時刻を告げるものとは明らかに違う、切羽詰まった連打がただならぬ事態を告げていた。
「何だっ」
慌てて外へ出ると、同じように飛び出してきたご近所さんたちがいた。
「ブラックファングが出たらしい」
「何それ?」
「狼のモンスターです。群れで行動して、人でも獣でも手当たり次第に襲う狂暴なヤツです」
「まずいじゃんか」
そんなのに侵入されたら大事だ。
戦える者は武器を手に門へと急ぐ。
長い夜になりそうだった。
かといって、暇なわけでは決してない。夜の分の仕込みがあるのだ。
「ゴブリンの下茹では?」
「終わってるわ」
「ありがとう。そしたらこっちの鍋で煮込み始めといて」
「はぁい」
「ありゃ、ニンジンがもうないな」
「後で買い物行った時でいい?」
「悪いね。頼むわ」
「りょうかーい」
元の世界では一人で切り盛りしていたので、カレンさんの存在は非常にありがたい。気は利くし、物覚えはいいし、手先は器用だし、明るくて客あしらいも上手い、と得難い人材なのだ。
そんなこんなで仕込みをしていると、あっという間に時は過ぎ、夜の混雑時間がやってくる。
夜は単なる食事ではなく、酒を飲みに来る者も多い。
アルコールが入ると、問題が起こりやすくなる。実際にウチでも大乱闘が起こりかけたことがある。
「お店の中のもの少しでも壊した人、出入り禁止!」
カレンさんの一喝で十人以上の男たちがピタリと動きを止めたあの光景は、思い出すだけで今でも笑える。
以来、ウチは「楽しいお酒を飲むお店」「喧嘩御法度」と認識され、揉め事は起こっていない。
今日も皆明るいお酒を楽しんでいる。
食事としての一番人気は生姜焼きだが、つまみとしての一番人気はゴブリンの煮込みだ。
焼き鳥とか出せれば良さそうなんだけどな……
つまみ系メニューの充実を図りたいところだが、現状その余裕がない。
人を増やすのも考えなきゃいかんかもな。
一度カレンさんにも打診したことがあったが、その時は冷たく返された。
「必要ありません。間に合ってます」
「いやいや毎日大変そうじゃん」
「大丈夫です」
「あれ、怒ってる?」
「怒ってません」
これで怒ってないんだったら、本気で怒ったら店くらい簡単に潰れそうだな。
そう思いはしたが、俺も馬鹿ではないので口には出さない。
結局増員の話はそれっきりになってしまっているのだが、このままだといつ破綻しても不思議ではない。
もう一度ちゃんと話した方がいいよな。
今日も大忙しの営業時間を終えると、オアシスタイムーー飯の時間になる。
「今日のメニューは肉団子の甘酢あんかけと春雨の中華風サラダだ」
「美味しそう」
今にも涎を垂らさんばかりのカレンさん。
「さぁ、あったかいうちに食おう」
「いただきまーす」
肉団子をひとつ食べて、頷く。
我ながらいいできだ。カリっと揚がった外側にふわっとした食感の内側。カリふわな団子に甘酢あんがよい塩梅に絡まり、えもいわれぬ美味を作り出すことに成功していた。
「んんーーーっ!!」
相変わらずカレンさんのリアクションは一級品だ。ここまで旨そうに食べてもらえれば張り切らざるを得なくなる。
「美味しい! 絶品! いくらでも食べられる!」
肉団子は結構な勢いで数を減らしている。うかうかしていると、俺の分まで食われてしまいそうだ。
「このサラダがさっぱりしてて、口の中をリセットしてくれるのー。それでまたいくらでも食べられるようになるのー」
ほっといたらいつまでも食べていそうだったが、思わぬところからストップがかかった。
突然町中に鐘の音が鳴り響いた。時刻を告げるものとは明らかに違う、切羽詰まった連打がただならぬ事態を告げていた。
「何だっ」
慌てて外へ出ると、同じように飛び出してきたご近所さんたちがいた。
「ブラックファングが出たらしい」
「何それ?」
「狼のモンスターです。群れで行動して、人でも獣でも手当たり次第に襲う狂暴なヤツです」
「まずいじゃんか」
そんなのに侵入されたら大事だ。
戦える者は武器を手に門へと急ぐ。
長い夜になりそうだった。
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