ソレイユ ~いつか降り注ぐ陽射しの下で~

オフィス景

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急転

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 結局幸織は一日中修平の部屋にいて、片づけやら食事の支度をしていた。

 せっかくの休みがもったいないと言ったのだが、幸織は実に楽しそうに家事をこなしていた。その笑顔を見ると何も言えなくなってしまい、修平も幸織のしたいようにさせた。

 日が傾いてくる頃には修平の調子も上向き加減になってきて、会話も弾むようになった。

 幸織のペースに巻き込まれる内に、香織の件はいつの間にかどうでもよくなりつつあった。

 狙ってやったのであればたいしたものだが、恐らくは偶然だろう。

 それでもありがたかったことには変わりない。食事が済んだところで、修平は素直な感謝を口にした。

「ありがとな、幸織」

「なあに?」

「助かったよ」

 幸織も微笑んだ。

「どういたしまして、修平さん」

「お」

 びっくりしたように修平が幸織を見た。

「なに?」

「おまえにそう呼ばれると、なんか新鮮な感じがするな」

「いいでしょ? もうお兄ちゃんじゃないって言ってたし」

「そ、それは――」

「恋人同士なら、そう呼ぶのが自然だもんね」

 幸せいっぱいの表情の幸織に、修平はこのまま押しきられそうな予感を覚えて、背筋を寒くした。

 幸織のことは嫌いではないが、妹として見ていた時間が長すぎて、そうそう簡単には切りかえられそうにない。それだけでなく、ひとつ大きなネックがある。

「なあ、おまえがアイドルやってるのって、資金稼ぎのためだよな?」

「うん。そうだよ」

 修平の表情が渋くなる。

「今、どうなんだ?」

 一瞬仕事のことを聞かれたのかと思った幸織だったが、すぐに修平の求める答えは別のところにあることに気づいた。

「うん。相変わらずだよ」

 幸織の笑顔には、今までと違った苦いものがある。どちらかと言えば、自嘲に近い、諦め混じりの笑顔。

「あそこが変わることはないんじゃないかな」

 それについては修平も同感だった。だからこそあそこに別れを告げたのだし、戻る気にもなれないのだ。

 幸織があそこの人間である以上、幸織と関わっていくということはあそことの関わりを持つということでもある。

 それは修平の本意ではない、と言うより、できれば避けたい事柄であった。

 そんな修平の葛藤を、幸織は正確に理解した。

「修平さん、あのね」

 修平さんが言うなら、アイドル辞めても、紫聖殿を出てもいいよ。

 そう言おうとしたのだが、幸織はある気配に気づいてはっと顔を上げた。

「どうした?」

「いけない!」

 血相を変えた幸織はものすごい勢いで部屋を飛び出していった。

 わけのわからなかった修平だったが、すぐに幸織が慌てた原因に気づいた。

 ブランクで錆び付いていたせいですぐには気づけなかったのだが、その気になればさほど集中しなくてもはっきりと感知できるほど強烈な妖気。

 しばしの躊躇。

 行けば関わる事になる。それは不可避だ。

 だが、関わりたくないと言う思いは厳然としていた。

 本来なら背を向け、放っておくところである。

 しかし、幸織の存在が引っかかった。

 正直、幸織はそれほど腕の立つ使い手ではない。はっきり言って一人で仕事がこなせるレベルではないだろう。だからこそ資金稼ぎの役割を任されているのだ。

 幸織を見殺しにできるか?

 自問してみる。

 会っていなければ、素知らぬ振りができたかもしれない。

 しかし、実際に会って、会話も交わしてしまった今、修平の性格で背を向けることは不可能だった。

 ただ、問題がひとつある。

 自分が行ったところでどれだけ戦力になれるのか。

 今の自分は三年前の自分ではない。人外のものを相手にどれだけ戦えるか、ついた疑問符はかなり巨大なものだった。

 しかし、それでも行くしかなかった。修平は幸織の後を追って部屋を飛び出した。
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